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「んっふっふっふっふ・・・今年も来てましたか」 背後から毎年聞くあの声がかけられた。 「そういって、大石さんこそ毎年来てるじゃないですか」 「いやいや、赤坂さんには負けますよ。激務の合間を縫って、必ず私より先に来ちゃってるんですから」 樽のような腹をゆすり、おきまりのあのやらしい笑いを浮かべている。 「今年も暑いですねぇ。年寄りにはきつい日差しですよ、んっふっふっ」 「まさか。下手な現職のヤツよりいけるんじゃないですか、まだ」 大石さんが後ろから差し出した花束を、そのまま花瓶にいける。 ここは雛見沢。 私は、この村に住む一人の少女から助けを求められた。 今花を捧げた古手神社の境内で、生きたままに腹を割かれ、彼女は死んだ。 ・・・いや、殺された。 彼女は私に言ったのだ。 「生きたい」 と。 「死にたくない」 とっ! そんな当たり前の願いも、守ってやれなかった、助けてやれなかった。 「おやおや?怖い顔ですねぇ、んっふっふっ」 知らぬ間にまた思いつめていたらしい。 「・・・済みません。ここに来ると、思い出してしまいますから。」 花が生けられた花瓶を置いて、梨花ちゃんにいつか案内してもらった、村の見下ろせる高台に歩き出す。 「古手の、お嬢さんですか。」 大石さんもタバコをくゆらせながらついてくる。 「ええ、私だけだったんですよ・・・彼女を助けられたのは。」 杉のような木に手をかけ、村を見下ろす。 「今でも後悔しています。あの時、ここに私がいたなら・・・少なくても彼女を守るために戦うことが出来たのに、と。」 風がさぁっと流れていった。 「赤坂さん・・・」 そう、彼女が居ない。 「・・・後悔と言うのはね」 どっかと神木に体重を預けて、大石さんがこちらを見ている。 「私の辞書の中では、終わったことに対してすることなんですよ。『後ろを向いて悔やむ』ってことで。」 タバコを携帯灰皿にねじ込むと、大石さんが村を見下ろす。 「まだ、終わってないでしょう?・・・いや、終わらせるわけにはいかんでしょう?」 あの目は、「刑事」の目だ。 事件を追い続ける「刑事の目」 「雛見沢連続怪死事件は、オヤシロさまの祟りなんかじゃないんです。・・・そして、私達に出来るのはその真相を暴き、この事件を終わらせること。・・・違いますか?」 一瞬で刑事の目からいつものやらしい笑に戻る。 「・・・はい・・・終わらせてやるわけにはいきません。」 少し、体に力が湧いたような錯覚。 「私は、私の部下と親っさんのためにも」 「私は、生きたいと願った、守ってやれなかった彼女のためにも」 まだまだ、終わらせてやるわけには行かない。 今年の夏も、ひぐらしの声がこの村には響く。 もう彼女は居ないけど もう誰も居なくなったけど この事件だけは終わらせてやるわけには行かない。 願わくば、今年こそ真相にたどり着けますように。 彼女の家だった場所に、そう祈って。 私達はこの村を後にした。 |