藍さんとライダーパス

 


あるけだるい金曜日の夕方。
彼は休日を満喫するかのようにだらけた体勢でテレビを眺めていた。
そこに映るのは子供向けの変身ヒーロー。
普段情けない主人公が「取り憑かれる」ことによって別人のように変わる。

『オレ、参上!』

画面の中からはそんな声が響いていた。

「モモじゃなくてリュウタだろ、そこは」

彼はテレビ画面に向けて、野球中継を眺める親父のような声を上げていた。

「・・・相変わらずというかなんというか、特撮好きねぇ・・・」

両脇で長い髪を結った彼女は、だらしなく寝そべった彼を見下ろしながらそんなことを言った。

「や、碧ちゃん。一緒に見てかない?」

寝そべったまま片手を上げると、気の抜けた声を上げる彼に碧と呼ばれた彼女も「やれやれ」といった表情で腰掛ける。

「で、また特撮なワケね」

テレビに映った主人公の青年はなんとも情けない。
ドジで、不運で、ひ弱。ヒーローとしての要素は誰にでも優しいことと誰かのために怒ることが出来るくらいだ。
それが一瞬で変化する。赤い髪が混じれば不良のような言動へ。青い髪が混じればナンパな詐欺師へ。金色の髪で着流しの関西弁へ。紫の髪でやりたい放題全開へ。

「・・・この主人公ってさ、多重人格なワケ?」

碧は首を捻り、考えているようである。

「あー、違う違う。イマジンって言うのが取り憑いて、そいつらの性格とか能力とかまんまになってるわけ。」

紫の髪が混じった形態から変身して、なにやらやたらめったらに銃を乱射している。
・・・もしかしなくてもお子様の教育によろしくないんじゃないだろうか?

「んー・・・つまり、さっきのボケた感じのが入れ物で、その中に4バカが入ってるってコト?」

「そそ。なかなか斬新な設定だよね。フォームごとに性格を持たせるなんてさ。飽きないからいいわ」

そういいながら彼は傍においておいた揚げモチを頬張る。

「・・・使えるわ」

碧の目がキランと音を立てるかのように輝いた。

「へ?」

「ちょっと今晩部屋に篭るから。晩御飯運んで」

彼が「はいはい」と手を上げるのも待たず、碧は自分の部屋へと走っていった。

 

 

・・・そして翌朝。彼女はとんでもないものを完成させていた。
彼女付きのメイド型アンドロイドTYPE=A-1通称「藍」
その耳につけられた機械的なカバーをあけ、何かのソフトと思われるそれを読み込ませているではないか。

「ってかまるっきしP○PのUMDだし」

そういう野暮なつっこみは無視したいのか、それとも作業に没頭しているのか。
碧は小型PCから顔を上げることはない。

「藍さんも毎度大変だナァ・・・」

そういいながら腰を下ろすと、揚げせんべいをバリバリと食べ始めた。

 

・・・さらに待つこと数十分後。

「出来たわ!完成よ!!」

「何が?」

「ぅにゃぁ!?」

本気で気付いていなかったのか、猫のような悲鳴を上げて碧は飛び上がった。

「いやいや、何が出来たのか気になるわ」

「その前にいつから居たのか気になるわっ!」

「結構前からいらっしゃったようですけどね・・・」

苦笑しながら己の主につっこみを入れる藍。

「ま、気付いてなかっただけって話だけどね。で、何よ今度の発明品は」

期待のまなざしで見つめられれば得意にもなってしまう。

「昨日見てた特撮在るじゃない?アレと同じコトを藍で出来ないかそういうソフトを組んでみたのよ。」

UMDのようなものをもう一枚取り出す。それには真紅のマーキングがされていた。

「今までは「技術」や「能力」とか切り取った部分で再現させてたじゃない?それを思考パターンや藍が蓄積してきたデータとあわせれば「人格」として再現できないかって言うのが今回の試み。」

そしてそのUMDらしきものをひらひら動かす。

「その真っ赤な色と貴方の微笑みに嫌な予感を隠しきれないんですけど・・・」

「ご名答。一番蓄積されてるあんたのデータを使わせてもらうわ」

「マスターの命令で色々観察していましたからねぇ・・・」

これ以上余計なことを喋らせないためなのか、碧は藍の耳の部分にUMDらしきそれをつっこんだ。

「で、用意しておいたパスを光学センサー・・・つまり目のところに読ませてやれば・・・」

瞬間、藍の髪が一房真紅に染まる。
髪型も前髪をアップにして、余った髪を首の後でしっぽの様に束ねられた。

「わひっ!?ね、寝坊した!朝ごはん!瀞さん起こさなきゃ!ぅあああああっ!?・・・・・・って碧ちゃん?」

普段の藍からは想像も出来ないようなリアクションで彼女は目を覚ました。

「おはよ。気分はどう?」

「朝もはよからいきなりついんのアップでビックリだ」

碧は無言で拳を握り締めた。

「・・・すっげ。完璧すぎて呆れと笑いが同時にきた」

ご本人、隣で大爆笑。
一つ舌打ちをすると、碧はもう一度パスケースを藍の前に突き出す。
カシュと小さな音がしてUMDが藍の耳部分から排出される。

「な、なんというか恐ろしい体験でした・・・」

「入れるデータ間違ったわ、ゴメン・・・」

模倣された本人が爆笑する中、ふたりはげんなりとしながらため息を吐いている。

「一応出来てるデータ分は実験しておきたいんだけど、ピンクの以外」

「そうですね。一応動作確認はしておかないといけませんね。ピンクの以外」

ピンク色のUMDに誰のデータが入っているのかは言わぬが花・・・なのだろう。
濃紺のディスクを取り出すと碧は藍に手渡す。

「パスを通す前に『変身!』ね」

「・・・はぁ」

「余計なコト教えるな、このボケナス!」

「変身っ」

「藍も聞いちゃダメ!?」

碧のツッコミが本人に届いたかはさておき、藍の髪の一房が濃紺に染まり、瞳も海のような濃い青に。どこか艶のある仕草を身につけた藍は目を開き、開口一番に

「で、これはどういうことですの?」

お嬢言葉になっていた。

「もしかしなくてももしかして・・・」

「そ。お姉さまのデータよ。いつか私が参考にしようと思ってた部分もあるし」

涼しい顔で碧は藍のUMD収納と反対側の耳カバーに触れる。
何かのスイッチがあったのか、カチッという音の次に光が溢れ、次の瞬間に

「じ、自分の身体なのに自分の意思が効かないというのも不思議な感触です・・・」

クレーンゲームの景品大になった藍が自分の肩の上に立っていた。しかもしっかりデフォルメ済み。

「本体は動かせないけど、これで「藍」の部分と会話も出来るわ。」

「ちょっと、人の体におかしな真似しないでいただけます?」

抗議する藍(中身瀞)を無視して碧は目の前にパスケースを出した。
排出されるUMDと消えるマスコット藍。

「さ、じゃんじゃんいくわよ。ピンクの以外」

「ええ、さっさと動作確認を終わらせましょう。ピンクの以外」

次に碧が取り出したのは紫色のディスク。

「あ、それ誰だか分かった。」

「ま、分かりやすいわよね・・・」

それを差し込んだ藍は全開でブラコンになったとかそんなことを言っておこう。

4枚目に取り出したのはオレンジ色のディスク。

「なんというかね?碧ちゃん」

「・・・あによ」

「これ以上ブラコンを増やされても困る事はないけど身動きがね?」

「・・・正直ゴメン」

またも登場したブラコンシステムに抱きつかれ(正確にはほぼ身動き取れない状態にされ)二人は藍のディスク排出を行った。

最後に残った(ピンク色のディスクは意図的に視界から外した模様)ディスクの色は緑色。

「・・・これはダメ。もうダメダメ」

碧はそれを高速の動きで掠め取り、背後に隠した。

「えー、動作確認しとかないと」

この男、人の弱みを見つけるとそこをとことん弄り回す性質を持つ

「だ、ダメだって。マジで、マジダメ!」

本気で逃げようとする碧をさえぎる影があった。

「マスター・・・ここまでやったんですから最後までやりませんと」

「藍・・・もしかしてこのプチ一人モノマネ大会、怒ってる・・・?」

「いえ、かけらほどにも」

そういうと藍は真紅のディスクを挿入し、パスをセンサーに読み込ませる。

「変身っ!」

「やっぱ怒ってんじゃないのよ!?」

こうして二人になったイタズラの鬼により碧の手から緑色のディスクが奪い取られる。

「うー・・・マジでダメだって、ホントに勘弁してよ・・・」

取り押さえれらながらまだもがく。結構本気で使われたくないらしい。

「でもダメです。」

元に戻った藍は容赦なくそのディスクを読み込む。

「変身!」

「だからそれはやめなさいよ・・・」

もう諦めたのか、ぐったりしながらつっこみを入れた。
藍の髪に一房、緑色のものが混じり二つ結いに分けられる。
そう、それは今取り押さえられている彼女のように。

「ちょ、アンタ何やってんのよ!」

その怒り方もどこか彼女そっくりだった。

「ひょっとして・・・」

「実験の手伝いとか、私が二人いれば楽かなーとか思っただけなんだから・・・」

あからさまにマズったなぁ・・・という表情の碧。
人は自分の恥を見せられることを嫌う。
別に、と答えられる人は小学生のときの学芸会のビデオを見てみるといい。それ知ってる全ての人を消しにいきたくなるから(筆者談)

「っていうか、これ以上見せると碧ちゃんが自決か精神崩壊かの二択になっちゃうから戻ってね」

目の前にパスケースを投げるとディスクが排出され、全ての実験が終了した。
一人の心に大きな傷を残したとか、そんなことは記憶の彼方に忘却しろと脅しめいた懇願を受けたとかはまた別の話。

 

 

 

「・・・でさ」

全てが終わって三人で紅茶を啜っていたとき、その触れたくない過去に触れようとする空気の読めないやつがいた。

「いや、睨むな睨むな。これ聞いたら終りにするから。」

「・・・ぁによ」

碧は完全に膨れてしまう。
まぁ自分の痴態を見せ付けられたのだから仕方ないといえば仕方ないが。

「そのピンクのディスクだけはねてたけど、誰の?」

藍と碧は一瞬目線を合わせると、庭の方向から聞こえてきた声に目線を向けた。

「オィーッス!何やってんの?お茶会?そのタルト一切れくれー!」

一瞬で間合いを詰め、タルト一切れ掻っ攫って逃げていくピンク色の彼女を指差した二人。

「・・・・・・大惨事?」

実験しなくても結果が大失敗だと分かることは「やらない」
やる必要がない、ではなくて「失敗」の代償が途轍もないことになるからだ。
だから「やらない」

三人は深刻な顔で頷きあい、そのピンク色のディスクをケースにしまい、手提げ金庫に入れ、中型金庫に放り込み、土蔵へと放り込むと土蔵の扉に閂をかけた。

 

「次は専用のツールに変形する連結武装でも作ろうかしら」

「そうですね。面白い発想だと思いますマスター」

「はっはっはっ。そういうネタ出しならいくらでも付き合うよ」

 

古の人はいい事言った。

「嫌なことは忘れちまえ」

 

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