<特別展示室>
レプリカ服のディテールアップと記章・バッヂ類の付け方
グロスドイチュラント歩兵科准尉野戦服の組み立て

このコンテンツではレプリカ野戦服のオーナーにご協力を頂き、陸軍下士官野戦服をグロスドイチュラント(以下GD)の歩兵科准尉−シュピース−野戦服にする作業を例に陸軍野戦服各部の組み立てについて解説します。
* 今回のディテールアップ・記章付け、および本体・記章・バッヂ類の仕上げは当工房でオリジナル(実物)のレストア(修復)に使用する技法・材料と同等のものを用いておこないました。
* 装飾過度になりがちなレプリカのフル・デコレーション軍服を、いかに落ち着いてオリジナル然とした服に仕上げるか。ということを課題のひとつとしました。
* 野戦服本体に付ける記章・バッヂ・パーツ類は日本国内で入手が容易なレプリカの中から、廉価で出来のよいものを選んで使用しました。(当工房で再仕上げをしていますので販売品の状態とは異なるものもあります。)
これは当工房での作業の一例です。実際の作業は各自の判断・責任に於いておこなって下さい。
1.「画像による検討」
作業に先立ち、服のオーナーに画像をお送りいただきました。中古品としてこの状態で入手されたとのこと。
・ 画像では一般的なM36野戦服(5つボタン)に見える。
・ 本体のフィールドグレイラシャ生地のムードもよく、襟まわりの作りなど全体的に落ち着いた作りのレプリカであるように見える。
・ 付属の記章は陸軍鷲胸章・襟章・下士官肩章・同襟まわりトレッセ(すべてレプリカ)と第2ボタンホールにオリジナルの二級鉄十字章と東部戦線従軍章のリボン。
・ ベルトフックは西独製。外装ボタンはオリジナルの野戦服用。
・ 画像で見たところ本体は特に手を入れる必要はない様に思える。
2.「現物を見ての検討」
到着した現物を実際に見て全体の作りをチェックします。
・ 本体のフィールドグレイラシャ生地の色は1940年以降の陸軍野戦服のムードに近い。
( 洗濯された痕跡があり、この場合は逆にその「着古し感」がウールによい風合いを与えている。)
また、袖が薄っぺらくつぶれているのもオリジナル風。
・ 外装の構成はダークグリーン襟・5つボタンのM36野戦服であるが、内装・ベルトフックサスペンダー・腰ポケットはM42野戦服以降の形式となっている。また上ポケットは通常の官給品より小さい。オリジナルであればイレギュラーで、一般的には改造服か仕立て服ということになる。
(陸軍のM42以降の野戦服は基本的に6つボタンなので、これのダークグリーン襟改造版というのには少々無理がある。)なお、上ポケットを小さくする改造は下士官等においてよくおこなわれていた。
・ 襟は幅が狭く直線的、そしてやや開き気味の形状で陸軍兵/下士官野戦服の典型のひとつ。
・ 戦中(42年以降)のAssmann&Soehne社亜鉛製野戦服用ボタンが付属。(1個だけペイント色の異なるものが付属。)
・ ボタンホールはすべて機械縫いの「はと目穴」ホール。(各部の縫製はポリエステル糸を使用。)
3.「考証と物語の設定」
「現物を見ての検討」をもとに、「装用する記章」などから服装の時代背景と着用者の物語をあわせて検討します。
「装用する記章・パーツ類」
野戦服のオーナーよりお送りいただきました。(下士官トレッセ・4つ穴ボタンのみ当工房在庫品。)
・ 肩章(本体)−レプリカ 1ペア
・ 肩章ピプ−東独軍放出品 4点(Oberfeldwebel)
・ 肩章GDモノグラム−レプリカ 1ペア
・ 襟章(兵科色入り)−レプリカ 1ペア
・ 鷲胸章(40年型・フィールドグレイ台布)−レプリカ 1点
・ 下士官トレッセ−東独軍放出品 約2メーター(襟まわり・袖まわり)
・ GDカフタイトル−レプリカ 1点
・ 一級鉄十字章−レプリカ 1点
・ 歩兵突撃章−レプリカ 1点
・ 戦車撃破章/銀−レプリカ 1点
・ 二級鉄十字リボン−レプリカ 1点 約10p
・ 4つ穴ボタン−レプリカ 11点(襟・包帯ポケット・袖口・射撃優等章用)
・ 東部戦線従軍章リボン・外装ボタン−オリジナル リボン約10p ボタン11点
「本頁画像撮影用」
・ ホイッスルランヤード・オーストリア併合メダル略授−オリジナル 各1点
・ 戦傷章/黒−リペイント 1点
以上を総合的に見て...
「 服の時代は42年後半以降。個人購入のグリーン襟野戦服。」
「 着用者は陸軍古参の上級下士官で歩兵科の中隊先任下士官。」
という設定で進行します。
* 中隊先任下士官−シュピース−は階級ではなく役職を指します。当時の写真で確認したところUnteroffizier以上の階級の下士官にはシュピースの袖章(トレッセ)を付けている人物がいました。
4.「作業手順」
<襟関連>
・ 今回の上襟は表がウール製、裏がコットン製。洗濯により裏のコットンが収縮し襟全体が型くずれしていたため、トレッセ・襟章をはずしてスチームプレスで形を整えた。
・ 当初付属していたトレッセも同様に収縮して短くなっていたので取り替える。
・ 襟章の交換。
・ 内襟にサイズタグが縫い込まれていたのでこれを取る。
・ 襟フックとキャッチ(アイ)の形状がオリジナルとは異なっていたのでラジオペンチで修正、研磨して仕上げる。
・ 上襟付けの補強と襟フック・キャッチの補強が省略されていたので、麻糸でこれを取り付ける。
・ 汗止め用のボタンが省略されていたのでこれを取り付ける。*旧式のハルスビンデ型汗止めを使用する服の場合このボタンは不要。
襟関連・細部画像と作業内容の詳細
<ボタン関連>
・ 外装ボタン付けの縫い付け方がオリジナルとは異なっていたのですべて取り外し、ボタン付け用の麻(リネン)糸で付け直す。
・ 4つ穴ボタンは現代風のものが付いていたので交換する。(袖口・包帯ポケット等)
* オリジナル服のボタンはベルトで擦れるところや使用頻度が高いところのものから消耗・変形する ので、レプリカにボタンを付ける際もこれを意識して付けるとよいでしょう。
<肩章関連>
・ 肩章下士官トレッセ・モノグラム・ピプを取り付ける。
・ 肩章ループの形状と位置・縫い付け方がオリジナルと異なっていたためこれを変更。
・ 右・肩章下に射撃優等章用ボタンを取り付ける。
肩章関連・細部画像と作業内容の詳細
<腕関連>
・ 准尉トレッセの取り付け。
・ カフタイトルの取り付け。
・ 戦車撃破章の組立と取り付け。
・ 袖口ボタンの交換と増設。
腕関連・細部画像と作業内容の詳細
<鷲章>
・ 鷲胸章の交換。
鷲章・細部画像と作業内容の詳細
<リボン>
・ 第2ボタンホールリボンの交換と取り付け。
リボン・細部画像と作業内容の詳細
<戦功章・バッヂ類>
・ 戦功章・略授等バッヂ用のループを取り付ける。
・ バッヂ類の表面加工をする。
戦功章・バッヂ類・細部画像と作業内容の詳細
<仕上げ>
・ 服・記章・バッヂ類を含め全体的なトーンを合わせて落ち着かせる加工をする。
<完成>
・ 左はM43規格帽(43年6月採用)を着用した中隊先任下士官。戦時下後方での再編成/訓練中をイメージ。
* 戦前や戦争初期の内地では兵/下士官制帽を着用していることが多い。
・ 第2ボタンをはずして革表紙の准尉手帳を挟んでいる。右ポケットには指揮用ホイッスルランヤードを装用。