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愛のことのは
SWEET PAIN
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Positive Dance
〜愛のために〜
up 2005 春輝
#2 Girl who looks for 1
その夜、あたしはややの家に泊めてもらう事にした。
いくらなんでも、ややのあのキレ方は普通じゃ無かったから、まさか…とは思うけどおかしな事考えないように側についてる事にしたの。
ややの家に着いた時には、ややのお父さんも、お母さんもとっくに寝てたので、無断でお邪魔させてもらった。
その時、ややはもう泣きやんでいたけど、一言も口もきこうとしなかった。でも、2階の自分の部屋に通してくれて、ベットの横に布団をしいてくれた。あたしはややが貸してくれた寝巻きに着替え、布団に転がった。ややがベットに潜り電気を消す。その、薄暗がりの中で、あたしは今晩は寝ちゃダメだなと覚悟を決めた。だって、もし、うっかり寝ちゃったら、ややが部屋を抜け出してなにかおかしな事しても気付かないじゃん? つまり、それぐらいややの事が心配だったってこと。
まんじりともせず、時計の音を聞いてるあたしの横で、ややが何度も寝返りをうつ。
眠れないのかな?
眠れないんだろうな、きっと。
返事は期待しなかったけど、あたしは取りあえず、ややの気持ちが明るくなる話題を探した。
「ねえ、やや。あたし決めたよ」
案の定、返事はない。それでも、あたしは言葉を続けた。
「あたしさ、さっきややが言ってた事やってもいいよ」
ちょっと、漠然とし過ぎたかな? そのせいかもしれないけど、あたしの言葉にややが返事した。ものすごくいやいやだったけど。
「さっき、言った事って何よ?」
「ほら、言ったじゃん。ダンス一緒にやろうって」
「ああ」
ややの低い声。
「別にいいよ、無理しなくて」
あいかわらず何か投げやり。
「無理なんかしてないよ!」
あたしは口をすぼめた。
「ていうか、本当の事言うと、実はあたしちょっと憧れてたんだ、そーいうの。でもさ、あたしドンくさいじゃん? 足引っ張りそうで遠慮したの」
「アイミ、別にドンくさくないじゃん」
「ドンくさいよ。体育全然ダメだったじゃん。ほら、中学の体育大会で、ハードル全部倒しちゃったの覚えてない?」
「ああ、あの時は壮絶だったね…」
そこで、やっとややが笑ってくれた。あたしは、自分を犠牲にした笑い話が受けてくれて少し安心した。
本当は、ダンスなんかやりたくなかったけど(才能ないの分かってるし)。それでややが少しでも気が済むんなら、付き合ってあげようと思った。今のややに自分がしてあげられるのは、それぐらいだから…。
でもさ、あたしがバカだって気がついたのは、その翌日でさ。あの夜、あたしせっかく会えたあの人の名前を聞くのすっかり忘れてたんだよね。駅まで一緒に歩いたのにさ。本当、バカです。
言い訳をするなら、あの時は泣いてるややを慰める方が大変で、それどころじゃなかったんだ。
バッタン、バッタンって反物を補正する機械の音がする。
その音を聞きながら、褪せた緑の埃っぽいフロアを、あたしは片手にB4の書類持って歩いてた。隣の棟の2階事務所にFAXを送りに行くって口実を作って、席を離れた。
本当は目的はもっと別にあった。実は「あの人」を探してた。というのも、あの昼休みに助けてもらった時、あの人がはいてたズボンが、間違いなくうちの会社の作業着だったから。だから、そんなに広い工場でも無いし、探せば絶対見つかると思ったの。
…でも、結局見つける事はできず、仕方なく自分のフロアに戻った。
昼休み、あたしはいつものように工場裏の石に腰掛けて、コンビニで買ったパンをかじってた。
考える事がいっぱいあったので、BGMは無し。考える事っていうのは、言うまでも無くあの人の事、そして、ややの事だった。
さらさらと小川のせせらぎが聞こえる。いつもは、音楽聞いてるから気付かなかったけど、フェンスの向こうの小川の音、結構はっきりと聞こえるんだ。この間、あの人に助けられたのは、ちょうど、あの小川のほとり。こんもりと、緑が茂る土手の上だった。
あたし、フェンス越しに、あの人の幻を浮かべた。
幻のあの人は、土手の上に立ち、西に広がる田んぼを見てる。
でも、そこに来るために、どこから歩いて来たんだろう? どこから…?
確か、あの時、あの人はいつの間にかあたしの前に立っていた。そして、あの時、あたしは田んぼを左に、北向きに立っていた。
北?
あたしは、北へと視線を移す。この位置では何も見えないので、フェンスに手をかけ右の方へ首を振る。
「ああ」
そして、あたしは、思わず声をもらした。
あたしの視線の先に、黄色い建物が見えていた。そこだけ敷地外だったし、普段ほとんど行く事が無かったから忘れてたけど、あれは、まぎれもなくうちの工場の建物だ。そう、確かあそこは、反物を注文先に送るための出荷倉庫だった。
あたしは、フェンスに手をかけ、よじ登り、ばさりと地面に飛び降りた。
土手の草を踏み分け、アスファルトの道を横切ると、すぐに出荷倉庫の前に辿り着いた。入り口付近の駐車場にトラックが止められている。荷台は空だ。今から、反物を積み込むのかもしれない。
あたしは、そのトラックの脇をすり抜け、倉庫の中に入っていった。薄暗い倉庫の中には、灰色の棚が並んでいて、そこに反物が積み上げられてる。直射日光の当たらないせいか、ひんやりとしてて、居心地がいい。人の気配は無く、シーンとしてる。にもかかわらず、確信した。
あの人は、ここに居る!
あたし、棚から棚へと移動して、くまなくあの人の姿を探した。でも、広いように見えて、意外に狭い倉庫内は、すぐに探し終えてしまう。あたしは、自分の勘が外れた事にがっかりした。
やっぱり、ここに勤めてる人じゃないのかな?
あたしは、悲しくなった。じゃあ、二度と会えないじゃん。本当にバカ。なんで、あの夜、ちゃんと名前を聞かなかったんだろう??
そんなこと考えてると、ぴりぴりとアラームが鳴り始めた。昼休み終了5分前だ。
仕方なく、あたし、がっかりしたまま、自分のフロアに戻ろうとした。あんまりのショックに、午後から仕事になるかなとか思ってた。
うつむいて歩いてたせいかな? あたし、前から来る人影に気がつかなくてさ、「あっ」と思った時にはぶつかってたの。辛うじて後ろに倒れなかったのは、相手がその腕で、あたしを背中から支えてくれたおかげだった。
あたし、顔を上げて謝ろうとしてびっくりした。
だって、あたしを見下ろしているその顔が、まぎれもないあの人のものだったから…。
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