§1 多面体における不足角の総和
上は立方体とそのの展開図です。
立方体の1つの頂点 A を選び、点のまわりの展開図に着目します。
正方形が3つ平面を敷き詰めていて、 90 度だけ空いています。この
空いている 90 度のことを頂点 A のまわりの 不足角 といいます。
各頂点について、不足角が 90 度であることは共通していますので、
すべての頂点についての不足角の総和は 90 度 x 8 = 720 度 という
ことになります。
次は正八面体とその展開図です。
1つの頂点のまわりの展開図をみると
正三角形が4つ敷き詰められていて、240 度、不足角は 120 度、6つ
の頂点に関する不足角の総和は 120 度 x 6 = 720 度 です。
どちらも同じ 720 度 になったのは偶然でしょうか。もう少し調べて
いきましょう。
正四面体については 180 度 x 4 = 720 度
正十二面体については 36 度 x 20 = 720 度
正二十面体については 60 度 x 12 = 720 度
やはり何か必然性があるようです。
ここでちょっと実験をして見ましょう。
立法体の角(かど)を少しだけ切ってみるのです。切り口が小さ
な正三角形になるように。
点 A のまわりの不足角は
360 度 - 135 度 - 135 度 - 60 度 = 30 度
ですが頂点が3つできたので 30 度 x 3 = 90 度 で元の不足角と同
じになります。つまり角(かど)を削ったからといって、不足角は、
増えもしないし、減りもしないのです。
角(かど)を削るだけではなく、穴を開けることもできます。
1辺が 5cm の立方体について、その1つの面に、1辺が
3cm の正方形 ABCD を考え、深さ 1cm の直方体 ABCD-EFGH の穴を開
けたとします。
その展開図で、頂点 A のまわりをみると
辺 AB にくっついている、中の側面の長方形 ABFE
辺 AD にくっついている、中の側面の長方形 ADHE
この両者は重なっていて、その重なり部分は1辺が 1cm の正方形
(斜線の部分)です。
不足角は、むしろ過剰角というべきですが、 90 度、不足角としては
-90 度と解釈します。4つの頂点 A, B, C, D での不足角はそれぞれ
-90 度、他方、底の4つの頂点 E, F, G, H での不足角はそれぞれ 90
度。したがってこれら8個の頂点についての不足角の総和は 0 度になり
ます。
もともとはただの面で、頂点は1つもなかったところですから不足角
の総和はもちろん 0 度だったはずで、ここでも不足角の総和の不変性が
確かめられました。
削っても彫っても変化しないとなれば、アイヌの一刀彫の熊さんを作っ
ても、やっぱり不足角を頂点に関して全部足し合わせると 720 度 という
ことになる。これはぜひ証明したいですよね。
§2 多角形の外角と曲線の曲率
証明には ガウスの写像 を用います。
角(かど)を削りすぎて、滑らかな曲面になってしまったところを想像
してください。
[学生の心配そうな声] 滑らかになってしまったというのは、無限に
多く、角を削ったということでしょう?
それって、ちょっとやりすぎじゃないですか?
1次元低い場合について考えて見ましょう。
多角形の外角の和が 360 度ということは、中学のとき習いました。
向きのついた、滑らかな、閉曲線(出発点へ戻ってくる、8の字などに
ならない曲線)を考えます。曲線上に点 P をとり、長さ1の接ベクトルを
考えます。
接ベクトルを、始点 P が原点になるように平行移動すると、その先端は
単位円周上の一点 Q を決めます。曲線上の点 P に円周上の点 Q を対応さ
せることにより、曲線から単位円への写像 g [g(P) = Q] が決まりま
す。動点 P が点 P_1 から P_2 まで動くとき、その像は、点 Q_1 から
Q_2 まで動きます。
点 P が閉曲線 C 上を一周すると、点 Q は単位円周上を,行きつ戻りつし
ながら結局一周する、つまり曲率を積分すると 360 度になります。これは
多角形の外角の和と同じです。
閉曲線は折れ線で近似すれば多角形になり、逆に多角形の角を小さな円弧
で置き換えれば閉曲線とみなすことができます。このようにして、多角形の
外角と閉曲線の曲率の変位とのあいだを行ったり来たりすることができます。
多角形を滑らかな閉曲線に置き換えることは 「大胆」ではあっても「い
いかげん」ではないことがお分かりいただけたと思います。多面体を滑らか
な閉曲面に置き換えることも、これと同じであることを示したいと思います。
§3 曲面上のガウスの写像
平面曲線の曲率の概念を、3次元空間の曲面の曲率に拡張することを考え
ます。
曲線の曲率は,外角の類似として、単位接ベクトルの変化率として定義し
ましたが、曲面の接ベクトルは単位接ベクトルとしてもたくさんあって、
同じようには扱えません。
つまり、閉曲線の話は、そのままでは閉曲面の話に拡張することはできま
せん。
そこで曲線の曲率の定義として、単位法線ベクトルの変化率としてみると、
曲線については 90 度だけずれて、ほぼ同じものが得られます。
一方、曲面の単位法線ベクトルは、曲面に裏と表の区別がつけられていれば
(これを向き付けられているといいいますが)曲面上の各点に対して、表の方
向の単位法線ベクトルがただ一本決まります。このことを用いて、曲面上の曲
率を定義します。
3次元空間に、表と裏の区別のついた曲面 M が与えられているとします。原
点を中心として半径1の球面(単位球面) S^2 を用意します。 M 上の一点 P に
対して単位法線ベクトル v(P) を考えて、 v(P) の始点を原点にまで平行移動す
ると、その先端は単位球面上の一点 Q を決めます。 M 上の点 P に S^2 上の
点 Q を対応させる写像 g : M → S^2, g(P) = Q を、
ガウスの写像 といいます。
曲面 M 上に単純閉曲線 C を考えます。単純とは自分自身を横切ったりしない
ということです。
例えば上の左は単純閉曲線、右は自分自身を横切っています。
曲面 M 上に単純閉曲線 C を考え、曲線 C によって囲まれた領域を D としま
す。点 P が曲線 C 上を一周すると像 g(P) も S^2 上で閉曲線 g(C) を描きます。
g(C) はもはや単純かどうかは分りませんが、 g(C) の囲む領域 g(D) の面積を、
時計の針と反対に回るときは正、同じ向きに回るときは負として量ると、 g(D)
の面積は領域 D がどれくらい曲がっているかの一つの目安になります。
この面積を、領域 D の ガウスの曲率 といいます。
いくつかの例を示しましょう。
これらの例から分るように、お椀の形は上に凸でも下に凸でも g(D) の面積は
正となります。
馬の鞍型では、点 P が C 上を一周するとき、 g(P) は回る向きが逆転するの
で、その面積は負になります。
蒲鉾(かまぼこ)屋根は、母線に沿って単位法線ベクトルが一定ですから、
g(D) は S^2 上で曲線に退化していて、その面積は 0 です。つまり蒲鉾屋根は
「曲がっていない」と解釈されます。
我々の関心は多面体にありますから、曲面についての ガウスの写像 が多面
体についての ガウスの写像 に翻訳できなければなりません。まず二つの面
(多角形)のつなぎ目は辺ですが、辺とその両側を円筒形の一部でおきかえると
滑らかにつながります。
3枚以上の多角形が集まった角錐の頂点は小さな球面(あるいはそれを少し変形
したもの)で置きかえると滑らかになります。これらのことを頭において、正多
面体についての ガウスの写像 を定義します。
まず 一つの面 a の上では、法線ベクトルはただ一本ですから、ガウスの写
像による像は一点 A です。こうして各面に対して、単位球面上の点が対応しま
した。次に面 a と面 b との会する辺では、法線べクトルはそのままでは定義さ
れませんが、細い円筒形と考えればここを横切る間に、その像は大急ぎで点 A
から B まで大円の弧を描きます。この大円の乗っている平面は、元の辺と直交
していることに留意しましょう。(先ほどの蒲鉾屋根を思い出してください。)
今度は多面体の一つの頂点に着目して、その回りが n 角錐であるとし、その
面を α_1, α_2,・・・, α_n とします。
点 P が頂点の回りを一周すると、
点 Q は対応する A_1, A_2, ・・・, A_n を頂点とする球面上の多角形を描きま
す。この多角形の内部が、元の頂点のガウスの写像による像ということになり、
その面積が頂点の「曲率」です。
§3 錐形とガウスの写像
平面に一つの閉曲線を描き、平面上にない一定点 O からこの曲線上の各点を結
んで得られる図形を錐形といいます。定点 O を錐形の頂点といい、頂点と曲線上
の点を結んだ線分を母線といいます。
錐形の側面に一つの単純閉曲線 C を描けば、 C によって囲まれた領域 D の像
g(D) の面積は 0 になります。これは図4の蒲鉾屋根の場合と同様に、一本の母
線に沿ってガウスの写像は一定ですから、領域 D の像は曲線に退化して面積は 0
というわけです。
これに反して、領域が頂点を含むように閉曲線 C を描いた場合、 g(D) の面積は
0 ではなくある値をとりますが、閉曲線 C が、頂点を内部にもったまま動いても、
この値は変わりません。
この一定の値は頂点の回りで決まる量で、これを頂点回りのガウスの曲率という
ことにします。
定理1 円板から扇形を切り捨てて、残りの部分で錐形を作る。
(工作で三角帽子を作る要領です。)このとき錐形をどんな形にし
ても(ゆがんだ帽子にしても)頂点の回りのガウスの曲率は一定で、
それは切り取った扇形の中心角に等しい。
証明 まず n 角錐の場合について示します。頂点を O とし、 O から n 本の辺 a_i
の出ている n 角錐を (O; a_1, a_2, ・・・, a_n) で表す。2直線 a_i, a_{i+1} で
張られた面を α_i とし、ついでにその頂角も α_i で表すことにする。
この n 角錐を一つの辺で切り開いて平面に展開したとき、頂点 O の回りを敷き詰
めるのに不足する角は θ = 2π - (α_1 + α_2 + ・・・+ α_n) である。
この n 角錐の内部に点 O' をとり、 O' を通って α_i に直交する直線を b_i
とする。2直線 b_{i-1}, b_{i} で張られる平面を β_i とする。このようにして新
しい n 角錐 (O'; b_1, b_2, ・・・, b_n) がえられた。
新しい頂点 O' の位置は任意でよく、位置を変えても得られた n 角錐は平行移動
で重なるから合同である。
直線 a_i と平面 β_i も直交しますから、 n 角錐 (O'; b_1, b_2, ・・・, b_n)
から出発して、同じ操作で元の n 角錐 (O; a_1, a_2, ・・・, a_n) が得られます。
これら二つの n 角錐は互いに 双対 である、または一方が他方の 双対錐形 で
あるといいます。
頂点 O の回りのガウスの曲率は、 O' を中心とする単位球面から、双対 n 角錐
(O'; b_1, b_2, ・・・, b_n) が切り取る領域の面積ですが、それは単位球面上の
n 角形の面積ですから、球面過剰の定理により、外角を λ_i とすると
2π - (λ_1 + λ_2 + ・・・+ λ_n) となります。
そこでこの外角 λ_i はいくらかということになりますが、これが α_i に他なら
ないことがわかります。
実際、面 α_i において、面 β_i との交線を c_i ,面 β_{i+1} との交線を d_i
とする。 β_i と β_{i+1} とは共に面 α_i と直交しているので、この2面のなす角
は直線 c_i と d_i が平面 α_i においてなす角 λ_i に等しく、それは頂角 α_i
に等しい。
結局、頂点 O に置けるガウスの曲率は、 2π - (α_1 + α_2 + ・・・+ α_n) に
等しく、それは n 角錐を展開したときの頂点における不足角 θ に等しい。 証明終
n 角錐とその双対 n 角錐を一つの単位球面の中に、それぞれの頂点がちょうど中心
に来るようにはめ込んでみましょう。
下の図を参照して下さい。赤い角錐に対して、その双対角錐を、青くしました。単位
球面上に、その交線として二つの n 角形 A (赤)と B (青)が得られます。 単位球面
上の多角形として、一方は他方の 双対多角形 と呼ぶことにします。
さて、n 角形 A の周の長さは、ラジアンの定義から、角錐を展開したときの中心角の
和 (α_1 + α_2 + ・・・+ α_n) に等しく、他方、双対 n 角形の面積は
2π - (α_1 + α_2 + ・・・+ α_n) だから、次の定理が成り立ちます。
定理2 単位球面上の向き付けられた多角形の周の長さと、その双対
多角形の面積の和は、 2π に等しい。
右は赤い角錐を少し細くしたので、青い角錐が広がっています。
赤い多角形の周囲の長さと青い多角形の面積の和が 2π になり、逆に青い多角
形の周囲の長さと赤い多角形の面積の和も 2π になります。球面は、単位球面、
すなわち半径が1であることに注意して下さい。
青い多角形は、辺同士が交差するところが3箇所もできてしまいました。定理は
それでも成り立つのかなと心配する方がいらっしゃるかも知れませんが、大丈夫で
す。小さな3角形の部分の面積はマイナスと解釈されます。
次は手前に 20 度傾けた図です。

次は手前に 50 度傾けた図です。

次は手前に 90 度傾けた、つまり上から覗いた図です。
青い多角形が手前に、赤い多角形が向こう側にあると思って下さい。

図3 球面内の互いに双対な錐形
「ホームページ」
へ戻る。