束の間紀行 番外編
琵琶湖センチメンタルジャーニーは厳しーい編
「竹生島は行った事があるで。」カヌーを漕ぎながら有李くんは言うけれど定かな記憶がない。海津大崎を8時半に出艇して一時間、暢気に船を進めてきた。昨日とはうって変わった平穏な琵琶湖である。「何時やったんやろ。向かいの葛籠尾崎でキャンプした時かなー。竹生島の裏でお箸忘れて、木、切って代わりにしてラーメン食べた時かなー。」「わからん。」
琵琶湖にはお兄ちゃんの星夏くんと三人でよく遊びに来た。92年に初めてフジタの二人艇QG2「CHAP1世号」を手に入れ乗りに来たのだ。星夏くんと二人で竹生島まで行った帰りに黒雲に追いかけられて必死に漕いで近江今津まで逃げ帰った。「早よ漕げ。」と二人艇の後ろから星夏くんをパドルで小突いてふくれられた事を思い出す。着艇した途端に豪雨が降り出し強風に大波が打ち寄せて怖い思いをした記憶はしっかと残っている。三人で出掛けた時にはまだ小学低学年の有李くんは一番前に座って水しぶきをかぶっていた。今や彼も大学生である。大学の夏休みももう直ぐ終わる。今回は有李くんと二人、キャンプして竹生島へ行く計画だ。
近江今津の観光船乗り場横の湖岸でファルトを組む。一人艇「March2世号」の船体パイプを繋いでいたショックコードは切れて久しい。パイプはばらばら。「これが前のフレーム用のパイプでこっちが後ろの。」と教えないと有李くん一人では組めない。それでも覚えながら組み立ててくれるので随分と助かる。子供の頃は船が組み上がるまで川に石を投げて遊んでいたものだ。「空気入れても膨らめへん。」そうやった、片方のエアーチューブは穴の開いたままだ。船体のテンションが掛からない。有李くんが乗り組む。
平日のラッシュアワーを避けたので近江今津に着いたのは11時半を回っていた。昼ご飯を食べて船を二杯組むと出艇は2時になった。荷物はファルフォークの二人艇「CHAP2世号」に積んで乗り込んだ。着いた時はいいお天気だったのだがお昼から空は雲が広がる。「川とちごて漕がんと進めへんで。」時にパドルを止めて行き足で進む有李くんに声をかける。彼は湖が初めてなのでゆっくりとパトリングを楽しむ風情なのだが風が吹き出してきた。3時にマキノの沖あたりまで来た頃には北東の風がつのる、波高は50センチを越えた。白波も立つ。前からの波と風で目の前に海津大崎が見えるのに漕げども進まない。後ろを振り返るとパドリングしている有李くんの姿が小さく見える。「漕げーっ。どんどん風が強よなる。流されるでー。」
「水は腰のとこまで入ってる。ぐらぐらするし風に吹かれて左に左に行って真っ直ぐ行かへんかったんで岸の方に突っ込んでその後、流されて来た。」有李くんは遅れること15分余り、海津大崎の東、井上旅館のキャンプサイトに何とか到着した。もう5時である。2時間の悪戦苦闘であった。船を引っくり返して見ると修理したパッチが外れてぱっくりと口が開いている。水が入るはずである。「よくぞ無事たどり着いた。なかなかの技量や。」と褒めてやった。
「昨日、寝たん9時すぎやったから。」翌朝、有李くんには珍しく6時に起きだして朝ごはんを炊いてくれた。乾いた船底にガムテープを張って応急修理をする。試しに浮かべてみても浸水は見られない。「これやったら長浜に行けるな。」直らなければ今津に即、帰らないと、と言っていたのだ。8時半出艇、目の前に浮かぶ竹生島を目指す。空は高く秋のいわし雲が北から南に
懸かる。昨日の風、波は何処に行ったのか、凪の湖面をゆるゆると漕ぐ。至福の時である。
10時半竹生島を通り過ぎる。 「水、あんまり入ってへんで。」それではと船首を東に向けた。伊吹山が霞みの上、青く高く浮かんでいる。「前にクラブ・ザ・ファルトの例会で来た時、ここで風に吹かれて往生したんや。」風の通り道なのか相変わらず北から風が吹き出す。空はいつの間にか雲におおわれている。波も悪いが南に向かうので風と波に流されながら東岸に着いた。「さぶい。」船から出ると濡れた体に秋の風が当たる。昼食のごんぶとカレーうどんで温まった。
長浜はここから湖岸沿いに南に下り、姉川の河口を回った先である。12時半、水を出して乗り込む。風はつのる。波も高くなる。魚とりの仕掛け「えり」の鉄の杭がずらりと並んで沖に向けて続く。それがこれから先、幾つもある。「この先が開いてる。」外を回るのは遠い、風に吹かれて杭の間をすり抜ける。姉川の河口に近づくと浅くなって波が高くなる。ここを回り込めば風の陰になるだろう。必死に漕ぐ。「放って先に行くんやから。死ぬかとおもたで。風で左へ左へ勝手に行くから進めへん。」有李くんは怒っている。しかし、あの風の中、波の中では待てない。
「前にお城が見える。その左の方に白灯台が見えるからあそこが港やろ。灯台目指して行くで。」ボートが後ろから追い抜いて港に向かった。河口を回り込んでも風は収まらない。有李くんは吹かれて左へ左へそれる。今度は離れないようにゆっくりと進む。風と波でゆっくりとしか進めないのだ。灯台を回ると目の前の斜面にプレジャーボートが引き上げられていた。港の奥はまだ先のようだがほうほうの態で着岸。「あの風と波の中を大丈夫かなと心配してた。」と声が掛かった。あの追い抜いていったボートだった。二人して船を上げて水を抜いて干す。「息子さんかい?いいねー、一緒に遊べて。」羨ましがられて少し鼻が高い。
片付けの間も陸から湖に向かって風は吹き続けた。マット一つ、ゴミの袋を吹き飛ばされてしまう。拾おうと斜面を降りるとすっつてんころり滑って水にはまる。湖を汚すつもりではなかったのだが取りに行けない。申し訳ない。
(フォトアルバムはこちら)(漕行2006年9月21日木曜日、22日金曜日)
追記
「March2世号」はエアーチューブも然ることながら船体も大分傷んでいた。帰ってから穴はパッチを張り直した。そのほかは防水シールを塗る。そういえば長い間修理していなかった。底板も割れているのをだましだまし使っているのだか新しく買わずばなるまいな。久しぶりにフジタカヌーのHPを見た。
「中が粉だらけやで。」テントに潜り込んだ有李くんが言う。内側の防水が劣化してボロボロと粉末になって落ちてくる。何時手に入れたのか覚えがない。長い間使っている。星夏くんが小学生の時交野で使ったことがあるからもう20年くらいか。モンベルに電話した。「本体だけでも取り寄せられますよ。」とのこと。今度テントが必要になったら買おう。
昼 コンビニのミニかつ弁当、ぶっかけうどん、とろろそば
夜 豚汁、いわし缶詰め、ビール一缶、ウイスキー、柿の種
朝 お茶漬け、大根漬物
昼 ごんぶとカレーうどん、お茶漬け