回転によるシャトルの挙動
1.羽球による影響

 バドミントンは言うまでもなく、他の球技に比べて、球(シャトル)が軽く、形状も特殊です。 そのため、シャトルは空気抵抗の影響を大きく受け、打撃されたシャトルは大きく減速したり、回転方向が限定されます。 前者の特性により、比較的、ネット際への速いショットや頭上を越えてエンドラインを狙うショットが有効で、 テニスや卓球がサイドラインを突く、横へ移動が主であるのに対して、バドミントンは、縦に動く競技と言えるでしょう。 また、後者の特性により、テニスや卓球ではほとんどのショットがボールに回転を与えているのに対して、バドミントンではフラットに当てるショットが基本です。

2.スライスドショット

 以上で述べたとおり、バドミントンはフラットショットがほとんどであり、基本です。 しかし、バドミントンにおいても、カットドロップ、カットスマッシュ、カットクリア、タンブルヘアピン、スピンヘアピンなどのスライスドショット、シャトルに回転を掛けて、軌道や減速度を変化させようというショットがあります。タンブルヘアピンは、コルクをいろんな方向に切ることによって、シャトルが本来回転する軸とは垂直な軸回りに回転させるショットです。スピンヘアピンはカットドロップなどと同じで、羽部分を切るショットです。詳しい打ち方などは指導書に譲ることにします。

3.流体力学からみたカット

 スマッシュやドロップなどのフラットショットを図1(a)と仮定すると、カットは(b)、リバースカットは(c)となります。カットは順方向に回転を過剰に掛けるわけなので、プロペラ機のように進行方向に推進力を生みます。シャトルの前と後ろの気圧差を低減させ、空気の流れを整えます。違った解釈をすれば、進行速度が速いほどシャトルの回転も速いことから、逆に考えて、過剰な回転を与えれば、その回転に見合った進行速度になろうとします。カットはフラットショットに比べ、伸びるように進み、徐々に通常の減速度に戻ります。リバースカットはその逆で進行方向とは逆の推進力を生み、空気の流れを乱します。実際にシャトルではイメージしづらいかもしれないので、プロペラ機で説明したいと思います。まず、飛行機は地面に固定しておきます。次にエンジンを掛けて、プロペラの回転数を上げます。そして、エンジンを切ると同時に、飛行機を自由にし、さらに押します。飛行機を前に押せば、カットを模擬し、後ろに押せば(引けば)、リバースカットを模擬します。フラットショットはエンジンを掛けずに、プロペラを自由にした状態で、プロペラは風車のように自然に回ります。この3つの実験すべて同じ力で押し出したとすれば、到達距離はカット>スマッシュ>リバースカットの順で長いです。


図1 空気の流れの違い



4.弾道力学からみたカット

 弾道力学は、砲弾の着弾点を正確に計算する必要性から発展しました。シャトルにおいても、回転による投射面積の拡大があるものの弾丸、砲弾と同じ論理で説明できると思います。弾丸はシャトルと同様な軸で回転して飛行します。回転した物体にはその回転軸を保とうとする作用、ジャイロ効果が働きます。コマは回転速度が速いほど安定し、抵抗によって速度が弱まるにつれて、不安定になっていきます。弾丸にも同様なことが起こり、安定化させ、着弾点の計算誤差を減らします。その時、弾丸は重力によって弓なりの軌道を描きますが、ジャイロ効果が常に働くため、その軌道の接線方向によりも上向きの回転軸を保とうとします。その力によって、回転しない弾丸よりも直進安定性が増します。シャトルにも弾丸と同様の効果が起こり、フラットショットよりもカットの方がその効果が大きいため、同じ速度でも直線的な軌道を描きます。図2に同じ速度で打ち出されたフラットショットとカットの軌道を模式的に描きました。
 以下では理想的な回転力と並進力を与えた場合のスライスドショットの特徴を述べます。


図2 軌道の違い



5.カットドロップ、リバ−スカットドロップ
 カットドロップは順回転によって、ジャイロ効果と推進力が得られるショットです。シャトルはネット付近まで、直線的に早いタイミングで到達し、ドロップと同等にネットに近い落下点を狙えます。
 リバースカットドロップは逆回転によって、高い減速度が得られるショットです。シャトルは徐々に回転速度を失い、無回転を経て、順回転になります。この無回転状態を、ネット付近に持ってくることで、ドロップよりネット近くを狙え、また、相手に不安定なシャトルを打たせることができます。

6.カットクリア(スライスドクリア)
 現在はメジャーなショットではないですが、今後重要になってくるショットがカットクリアです。カットクリアを打った場合、相手の頭上あたりまで、フラットクリアよりも、直線的に早いタイミングで到達するので、より飛びつきにくいショットになります。その意味では、正確に初速の速くできるのはリバースカットクリアですが、現実的に逆回転と飛距離を両立するのは不可能で、効果的なリバースカットクリアは存在しないと思います。そのため一般的に、カットクリアはスライスドクリアと呼ばれます。

7.スピンヘアピン
 カットスマッシュなどの強いショットではその大きな空気抵抗によって、ジャイロ効果を実感することは容易ではないですが、バドミントンにおいても、この効果を特に利用したショットがあります。それはスピンヘアピンです。スピンヘアピンもカットドロップなどと同様にシャトルの本来の回転軸に過度の回転を掛けるショットです。ヘアピンは進行速度が遅いために、空気抵抗による回転軸の補正がそれほど行われません。よって、スピンヘアピンは軌道と回転軸の差を大きくすることが可能です。つまり、コルクを上に向けたまま落下させることができると言うことです。

 この以上の考察はWESTさんの意見を参考にさせていただきました。ありがとうございます。