せみぐれ

 

「・・・んっふっふっ・・・久しぶりですねぇ、園崎さん」

仏教のそれと違う、丸い墓石に話しかけた。
ひぐらしが喧しく鳴くころ、必ずここに来ることにしている。

「鬼ヶ淵死守同盟」

「雛見沢連続怪死事件」

どちらも懐かしいものになってしまった今。
私に出来るのは、「昔馴染み」たちに会いに来ることだけだ。
連続怪死事件の後におきた、「雛見沢大災害」
その有毒ガスの発生により、私の宿敵だった者は皆死んでしまった。
こうやって、墓参りに来ることくらいしか、今の私にしてやれることはない。

「貴方に言わせりゃ安物で悪いんですけどね。コレでも奮発したんですよぉ」

供えるわけでなく、だばだばと墓石に安酒を浴びせてやる。
こっちがお魎婆さんで、こっちが公由の爺さん、こっちが古手の神主様とくらぁ。
墓石に浴びせた残りで、自分の喉を潤してタバコに火をつける。

「懐かしいもんですねぇ・・・過ぎ去ってみれば、どんな思い出でも」

物言わない石相手に話しかける。
タバコの煙がゆらゆら揺れて、その中に昔の景色でも見えるようだ。

「アンタらとやりあった昔がねぇ、今となっちゃどうも懐かしいわけですよ。」

興宮の量販店で買っておいた、缶入りの安酒にも手をつける。
パシッと気持ちのいい音がした後で、喉をアルコールが抜けていく。

「今となってはみぃんな昔のこと。当たり前なんですけどねぇ」

かつての宿敵、園崎の墓石に寄りかかるようにしてもう一口あおる。

「私はねぇ、まだ疑ってるわけですよ。」

こんなに早く酔いが回るのは、この場所にいるからだろう。

「・・・怪死事件は祟りなんかじゃない。「大災害」にすら・・・なにか人為的なものがあったんじゃないか、ってねぇ」

ちびり、と苦味の強いそれを口に含む。

「考えてみれば、最初のおやっさんの事件。アレは納得いくんですよ、祟りだとしても。」

どうせ誰も聴いちゃ居ない。
この喧しいひぐらししかこの村には居ないのだから。

「年々曖昧になっていく祟りの犠牲者。大災害の年の3人の犠牲者と、オヤシロさまの生まれ変わりの惨殺。・・・んっふっふっ・・・私じゃなくても不審に思いますよねぇ。」

そう、私はまだ追いかけているのだ。
雛見沢が残した大きな謎を。

「調べれば調べるだけ分からなくなるってんですから、アンタたちも厄介なものを遺してくれたモンです」

缶の中には一滴も中身がない。
仕方ないのでタバコをくわえて、火をつける。

「・・・今だから聞きますけどねぇ・・・アンタたち、もしかすると祟りに関わってなかったんじゃないですか?」

最初の事件は、関わっていたのかもしれないと思う。まだ疑っている・・・が
二番目の事件からは「古手」の殺害以外に園崎や公由に得があるとは思えない。
北条の殺害などは、最初の二人以外は自分達に疑いがかかるなんてバカでも分かる。

「雛見沢に巣くっていた別の何かの意思が・・・この事件の黒幕だと考えるとね、不思議と繋がっていくんですよ。アンタたちが犯人だと考えるよりはねぇ」

酒が入ると饒舌になるものだ。自分でも驚いている。

「・・・まぁ、どっちにしろ私の想像なんですがね・・・んっふっふっ」

神社の石段の下からクラクションの音が聞こえる。
若いってのはせっかちってコトなんでしょうかね?

「・・・残ぁ念。私はお迎えが来たみたいです。」

缶ビールと安酒のビンを袋に放り込んで立ち上がる。
クラクションの音は聞こえないが、代わりに石段を叩く軽快な足音が聞こえた。

「大石さん、やっぱりこちらで・・・って飲んでますね」

渋い顔をするあたりまだまだ若いですねぇ。

「オフの日にどこに居ようがどこで飲もうが、私の勝手ですよ?赤坂さん。それに私はもう隠居した身なんですからねぇ・・・んっふっふっ」

隣で説教を始めようとする赤坂さんを軽く流して、日が傾き始めた境内を振り返る。

・・・また、来年ですねぇ

口に出さないでその場を後にする事にする。

宿敵たちの眠る村は、今年も変わることなく。

ひぐらしだけがないていた。