たとえばこんな幸福な日常

 

 

「さぁて、今日の罰ゲームは何にしようかねぇ・・・くっくっくっ」

そんな魅音の声で俺たちの「部活」が始まる。

「敗北感に打ちひしがれる覚悟は出来まして?圭一さん。」

「ボクたちも負けないようにがんばるのですよ、にぱー☆」

小生意気な声は沙都子、にぱにぱと笑っているのは梨花ちゃんだ。

「・・・はぅ、この前のメイドさんははずかしかったよぅ・・・」

「・・・あはは、僕たちも頑張らなくちゃ」

こちらの半分苦笑いのような二人がレナと悟史。因みに二人ともあまりゲームは強くないので、罰ゲーム常連だ。

「あら、悟史君は私が勝たせてあげますから心配しなくてもいいんですよ?もう大船に乗っちゃってください」

「にーにーは私が勝たせて差し上げましてよ!詩音さんなんてお呼びじゃありませんわ!」

悟史にちょっかいをかけつつ、沙都子とじゃれているのが詩音。興宮の学校に行っているのだが、ちょくちょくサボっては雛見沢の方に遊びに来ている。

「・・・むぅ・・・二人とも仲良くしなくちゃダメだよ」

当の悟史はと言うと、こうやって二人をなだめるのが日課になっている。まぁ、そこはかとなく嫌そうなそぶりが見えないから任せていいだろう。

「よっしゃ!今日こそ魅音!お前を倒して恥辱の海に突き落としてやるぜぇぇぇっ」

うちの「部活」は罰ゲームが容赦ない。
俺も雛見沢に来たばかりのころ、カモにされて女装したまま帰宅したことがある。
・・・あんときゃ雨に降られて風邪まで引きそうになったっけ。

「けーちゃんにできるかなぁ?この前もそういってエンジェルモートの制服きせられたじゃない?んー?」

「はぅ・・・あのときの圭一くん、かぁいかったよ・・・☆」

レナが思い出し恍惚に入っているが、俺にとっては一秒でも早く忘れて欲しい思い出である。

「で、お姉。今日はどんなうれしはずかしな罰ゲームなんです?」

「コスチューム系は流石にやり飽きましてよー?」

じゃれていた二人がコッチに戻ってきた。そろそろ始まるって事だろう。

「今日の罰ゲームはねぇ・・・これだぁっ!」

「・・・みぃ?」

魅音が手元の巻物をババッと机の上に広げた。
そこに書いてあった文字は・・・

『最下位は24時間、部の共有財産になる!!』

ご丁寧にエクスクラメーションが2つもついてやがる。

「それってどういうことかな?・・・かな?」

「みぃ・・・ボクも少し理解できないのです・・・」

確かに、トランプやボードゲームのように、あの四次元ロッカーに閉じ込められるのかと思ってしまった。
魅音はちっちっちっと指をふって、得意気にその(とても大きな)胸を張った

「部の共有財産って事はねぇ、部員なら誰でも利用できる・・・つまり、24時間問答無用の奴隷クンってことだよ、皆の衆!」

おおっと部員にざわめきが起きる。
しかも今回は勝者だけが栄光を手に入れるのではなく、最下位・・・つまり最弱のものだけが罰を食らう。「部活」にしてはリスクの少ない罰ゲームだった。

「じゃあじゃあ、圭一君にかぁいいの着せてお持ち帰りしてもいいのかな?いいのかな?!」

「OKOK・・・でもちゃんと夜には家に帰すんだよ?」

レナが興奮して「かぁいいモード」に入っている。

「悟史くんが最下位になったら・・・お持ち帰れる・・・」

「詩音さんが最下位になったらにーにーに近づけさせませんわー」

一方ではまたじゃれあいが始まった。

「むぅ・・・最下位にならないように頑張らないと・・・」

「悟史はきっと大丈夫なのですよ。詩ぃと沙都子が最下位にさせないのです、にぱー☆」

こちらはこちらで最下位さえ逃れればいいやといった感じだ。

「・・・けーちゃんはわかってるよねぇ?部活では・・・」

「おう。目指すは優勝のみだぜっ!・・・で、今回のゲームはなんなんだよ、魅音」

全員の注目が集まる中、魅音がそれを取り出す。

「トランプ・・・なのですよ」

「大体の遊び方はやったと思いますわ・・・」

拍子抜け、といった表情のちみっこたちに魅音が不敵な笑みを見せる。

「甘い甘い、今日やるのはトランプゲーム一番の騙しあい・・・『ダウト』だよっ」

騙しあいというより「終わらないゲーム」として有名なアレか。
完全な騙しあいな分、悟史のようにポーカーフェイスの出来ないやつには不利だ。

「その顔は皆知ってるみたいだね。ルール説明は要らないね?早速始めるよ」

「望むところだぜ」

魅音が手札を配っている最中、詩音がこっそり耳打ちをしてきた。

「ダウトが得意な人って、根性悪いって言いますよね。平気で人を騙せるって言うか」

ちろり、と舌を出して詩音が笑った。
その言い方から察するに魅音はかなりダウトが強いようだ。
勿論騙し合いに強い詩音だって強いに決まっている。
ちびっこ二人だって、こういう系統にはそこそこ強いだろうと見受けられる。
・・・となると狙い目はレナか悟史なのだが・・・
悟史を狙えば詩音と沙都子から鬼のような報復が来るに違いない。間違いない。
だとすればレナを狙っていくのが常道なはずなんだが・・・

「け、けけけけ圭一くんをお持ち帰り・・・梨花ちゃんかもしれない、沙都子ちゃんかもしれない・・・悟史君でもいいよぉ・・・おっもちかえりぃ☆」

・・・ダメだ、完全にお持ち帰りモードだ。
この状況を見渡すと、一つ気付く。
・・・カモは、俺だ・・・
元より化かし合いで園崎に勝てる可能性は低い。
かぁいいモードのレナには何度も苦汁を舐めさせられている。
悟史を狙おうにも、鉄壁の護衛が二人付いている。あの二人に結託されれば手札が三倍以上に膨れ上がるだろう。
こういう騙しあい系統では梨花ちゃんには勝てる気がしないし、にぱーと笑われればほぼ感情は読めない。
・・・考えろ前原圭一、罰ゲームをどうやれば回避できる・・・いや「勝てる」?

「圭ちゃん、それダウトです」

「ノォォォォォッ!?」

さりげなく出した偽札も詩音には通用しなかったか・・・一気に手札が5倍くらいになったぞ、おい。

「おーし、おじさんあーがりっ」

まず魅音があがった。コレはいつもどおりだな。
一人減ったことで罰ゲームへの可能性が少しあがる。

「・・・むぅ・・・じゃあ、コレで。」

悟史が少し考え込んでから札を出した。
・・・悪いな悟史、報復を食らう覚悟でお前も道連れだっ

「悟史、ダウト」

「・・・え」

悟史が申し訳なさそうに札をめくると、しっかり通っていた。

「な゛・・・」

「ゴメン、圭一」

また手札が増える。
わーい、コレで俺はどの番号が回ってきても通せるぞー
・・・てアホかっ

「けーいち、かわいそかわいそなのです」

次に梨花ちゃんが抜けた。
さらに確立アップだ。
この状態で俺に出来ることは一つ、ダウトを宣言しまくり道連れを作るのみっ

「レナ、それダウト!」

「はぅ、通ってるかな?通ってるかな?」

手札増殖。

「詩音、ダウトォッ」

「残念、通ってるんですね。私は上がりでーす」

手札増殖&リスクも増殖。

「・・・圭一・・・ゴメン、それダウト」

「なぜだぁぁぁっ!?」

悟史に見破られるなどとは・・・っ

「っていうかけーちゃん、それだけ札があるんだから通せばいいじゃん」

「あ゛・・・」

そんな感じに時は進んで

「く・・・沙都子と一騎打ちになるとは思わなかったぜ・・・」

「仕方ありませんわ、にーにーのフォローで精一杯でしたもの」

精一杯、と言ってはいるが沙都子の手札は俺の4分の1以下だ。このままでは勝負が見えている。
手札が多いなら、沙都子が最後の一枚になるのを待って、通るはずもないそれをダウトにして逆転するしかない。
戦略が決まればあとは勝利に向けて手堅く札を通していくのみ。
沙都子の手札が1枚になるまで、俺たちはどちらもダウト宣言をせずに黙々と札を重ねた。

「さ、これで上がりですわ。」

「・・・ダウトっ」

勝利を確信した沙都子にその一言を突きつける。

「ダウトっダウトダウトダウトォッ!」

「な、なぁ〜にを根拠にそんなことを?!」

噛んだな?
その札は通っていないと自ら証明したも同じっ

「最後の一枚なんてのはな、よっぽど運がよくなきゃ通らないんだよ!んで、札のほとんどは俺の手札だっ・・・つまりそれは通っていない!」

人差し指を沙都子に突きつけ、俺は高らかに宣言する。

「く・・・分かりましたわ」

沙都子が悔しげに札をめくろうとする

「さぁ札を取れ、逆転劇はこれからだぜっ」

「・・・みぃ、ゲームは終了なのです。」

梨花ちゃんが俺の頭を撫でた。

「けーいち、ふぁいとなのですよ」

沙都子がめくった札は、なんと完全に通っていた。

「をーほっほっほっ圭一さんの思考パターンくらい、読めないわけがありませんわぁっ」

沙都子の高笑いが響いている。
俺はただ崩れ落ちる他なかった。
だが、雛見沢の鬼達はそれすら許そうとしないのだ。

「けーちゃ〜ん、お待ちかねの罰ゲームだよぉ〜」

魅音の顔が鬼に見える。
きっと地獄の鬼はこんな笑い方をするんだろう。ぶっちゃけ怖い。

「はぅはぅ☆圭一くん罰ゲームかな、メイドさんかな、スク水かな?はぅっ」

コッチはコッチで危険なことを口走ってるし・・・っ

「けーいち、ふぁいと、おーなのです」

「あ、あはは・・・頑張って、圭一」

無責任に励ましてくれる梨花ちゃんと悟史。
畜生、お前らにもいつかこの恥辱味合わせてくれる、ギギギ・・・

「はーい、まずは定番のメイドさんかなぁ?それともエンジェルモート?スク水がいい?」

「はぅ☆レナはエンジェルモートの制服がいいと思うな、はぅっ☆」

おーいそこ?何物騒な話を俺抜きでしてやがりますか?っていうかそれは俺への選択肢じゃないんですかと問いかけたい。
魅音の「おし、じゃあ詩音制服貸して」という声が酷く遠くで聞こえた気がした。
園崎姉妹に押さえ込まれ、レナに剥かれて強制的に着替えをさせられた俺は、「お婿にいけない」というお決まりのギャグを飛ばすことも出来なかった。

「圭ちゃんってば、腰細いですね〜。ちょっとうらやましいですよ」

「こう、腰のラインなんて女の子顔負けじゃん?けーちゃんってば」

さらりと腰のラインを撫でるセクハラをしやがりますか、このオヤジ女学生がっ

「ヤメろ!セクハラ!撫でるな!物欲しそうな目で見るなぁッ!」

「はぅはぅ☆けーいちくんかぁいいよぉ・・・おっもちかえりぃ〜!」

俺の体が重力から解放されたかと思うと、次の瞬間には教室の外まで運び出されていた。レナに。
15分ほど校内で壮絶な鬼ごっこ(と書いて死闘)を繰り広げて、ようやっと俺は解放されたわけだが。

「圭一さん、お・ちゃ」

「ボクはぶどうジュースが飲みたいのですよー」

散々使いッパシリにされて。

「じゃあ、僕は野球の練習でも付き合ってもらおうかな?」

「この格好でかっ悟史ぃ!?」

「・・・むぅ・・・でもぬいじゃダメなんだよね?」

「あはははっダメダメだよぉっ!かぁいいモン」

なんか目の色が違う(ツーか怖ぇ)レナに止められて、エンジェルモートの制服のままグラウンドでピッチャーをやらされたり。

「じゃあ圭ちゃん、その格好のままレナさんと追いかけっこしてください。レナさんに捕まったらお持ち帰りで」

「ほ、ホントかな?・・・ホントかな?レナ本気出しちゃうよ?出しちゃうよ?」

「詩音っっ!テメェっ」

「ほーら、死ぬ気で逃げないとお持ち帰りですよぅ?」

「あははははははっ!けーいちくん待って、待ってよぅっ!」

「目が怖ぇぇぇぇぇぇぇっ」

死ぬ気で、むしろ殺し合いのような気迫で追いかけっこに興じたり。

「し、詩音・・・罰ゲームだからってあんまり酷いことはしちゃダメだよ」

「いーんですよ、アレで結構楽しそうですし」

「むぅ・・・」

「ちょ・・・悟史くん?!」

「詩音は、圭一たちのことちゃんと分かってるんだね・・・偉い偉い。」

「これは、その私が楽しむ意味合いも合ってですね、あのその・・・・・・きゅう・・・」

バカップル候補生を眺めながら、どこからか鉈を持ってきたレナにおいかけられたり。
そうやってヒートアップした部活が今日も幕を閉じる。
・・・いわゆる下校時刻ってヤツだ。

「二十四時間って事はあと何時間だよ、オイ」

まぁ、あれだけハードな罰ゲームなら元都会っ子な俺の体力は限界値なワケで

「まだ三時間四時間だからねぇ・・・でもまぁ、今日一日って事でいいんじゃないかな?・・・どう?皆の衆」

全員から「異議なし」の声が聞こえて安堵する。

「ねぇねぇ魅ぃちゃん、今日一日って事は帰り道もかな?かな?」

安堵した途端にレナが物騒なことを言いやがる。
まさか荷物持ちか、この状況で!

「勿論・・・と言いたいけど圭ちゃん死にそうな顔してるしなぁ」

あんまりハードなのはダメだよーと魅音が言いかけたそのとき、レナが不意に俺の手を取った。

「あはは、全然大丈夫だよ。魅ぃちゃんが考えてるようなコトじゃないから」

レナが取った手を沙都子に渡す。

「そうですわね。魅音さんが無茶しなかったら全然大丈夫でございますわ」

沙都子から梨花ちゃんへ

「みぃ・・・この機会に魅ぃは素直になるべきなのです。」

梨花ちゃんから悟史へ

「まぁ、そういうことらしいから・・・」

悟史から詩音へ

「というわけで、お姉をよろしくお願いします。・・・お姉、草むらに押し倒して唇の一つも奪ってきてください。出なきゃ帰ってくるな」

後半は聞こえなかったが、詩音から魅音に俺の手が渡される。

「部活全員からの命令です、圭一君は魅ぃちゃんを家まで送って、楽しくおしゃべりしてから帰ること。」

「多数決だから意義は認めませんよ、お姉。」

レナと詩音がにんまりと笑う。
レナめ、最近詩音とつるむようになって人のからかい方を覚えたな。

「じゃ、私達は買い物に行きましょうか、悟史きゅん」

「なっ・・・にーにーのお夕飯は私が作りますわー!」

「たまには悟史君に美味しいお野菜を食べさせてあげなくちゃ。かぼちゃとかブロッコリーとかピーマンとか。」

「ふ、ふぇぇぇっ にーにー、詩音さんがイジワルですわー」

こちらはこちらでいつものやり取りをしている。
余談だが、最近の詩音は通い妻のように北条家にかよって二人の食事の面倒を見ているらしい。

「今日のメニューはかぼちゃの天ぷらとーピーマンの肉詰めとーゆでたブロッコリーがいいですかね〜?」

「ふ、ふわぁぁぁぁんっにーにーっ詩音さんがぁ〜」

「むぅ・・・詩音は沙都子のことを考えてくれてるんだから、がんばって食べないとだめだよ?」

「そうですよー、沙都子の(ひいては悟史君の)栄養バランスを気遣ってるんですから・・・って悟史君!?」

「・・・いつもありがとうね、詩音」

「いやあのその・・・きゅう・・・♪」

何のかんのいっても、あちらはいつもどおりの展開のようだ。

「あははっ詩ぃちゃんはかぁいいね、かぁいいね♪」

「みぃ、悟史は圭一と同じくらい鈍感なので詩ぃはまだまだ苦労しそうなのですよ」

「かぁいい詩ぃちゃんが見れればレナは満足だよ、はぅっ☆」

レナも梨花ちゃんの手をひいて、いってしまった。

「・・・じゃあ、帰るか」

棒立ち状態の魅音の手を取って俺は歩き出す。

「あ、あぅ・・・けけけけけーちゃん!?」

こういうときばかり可愛いのは反則だと思う。

「・・・罰ゲームでもな」

「・・・ぇ」

夕日の照らす中だから、真っ赤になってるのはごまかせる

「俺はこうやって魅音と帰れるのが嬉しい。お前は?」

「え・・・あ、うん。嬉しい・・・」

手がちょっとだけ強く握り返される。

「じゃあ、帰ろうぜ!『楽しくおしゃべりして』なっ!」

「・・・うんっ」

二人とも耳まで真っ赤になっていただろうが、生憎西日だったから真偽不明だ。
・・・いや、そういうことにしといてくれ、マジで

 

 


「みぃ・・・魅ぃはもうちょっと素直になるのが早いと100点満点なのです」

「照れる魅ぃちゃんかぁいすぎるかな、かぁいすぎるかな。レナもお持ち帰りしたいよぅ、はぅっ☆」

若干二人ばっかり見ていたのだが、それがばれるのはまた後日の話。

 

 

 


これはありえたかもしれない、そんな幸福な日常。
誰も信じられなくなる未来があるかもしれない。
誤解と狂気の果てに全てを失う未来があるかもしれない。
狂った世界で死ぬまで踊り続ける未来があるかもしれない。

願わくばこの幸福な日常が久しく続かんことを。
舞台のそでから私は祈るコトにしよう。

例え舞台に上がることが出来なくても、この幸福が続くのなら。
私は祈り続ける。