バカ姉と呼ばないで

 

詩音は悟史が居なくなってから、よく沙都子の面倒を見ていると思う。
夕飯を作りに行ったりしているが、それだって自分で勉強しなければ出来なかったはずだし。
自炊の自の字も知らないような詩音が良くやってると思う。
正直、悟史が居なくなった時に沙都子に当り散らさないか心配していたくらいなのに。


・・・だけど。

「はい沙都子、こっちの煮付けも自信作なんですよ〜」

目の前のバカ姉を詩音だと認めたくなかった、いろいろな意味で。

「流石に沙都子もいい年なんだからさ、ご飯ぐらい自分で食べられると思うんだけどねぇ・・・」

「何言ってるんですかお姉、沙都子が出来ないからやってるんじゃなくて、私がやりたいからやってるんです。」

さっき口に入れられたかぼちゃの煮つけを何とかして飲み込んで、目を白黒させている沙都子の頭をなでてるし。
もう、姉バカというかバカ姉というか、全開だ。

「はい、次はコッチのをいってみましょうね〜」

沙都子はもう諦めたのか、されるがままの雛鳥状態だ。
それをみてレナが半狂乱状態になっているが、任せよう圭ちゃんに。

「おい待て魅音!?お前も手伝いやがれ!」

「圭ちゃん、任せた」

背後で「はぅ〜!」だの「うぎゃぁー!?」だの聞こえるけど気にしないことにする。
・・・って言うか聞こえない、圭ちゃんの悲鳴とかガラスが割れる音とか知恵先生の叫び声とか。聞こえるはずもない、うん。

「ちょい詩音、騒がしいから廊下でて。」

詩音は露骨に嫌な顔をした後で、沙都子に弁当を残さないように言って廊下にやってきた。

「いったいなんですかお姉。もうちょっとでかぼちゃ新記録だったのに」

割と不機嫌な声で応対される。予想外だ。

「いや、詩音さ・・・マジでやってる?沙都子への嫌がらせじゃなくて?」

「からかうことはあっても嫌がらせる理由がないです。お姉こそ嫌がらせとの区別、つかなくなっちゃいました?」

・・・どうやら全開でマジのようだった。

「・・・お姉、後一回なんです。」

ふざけた様子も、さっきまでの不機嫌も。
どこかにおいてきたかのような、遠い目をして詩音が言った。

「沙都子を頼むって、悟史くんが戻ってこれなかったら、それが最後のお願いになっちゃうんです。」

沙都子の世話を焼いていたのは、そんな約束があったからだなんて・・・私は知らなかった。

「・・・それに、沙都子と二人で待ってれば・・・帰ってくるような気もしますからね」

くすりと詩音は微笑い、「沙都子、お弁当残そうとしちゃダメです」と笑いながらまた教室に戻っていった。
ただ「ねーねー」と呼ばれて舞い上がってるとか、実は沙都子への嫌がらせだとか考えてた自分が恥ずかしい。

詩音は詩音なりに、悟史との約束を果たそうと必死で。
悟史の帰りを待つことに必死なだけだったんだ。

・・・そう思うと、沙都子の「かぼちゃはもう勘弁ですわ〜!?」という悲鳴も、いつもの部活のバカ騒ぎみたいに聞こえてくる。
うん、私も頑張って騒がなきゃねっ

 

「はぅ〜!?お・・・おおおおおお、おっもちかえりぃ☆」

・・・コッチは止めておかなきゃいけないけど・・・