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第20章 評決
机上での推理は以上で終わる。
私の推理には、山川一雄を犯人とする裁判官達の推理にみられるような矛盾はない。
ただし、矛盾のない推理とはいえ、これを事実とすることはできない。あくまで、1つの仮説、有力な仮説に止どまる。
それに、私の手元にある資料のなかには犯人につながる名前は出てきていない。犯人は依然としてXのままである。
ただし、手掛かりは残されている。それは、脅迫状に見られる特徴のある字である。慎重・細心な犯人だけに筆跡を偽っている可能性も大きいが、同一文字にあまり乱れが見られないことからみて、犯人の筆跡の特徴は残されている可能性が大きい。
とくに、注目すべき字は、「様」と「時」の特徴のある崩し字である。とくに、「様」は手紙には必ず含まれる。年賀状の古いものが保存してあれば、発見出来る可能性がある。
また、サンケイ新聞と東京新聞の記者がニュースソースとして取材していた刑事は、山川一雄犯人説ではなかった可能性がある。ことによると、その取材ノートには、Xの名前が出ているかもしれない。

無論、警察の全資料のなかにはXの名前が出ている可能性があり、上田家の家族も知っている可能性が大きい。
残された痕跡は少ないが、まだ生きているとすればXにとって安泰ということはないであろう。
もっとも、Xの殺人の時効はすでに過ぎている。
私がこの事件を「Vの悲劇」と名付けるにいたったV人の犠牲者(善枝、登美恵、清志、西富源治、畑中登)は、真犯人Xが突き止められることを望んでいるとも思えない。
むしろ、第6の犠牲者、山川一雄の菟罪が晴らされ、捜査・裁判の誤りが正され、この悲劇に幕が降ろされるべきであろう。V人の犠牲者のうち、2人は警察の誤った捜査の直接の犠牲者というべきであり、山川一雄はそれに連なるからである。
そして、この「Vの悲劇」は、被差別部落に対する真犯人・警察の犯罪として、長く記憶に止どめられることになるであろう。
  
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