もう少し細かく言うと、この配合においては St. Simon よりも Hanover クロスの方がずっと影響力が強くなっています。Hanover の経路 Urania と Hamburg が、いずれも Lexington を始めとする近交系を持ち、父 Hanover 以上にアメリカ血統として純系化されているからです。Irish Lad が母父に挟まる Durban の場合、母父母 Arrowgrass もまた Urania や Hamburg と相似で、これら3頭の相似交配になっています。つまり、ただの Hanover クロスではなく、類似血脈のサポートを近くに添えることで、実際の位置よりも強く効果を表す、という仕組みになっているのです。その頃、生産規模を拡大しようとしていたブサックが、他ならぬデュリエ未亡人のもとを訪ねたのも当然でしょう。30頭あまりの繁殖牝馬すべてを買いたい、というブサックの申し出は断られますが、代わりにその年の1歳馬を全頭一括で購入する契約で合意。ブサックは、Durban や Durzetta を自分の名前と勝負服でターフに送り出します。
I理論なら「Durban の配合における〈主導〉は Hanover である」と表現する所ですが、こうした手法はクロス論一般で〈組み合わせクロス〉もしくは〈ニックスインブリード〉などと呼ばれ、広く認知されています。
Sir Gallahad は米クレイボーン牧場に輸出され、4回米首位種牡馬となります。ちなみに、Durban の全妹でやはりブサックがデュリエ未亡人から購入した Heldifann は、2歳重賞で Sir Gallahad と対戦し、これを破っています。やがて Zariba に Asterus を交配した Abjer が、5代内にクロス2種のほぼ外交配合となったように、両者は同時代同生産者の手になる割に、案外共通点の少ない血統です。
| 1 |
米血近交牝馬 Durban=Heldifann ≒Durzetta=Frizelle のクロス |
例:Cillas、Coronis(*パーソロンの三代母)、Tourzima、 Arriba(Auriban の母)、Cadir、Djeddah、Djelfa |
| ブサックが本格的な生産活動を行なうにあたってデュリエ未亡人から買ったこれらの牝馬は、3/4同血の叔母と姪という関係にある2組の全姉妹でした。彼女たちから連なる系譜を、ブサックは50年以上に渡って終始生産活動の中心に据えています。ブサックが強い近交配合に目覚めたのもまたこの系統で、〈全姉妹クロス〉や〈3/4同血クロス〉として何度も用いられ、さらに〈近交馬の近交=望遠鏡効果〉であり、時には〈伴性血縁上クロス〉をも兼ねることで、ブサック血脈の形成に大きく寄与しました。 | ||
| 2 |
近交名馬 Ksar 内の Bruleur など ド・サンタラリの近交系再現 | 例:Thor、Albarelle(Caravelle の母)、Goyama、Marveil、Hugh Lupus |
| 偉大な父 Ksar の前では Tourbillon もスピードと種牡馬成績くらいしか誇る所がありません。その後も時折サンタラリは自家生産馬を売却したため、ブサックは機会を捉えては度々 Tourbillon のブリードアップに用いました。Ksar の強くかつ統一された近交系は、Bruleur や Kizil Kourgan、Omnium、Upas などの一部をクロスで刺激するだけで全体が反応するほど鋭敏だったからです。 | ||
| 3 |
外交馬 Tourbillon のクロスおよび Diademe との全姉弟クロス |
例:Coronation、Canthare、Cordova、Apollonia、Janiari、 Arbencia、Astana、Anaram、Astola、*アーコー |
| 上記1,2の合わせ技、同時により大胆で直截な手法として、ブサックは自家生産種牡馬 Tourbillon のインブリードにも挑みました。そこには、自家生産馬 Omnium の近交で Ksar を出した先達ド・サンタラリや、基礎牝馬 Canterbury Pilgrim の近交で Alycidon らを出していた好敵手ダービー卿への挑戦、といった意味合いがあったのかもしれません。ただ Toubillon 自身は前述したように外交配合馬であり、それ自体の近交よりも、実質的には上記1,2の効果、それらが同時に成り立つ場合や、随伴する血脈との相乗効果が大きかったと言うべきでしょう。 | ||
| 4 |
ド・ロトシルト家の近交牝馬 Zariba≒Likka の擬似クロス |
例:Nafah(Talgo や*フィダルゴの祖母)、Galgala、Asmena、 Canthare、Arbarah(Ariadne の母)、Astana |
| Dame Masham の娘に St.Serf と Sardanapale を掛けた Zariba は、ブサックの生産馬ではありませんが、所有した中では間違いなく最良の繁殖牝馬でした。のちに彼は同牝系で相似形の Likka を買い求め、その娘 Astronomie を、戦災でほぼ断絶した Zariba 牝系の代わりに慈しみました。Zariba の牝馬クロスや、Likka との擬似クロスは、実例こそ少ないものの、その字面と効果の鮮やかさにおいて、ブサックの才気をひときわ明るく照らし出す近交系です。 | ||
| 5 |
Teddy の近交産駒同士の 組み合わせクロス |
例:Hierocles、Djelal、Arbar、Djeddah、Coronation、Arbele、 Cordova、Apollonia、Janiari、Abdos、*アーコー |
| これはちょっとわかりくいかもしれません。Teddy のちょっと遠めの近交は、ブサックのとりわけ中後期によく見られるものです。その際 Teddy の経路となっているのは Asterus、牝馬 Coeur a Coeur(Djebel の祖母)や La Moqueuse。実はこれらはすべて Hampton、Galopin、Lord Lyon≒Paraffin(f)≒Bend Or をクロスした 近交配合馬なのです。ただの Teddy クロスではなく、類似血脈のサポートが添えられているので、これは〈組み合わせクロス〉と呼ぶことができます。 | ||
これら牝馬の子孫には宮杯のメジロモンスニー、菊花賞馬ホリスキー、女傑ルイジアナピット、マジックキスなどが出ていますが、残念ながら以前別項で述べたように、必ずしも十分に活用されてはいません。
また、この手の配合でフランスに残ったものは意外なほど少なく、もっぱらローカル血統として沈潜し、時折 Pistolet Bleu のように一流馬を出しています。
近交とそのリスクを巧みに避けて配合を設計したフェデリコ・テシオにもその晩年、超近交を持つ Tanaka という実験例があったことはあまり知られていないようです。Toulouse Lautrec の一歳下の半弟で、父は同族の叔父 Tenerani、つまり自家生産牝馬 Tofanella の2x2。馬名の由来は田中訥言あたりでしょうか。いったいなぜ Coronation は成功したのでしょうか。そしてなぜブサックは他にも近交配合馬を成功させることができたのでしょうか。
この Tanaka は近交の弊害をうかがわせず、キャリアを積んでレニャーノ賞など8勝をあげたものの、大レースには縁の無い馬でした。
| Coronation 0 自由世代 Tourbillon:2x2 | Djebel 7 自由世代 St. Simon= Angelica(f) :5*6x7*7 | Tourbillon 6 自由世代 St. Gatien:5x5 | Ksar 1 自由世代
Omnium:3x2 | Bruleur | 5 |
| Kizil Kourgan | 7 | ||||
| Durban 3 自由世代
St. Simon:3x4, Hanover:4x4 | Durbar | 7 | |||
| Banshee | 4 | ||||
| Loika 3 自由世代 Bay Ronald:3x4, Hampton:4x4*5 | Gay Crusader 2 自由世代
Galopin:3x3 | Bayardo | 2 | ||
| Gay Laura | 3 | ||||
| Coeur a Coeur 3 自由世代
Hampton:4x3, Galopin:5x4 | Teddy | 4 | |||
| Ballantrae | 5 | ||||
| Esmeralda 5 自由世代 Rabelais:4x5, St. Simon= Angelica(f) :5*6x6*6*7 | Tourbillon 6 自由世代 St. Gatien:5x5 | Ksar 1 自由世代
Omnium:3x2 | Bruleur | 5 | |
| Kizil Kourgan | 7 | ||||
| Durban 3 自由世代
St. Simon:3x4, Hanover:4x4 | Durbar | 7 | |||
| Banshee | 4 | ||||
| Sanaa 6 自由世代 St. Simon= Angelica(f) :5*6x5, Doncaster:6x5*6 | Asterus 4 自由世代
Hampton:4x4, St. Simon= Angelica(f):5x4 | Teddy | 4 | ||
| Astrella | 4 | ||||
| Deasy 2 自由世代
Le Sancy:3x3 | Alcantara | 5 | |||
| Diana Vernon | 3 | ||||
| 超近交 | ← 2世代に渡る〈一時的な外交〉← | 曾祖父母はすべて かなりの近交 | 普通はこのように↑ 近/外交が混在 | ||
2004/11/20
マルセル・ブサックの名馬たち | 配合資源と革命的手法![]()
帝国の没落とその原因 | 日本における受容と展開![]()
近代欧州の生産者編目次へ | トップへ![]()