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1.剛体と弾性体 剛体とは、変形しない堅い物体をいいます。それに対して、ゴムやばねのようなに変形によってエネルギーを蓄える物体を弾性体と呼びます。いくら堅いといっても、それを超えるエネルギーが加われば、どんな物体でも変形してしまうので、厳密な意味での剛体は存在しません。しばしば、物体の運動を考える時には、(剛体)集中系と仮定して議論を進めることがあります。これは、(弾性体)分布系の方程式よりも剛体のそれの方が簡単で扱いやすいからです。従来の研究では、テニス、バドミントンラケットは弾性体として、バットは剛体として扱われているようです。 2.撃心 撃心(衝撃中心、慣性中心、振動中心、打撃の中心)とは、グリップ部分の並進運動と回転運動がキャンセルし、変位が0となり、衝撃(瞬間的な直進運動または力)も0となる打撃点をいいます。定常波は振動(持続的な往復運動)に現れる現象ですから、撃心と定常波の節の位置とは全く関係ありません。簡単化のため太さの同じ一様な棒状の剛体とし、棒の根元を持っているとします。撃心にあたった時の運動を図1に示します。力のモーメントを考えれば、先端から3分の1の部分が撃心となります。最近ではバットも弾性体として研究され始めましたが、バットのスウィートスポット(真芯)は、撃心のことを指します。 ![]() 3.フレームのモード解析 これに対して、バドミントンラケットは、撃心の問題よりむしろ、振動モードの問題を主に考える必要があります。なぜなら、打たれたシャトルを体に受けてもそれほど痛くないことからわかるように、野球やテニスに比べて、衝撃が小さいからです。以下では、ラケットのガット以外の振動モードを理解するために、一端固定の一様なはり(長さ0.67m)の振動モードを図2に示します。実際はこれほどしならず、図はわかりやすくするため数倍しています。尚、テニスの場合、この一様なはりとばねによって、ラケットを模擬できることがわかっていますし(1)、強度面からもフレームが一様なはりと見なせたほうが都合がよいことは明らかです。実際のしなりはこれらの波形を重ね合わせたものになります。ここでは、4次モードまでしか示しませんが、実際は、無限次モードまで存在します。モードは振動数の低い順に1次モード、2次モード、3次モード、4次モードと呼ばれています。2次モードをよく見てみると、0.525m付近に節があることがわかります。この節付近で打撃した場合、2次モードの振動が抑制されることが種々の研究により証明されています(1)(2)。摩擦の影響により、高次モードほど減衰が早いので、2次モードが主に不快に感じる振動となります。 ![]() 両端自由の一様なはりの振動を図3に示します。これを見ると、一端固定の時に現れていた1次モード(13.937Hz)がなくなってはいますが、それぞれの固有振動数はほぼ等しく、空間波形も先端に近づくほど一致しています。一端固定の2次モードの節(0.525m)と両端自由の1次モードの節(0.519m)もほぼ一致していることがわかります。このことから、ラケットの振動を評価する時は、一端固定、両端自由のいずれも実際の振動を模擬できることがわかります。もっと言えば、実際の手で弱く固定する場合の抑制すべきモードの節は0.519〜0.525mの間にあり(1)、さらには打撃の場所によって、節や腹の位置が変わることもありません。物体が固有に持つ性質、まさに固有振動と呼ばれる所以です。このことは弦の振動実験からも明らかなことです。手応え(手に来る振動)はシャトル、フレーム、ガット、グリップ、手腕などの複雑な運動によってもたらされますが、そのほとんどがフレームによってもたらされます(2)。これらのことはテニスラケットにおいては、すでに実験的に証明されています。 ![]() 4.ガットのモード解析 各種文献を調べましたが、ガットをモード解析したものは見つかりませんでした。また、私の技術では自力でシミュレーションすることもできません。そこで、円形膜の振動モードを図4に示し、さらに、(3,2)モードの3次元メッシュを図5に示します。但し、(n,m)モードのnが直線状節の数を表し、mが円形状節の数を表しています。図4を見ると、(0,n)モード以外は中央に節があり、そこで打撃すれば、高次モードが現れないことがわかっています。円形膜の振動モードを参考にすればわかるように、ラケットの場合、中央やや下の高次モードの直線状節で打撃すれば、フレームと同じように、高次モードが抑制され、(0,n)モードが支配的になると推測されます。 ![]() ![]() 5.節、撃心の位置 具体的に、撃心、節の位置を概算してみます。撃心は持つ位置によって、その位置が変わります。長く持った場合(根元から6.0cm)は先端から19.9cm、短く持った場合(根元から15.0cm)は先端から13.3cmの場所に撃心があります。フレーム節はラケットを一様なはりと考えると、シミュレーション結果から、先端から14.5〜15.1cmの間にあることがわかります。ガットについては横糸の最も長い部分と中心の間に高次モードの節があると考えられるので、目測で約13〜14cmの場所に節があります。強い打撃をする場合は長く持つ人が多いと思いますので、撃心の位置はフレーム、ガットの節から大きく離れ、スウィートスポットを決定するうえで重要視されていないことがわかります。 ![]() 6.スウィートスポット 私はスウィートスポットを心地よい打撃ができる場所と定義しています(3)。心地よい打撃とは、手に衝撃をあまり感じない場所、振動の少ない場所で打つことをいいます。手に衝撃を感じない場所は、撃心の問題、振動の少ない場所は、振動モードの問題で決定できます。従来の研究では、バットは主に撃心、テニスラケットは撃心と振動モードの議論がなされており、自説では、シャトルによる衝撃が小さいことなどから、主に振動モードの問題を解くことにより、スウィートスポットが決定できると言えます。 |