
テレビ版ノベライズ
映画公開にあたり急遽出版されたと思われるノベライズ小説の前後編
主婦と生活社 各 ¥1,050
ノベライズはあまり期待していなかったけれど、前編が出たときにはぱらぱらとめくってみてレイアウトがスカスカだったもので、買わずに帰っちゃったんだよね。正直「ふざけんなぁぁぁ」と、鷲津ばりに投げつけたくなるくらいのキモチ。しかし、後編が出たときに、今買い逃すともう買わない。でもまたずいぶん経って見かけなくなってから欲しくなるよ。ノベライズは重版は稀だからその時では遅いよ。などと頭の中に主婦と生活社の工作員が乗り移ったようにささやき声が聞こえたのだ。そう、お布施と思って購入するしかないと決心したのはその時。
ドラマや映画に便乗するのはかまわないし、ファンは嬉しい。ただ、これでいいだろうというやっつけ感が漂う事が多い。だからノベライズは微妙。
もちろん、執筆した作家さんの責任というわけではない。どちらかというと、編集の問題だと思うなぁ。どういう路線で行くのかの方向性は企画で決まると思う。誤字の多さが目立つのは、校正がちゃんとされていない証拠だし。リンがリサだったり、中延が中込だったり、見つけやすい物も多い。ちょっとおかしな間違いも普通の小説なら担当者がチェックするような事。そういう点、時間をかけていないのがはっきり見えてしまっている。
映画公開に間に合わせる為なのだろうけれど、残念で仕方ない。
元になるシナリオは台詞を箇条書きにしたようなもので、シーン別の場所や情景の説明、人物の動作などをト書きで補足するようなもの。(怒って)とか(あわてて)とか動作に必要な程度は書かれているが、内面的な思いなどは記述がないのが普通。だから、演出家の解釈での指導、役者の感情生理でかなり変わってくるし、そこでいろいろな解釈がある事がドラマの演出家の腕でもある。
元々台詞もシナリオの時点から改変されながら撮影されたり、カットされるので、どこからがノベライズの改変かはわからない。会話の語尾などの細かい点は俳優のくせかもしれないから。が、台詞の骨子はシナリオ通り、会話の間の心理描写はノベライズオリジナルだと思う。台詞の変わっている部分はどこで変えられたのかは判らない。
と、言うわけでノベライズとドラマの相違点などをあげていこう。
■DVD収録の未公開シーン
*大木の呼び出しの後、三島製作所の前で佇む鷲津は芝野に見つかり工場跡へ連れて行かれる。ドラマでは星川運輸だったのが、大空電気に変わっている。たしかにまだ売却していないにしろ、すでに辞めた星川の工場に勝手に入れるのはおかしいが、芝野の苦痛が語られるのに星川の方がふさわしかったとは思う。これはノベライズで変更されたのかな?
*治と鷲津がレストランで会うシーンはほぼ同じだが、治の事を「あなた」と呼んでいる。ここはドラマでは「君」という言い方だったので特に違和感。鷲津は自分なりのラインがぴしっと引かれているので、ここで同等には言わないと思う。
*由香が昏睡状態の鷲津に語りかけるところは、鷲津がおぼろげの意識の中で見た夢となっている。三葉時代の高校生の由香ちゃんの声だと感じていて、見舞いのシーンでノベライズでは「懐かしい声を聞いた」と繋がってくる。
■ドラマになかったシーン
*大木と会った後、鷲津がアランに議決権争いに持ち込むと宣言した時に、同時にマスコミを使って芝野を揺さぶるように命じる。コストカッターとしての報道を読んで従業員が動揺する事になるが、元はホライズンのリークだったらしい。こういうダーティな手法は実際の企業でもよくある事なんで、本編にあってもよかったかな。
*株主総会の鷲津の発言で「カリスマ大木と同じような経営者が現れるのか、カリスマ無く株主が株を買ったときと同じ水準・業績を保てるのか」と問う。内容はドラマとずいぶん違うがこちらの方が株主達には判りやすいし、大木の死も伝えられず、鷲津に賛同する株主も出てきそうだ。ドラマの方の鷲津は理解し辛いし、大木会長の死が伝えられて皆が情に流されてしまうのも判る。
*バッティングセンターで治が塚本に毒を吹き込む内容が具体的。鷲津が銀行で先輩後輩の仲だったという繋がりで次期社長に芝野を選ぶはずと言う。実際はふたりの関係は真逆に近いし、表向きにも鷲津はそういう情では動かないハゲタカだと思われている。ただ塚本自身に芝野が野球部時代の旧知の仲だという事で引っ張ってきたという経緯があるからこそ、同じ事が起こるかもしれないとすんなり納得してしまうのだろうな。信頼していたら腹を割って芝野と話をすればいいのだが、疑心暗鬼に陥ってしまっている。たしかに芝野ってまともすぎて裏を読まれてしまうキャラだからかな。
*「プライム11」への出演の後、由香が治をなじるところの台詞が多い。「お金に踊らされているのはあなたじゃないの?」という台詞は後の鷲津の台詞と被るからカットされたか?
*ハイパーのインサイダー情報を流したのはクラリス?確かにタイミング的にはやっているかも。
*ホライズンが牛耳っても大空に残る事になった芝野は、コストカッターとしてリストラを担当する。社員達への説明会で自分がわざと悪役を演じ、大賀を立てるという苦渋の役割。ここはそれで納得だよなぁ。全編を通して一番納得いかなかったのが芝野の「信義ってなんですか」だったんだよね。鷲津ならさらっと冷徹に言いそうな台詞だが、芝野があんなに声を荒げて言うのか?というのに違和感があった。ハゲタカ外資から送り込まれた大賀は当然乗っ取り屋と思われて敵視される。リストラをスムーズに行うためには敵対心を少なくとも薄めようという事だ。
シナリオでは書ききれない部分だと思うので、これはライターさんのGJ。
*EBOを密かに企む鷲津と芝野だが、芝野は上記の悪役を演じた事が加藤を始めとしたレンズ事業部の社員の不信に繋がっていて、提案に応えてもらえない。ここで後の「手強い」に繋がる。
■これで納得?
*由香が大木会長の墓の前で鷲津にくってかかってたのは、記者会見の発言に納得がいかないので追いかけたという設定。ドラマではふたりとも服装が違うからそうでもなさそうだし、由香も花束持ってたけど。まぁ、なんにしろ由香はストーカー(笑)
*鷲津が撃たれて入院の報を聞いて、身内といって入った由香。病院では家族がいないということで困惑気味だったから、自称身内が現れてほっとしたんじゃなかろうか。鷲津は母ひとり子ひとりだったが、ずいぶん前にその母も亡くなっていたらしい事が判る。
■すごく気になるところ
*これはドラマの中でも問題の冒頭のシーンの鷲津の年齢。
暴発事件はドラマでは2004年夏で鷲津35才のはず。これを36才とやっちゃったわけですが、訂正されていない。これはシナリオ上の間違いだろうと思うのでしかたないが、この後がいけませんな。というのも、「悲劇は8年前に始まった」となっていて、次の章冒頭がドラマ通り1998年だから。
これはドラマ編の方でも書いたが、第一回の放送時点でストーリーが2005年初旬で終わるとは視聴者には判らない。だから放送時2007年の視点からの9年前というナレーションなのだ。
しかし、書籍の場合はそういう放送時という固定した時間軸がないから、8年前という事だと暴発事件は2006年という事になってしまう。だったら37才になっちゃうしなぁ。何か解決する考え方はない?
*「目標はただひとつ、安く買って高く売る」この名台詞の「ただひとつ」がない!
ここは台詞が少し長いのでシナリオにもないのかもしれない。ただこれは続く「買いたたく×3」と同じく番宣やらでも欠かす事の出来ないシーンなので、ドラマ通りにして欲しかったな。それと共に台詞をばっさりカットして「ただひとつ」という言葉でよけいなことを言わせずに不気味なハゲタカを演出した現場のセンスがすごいと思う。
*バーで鷲津がピアノを弾くシーンがなく、「場末のバーでひとりピアノを聴くくらい」という台詞になっている。由香の昔話は切実だし悲痛で、それでも治のような自分ひとりが成り上がる事ではなく、ジャーナリストという道を選んだけなげさも伝わる。しかし、ウエットになりすぎるからドラマでカットされて正解だろうとは思う。確かにここまで言われると逃げ出したくはなると思うのだが、やっぱり金を置いて出て行くのが鷲津というのは嫌だなぁ。由香に対しては後ろめたい気持ちはあるはずだが、逃げたりしてはいけないと思う。鷲津は辛くても強がって平気なふりをするし、がっしり受け止める方だと思うから。
■少し気になるポイント
*初回、頭取の檄に飯島が応えるシーンの後、芝野の経歴が地の文で紹介される。もちろんエリートなのは間違いないが、飯島の「エース」というのは揶揄も入っているはずだ。まったく銀行の敗戦処理でしかなく、ここは後に沼田に言われる事になるようにコースを外れる突端のような気がするので、なんか違うよ。
*「迫真の演技」これは多分いろいろ解釈があるのだけれど、自分はやっぱり瑞恵の事だと思ってる。鷲津の事だと、アランってホントに鷲津に疎外されている使いっ走りのポジションでしかない。あ、地の文でも観察眼が浅いところも多くあるから、そういうキャラ認定だったら納得も出来るか。
*取締役会で、「瑞恵が床にへたり込んだ」という描写をするなら立ち上がるところも入れないとね。解任動議が出されて賛同者は起立を求められてるのになぜ立ってるんだって事になる。ドラマでは解任動議を提案されて激高して立ち上がるので違和感はないのだが、単体として考えると変。
*芝野が三葉を辞める決意をして銀行から出てくると、すぐ鷲津登場。しかし、早すぎ。芝野も呆れながらにしても「早耳だな」で片付けるな〜。ドラマでは引き継ぎも済んで銀行に別れを告げていると思うんだが。もちろん、スーツも違うし。
*大空電気の株主総会での大木の発言は、芝野の代読ではなくビデオになっている。でも後で由香は会長の手紙と言ってるので、食い違っている。
*本社に秘密で上海に行く鷲津だが、目立たぬように社用ヘリでなく飛行機で行くんだとか。旅客機で3時間もかかる距離を速度が何分の一かのヘリで行けるのかねぇ。軍用の輸送ヘリじゃあるまいし。大型の20人乗りくらいでも航続時間は3〜4時間がいいところではなかったかな。そもそも、ホライズンがヘリを所持しているというのが謎。どうせなら外資なんだし小型ジェットを所有して、NYと頻繁に往復するくらいであって欲しいな。
■どうでもいいけど
*「ゴールデンイーグル」原作で鷲津が呼ばれていた名が何度か登場。シナリオにも出てきていたのかね。でも、日本ではこういうあだ名は馴染まないと思うんでドラマで出なかったのは正解。
*ホライズンの本社が六本木設定。ドラマでは画面で度々出てくる住所は虎ノ門。近いけど一緒くたにはならないと思うんだがイメージなのかな。
*「コテコテの日本人」が「生粋の」に変更。これは確かに微妙だったからなぁ。
*「利益目標200億」利益を200億出そうと思ったら最低300億近くで売らないと駄目だから、さらにハードルが高いし、がめつすぎないかい?
*鷲津が由香の名刺を眺めるシーンがない。これはいかにもテレビ的演出だからか。
*鷲津の別荘は軽井沢署の管轄らしい。
*中延が大空電気から鷲津ファンドへという記述。中延も送り込まれてきたという事らしい。
■いらなかったんでは
*瑞恵が滞在しているホテルで鷲津が手に取ったブロックを「木のブロックに子どもの大きさほどの穴」という描写。瑞恵が社長に返り咲いてから自己破産云々の時に鷲津が言うから効果的だったのでは。瑞恵もかつてはもの作りに志があったと初めて判ると思う。
*同様にアランの退職勧告にすでに36億の話が出ているのもなんだか惜しい。芝野が支援を頼みに行ったときの驚きがない。
かえって作家のオリジナルアレンジを加えて仕立てた方が小説っぽくなったかもしれない。もちろん原作は別にあるから無理なんだろうけれど。ドラマの台詞がいちいち格好いいせいか、変えないでいくなら全部その方がいい。そうなるとノベライズではなくシナリオをということになってしまうが。オリジナルは賛否両論かもしれないけれど、読み応えがあり、キャラクターを大事にしてくれたらそれでいいと思う。鷲津の内心に踏み込みすぎるとものすごくジメジメしちゃうんで、村田や中延とかアランを深く書き込んでもらえると面白かったかも。
2次元と3次元は所詮別物なんだから、割り切って貰う方がいい。その方が新たな発想の転換が合ったかもしれないな。


