「そういえば、あの人・・・何してるんでしょうね」

姉とのオフにぽそりと漏らした言葉が失敗だった。
この時ばかりはそれを嫌というほど思い知らされた瞬間だった。




「斬咲鬼さん、気になってるんだ」

ナナキはとても嬉しそうに、ニヤニヤ笑いで自分の妹を見る。

「それは、いきなりあんなことを言われれば、気にかけないほうが人間としておかしいわ。」

ナゲキはあっさり答えたつもりだったが、今の姉には通用しない。

「そっかそっか、今まで星の数ほどの男の人を精神的且つ物理的に黙らせてきたナゲキちゃんも、よーやく男の人を気にする年になったのか〜」

にやにや笑いが癇に障ったのか、ナゲキの表情が冷たくなる。

「どこをどう聞いたらそういう結末になるの。マテキさんと付き合いすぎて脳が解けた?」

「意地はる事無いわよ、誰でも通る道なんだから」

表情と一緒に凍らせた言葉も、やはり今の姉には通用しない。
ニヤニヤ笑いが本当に楽しそうな笑いになって、姉が携帯を取った瞬間にナゲキは逃げておいた方が良かったと心底後悔するのであった。



つい最近、みちのくであった「玉虫姫事件」その少し後に猛士を騒がせる珍事件がおきた。
今までどの鬼とも交流を持たなかった斬咲鬼が、嘆鬼相手に急接近を図ったからだ。
一部では実しやかに斬咲鬼が嘆鬼にプロポーズしたとまで言われている。
本当のところ、仕事場まで陣中見舞いにやってきた斬咲鬼が、嘆鬼相手に「惚れました」と言っただけなのだが。
いつもどおりナゲキのクールな意見で一蹴されて終わりかと、ナナキは現場に居合わせ(デバガメしながら)思ったのだが。
一蹴されてもさらにしがみ付く。斬咲鬼はそんな様子だった。
ナゲキもあきらめたのか、最近ではまとわりつかれるままにしているが、なんとなくは気になっていたらしい。



「・・・と、言うわけでナゲキちゃん。一っ走り山形までお届けもの」

ぱちんと携帯を閉じた姉に、やっぱりという表情で応える妹。

「私はマテキくんに迎えに来てもらうから、そのまま本部に寄ってね」

いっそ言えるなら姉の勘違いだといってしまいたかった。
しかし、今の姉に何を言っても無駄なことも分かりきっているので、これ以上厄介な事にされないように車に乗り込む。
半日分の代休は出るのだろうかと、本気で頭を抱えながらナゲキは本部への道を走った。





一方の斬咲鬼はというと。

「ほう、コレが・・・」

「そ。音撃砲「轟雪」と音撃盤「烈氷」。急ごしらえだからテストは実践でヨロシクね」

仙台支部で鈴凛と悪巧みをしていたという。

「重さも丁度いい感じで・・・ん?この音撃盤は?」

新調した武器を片手に、音撃盤をいじっていた手を止めて鈴凛を見る。

「ああ、それは新しいコンセプトで開発してみたの。音撃盤・・・といっても従来の音撃鼓と違って、それ単体で武器にもなるように」

鈴凛はそういうと、音撃盤の横に付いた突起を倒す。
ぱしゅ、と小さい音がして巴紋をしたバックルが開く。

「乾坤圏ですか・・・」

丸い輪っかのように変わった武器を振ってみるキリサキを眺め、鈴凛はコーヒーをすする。

「まぁ、威力は未知数だし、ナゲキさんの音撃砲とはだいぶ使い勝手も違うからお気をつけて。」

手をひらひらさせるとコーヒーが少し熱かったのか、舌を出して苦い表情をする。

「後方支援から直接打撃まで扱えそうな感じか・・・流石というかなんと言うか。」

キリサキも一通り確認すると、感心したように新しい武器を梱包し始める。
音撃砲をダンボールにつめるとまるで綿を担ぎ上げるように担ぎ上げ、ドアを開ける。

「でもさ、何でわざわざ取りに来たの?暇な人・・・アニキとか使って送りつけたのに」

鈴凛が楽しそうに笑う。アニキと呼ぶ人物に良く向ける、そんな笑みだ。

「カチドキさんかナナキさんなら歓迎もしますけどね。カゲキ、マテキは歓迎も出来ないですから。」

苦虫を噛み潰して舌の上に満遍なく広げたような表情でキリサキは言う。

「まぁ、わかってた答えだけど」

笑うと鈴凛はひらひら手を振る。
帰っていいの合図だとキリサキは受け止め、開けていたドアから出て行こうとする。
・・・が。
何か胸の辺りにやわらかい衝撃を受けて立ち止まった。

「姉さんが何ですか?それと前くらい見て歩いてください。」

そこにいたのは音撃砲の使い手、吹雪の鬼姫ナゲキだったことは、嘘のような本当の話。




そして今に至るというわけだが。
ナゲキは不機嫌なような、いつもどおりのような表情で、キリサキの愛車「灰雪」の助手席に乗り込んでいた。
ことの始まりは、あの鈴凛の所為でもある。

「ついでだから、サポーター経験豊富なナゲキさんがテストに付き合っちゃってくれると助かるんだけどなぁ」

などといって、ナナキに携帯で連絡を取り、それを本部にも押し通してしまったのだ。
確かに、新型音撃砲のテストなら今それを扱っている自分が行くのは適任だ。それはわかっている。
わかってはいるが、なにやら邪悪な作為を感じてならない。
魔化魍がらみじゃなくて、鈴凛その人から。
若干不機嫌にも見えるその表情の原因は、つまるところそういうことだった。

「不機嫌そうですね。」

運転席のキリサキがギアをトップに入れながら声をかけてくる。

「別に。得体の知れない人についていくのだから無口にもなるわ。」

ナゲキの言い分はもっともである。
キリサキに関しては、猛士内でも資料が無い。
少ないのではなくて、無い。
分かっているのは先代「霧咲鬼」の弟子であり、先代の死亡から10年の間姿を消し、ふらりと現れて鬼戦士へとなった天才肌の鬼であること。
技の強さは響鬼に及び、その才気は嘆鬼に並ぶと評される陸奥最強の天才鬼。
音撃打、音撃斬、さらには新しい音撃砲までも扱う天才。
どこか冷たくなりきれない雰囲気と、不器用な性格。
腹の底どころか表面すら謎に包まれた鬼戦士。
ナゲキは何も知らない。

「得体が知れない、か。」

キリサキは銀色の髪をくしゃりと撫で上げ、困ったような笑い顔をする。

「じゃあ、3時間だけ。昔話でもしながら山形に向かいましょうか。」

トンネルを抜けた光の中、キリサキの顔が少しだけ悲しそうな笑顔を作った。







仮面ライダー斬咲鬼 外伝
追憶の風 嘆鬼の事件簿
File 01 FIN


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