お祭り騒ぎ

 

今日は数少ない村を上げての催し物、綿流しのお祭りの日だ。
普段から見ている景色が、見事なまでに化粧を施され輝いている。
村中がお祭りを楽しもうというムードで溢れかえっているのが目に見えるくらいだ。

・・・勿論、それは私も同じことで。
お母さんから無理を言って借りてきた浴衣と、髪型にもちょっと気合を入れてみた。
だって悟史君と一緒にお祭りを回れるんですから、このくらい気合を入れてもいいじゃないですか。
思わず跳ねてしまいそうな気持ちを抑えて、古手神社近くの街灯に寄りかかる。

「・・・ふふっ」

思わず口から笑いが吹き出す。
信じられないくらい「乙女」してるけど、しょうがない。楽しみなんだもん。

「お〜い、詩音〜」

道の向こうから悟史君の声が聞こえた。
遅刻しないようにと30分も前から立っていたんだから、彼が後から来るのは当たり前で。

「お、お待たせ・・・遅れちゃったかな」

「いえ、全然です。ちょっと私が早く来過ぎちゃっただけで」

「にーにー、きっと詩音さんのことですから30分前には来てにへらにへらしてたに違いありませんわ。」

・・・ん?
あれ?二人っきり・・・じゃなかったっけ?

「ちょ、沙都子?何であんたがコッチに居るんです?部活の方じゃないんですか?!」

沙都子の頭を抱え込んで、小声で気付かれないように話す。

「あら、にーにーは「二人っきりで」なんて約束してませんことよ。それに最初に約束してたのは私ですわ。」

「いいからお姉たちと部活に行っちゃってくださいっ!せっかく悟史君と二人で・・・」

「言われなくてもそうしますことよ。もうそろそろ皆さん集まりだす頃合ですわ。」

「二人は本当に仲がいいんだね」とα波を放出している悟史君の後ろから、喧しいくらいの一団がかけてくる。

「悟史ー、沙都子ー、おっまたせ〜」

「だーっ!走るな魅音っ首がっ首がしまるぅっ!?」

「はぅ・・・首輪付きの経緯ちくんかぁいい・・・お持ち帰りしていいかな、かな?」

「みぃ、沙都子はボクをおいていったのです、薄情者なのです」

私は崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。
せっかく二人で静かにしっとりとお祭りを回ろうと思っていたのに・・・
このメンバーじゃ静かになんてなるわけない。

「クスクス・・・あーら詩音さんいかがなさったんでございますの?」

沙都子が妙に勝ち誇った笑顔をしている。
・・・うん、しばらくかぼちゃの煮つけをお弁当に紛れ込ませよう。
そんな小さな決意を胸に、お姉たち部活メンバーと合流する。

「んげっ!詩音!?」

「人の顔見て「げっ」は失礼ですね。部活の皆さん、はろろ〜んです」

とりあえず、お姉を弄ってウサを晴らす。
泣く寸前まで持っていって引き下がるのがコツだ。

「みぃ・・・沙都子はボクをおいていったのです、裏切り者なのです」

「り、梨花ぁ・・・機嫌直してくださいませ」

お邪魔虫は上手いこと梨花ちゃまがひきつけてくれてるみたいだし、いい感じだ。
このまま悟史君と・・・

「にーにー、手繋いでよろしいですか?」

「ん、構わないよ?」

・・・あのお邪魔虫め・・・

「沙都子〜・・・こうなれば私もそちらの流儀にのっとることも止むなしですよ?」

「あら、詩音さん如きに私の相手が務まりますかしら〜」

まず、金魚すくい。
二人とも白熱しすぎて、金魚屋台のオヤジさんを土下座させるほどの接戦だった。
次に射的。
これはレナさんのかぁいいモード発動によって勝負自体お流れになってしまった。
・・・というかあのかぁいいの基準が未だ分からないのは私だけじゃないだろう。
三つ目、たこ焼き早食い競走。
沙都子が口の周りについたソースを、悟史君にぬぐってもらう羨ましいハプニング発生。
まぁ、そのおかげで私がトップに収まることが出来た。お姉の悔しがる顔も見れたのでよしとする。

そんな調子で部活が進んでいき、終わる頃には大体全員がヘロヘロになっていた。
勿論、騒ぎの中心部にいた私と沙都子は全体力を使い切ってしまった。

「くぅ・・・こんなはずじゃ・・・」

「それはコッチの台詞ですわ・・・」

梨花ちゃんの奉納演舞までブルーシートの上で休むことにした。
ふとしたら眠ってしまいそうな私達の額に、冷たいものが触る。

「詩音、沙都子、監督のところから麦茶を貰ってきたよ」

ああ、なんて細やかな気配りなんでしょう。
横でぐったりしてる前原さんちの坊ちゃんにも見習わせたいです。
・・・まぁ、お姉も膝枕できて満足そうだから今日は言及しませんが。

「ありがとうございます、悟史君」

「ううん、気にしないで。今日は沙都子といっぱい遊んでもらっちゃったし」

にこり、と微笑を浮かべる悟史君にうっかり見とれそうになる。

「沙都子、特等席でボクの頑張りを見て欲しいのですよ」

巫女装束の梨花ちゃまがやってきて、沙都子の手を引いていく。
沙都子は不満顔だったが、「沙都子はボクをおいていったのです」と繰り返されると弱いらしく、境内の奥のほうに連れて行かれた。
奥へ消える直前に、梨花ちゃまが軽くウィンクしていたので、こちらもサムズアップで返す。梨花ちゃまぐっじょーぶです。

「・・・今日はありがとうね、詩音」

二人っきりになったものの、何を話して言いのかわからない私に悟史君が話しかけてくれた。

「沙都子、凄く楽しそうだったからさ・・・また構ってあげてよ」

そう、悟史君にとって沙都子の幸せは自分の幸せと一緒で。
たった一人の家族だからこそ、かけがえのない大事な人なんだ。

「んー・・・考えておきます」

「・・・あはは、すぐ「うん」って言ってくれないのは詩音らしいね」

二人でくすくす笑い合うと、悟史君が不意に私の頭を撫でた。

「詩音・・・ありがとう」

きっとそのありがとうは、沙都子と遊んでくれてありがとう。沙都子が楽しそうに笑う顔を見せてくれてありがとう。そういう意味なんだろう。

「どーいたしましてです。お代はデート一回くらいで結構ですよ」

軽口でなら、こんなことも言える。
冗談だって思って、笑えるなら。

「・・・うん、いいね。今度お礼にどこかに連れて行くよ」

「・・・はい?」

こういう予想外な返事が返ってくるとは思わなかった。

「きっと興宮は詩音のほうが詳しいと思うけど、二人で歩いてみるのも面白いと思うよ?詩音は嫌かな?」

一瞬夢かと思った。
もう一瞬あとに夢じゃないのが嬉しくて、抱きつきたくなった。

「そう、ですね・・・お祭りの疲れが抜けた辺りで、遊びに行きましょうか」

「そうしよう。きっと楽しいよ」

そんなのは当たり前ですよ。
私は貴方と一緒ならどこだって楽しいんですから。

そうやって二人で予定を考えるうちに、お姉から声がかかる。
奉納演舞が始まる時間だそうだ。
悟史君がそっと私の手を取って、先を歩いてくれている。
きっと、お祭りの空気が少しだけ、私達を大胆にしてくれているんだ。

こういう特典があるなら、お祭り騒ぎもたまには悪くないかな?