第4回拍手御礼SSログ
拍手ありがとうございました!
ささやかながらお礼を。
パンドラ未読でもご覧になれるように書いてはおりますが、
パンドラご覧になってない方にはBLに見えるかもとゆー問題ある拍手御礼ですっ。わおっ。
ガセインとアルファSS。
-------------------------------------
魔法使いならば知らぬ者はいない、マジックショップ『十時半』。
チェーン店などではなく、首都に1つ店舗があるだけだが……首都の魔法使いだけでなく、世界中の魔法使いが足を運ぶ超有名店だ。品揃えはもちろん、品質、値段、仕入れの早さは相当なものである。
切り盛りしているのは、先代の弟子夫婦。今は2人ともかなりの高齢だが、元気そうに毎日働いている。
自分も魔法学園に入学してからまだ3年しか経っていないが、首都にある他の店の何処よりも通っている自覚がある。商業通りに来ると、特に用事も無いのに寄ってしまうことさえある。
ベルの鳴るドアを開ければ、地下まで続く吹き抜けの部屋が視界に広がる。
水や海水内でしか保存できないものを貯蔵している、ガラス張りの床下。
3方の壁は2階分の巨大な棚で埋め尽くされ、
空中には魔法陣に包まれた魔法工芸物がふわふわと漂う。
天井から吊り下がった薬草。
板張りの天井に一面に広がる、アンチマジックの魔法陣。
何より、色とりどりのマジックアイテムが織りなすコントラスト。
幻想的な風景は、魔法使いでなくとも一度は見てみたいというところだろう。
はじめて寮の仲間と訪れたとき、柄にでもなく感動したことをよく覚えている。
今日は1人だが。
「………」
知識の寮リーダー、ガセイン・マーティーは小さく溜め息を吐き、目の前の螺旋階段に足をかける。
休日とあって、店内は結構混んでいた。正直鬱陶しいが、今日は用事があってやってきたのでだからといって帰るわけにはいかない。
地下1階に辿り着くと、宝石箱の中の一部分になったような気分になる。
足下を、魚が泳いで通り過ぎて行った。……おそらく体内で何かを精製する魔物だろう。
人の交わすざわめきの中を通り過ぎて、左手の壁棚の方へと足を進めた。と、棚の所を左折しようとして思わず足を止める。
見知った後ろ頭があった。
(……アルファ・コーリングかよ。メンドくせぇときにメンドくせぇとこにいるんじゃねぇよ)
あまり人に見られたくないモノを買おうと思っているのだ。なのに、彼が立っているのは自分が求める商品のまさに真横。
幸い、何やら棚の上のほうをじっと見つめて立ち竦んでいるだけで、こちらに気付いている様子は無いが。
(さっさとどっか行っちまえよ)
仕方なしに、ガセインは手前の棚の商品を見る振りをして、彼が立ち去るのを待つことにする。
……が、中々彼は行動を起こそうとしない。商品を手に取ることさえもしない。
顎までの、少しウェーブのかかったクリーム色の髪。
青い、襟の大きな上着に踝まである茶色いローブを着ていた。その下はどうやらブーツらしい。
(うげぇ。学校外までローブ着て回るなよ。今日召喚術の授業ねぇだろ、ってか休みだし)
男性にしては小柄な体躯をしている彼。アルファ・コーリングは、しかし中々やっぱりどうしても動こうとしない。
……ぼーっとしているのだろうか? しかし、微妙にそわそわしているようにも見える。
(? ひょっとして、誰か店内に気になるオンナでもいんのか?)
ちら、と視線を周囲に投げるが、別にとびきり美人がいるわけでも、悩殺ボディをした女がいるわけでも、露出ファッションな美少女がいるわけでもない。
そもそも、いつも電波発言ばかりしている彼がそっちの方面に興味があるのか、そこがまず疑問だ。
ならばなぜ。
ガセインは棚から視線を外し、アルファの行動をよーくよーく注視してみた。
と。
(ん? いま、ちらっと梯子見たか?)
『十時半』の壁棚は、地上1階まで続く2階分の高さがある。当然だがジャンプした程度では届かない高さにも商品は置いてある。そんな商品が取りたい場合、棚の奥で下の段と交換するよう回転させて取る棚もあるが……この左手の棚はガラス瓶のものが多く衝撃に弱いため、備え付けの梯子を使って自ら取りに行かなければならない。
しかし、丁度いまこの棚に3つある梯子は、すべて他の客に使われてしまっているようだ。
アルファが短く溜め息を吐いているのが、肩の動きから分かった。
(ははぁ……? 高いとこにあるもん取りたいのに、梯子ねぇから取れねぇんだな?)
でも、だったら梯子の順番待ちのところに並べばいいのに。何を突っ立っているのだろう。
このままでは埒が開かない。
(ったく……。俺も早く帰りてぇし。しょうがねぇな)
結局理由は不透明なままだが、ガセインは待つのに馴れているような男ではない。
「おい、ぷるぷる」
すっと、アルファの横へと歩いていった。
声をかけられた彼は顔を上げ、
「あ、黒色のごぅんごぅんだっ。おはよー」
「………」
毎度、妙な呼び名……彼いわくガセインの電波ちゃん……で呼ばれるたび、どうにもこうにもし難い心境に駆られる。さりげなく部活が一緒だったりするので、馴れてもいいぐらいの回数は呼ばれているのに。
いつもならば怒鳴りつけるところだが、店内……しかも梯子に上っている客達がいるところでそういうわけにもいかず。
「相変わらず妙なんで呼ぶんじゃねぇよ」
しかししっかり毒づいてから、ガセインは彼の空色の大きな瞳を睨んだ。
「何してんだよ。さっきからぼーっと突っ立って」
「……あー。ちょっと、上の方の商品が取りたくって」
尋ねれば、素直に彼は棚の上の方を指差した。
……綺麗な、透けるような白い肌。
ガセインはいつも通り女みてぇだなと思いつつ、肩を竦める。
「じゃ梯子んとこに並びゃいいじゃねぇかよ。何してんだよ」
「ぅえぇーっと……実はぁ」
アルファはかなり言いにくそうに、やや俯きがちに再度棚を指差す。先ほどよりも大分その仰角は低い。
というか、ガセインならば手を伸ばせば問題無く届くような位置である。
「あんまり、高いとこじゃなくって……フツーの人なら届くようなとこだから、わざわざ梯子使うの悪いなぁって……」
「………」
なるほど。そういう理由か。
でも。
「だったら周りの誰かに取ってもらやよかっただろ」
「それはそれで、梯子使えばいいのに、って邪魔に思われたら悪いから……」
「……だぁらここで、梯子使う人いなくなるまで待とーと?」
「うん」
こくっと頷くアルファ。
ガセインはあからさまに溜め息を吐いた。
(こりゃ声かけて正解だったな……道理で、いつまで経ってもどっか行かないわけだぜ)
しかし、そうと分かれば解決策はあっさり分かる。
「しょうがねぇな。取ってやるから、どれなんか教えろ」
ガセインは言った。
するとアルファ。今度はあちらがあからさまに驚いた様子で「えぇっ!?」と身を引き、
「ご、ごぅんごぅんが親切なこと言ってる……っ!」
「人聞きわりぃこと言うなっ!」
確かに……他寮に対してはと限定すれば、かなり、滅茶苦茶、相当珍しいことだが。
「いーから早く言えよ。どれだよ。赤い文字のやつか?」
「あ、う、ううん。あの箱の中に入ってるんだ」
「箱?」
見れば、黒い箱が段の一部に納まっている。
「ああ、あれか」
結構大きなヤツだ。中がガラス瓶だとすると、手が届くとはいえ重いだろうことを考えるとちょっと危険だ。
………。
「しょうがねぇな」
ぽつり呟き、ガセインは素早くアルファの背後に回り込み、しゃがんだ。
「え?」
疑問の声が頭上で上がったが気にせず、目の前の腰の辺りをしっかり抱き締め、一気に持ち上げる。
「わあぁっ!」
上で少しよろけたようだが、どうも棚を掴んで難を逃れたらしい。
声が降ってくる。
「ちょ、ちょっとっ。いきなり何するのさ!?」
「うるせぇな。さっさと取れよ」
「え? あ、ああ。そっか」
箱を開けて取るためだと分かってくれたらしい。
(……もーちょっと慌ててくれたほーが俺的には面白ぇんだけど)
『なんだぁ? お前、ひょっとして男相手でも意識しちゃうわけ?』とからかうつもりが、残念である。
などとガセインが考えている内に、アルファは箱に手をかけたようだ。そして。
箱を抱えた。
(えっ!? ちょっ、まっ!?)
突然腕にかなりの負荷がかかり、声無き悲鳴を上げるガセイン。
無茶苦茶重い。
「うわっ」
ふらついたガセインに驚いて、アルファが悲鳴をあげる。
(うわ、無理だ無理無理無理無理無理ィッ!!)
最初の一撃でふらついてしまったので、バランスを取ろうにももう取り返しがつかない。
(せめて商品! 瓶! 瓶!! 割れる!!)
ガセインはしっかりアルファを抱えたまま、せめてもの抵抗で自分の背後に向かって重心を移動させた。
どん、という音。
「……ってぇー」
思いっきり尻を打った。
ちょっと涙目である。
「ご、ごめんガセイン! 重かった!?」
振り返ってくるアルファ。一応ガセインが腰を抱えていたので、感じたのは衝撃だけだったらしい。
ガセインは至近距離で思いっきり睨んだ。
「あたりめぇだろ!? なに抱えてんだよ、普通に棚んとこで蓋開けて取れよ! 頭使えこの馬鹿! 脳みそまでぷるぷるで出来てんのかよ!?」
絶対後で慰謝料請求してやる。
「ご、ごめん……」
怒鳴られ、途端にしゅんとするアルファ。
しかし、ちゃんと箱は抱えたままのようだ。
「おい、商品大丈夫かよ。割れてても俺弁償しないからな」
「うん」
ぱかっと開けられた箱の中身は、案の定全てガラス瓶だった。
それらを点検する前に、アルファは再び振り向いてきて、
「えっと、ガセイン……離してくれてもー……」
「あ?」
言われてはじめて、ずっと抱きついたままだったことに気付いた。が、
「別に良いだろ。また直ぐ箱戻すんだしよ」
早口で答え、ガセインはそのままさりげなく腰から胴体へと、彼を抱き直した。
「あ、そっか……」
納得して、アルファはまた箱に向き直る。
腕の中で、彼がかちゃかちゃガラス瓶を見ている。
不意に、目の前にある白い肌、首筋に顔を埋めたくなった。
腕の中の温もりが愛しいと。
(……なーんて。妙な性癖あるヤツは、思うん、だろーな……)
不意に胸の内に生まれた、小さな衝動を無理矢理後付けの理由で押さえつける。
しかしそれでも。
打った尻の痛みも忘れ、ガセインは何も言わず黙って、ただ<彼女>を背後から抱き締めていた。
しばらく経って、「よかったぁー、だいじょーぶだったぁ」という心底安心したらしい声が上がる。
アルファは商品が無事であることを確認し終えて、彼の目的の品を下の段に注意深く置いておいた。
「ごめん、もう1回お願い」
「……しょうがねぇなぁ」
名残惜しい、とは思わない。
立ち上がり、彼を抱き上げ箱を戻して、ガセインはアルファを解放した。
その、腕の中の彼の体温が消える前に。
「ガセイン」
声をかけられ、顔を上げる。
「ありがとう」
不意打ちの笑顔に、押さえつけたはずの心がまた、大きく揺れ動いた。
<ありがとう> Gasein.ver
拍手ありがとうございました!
ささやかながらお礼を。
パンドラ未読でもご覧になれるように書いてはおりますが、
とりあえず容姿描写は皆無でありますすみません……。
リーダーズSS。
-------------------------------------
コルザルーンに存在する、唯一の魔法を教える教育機関。
『世界最高の教育機関<ジャンドゥック>』の1つ、エメザイル魔法学園は、5つの寮に分かれている。
全校生徒は約100人であり、5つの寮に分かれている。そして、それぞれの寮にはリーダーがいる。
その決まりに違わず、現在も、エメザイルには5人のリーダーがいた。そして。
驚きのあまり、思わずイプシロンは反射的に復唱した。
「え? トゥリーチアに誕生日プレゼント?」
「そうです! 絶対やるべきだと思いますっ」
いつものリーダー会議の、その最後の議題。
「他に何か無いか」という、リーダー会議の議長である聡明の寮リーダー、ソウセイ・ヤナギの言葉に応えたのは蛍雪の寮リーダー、スー・ミ・リージャンだった。
彼は童顔に真剣な色を前面に醸し出して、
「スー思ったんですけど、ママノフさんが全然会議に出席しないのって、スー達に馴染むタイミングを逸したからじゃないかと思うんです。いつもイースターチップさんに代わってもらってて、なんとなく来にくいんじゃないかなぁって……」
「ただたんに面倒くさいだけじゃねーの?」
むしろそう言うこと自体が面倒そうに、机に頬をつき意見したのは知識の寮リーダー、ガセイン・マーティー。
「面白そうな議題ンときは来るじゃねーかよ。おばさん思考なんだよ、変わりもんに飛びつきやがる」
「ママノフさんはマーティーさんと同い年じゃないですか。そんな言い方しちゃいけませんよ。そしたらマーティーさんもおじさんですよ」
「けっ。お前は永久にガキだけどな」
「っスーのことは「静粛に」
口喧嘩になりそうなところをさっと遮ったのはソウセイである。
かなり傍若無人で喧嘩っぱやいガセインと、正義感が強くモノをはっきり言うスーの相性がよくないことは、別にリーダーでなくともエメザイルにいるものならば誰でも知っている。
まして、2年間リーダーとして毎度会議で顔を付き合わせている当人達とリーダー3人は身に沁みて知っている。
「……はい」「はいはい」
スーはしぶしぶ頷き、ガセインは明後日の方向を向いて適当に相槌を打った。
ソウセイはふぅ、と誰にも悟られないよう一息つく。それから室内にいる他の3人を見た。
リーダー会議にいつも使うこの会議室の机は、長いコの字型だ。副リーダーも共に出席することもあるので、10人が座れる規模である。寮の総合成績1位である聡明の寮のリーダー、副リーダーが黒板の前に陣取り、残りの寮が向かい合う形で席につく。
しかし今日はリーダーだけ、しかも論理の寮のリーダー、トゥリーチア・ママノフは見事にさぼっているので4人のみである。いつも代役にやってくる彼女の副リーダーのリレもなぜかいない。
なので、4人はコの字の炭の方で2人ずつ、斜めに座って話し合っていた。プリントの受け渡しなどは、人数が少ない場合近いほうが楽である。
ちらりと、ソウセイは最後にガセインの隣りに座るイプシロンが集中しているのを確認してから、自分の隣りにいるスーに口を開いた。
「リージャン。つまりそれは……懇親の意味を込めて、我々から彼女に贈り物をするということか?」
「そうです」
大きく頷くスー。
「ちょうどママノフさんの誕生日が明々後日なんです。やりましょうよっ」
「でも、唐突に贈り物をしたら彼女も困るんじゃないか?」
意見したのは、先ほどから黙っていたイプシロン。
「去年は何もしなかったし……彼女も僕らに誕生日プレゼントをしてるわけじゃない。妙に気を使わせることになるかもしれない」
「っつーか大体、金は何処から出すんだよ。俺はやだぞ」
「えぇ!? そこはみんなで出し合いっこに決まってるじゃないですか! マーティさんだけずるいですよっ」
「じゃ俺だけパス。お前等だけでプレゼントすりゃいいだろ。俺誕生日とかそういう系のイベント嫌いなんだよ」
本気で嫌そうにガセインは顔を歪める。
すると彼の隣りのイプシロンも眉を顰め、
「君だけ贈らないなんてますます不自然だろう。そもそも懇親っていう意味が無くなる」
「だから懇親なんてしなくてもいーだろ。会議に出る出ねぇなんざあっちの勝手だし。なんで他寮のリーダーにまで気ぃ使わなきゃなんねぇんだよ」
「他寮のリーダーだからこそ、ですよ」
スーも口を尖らせた。
「スー達がいがみ合うようになっちゃったらいけないんです。溝をつくるのもよくないです。スー達の関係が、そのまま寮同士の関係にまで発展しちゃうかもしれないんです。……スー達は、いい関係で対等に、ライバルとして切磋琢磨し合うのが一番だと思います。喧嘩とかいがみ合いとか、妙なことに気を回してそれを損なうのは絶対によくありません」
「………」
迷い無く言う彼の言葉に、反論がすかさず思いつかなかったか閉口するガセイン。
ソウセイも僅かに頷いた。
「リージャンの言う通りだ。……だが、その懇親の仕方はどうだろうな。私もエメザイルと同意見だ。やや性急過ぎるのではないか?」
「そんな事無いですよ。ロザリーちゃんが言ってたです、女の人はいつ誰にプレゼントを貰っても嬉しいものなんです!」
「………」
「あのバカ女がぁ……?」
ガセインは半眼で呻く。
スーはすかさず睨んだ。
「ロザリーちゃんを馬鹿にしないでくださいっ。いきなりなんですかっ」
「だって馬鹿じゃねぇかよ。この前の回復魔法の授業だって酷かったんだぜ、俺とかイータとかがみんなあっさり発動してんのに、アイツだけいつまでたっても「マーティー。いい加減にしろ」
ソウセイも鋭い瞳で、ガセインを睨んだ。
彼はへいへいと両手を挙げ、背もたれに寄りかかる。
「で? 贈り物は無しってことでいいのかよ?」
「なんでですかっ。だから、贈り物をするのはいいのですよっ。ママノフさん実家がケーキ屋さんですから、テーブルクロスとかが良いんじゃないかと思うんです」
「なんでケーキ屋さんでテーブルクロス」
「ケーキ乗せるお皿の下に敷くじゃないですかっ。あの、白いびらびらーっとしたの。この前通りで綺麗なの見つけたですよー」
手をうにうにさせるスー。
イプシロンはくすっと笑った。
「なるほどな。確かにトゥリーチア、そういう小物が好きそうだ」
「でしょう!? うー、エメザイルさんは分かってるですよーっ」
「……その程度の贈り物ならば、問題無いだろうな」
頷くソウセイ。
ガセインは「あぁ?」と彼を睨み、
「どんな高価なのプレゼントすると思ってたんだよ、ヤナギ家の坊ちゃんは?」
「宝石の装飾品などだが」
「はぁ!? ありえねぇありえねぇ、これだから金持ちは困るんだよ! 俺がンなのに出費できるわけねーだろ!?」
彼はばんっと机を叩き、主張する。
その言葉に、ヤナギ家よりも数段名家であるエメザイル家のイプシロンが苦笑とともに、助け船を出した。
「しょうがないだろう。むしろ彼としては、ヤナギ家の跡取りとして、女性に限らず誰にでも下手なものは贈れない立場なんだ。普段の生活の中ならともかく、誕生日プレゼントとなるとな……」
「こんな学園内にまでお家お家持ち込むなよ。ノース大陸からどんだけ離れてると思ってんだよ」
「それはそうだが……ヤナギ家は、そういう社交辞令にはかなり厳しいんだろう?」
「私としては、それが当然だがな」
澄ました顔で頷くソウセイ。
「しかし……1人で贈る場合、本家や縁ある先に知れると厄介なことになるが……複数人でリーダー一同として贈るならば、そのような品でも問題無いだろう。私はテーブルクロスで構わん」
「はぁ……うぜぇなぁ金持ちっつのは。で? かのエメザイル家の坊ちゃんはへーきなのかよ、現当主が校長先生ですけど?」
「大丈夫。父さんはそういう方面に関してはかなり甘いから」
「じゃ、テーブルクロスで決定ですね! 大丈夫ですよマーティさん、ちょぉっと高いですけど、4人で出し合えば安いですからっ」
「んな、そこまで金に困ってねぇよ! テメェよか持ってるっつの!!」
「ふふーん。最近スーの貯金結構貯まってきたんですよー? 浪費家のマーティさんがスーに太刀打ちできますかねー?」
「ってめ……っ「マーティ」「スーも触発するな」
もはや名前でしか静止しないソウセイと、見かねて声を上げたイプシロンであった。
数日後。
「ふ、ふふーん、ふふふふふーんっ」
えらくご機嫌そうに、鼻歌まで歌い、新品のテーブルクロスを広げるトゥリーチアを見て、
「? トゥリーチア、それどうしたんだ?」
「ん? うふふー、誕生日プレゼントで貰ったんだよー! 見てみて、刺繍がすっごく綺麗だろう? 私の趣味がよく分かってるねぇほんと! 素晴らしいよ!」
「……誰から?」
「ん? うふふふ、残念ながらそれはひみつー」
「………」
彼女の返事に、無茶苦茶心中穏やかでなくなったリレがいたとか。
……しかしトゥリーチアは、その様子には気付かずティーカップを用意しながら、小声で呟いた。
「今度のリーダー会議には絶対出て、ちゃんと御礼を言わなくてはねっ」
『はぁ!? なんで俺なんだよ、お前が渡せよ!』
『いやです、スー背ぇ高くないから見上げちゃうですよっ。うー、エメザイルさぁん……』
『えぇっ? そんな、いつも見上げてるだろっ。君が言い出したんだから、君が渡してくれっ』
『えぇ!? で、でもぉ……あ、そうです、ここはやっぱり議長さんがぁ……っ』
『かような理由は不当だな。これは社交辞令ではなかろう。行け、リージャン』
『……うううぅぅ。分かったです、スー、行きます!
ママノフさあぁん、ちょっとー!!』
<ありがとう> ver.Leaders
案外コイツら仲が良いというか、お互いを理解し合ってると思います。だからああなってこうなったんだろうなと(なに)。
拍手ありがとうございました!
ささやかながらお礼を。
パンドラ未読でもご覧になれるように書いてはおりますが、
どうなんだろうなーとか思っております。
ツェータSS。
-------------------------------------
4年の夏休み。妙な宿題が出た。
自分以外の寮員の長所と短所を挙げよ、という物凄くシンプルな宿題だ。HRでそれを指示されて、僕達はお互い顔を見合わせてやいやい笑ってからかい合った。
こんな宿題、1年や2年の頃に渡されたら「えぇ? みんなに見られたらどうしよう……」とかって思っただろうけど、もう全然そんなことはない。喧嘩のとき毎回毎回、そりゃもうレポート数枚分ぐらいは書けるんじゃないかってぐらいお互いの悪いところ言い合ってるんだ。もう耳にタコってぐらい。今さら「ツェータは直ぐ人に頼り過ぎ」とか書かれても全然腹も立たないし、ちょっと「あーまだ直ってないなー」と思う程度だ。……こーいうとき、「ちょっと」とか思うとこが僕の悪いとこなんだよなーなんて他人事のように思う。
もし他のみんなに見られて、「自分はこんな短所はない」とか言われても「ある」って言えばいいだけだし。もうみんな、無闇やたらに拳を振りかざしちゃうほど、僕のこと考え無しだなんて思ってないだろう。理由を聞いてくれるはずだ。
……みんな、そう思ってたんだろう。
その妙な宿題を出されても、「なんでそんな宿題出すんだろうなー」と思う程度で、口では「俺の長所は料理が上手、に決まりだろ」とか「やっぱりこの美貌ですかね」とか笑って冗談を言っていた。たぶんシータは本気だったろうけど。
と、いうわけで、夏休み。僕はその宿題を、かなり真面目にやった。
「んー。イプシロンはあぁ……」
実家の、2階にある自分の部屋の木の机に向かい、唸る。
とりあえずメモをとってる段階なんだが。
「短所。目が悪い。短所。料理が下手。短所。……って短所ってそういうことじゃないよなぁ。なんかもっと精神面的なこと書くべきだよな、これじゃただの悪口だし。まイプシーの場合料理下手っていうより料理が危険、の方が正しい気がするけど……。んー」
喋りながらも手を動かして、メモを作成。
……イプシロンは、物事を冷静に分析して、即座に判断できる。でも逆に彼の頭の良さに、僕の頭が追いつかない。指示されたときとか、なんでそういうことをするのか、そもそも具体的に何をすればいいのかとか説明を求めると結構苛立たしげに応えてくるもんだからちょっと怖い。でも、最近はそれでも最後まで根気よく説明してくれるようになった。それに、結構融通が利かないところがあって頭が固いけど、大分マシになってきた。それに……。
「……んー、んんー」
最近聞いた曲を鼻歌で歌いながら、僕はペンを進める。
デルタは真面目だけど、喧嘩っ早い。シグマは努力家だけど、いろんな意味で限度を知らない。ミウは人の話をよく聞くけど、自分の意見をあまり言わない。アルファは人の悩みによく気付くけど、なかなか自分の悩みを打ち明けない。
等など。
いやー案外書けるもんだなー。
メモが出来て、さぁ清書しようと思ったとき……ふっと僕の思考にある記憶が過って、手が止まった。
「………」
予備校のときの話だ。
僕は、はじめからエメザイル魔法学園を目指してたから、そういう進路のクラスに入ってた。ガセインやクシーとは違うクラスだった。
3年のとき、誰かになんか因縁つけられて、授業中喧嘩をして、先生に嗜められたとき……相手が言ったのだ。
『だってリッヒって、体に模様あって気持ち悪いから。みんな言ってる』
……僕がエメザイルを目指してるのは、生まれつき体中に走ってるこの模様の意味を知るためだ。きっと魔法が関係してる、そう思って。
模様のことを気持ち悪いと言われるのは、それがはじめてじゃなかったけど……結構、ショックだった。
……エメザイルの基準では頭悪いほうの僕でも、予備校ではトップの方で。たぶんそれで因縁つけてきたんだろうって、てっきりそう思ってたんだ。でも、違った。
彼が言ったあと、教室がしんと静まったのを覚えてる。
思わず、机を蹴って椅子を床に叩き付けて、教室を走って飛び出して、寮の自室に駆け込んでベッドの毛布被って丸まった。
……後で散々叱られたんだよな。悪口を言われたからって暴力に走っちゃいけないって。
でも悔しかったんだ。この、赤い気味の悪い模様。僕にはどうしようもない短所で、それでもどうにかしようと思って頑張ってる最中なのに、それなのにこの模様のこと言われたくなかった。
悔しかったんだ。成績が良いっていう理由じゃなくて、もっともっと表面的な、見た目のこと言われたのが。
すっごい、むかついたんだ。
「……ぅー」
思い出すとまたむかついてきて、僕は頭をがしがし掻いた。あいつは見事にエメザイルを落ちた。ざまぁみろ。そう思って気持ちを落ち着ける。
……そして少し虚しくなる。
なんでか、ごめん、と彼に向かってぽつりと胸中で呟いた。
あいつだって、勉強、頑張ってたんだよな……。
まさかみんなが模様のこと書いてるとは思ってないけど、それでもちょっと具体的には聞けなかった。
夏休みが終わってまとめて宿題を提出したあと、短所長所の宿題が食堂でも風呂でも話題に上ったけど、みんな結構似たりよったりなこと書いたらしいってのが分かっただけで。「長所と短所が背中合わせってのが多かったんだよなー。特にシグマなんて紙一重」とかデルタが言ってんのが印象的だった。
そして3週間後。宿題が<返却>された。
ただし、妙な感じに。
「あれ? これ……」
最初に気付いたのは、出席番号1番で最初に返却されたオメガ。席に戻る途中で立ち止まって、教卓に振り返った。
そこにいたサニカ先生は、他のみんなにも次々に返却しながら、
「気付いた? いま返却したのは、みんなが書いてきたものじゃなくって、みんなが書いてきたあなた達1人1人に対する長所と短所を書き出したもんよ」
結構上機嫌そうに笑う。そこで僕も受け取った。
「もー、大変だったんだから! まぁ、でもその甲斐はあったかしらね。うちの寮すっごい点数良かったのよー、トップトップ!」
「点数?」
イプシロンが席につきながら、
「この宿題に点数なんてあるんですか? 自分の長所と短所の自覚を促すためのものでは?」
「それもあるけど、もっと大事なことがあるのよ」
僕は席につく。他のみんなも席についていた。
サニカ先生は教卓に頬杖をつき僕らを見渡す。
「あなた達1人1人が、どれだけ自分を表現できているか。仲間に理解されているのか。ってこと。
……これは大事なことよ。仲間同士で誰かに対する解釈が違ってたら、いざってとき同じ判断ができなくなって、最悪仲間割れになっちゃうわ。この状況じゃあいつは信用できない、いやできる、とかね。
だから今回の宿題で、自分以外のひとの長所と短所を挙げてもらったの。誰かに対する解釈が、他のひとと重なってる部分が多ければ多いほど、その寮に対する評価は高いわ。同一認識ってやつの、評価よ」
僕は返却されたプリントに視線を落とす。
みんなが書いた、僕の長所と短所が挙げられてた。個人名は書いてないけど……なんとなく言い回しから誰なのか分かるヤツもいる。
はじめ、模様という文字がけっこう見えて心臓が飛び跳ねた。でも。
短所じゃなくて、長所のほうにその文字は書いてあった。
「自分の体の模様のことから目を逸らさずに、長袖を着たりすることで隠したりすることもせず、むしろ立ち向かうように魔法学園まで来た意志の強さは長所だ」とか。そんな感じのことだ。
長所……。そんな風に、みんな……少なくとも、シグマやシータには言われたことないのに。でもこの文の書き方、この2人だよな……。嘘……ちょっとなに書いてんだよ、感動しちゃうだろ。
また、長所では、場を明るくするってのが多いみたいだった。イプシロンっぽいやつで、「助けて欲しいとき、素直に助けを求められるところは素晴らしい」って書いてあって、他の人も結構それは書いてた。「納得するまではうんと頷かないところ」と書いてるのはイータだ。これも結構他の人も書いてる。
短所では、マイペースなところってのが多い。カイっぽいので、「反論するとき直ぐ喧嘩腰になるところ」とか書いてあったり。注意しても中々直らないとか、やたらと直ぐに人に甘えてしまうとか、勇気と無謀と考え無しが紙一重だとか、これまたみんな同じようなことを書いている。
……示し。合わせたわけでもないのに。
不意に、凄い嬉しくなった。
なんでこんなに嬉しいんだろう。
嬉しい。
なんか、ちょっと涙腺緩んで来た。
なんでこんな……。
「誰にでも、短所はある」
サニカ先生は言う。
「大事なのは、それを理解して、補ってくれる誰かが側にいてくれることよ。助け合うってこと。……あんた達は仲間なんだから」
うあ、ちょ、やめて。
いまそういうこと言われるとマジで泣いちゃうから。
目尻に浮かんできた涙を、誰にも悟られないようさっと拭う。と、先生はあははーと笑い、
「まぁあんた達の場合、お互い理解しあってても、どうすれば補い合えるのか分かってないから意味ないのよねぇー。もーちょっと何とかしなさいよ団体試験。この前の復習テストでも及第点だったじゃない」
「えええ!? ちょっと、そこまで言って説教かよ!?」
シグマが直ぐに突っ込んだ。
とサニカ先生は「あーたりまえでしょー」と机にプリントをばんばん叩き付け、
「せっかく良い事言ったんだから、悪い事も言っておかないと」
「意味分かんねぇ」「訳分からん」「いや、意味分かんないですから」
今度は数人が突っ込む。
おかしくなって僕は笑った。
別に叱られてもいいや。テストの点なんてどうでもいい。
模様のことも、今はプラスに思えるや。
エメザイル来てよかった。模様があったから、絶対に来ようと思ってあんな勉強頑張ったんだもんな。
いま、なんかすっげぇ自由な気分。なんでこんな嬉しいんだろ、今ならフライヤできる気がする。
模様っていう表面的なとこも、内面的なとこも両方とも目を逸らさずに僕のこと見てくれてるのは、僕じゃなくてみんなの方だ。
模様が無かったら、みんなとも会えなかったんだ。
喧嘩してつらかった分、代わりにちゃんと手に入れてたものもあったんだ。つらかったの、意味あったんだ。
あーなんか異様に嬉しい。
ほんとに僕運がよかった。
8才の頃なのに覚えてるよ……青空見上げて思ったんだ。
『そうだ、エメザイルに行こう』って。
『何があっても後悔しないように、やれるだけのことをやろう』って決心したあの日の僕に。
なぁ、ツェータ・リッヒ。
お前は正しかったよ。
先生のボケにみんなが笑う、明るい教室の輪の中に、僕はいた。
<ありがとう> Zheta.ver
第2章、第3章でツェータの身に起こったことを考えても、彼はやっぱり後悔してないと思うのはこういう面があるからです。
拍手ありがとうございました!
ささやかながらお礼を。
リボーン未読でもご覧になれるように書いてはおりますが、
とりあえず容姿描写は皆無でありますすみません……。
バルレル夢SS。
-------------------------------------
安らかな寝息を立てて、ニンゲンは布団の中で夢を見ている。
たぶん質の悪い夢なんだろう。眉根を寄せて、苦しげだ。
俺は布団に寝転がって、枕に頭を乗せて見ていた。青白い月の光が窓から差し込んで、畳と、布団と、ニンゲンの手を明るく照らしている。
青白い空間。
浮き上がった、ニンゲンの白い左手。
闇に攫われたみてェに、根元から無くなってる、小指。
未だに、時折不自由そうに手をまごつかせることがある。皿を持つときなんて相当危なっかしいもんだ。
たかだか、小指の1本が無いくらいで……。
それだけで、今まで何でも無かったことが、何でもあることになる。
今までずっと戦場にいた。そんなこと当然知っている。敵の負傷という意味でも……俺自身の負傷という意味でも。
……もし。
コイツからもっと色んなもんを奪ったらどうなるだろう。
痛覚や温感だけじゃなく、もっと具体的に、手足を奪って。分かりやすく、頑丈な檻の中にでも入れて。
何処にも逃がさねぇようにして。助けも呼べないように唇も塞ごう。
一生檻の中に閉じ込めて。閉じ込めれば。
そうしたら、ニンゲンはアイツに殺されることもない。
檻が壊れなきゃ。
……俺が殺されなけりゃ。
格子が折れて。
天井が陥没して。
どんだけ潰されようが、ニンゲンがいる所だけは潰させない。
……もし俺が、そんだけ頑丈な檻だったら。
何があっても、ニンゲンを檻から出したりはしねぇのに。
俺だけが側にいればいいんだから。
無駄なもん全部省いて。このパーティからも離れて。
それで、なんも問題なくて。
ニンゲンは、俺のモノ。
なんもかんも奪って……。
人形みてェに、自由奪って。
「……ん」
声が聞こえて、俺は手からニンゲンの顔に視線を映した。
本格的に魘されているようで、枕に少し頬を押し付けるようにしている。
必死な顔。
『私は人形じゃない!!』
頭の奥に、ニンゲンの叫び声が蘇った。
「う……」
両目に涙が滲んで、少しばかり溢れていた。僅かだが月明かりを照り返して、鈍く、輝く。
手を伸ばして、俺はニンゲンの左手に触れてみた。少し、表情から険がとれる。
自由。
魔公子でありながら、ニンゲンどもに召喚獣として絶対服従される俺。
なのに、いま俺は自由だ。
……なのに、自由でもなんでもねぇ。
「 」
ニンゲンの名を口ぱくで囁いて、俺は握るでもなく触れ合ってるだけの指を見る。
こんなニンゲンに振り回されるなんて御免だ。
どうせニンゲンなんて直ぐ死ぬ。
檻で囲ったって、檻の中で勝手に死んでくんだ。
……イヤ。囲われてんのは俺なのか?
檻からいつでも出られんのに。
離れられないでいる。
「………」
人形だったら、死にゃあしねぇのに。
なんでコイツはニンゲンなんだ。
自由。手足が動いて。喋れて、何処へでもいけて、そんな。そんな自由。
ジユウなんざそんなもん。
「……レル」
あ。
「ありがとう……」
………。
檻の、中に、入れられて。
生殺しかよ。この野郎。
安らかな寝息を立てて、ニンゲンは布団の中で夢を見ている。
たぶんいい夢なんだろう。安らげな顔で、寝言を呟いていた。
俺の手を握って。
<ありがとう> Bulrell.ver
上手く行かないのが非常にいらつくバルレルの図。人形じゃない、ニンゲンを愛してしまった自覚症状ゆえの恨み言です。
10連発もの拍手めっさありがとうございました!
ささやかながらお礼を。
パンドラ未読/サモ2末プレイでもご覧になれるように書いてはおりますが、
夢でなくあくまでトリップであります。よろです。
パンドラ世界からリィンバウム(サモの世界)への来訪者SS。
-------------------------------------
「……っ」
一番最初に見えたのは、僕を真っ直ぐ見て顔を一気に緊張させた幼い少女の顔。年は13才ほどだろうか。紫色の髪に、同色の瞳をしている。見覚えの無い顔だった……といっても、それを再確認する猶予はほとんど無かった。
次の瞬間、おそらく僕を見る前からとっくのとうに溢れていたのだろう涙がさらに彼女の両目から流れ落ちていった。手に持っていた複数の石をすべて床にばらばらと落とし、思い切りくしゃと顔を歪め、空いた両手で顔を覆って彼女はむせび泣く。
血に染まった地面に膝をついて。
「………」
僕は突然の状況に、咄嗟に思考が追いつかなかったが、それでもいつもの癖で周囲の観察だけは即座にした。
どうやら何処かの建物の室内のようだ。ひどく殺風景なドーム型の部屋。壁は白く、床は灰色のタイル。どちらも素材は見る限り柔ではなさそうだが、そのどちらともが傷を多数負っている。古いものも、新しいものもあるようだ。
僕以外に立っている生命体はいない。魔物の気配も感じない。ただ、マナが随分荒れているようだった。
そうして……既に、脅威は過ぎ去ったあとらしいことを確認して。
僕は少女の咽び泣く元を見た。
血の出所は彼女ではない。うずくまる彼女の両腕の下に、1人の青年が横に倒れていた。腹部から出血している。
危険な状態だ。助けないと。
やっと僕の思考は、状況に追いつく。
何がなんだか分からない。さっきまで寮の廊下を歩いていたはずだが……どうしていきなりこんな所にいるのか。直前に青い光に包まれたようだが、何か特殊なテレポーテーションの魔法でもかけられたんだろうか?
よく分からないけど、それを考えている暇は無い。
「ごめんなさい、ごめんなさい……っ!!」
少女がしきりに謝り、泣く声がドームの壁に反響する。
僕は青年を挟んで、少女の反対側に駆け寄り片膝をついた。
「ネス、目を覚まして……っ。お願い、お願い……っ!!」
ほとんどパニック状態になって、青年の体を揺らしている少女の肩を掴む。
「落ち着いて。揺らしちゃいけない」
少女は顔を上げる。揺らすのはやめたものの、青年の服をきつく握りながら、
「ネスが、ネスが死んじゃうよおぉぉ。わ、私のせいだ、私が失敗しちゃったから……っ」
「落ち着いて。彼は死なない。……僕は回復魔法使いだ」
「え……?」
「手を離して。仰向けに」
言うと、彼女は戸惑いながらも丁寧に、青年を仰向けに横たえる。
僕は腹部の出血元の上に手を翳した。……大丈夫。修学旅行のあの時より断然マシだ。
回復魔法使いになろうと、エメザイル魔法学園に入ったわけじゃない。
たまたま回復魔法使いとしての適性があって、だから回復魔法を必修にさせられただけだ。
でも、あの時もいまも、強く思ってる。
回復魔法を専攻していて良かった。僕が回復魔法使いとしての適性があって良かった。
助けられる。
この世にたったひとつしかないものを。
それがいま、僕が<僕>であっていいと信じられる、最大の存在理由。
……必ず、助ける。
どんなに助かる見込みのない容態であったとしても。
僕は、1つでも多くの命を救うことを、諦めない。
「……うわぁ……」
少女の声が聞こえたと同時、僕は呪文詠唱をやめ、そっと目を開けた。
まだぼんやりと僕の手は光っていたが、直ぐにそれは消える。患部を見れば、とりあえず傷口はほとんど塞がったようだ。問題はこの出血量だが……。
……回復魔法は、失血とウイルスに弱いのが弱点だ。
シグマがいれば薬草で何とかしてくれるのだろうが……いくら僕にも知識があるといっても、手ぶらじゃどうしようもない。とりあえず、細胞の酸欠状態が起こらないよう、麻酔の魔法をかけておこう。
今度は僕は両手を広げて、さらに青年に回復魔法をかけた。
少女は時折しゃくりあげながらも、静かに、大人しく待っている。
……やがて僕が処置を一通り終えて顔を上げると、彼女はまた緊張した面持ちで僕を見てきた。
泣きそうだが、期待してそうな顔でもある。
僕は微笑んだ。
「大丈夫。安静にしてれば助かるよ」
「本当!?」
ドーム中に響く大声だった。予想以上の声量にかなりびっくりした。
思わず言葉を失うと、
「よかったぁ……っく。よかったよぉ、ぅああぁーん、ネスーーっ」
また両手でしきりに涙を拭いながら泣く。
……どうやら、聞くところによるとこの青年の名前はネスというらしいが……一体2人になにがあったんだろう。いや、彼らだけではなく、僕にも何があったんだろう。
どうして僕は突然こんなところに移動してたんだ?
「……ねぇ。えーと、君は……」
「? あ、私……私の名前はトリスよ、天使さんっ」
「え? 天使?」
突拍子もない言葉に、二度、驚く。
彼女は「違うの!?」と目をぱちくり。大きく首を傾げた。
「じゃあ何? 私、最初あなたのこと人間だと思っててっきり失敗したんだって思ってたけど、ネスのこと回復してくれたじゃない」
「違うも何も……ん? ちょっと待って」
ひょっとして、彼女にとっても、僕が突然現れたように見えたんだろうか。それなら、天使と混同されてもしょうがない気がする。魔法使いの数はけして多いとはいえないし、さっき僕がした回復魔法が<回復魔法>なんだと分からないのかも。
でもまあとりあえず、今は『怪我をしている』原因のほうが重要だ。まだ危険がこの周囲にあるのかもしれない。
残念ながら、僕は回復以外の魔法は、威力にもレパートリーにもあんまり自信が無い。
「とりあえずトリスちゃん。どうして彼はこんな怪我を? 魔物に襲われたの?」
「……うん。私が、召喚を失敗しちゃって……」
「召喚を失敗?」
どういう意味だ? こんな小さな子が、魔法を……非公式に魔法を習っているんだろうか。
とすると、もしかして僕をテレポーテーションさせたのは、彼女……?
「でも大丈夫」
少女は顔を上げ、
「なんとか、送還はできたからっ。ありがとう!」
元気よく言い、花が咲いたような笑顔を見せる。
……その笑顔を見て、僕も自然と笑みが浮かんだ。
「いや。……これが僕の役目だから。それより「あ、ごめんなさいっ」
?
遮られたかと思えば、彼女は地面に散らばっていた石を集め出した。合計3色、合計5個だ。
決して小さくはないそれらを、無理矢理全て両手で持って、立ち上がる。
「もう、私魔力が無くって……時間が無いの。あなたのこと、送還しなくっちゃ」
「僕を送還!?」
まるで、僕が魔物みたいだ。さらによく分からない。
彼女は、テレポーテーションと召喚魔法を混同しているんだろうか。
しかし聞く余裕もなく、彼女は慌てた様子で呪文詠唱を始める。聞き覚えのない羅列だ。僕の知っている呪文とは形態が全然異なる。
……このまま、彼女を一旦止めて事情を聞かないでいいのか?
でも、時間が無いと言っていたし……<送還>されれば、寮に戻れるのかもしれないと思うと、それもどうなのだろうと思う。時間が過ぎれば、<送還>できなくなるのかもしれない。
「!?」
ほどなくして、突然僕の体を青い光が纏い出した。
ここに来る直前見た光と、ほとんど全く同じだ。そして本当に同じだとすれば、僕はもう数秒もしないうちに別の場所に<移動>するはず。
大急ぎで、僕は光の瞬きの向こうに少女を見る。
「いったい君は!?」
尋ねたが、
「あ、いけない! ねぇ、あなたの名前は!?」
彼女は応えず聞いてきた。
僕の質問に答えて欲しかったが、ここは素直に応えてからもう一度聞き直したほうが懸命な気がした。僕は直ぐに、
「イータ! イータ・エンドレン!」
叫んだ。
少女は「イータ!」と笑顔で僕の名を呼び、手を伸ばしてくる。
「また会おう! 約束よ!」
彼女の手の中の、色の無い透明な石が光っている……ように見えるのは気のせいだろうか。
だがそれを尋ねる余裕もなく、僕も手を伸ばして彼女の小さな手と握手した。
「ねぇ、君は」
僕は再び聞いたが……。
その前に、僕の意識は一瞬どこかへ、遠のいた。
次に、最初に見たのはいつもの寮の廊下。
向こうに、台所の流しが見える、いつもの寮の1階の廊下。向こうから、デルタとカイが騒いでいる声がする。どうも今日はカレーらしい。
……いったい何が。
白昼夢、にしては生々し過ぎる。
僕は自分の手を見る。
彼女の手の暖かさが、まだこの手に残っていた。
思い出す。
最後意識を失う直前、溢れんばかりの蒼の向こうで彼女が何を言っていたのか。
不意に胸が熱くなった。なぜだか、泣きそうになる。
こんな、大人に振り回され友人の命を左右されている、状況だからだろうか……いや違う。
僕は自分が無力なんじゃないかと不安だった。
みんなのこと、救い続けられるんだろうか。助け続けられるんだろうか。誰か見捨てなきゃいけない状況になるんじゃないかって。
それを判断しなきゃいけないのは……僕だ。
もしそうなったらどうしよう。もしかしたら、パニックになって結局、誰も助けられないんじゃ……。
そう思うと夜も眠れなかった。
でも、僕は助けられた。
幻だったとしても、白昼夢だったとしても、ちゃんとやれた。僕は……無力なんかじゃなかった。
僕の存在理由。
彼女が、無垢な純粋な笑顔で、僕にかけた最後の言葉。
それは……。
[ありがとう] だった。
『もし本当にまた会えたら』、今度は僕から彼女に言おう。
心から。
そう思いながら廊下に突っ立っていると、突然足音が聞こえたと思った途端後ろからツェータに体当たりされて、僕は吹っ飛んだ。
「うわ!」
「!? っあぅわあぁー!?」
……その時まで、僕、生きてられるだろーか。なんて、台所の床に叩き付けられるまでの浮遊時間中、僕はちらりと……でもかなり本気で、思った。
<ありがとう> ver.TorisΗ
今回トリップしたのはイータでした。トリスとイータって案外合うんじゃね?と思う俺がいます。
皆様、拍手ありがとうございましたっ(礼)。
★back★
|