第2回拍手御礼SSログ


拍手御礼(ありがとうな気持ちを込めて)SS。
「Re:born」第14夜afraidより。




「………」

 倒れていくアイツ。
 赤い血。
 オンナが駆け寄っていって、あの色黒オンナもプラーマを召喚して。

 そして俺も、ふらふらそっちに歩いてった。
 リプシーを召喚した。


 死ぬな。
 死ぬな。
 なにやってんだ。

 一体。



「テメェ、何してたンだヨ!」

 話し合いとやら終わったと、部屋に戻って、俺はキツネに怒鳴った。
 泣き腫らした目をしたキツネは、珠を後生大事に抱えたまま、びくっと肩を震わせる。

 何も反論せずに、キツネは唇を噛み締めて俯く。

「コイツ守れって言っただろ! 聞こえなかったのか!?」

 ただ首を振る。
 聞こえていたと、首を振る。

「じゃなンでだヨ!」


 あんなはずじゃなかった。
 側にいればよかった。オンナがいなきゃアイツは死んでた。
 死んでたんだぞ。分かってんのか。
 キツネ、テメェがいたから俺は前に出たンだよ。
 なのに。どうしてああなった。


 キツネは答えた。

「おねぇちゃんが、そうしたいって、いったから」

 はぁ?

「っざけンな……テメェな……アイツの言葉ほいほいほいほい聞くだけかヨ! ニンゲンはな、甘いンだよ! 全然戦いのこともなんも分かっちゃいねェドシロウトなンだヨ! 分かってンのか!?」

 俺は怒鳴った。
 そしたら。


 キツネは目をあげて、俺を睨み返してきた。

「悪魔くんこそ……おねぇちゃんのこと、なんにも、分かってない!」

 宝珠をしがみつくように握って俺を睨んでくる。
 泣きそうな面してるくせに。

「おねぇちゃんは、誰よりも、分かってるッ! 分かってるから……とめたいって言ったんだもん。おねぇちゃんは甘いんじゃないもん……やさしいんだよっ」

「……だから。だから止められなかったっつーのかよ」

「………」

「信念やらなんやら、ニンゲンがしがみついてるもンは確かに俺にはよく分からねェ。だけどなァ……死ンだら、なンにもなんねェだろーがよ!?」

 俺は睨んだ。
 キツネも睨み返してきた。

「だからって……ないがしろにしないでっ。おねぇちゃんのいのちは……たいせつだよ。だけど、こころだって、たいせつなんだよっ!」

「命よりもかよ!」

「ちがうっ。だから……おねぇちゃんは、ああなるなんて、思ってなかったっ! ハサハも……」

 ああなるなんて思ってなかった。

 そう言うつもりだったろう言葉を飲み込んだキツネは、そのまま口を真一文字に結んで……俺の横を駆け抜けて行った。


 背後で扉が開閉する音。
 バタンという音。


 ……ケッ。

 戦場はなァ。一歩間違えりゃ死ぬ世界なンだよ。
 結局キツネ、お前も甘いだけなンだ。


 と、俺はそこで気付く。

 なにこんな熱くなってんだ。
 結局助かったんだからいーじゃねェか。
 俺を召喚したあいつは生きてる、だから俺ははぐれにはなってねェ。

 だからいーじゃねぇか。繰り返さないように、今度こそ間違って死なないように、俺がはぐれにならねェように、今度からは俺が常に側にいることにすりャ、それだけで良かったじゃねェーか。
 だってのに。
 なに。
 怒鳴ったりして。

 命よりも、とか。
 あいつの命が何より大切みたいな。



「………」


 うるせェ。
 俺は……ただ。

 キツネの怠慢がうざかっただけだ。
 それ、だけだ。









「想いは、降り積もるもの」 Bulrell.ver





拍手御礼(ありがとうな気持ちを込めて)SS。
「Re:born」第13夜reborn〜第14夜afraidより。



「ネスー」

 聞き慣れた声。
 声変わりするまえはトリスとよく似ていたから聞き分けられないこともあったが、今はさすがにそんな事はない。
 僕は振り返らずに答える。

「呼ぶのはいいが寄り掛かるな。重い」
「ケチー。いいじゃないかよちょっとぐらい」
「君がよくても僕がよくない。大体僕がいま何をしているのか、見えていないのか?」
「読書」
「分かってるなら邪魔をするな。なにか用件でもあるのか?」

 言いつつ僕はページを捲る。
 アメルの森への旅路、その2日目になる夕方のテント。
 少し離れたところにあった倒木に、僕は腰掛けていた。
 ファナンから一冊だけ持ってきた本を手元に。
 ……プライバシーも何もない、集団での旅というものにおいて、この時間は僕にとって貴重なものだ。

 しかし残念ながら彼は、その僕に事情などお構いなしらしい。

 マグナは僕に寄り掛かりながら後ろから本を覗き込みつつ、

「うん。ちょっと聞きたいことあってさ」
「急用か?」
「いや……急用ってわけじゃない……けどさ……」

 もごもごと。
 はぁ。まったく、世話のかかる。

 僕は本を閉じて手に持ち、自分の隣をもう一方の手で叩いた。
 マグナは「やったー!」などと言いながら、倒木をまたいでひょいと座る。
 僕は不機嫌を隠しもせずにその顔を覗いて、

「それで? 僕の楽しみを奪ってまで聞きたいこととはなんだ?」
「うわ。いいじゃん、本なんていつだって読めるんだし」
「ほほぉう。『勉強なんていつだってできるし』と言ってやらなかったのは、どこの誰だったかな?」
「……ネス。性格悪いぞ」
「悪くて結構。君達を相手にするには少々厳しいほうが効果的なんでね」

 なんだったらもっと厳しくしてやってもいいぞと言えば、いえいえめっそうもないと手をばたばた振る。

「……それで。聞きたいこととはなんだ?」
「あ。うん。……あのさ……ネス……さ」

 僕から目を離し、足下を見るマグナ。
 何か深刻な悩みかと思えば、彼は突然思いきったように僕を見て。


「こ、恋したことある!?」
「……は?」


 固まった。
 そんな僕の顔にも気付かず、マグナは続ける。

「ネスって俺より年上だろ? それにすっごい美人だし。こ、恋だってしたことあるんじゃないか?」
「……なに、かと思えば……僕の人生のほとんどは、君達のお守で精一杯だったよ。そんなわけがないだろう」
「えぇ!?」
「大体、もしそんな事があれば、いつも側にいた君達が知らないわけがないだろう?」

 大体。
 こんな体で。


 こんな罪に汚れた僕が、誰かを愛し、愛される権利なんて。


 『罪とか全部ひっくるめたのがネスティそのものを好きになりたい。会いたいよ』

 ……彼女だって。
 僕が、<なんなのか>を知れば……きっと。

 『ネスティのこと助けたい』

 きっと。

 『私、ネスティのこと嫌いにならないよ』


 なんで断言なんてできるんだ。
 何も知らないくせに。

 どうして。


「そっかぁ……」

 マグナの落胆した声で、現実に引き戻された。
 はっとして僕は顔を上げ、

「いきなりなんなんだ、そんな質問をして」

 聞いてみる。
 マグナは「えっ」と叫んで、「あぁあぁあぁー」と左右に視線を揺らし。


「な、なんでもないっ!」


 急に走って、遠くで思い思いに過ごしている皆の元へ行ってしまった。
 ………。

 マグナも、年頃だからな。
 恋ぐらいは……するかもしれないが。
 今までの環境が環境だっただけに、戸惑っているんだろう。


「……まだまだ子供だと思っていたがな」

 僕は苦笑いをして、再び本のページを開けた。




 でも全然集中できず。
 堰を切ったように、何度も何度も頭の中に響く彼女の声を、拒絶し続けて。

 受け入れそうになるのを、必死にこらえて。




 『ネスティのこと好きだから』

 知られたくない。
 あの笑顔を、僕から奪わないでくれ。

 知られたくない。
 知られたくない。



 だから……放っておいてくれ。
 受け入れちゃ……駄目なんだ。

 知られたら。


 だから。





 『絶対に、私はネスティを嫌いになんかならない』


 駄目だ。
 ……まだ僕は君を、信じられない。

 なのに。


 あの言葉が。あの声が。あの顔が。

 忘れ、られない。







 僕は彼女の名を呟き、本を閉じ、項垂れた。




「想いは、降り積もるもの」 Nesty.ver





拍手御礼(ありがとうな気持ちを込めて)SS。
「Re:born」第13夜rebornより。



「あるじ殿」
「ん? なぁに、レオルド?」

 メンテナンスの時、不意にレオルドが喋った。
 いつもは喋らないのに珍しい。ひょっとして。

「もしかして私、ミスった?」
「イエ。……少々質問シテモヨロシイデショウカ?」
「いいけど、なぁに?」

 レオルドは言う。

「あるじ殿ハ、自分ニこころガ存在スルト考エマスカ?」
「……こころ?」
「ハイ」
「うーん。……どうだろう。その前に私、心ってどんなものなのかまだよく分かってないんだよね」
「こころガ……分カラナイ?」
「複雑なのよ。自分でもよく分からないものだもの」

 ネジを回す私。

「ヨク、分カラナイモノ……」
「ええ。分からないだけじゃなくって、持て余しちゃうこともあるし。……レオルドにもそんなことある?」
「……自分ニハ。あるじ殿達ノ行動ガ不可解ニ思ウ事が多々アリマス」

 レオルドは言う。

「自分ニトッテ、あるじ殿達ハ<ヨク分カラナイモノ>ナノデス。……あるじ殿達ハ、こころ、ソノモノナノデショウカ?」
「……レオルド」

 少し驚いて見上げた。
 レオルドは「ナンデショウカ」と応えてくる。

 ……なんか、嬉しい。
 心そのものだなんて。なんか嬉しい。

「ありがとね、レオルド。……そうかもね」
「ソウ仮定スルト、あるじ殿ハ自分ノことガ分カラナイトイウコトニナリマスガ……」
「うん。そんなものだよ……同じだもん。
 レオルドはどうなの?」
「自分ハ、自分ノコトヲ把握シテイルツモリデス。ガ……」
「が?」
「最近、今マデ存在シナカッタしすてむでーたガ構築サレ始メテイルノデス」
「それって」
「把握、デキマセン。構築サレ始メタノハモウ大分前ノコトナノデスガ……コレダケノ時間ヲ経テモ、マダ、完成シナイノデス。ソシテ、完成シナイ限リ、でーたノ意味ヲすきゃんスルコトは不可能デス」
「………」

 レオルドは言う。

「自分ハ、コノしすてむでーたヲ欠陥トシテ、でりーとシヨウト試ミマシタ。
 シカシ何度でりーとシテモ、マタ構築サレ始メルノデス」
「………」
「あるじ殿。自分ノ内部めもりハ……壊レテシマッタノデショウカ?」

 私は首を振った。

「きっと……そんなことはないよ。きっと……」

 生まれ、始めて……るんだ。
 そう思いたい。

 レオルド。


「ねぇレオルド。レオルドは自分に心があったらいいと思う?」
「……分カリマセン。タダ……理解ハシタイトハ、時ニ思イマス」


 メンテナンスが終わった。
 それきり、レオルドは電源を落として……充電に。
 スリープをし始めた。







 ……もし心が理解できたなら。
 ソレルクを食べながら泣くあの人に。

 自分は、何か言えたはずだ。
 何か言いたかったのに。
 何も言えなかった。

 あるじ殿、この、この<渦巻く何か>は……なんと言うのでしょうか。






「想いは、降り積もるもの」 Le-O-LD.ver





拍手御礼(ありがとうな気持ちを込めて)SS。
「Re:born」第11夜cry of a sea gullより。



「俺は下町の方に行く!」

 マグナが直ぐに叫んだ。
 下町といや、話によるといまあいつとバルレルとハサハがいるはずだ。
 ちょうど……いま砲撃を受けている、ところ。

 トリスが「分かったわ、レシィも連れてく?」と聞いて、

「平気だ! それよりトリス、気をつけろよ! 助けたら直ぐそっち行くからなっ」
「お兄ちゃんこそ! それじゃみんな、行きま「待ってください!」

 叫んだのは、俺の隣の男。
 兄貴だった。

「僕もマグナさんと一緒に行きます! リューグ、アメルを頼んだぞ」
「……はっ」

 俺はにやと笑って、腕を出した。

「テメェだったらそう言うと思ってたぜ、兄貴」
「体が2つあったら頼んでないけどな」

 兄貴は少し笑って、俺の腕を自分の腕で少し叩いた。


 はっ。
 俺も体が2つありゃ、な。


「おいトリス、俺はそっちに行くぜ」
「ええ。あっちよ!」


 駆けていくトリスの後ろについて、道場を飛び出す。




 兄貴にとって、アメルよりあいつらの方が大事だったってわけじゃねぇだろう。
 ただ、パワーバランスとして、俺か兄貴、どちらかが行くべきだった。
 そして、どっちが残ってどっちが行くかなんて、分かりきったことだった。

 俺は元凶を討つ。
 兄貴は被害者を守る。

 役割分担なんてそんなもんじゃねぇ。
 性格的にこうで。


 しっくりくるから、こうなっただけだ。


 そして、こういう時の兄貴を。
 俺は信じても、いた。微妙に認めたくねぇが……紛れもなく。




 しっかし。
 兄貴が到着する前に、あいつらがどうにかなってたら、洒落にならねぇ。


「……死ぬなよ」


 本音を言えば、
 無事をこの目で早く確認したかった。
 兄貴が少し羨ましいと。


 砂浜に向かって走りながら、ちらりとだけそう思ったのは……嘘じゃ、ねぇ。





 俺は元凶を討つ。
 兄貴は被害者を守る。

 今さら、だったはずなん…だけどな。






「想いは、降り積もるもの」 Ruug.ver





拍手御礼(ありがとうな気持ちを込めて)SS。
「Re:born」第11夜cry of a sea gullより。



「ルヴァイド様、ただいま偵察より戻って参りました」
「そうか、ご苦労だった。……どうだった?」

 俺が聞くと、イオスは「はい」と頷き、

「聖女とその一行は確かにファナンに。部下からの報告で、居場所もほぼ掴めたと思います。しかし……」
「……しかし?」

 イオスはやや表情が浮かない様子だった。
 促せば、彼は「失礼しました」と軽く頭を下げてから、

「実は偵察の撤退間際、海賊騒動が起きたのです。
 今は聖女の一行と金の派閥の強力で沈静化したようですが、下町は砲弾による被害を受け、その復旧のためにかなりの兵が街を徘徊しています」
「ふむ。……襲撃は難しいということか」
「はい。ゼルフィルドからも聞いたのですが、その金の派閥の兵が、ファナンを取り囲んでいたゼルフィルドの隊を牽制しているとか……」
「ああ。……そうだ」

 内からも、外からも、攻撃は難しい。
 それならば、仕方あるまい。
 ここで無理に切り込めば、仕損じるだけだろう。

「イオス。俺はここは一旦様子を見るべきだと思うが、お前はどう思う?」
「はい。……私もそう思います。近い内に、聖女らは動くと思います」
「……なぜそう思う?」
「その……実は……」

 イオスは少し言い淀んでから。

「海賊騒動の時、我々が一時捕らえたあの娘に私を視認されました。おそらく、以前私が報告した召喚獣2匹にも」
「……なに?」
「申し訳ありません」

 言って、彼はがっと頭を下げる。
 俺は、顔には出さなかったが……少し呆気に取られていた。

 1つとしては、イオスがそのようなミスをするのは考えられなくて。
 もう1つは……彼女が、まだ、そう……生きているのだと気付いて。

 俺の頭の中で、彼女とは……<あの歌>として、記憶に留まっているだけで。
 そうか。
 まだ、存在……していたのか。
 ……当たり前のことだったはずなのに、なぜか、その事実に驚かされた。

「いや……構わん。むしろ好都合だ」

 やや沈黙してしまったが、俺はイオスを労った。
 聖女が焦って直ぐ動くようならば、それは我らにとってはありがたい。
 顎に手を当て、なおも俺は少し考えてから。

「よし。イオス、ゼルフィルドに連絡を取れ。偵察の人員以外はキャンプに引かせろ」
「はっ」

 敬礼をして、彼は踵を返し……。
 ふと思い出して、考えるよりも先に俺の口が彼を引き止めた。

 イオスは直ぐに振り返り、

「はっ。なんでしょう?」
「イオス、それにしてもお前がミスをするとは珍しいな。何があった?」
「……借りを。返しただけです」
「借り、とな?」

 イオスは答える。

「草原で、私はあの娘に……命を拾われました。敵方であるあの娘にです。
 納得できず……その借りを、返しただけです」
「あの娘の命を救ったと?」
「はい。砲弾が時計塔の根元にぶつかり、上から落下するところをあの娘が下にいた幼女を守ろうとして。……そこを、助けました」

 俺を真直ぐ見て、

「私の、私的な理由からの……勝手な行動でした。良い方向に転んだとはいえ、ミスはミスです。ルヴァイド様、処罰は甘んじて受けるつもりです」
「………」
「ルヴァイド様」

 イオスの赤い目を、俺も真直ぐ見返した。
 そして……一度目を閉じて。開いて、言った。

「処罰は下さぬ」
「……え?」
「二度は言わんぞ」
「え? し、しかし……ルヴァイド様、私はミスを「お前が私的な理由からあの娘を助けたというならば」


 『できることなら』


「俺もまた、私的な理由から……だ」



 『もう一度お前の歌を聞いて、永眠りたい』

 思考の、奥の奥にその言葉は仕舞い込み……俺はイオスに退室を命じた。









 できることなら。
 もう一度。……いや。

 ……何度、でも。

 何度でも。


 
 なぜ、これほどまでに、耳に残り続けるのか。
 あの、歌は。



「想いは、降り積もるもの」 Luvaid.ver





拍手御礼(ありがとうな気持ちを込めて)SS。
「Re:born」夜会話8go westより。



「ハヤト! クロちゃん来たわよ! カザミネさんよね?」

 リプレの言葉に、俺は部屋から飛び出した。

「やっとかよっ! あーもう、あの人ほんと心配させるんだからっ」

 玄関にいたクロから手紙を受け取る。
 居間のフィズ達が好奇心爛々の目でクロのこと見てるから、クロのことはいまは気にしないでいいだろう。たぶん遊ばれる。

 手紙の封を破って……ん?
 これ……。


 日本語?


「……ええぇぇ!?」

 カザミネさんの添え書きを見てから手紙の冒頭を読んで、俺は思わず玄関先で叫んだ。






 机の前で悩むことかれこれ2時間。

「か、書けねぇ……」
「まだやってるんですか、ハヤト?」

 机に突っ伏した俺の背後から、クラレットが僅かに見える手紙を覗き込んでくる。
 彼女は「あら」と声を上げ、

「これは……シルターン語……?」
「違う。日本語。……言っただろ、俺と同じ名も無き世界から来たみたいなんだって。
 俺はなんかこっちの世界の言葉、最初から読めたけど、この人そうじゃないみたいなんだよ」
「そうなんですか。……珍しい、ですね」
「っだぁー! それはいいんだよそれはっ。それより……なんて書けばいいか……うーっ」

 本気で悩んで頭をがしがしやる俺に、彼女はくすっと笑みを漏らした。
 恨みがましい目線で見上げれば、

「あっ、ごめんなさい。だけど……あなたがそんな風に悩むなんて、珍しいなって」
「俺だって悩みぐらいするぜ?」
「はい、知ってます。……ずっと、傍にいたんですもの」

 机の隣の椅子を引いて、クラレットはそこに座った。
 その優しい微笑みを見て、つられて俺も笑う。

「そう、だな。……ずっと一緒だったんだもんな」

 こくんと頷くクラレット。
 彼女は、机の上にある俺の手に自分の手を重ねて、どきっとする俺に微笑みかけて、さらにどきっとさせてから、言った。

「思うままに、書けばいいんですよ」
「……え?」
「あなたらしく、思うままに。……あなたのまっすぐな言葉こそが……きっと、その人の力になる。私はそう思います。だって、私がそうだったんですもの」
「クラレット……」

 嬉しい。
 ほんと、すげぇ幸せだったと思う。
 この世界に来て、自分の力に右往左往してた俺の……俺の傍に、彼女がいてくれたこと。
 友達のように。相棒のように。
 そして……。

「あ、あのさ。だけど俺、すっごい手紙とか書くの下手で……ぐちゃぐちゃになっちゃうっていうか。書きたいことは、すごいあるんだけど……まとまらないっていうか」
「ふふっ。だったら私も手伝いますから」

 ……こうして、母親のように。
 ただ、ほんとは……それだけじゃ、無いのかもしれないけれど。


「一緒に頑張りましょう?」
「……ああ!」


 彼女の言葉に応えて、俺はもう一度ペンを手に取った。







 遠い空の下にいるであろう、その人のことを思い浮かべる。

 今は会えないけれど……いつかきっと会いたい。

 いろんな話がしたい。俺のこと。その人のこと。
 いろんな、いろんないろんな話を。
 そう思うと、今から楽しみになってくる。


 手紙に思いを乗せて、クロに託した。


 遠く、いまはカザミネさんと一緒にいるであろう君。
 君に。

 いつか、絶対に……会いたい。





 いつか、絶対に。








「想いは、降り積もるもの」 Hayato.ver


皆様、拍手ありがとうございましたっ(礼)。
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