| ★自分史 | 少年時代 | 中学生時代 | 心に残る友 | 海軍兵学校入校 | 海軍兵学校での言葉 | 国鉄勤務時代 |
| 広島工業専門学校 | 株式会社クラレ入社試験 | 岡山工場勤務 | 研究所勤務開始 | 研修所勤務時代 | 連絡月報リレー随筆 | |
| クラレタイムス | 岡山理大付属高校勤務 | ***** | ***** | ***** | ***** | |
| 母の思い出 | 姉の思い出 | 兄と弟の思い出 | 妹を想う | ***** | ***** | |
| 兄弟妹夫婦旅行 | 素朴な琴 | からだを傷める | ***** | ***** | ***** |
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少年の頃、優しい笑顔で挨拶されるご夫人がいた。わたしには親戚のおばさんでもないので、不思議に思っていた。母から聞いたと思うのだが、私がこの世に生まれたときの産婆さん(砂田さん)だと。砂田さんが生まれるとき手伝った赤ん坊が少年へと大きくなるのは、彼女の喜びだったのであろう。今でも挨拶された笑顔が思い出される。 私は姉・妹・兄・弟二人の六人兄弟姉妹であった。家庭の都合で、ある時は、姉が、或るときは兄が岡山のお婆さんの家にあづかってもらっていた。私・妹・弟たちは一度も母のもとから離れたことはなかった。
▼私に当てはめて思い出すと、「六人が母にとって私一人がすべてであり、希望のすべてである」ということはあっただろうか。 父は早く亡くなった。私が小学校二年生の時であった。それ以来、家庭の生活・子供の養育は全て母の背にかかったのである。こんな事情で、私は母にとっては「六人の子供はすべてわけ隔てのない希望のすべてであった」であろうか? いやこんな事情であればこそ六人は希望のすべてをかけて、生き抜いてくれたと思う。 姉・兄・私・妹・弟たちを育てるうちに得られた智慧によって養育してくれたものであろう。 ▼今回は、私の母の思い出のみを書いてみる。 小学校へ入学したとき、不登校(当時はこんな言葉はきかれなかった。現在は話題になっている)であった。学校には行っても、すぐに家に帰り、二階の押し入れに隠れていた。まもなく見つけだされて、学校に連れていかれた。そのようなとき母はどんな思いであったあろうか。多分、「どうしてこんな子供であるのか」と悲しみのドン底であったであろう。 ▼小学校四年生になって、そんな私の成績が担任の男の先生のおかげで、急上昇したのである。今にしておもえば母の希望の火に点火したのではと……。 当時は、男の子供を中学へ進学させる雰囲気はなくて、小学校を卒業すれば、工員養成学校にやってしまうのが普通であった。しかし、母は私を中学校にいれてくれ、中学五年生で海軍兵学校へ入学したときは希望の火は燃えあがったことであろう。 ▼その後は、終戦。旧制広島工業専門学校にも、家庭の経済を切り詰めて、行かせてくれた。 生活に困っていても、母は愚痴一つこぼさなかった。こんな母の生きざまが、私には「母の背中を見ての教え」となり、休暇にはアルバイトをして、母の重荷のわずかな軽減につとめた。終戦後の就職難にもかかわらず、就職・結婚して家庭をもち、妻が毎月少しばかりであったが母に送金してくれていた。私は妻に感謝すると同時に、母にこころばかりの恩返しをさせてもらいました。 ▼就職した会社の社長が大原總一郎氏であった。このたびの随筆が引き金になり、私の母についてかかせていただきました。私は社長を尊敬し、定年まで勤務させて頂いたことに、人一倍にお礼を述べなければならないことがありました。その理由については割愛いたします。 ▼社長は、ガンで亡くなられ、天国からクラレの様子をつぶさにご覧くださっていらっしゃることでしょう。全社員が、歴史的円高不況にありながらも、企業を守っていることをご報告いたしまして筆をおきます。 平成二十四年八月三十日
坂村真民 草餅 (坂村真民全詩集第五巻248頁)を読む。 妻が草餅をこしらえていた 草餅を口にするといつも母を思い出す 母はよもぎをとってきては 草餅をつくってくれた 父が急逝して母は残された五人の子を連れ さびしい父の村に帰ったが そこの草餅だけはおいしかった わたしが幼い子供たちを 初めて母に会わすため 四国から九州に会いに行った時 母は別れを惜しんで草餅をつくり それを持たせてくれたが それが母との永遠(とは)の別れとなった 草餅には母の愛が熱いほどこもっている 妻がつくった草餅を母に供え母を思った ※この詩をよんで私は母を思った 私は餅が好きだと言って 笑いながら焼いてくれていた 生前の母と別れたのは 三原病院の面会室であった 和菓子を笑いながらたべていた 無心におもえた 若いときの写真を見る 子供たちみんなに囲まれている かすかに笑いをふくんでいる どんなにつらいときも笑っていた ※母は昭和58年4月17日逝去 平成二十八年八月二十一日追加。
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