02.7.1
 

販売実習で、僕はカーナビゲーションを
売っているのですが、
カーナビには「ビーコン」という
交通情報を受信するための装置も
一緒に売るのが一般的なようなのです。

問題なのは、接客中、僕がいつのまにか
「ビーコン」のことを「ベーコン」と
言ってしまっていることなのです。

お客さんへ説明していますと、
もう何がなんだか分からなくなってくるのです。
どっちが「夢路いとし」で「喜味こいし」なのかくらいに
分からなくなってくるものなのです。

「今でしたら、キャンペーン中なので
2万3千円の”ベーコン”が無料でついてきます」
(何のキャンペーンなのだ)

「あちらのカーナビは”ベーコン”が最初からついています」

カーエレクトロニクスとはまったく無縁の
肉言葉が次々に口を突いて飛び出す。
「あれ?なんか変かもしれないぞ!」
と思いながらも何か続けて言わなくてはいけないと、

「”ベーコン”を付けますと、
渋滞情報を表示することができるようになります」

と口走ってしまっていた。
一体、どんなベーコンなのだ。
お客さんの脳裏には、車のダッシュボード上に
無造作に置かれた一片の肉の燻製の姿が
浮かんでいたのだろうか。
 

5回ほど「ベーコン」と言ってから
う〜ん、ビーコンが正しかったかっ、と思った。
しかし、「ビーコン」と言うときのアクセントで
「ベーコン」と言っていたので、
ばれていないようでありました。

もしかすると、2万円もする高級ベーコンに
魅力を感じて買うお客さんもいるかもしれない。

もう、どうでもよくなってきたのです。
 

02.7.3
 

販売実習中は、水曜・木曜がお休みなのです。

立ったままの販売員の作業で
腰が痛くなってしまいましたので、
温泉の効能でなんとかならないだろうかと思い、
家から一番近そうな温泉を
インターネットで検索したのです。

そうしましたところ、灯台下暗しというのでしょうか、
自転車で10分ほどのいつも行く本屋の近くに
天然温泉があるそうではないですか。
夜7時ごろに手拭いと石鹸を持って
出かけたのでした。

その温泉は、いかにも銭湯といった感じの造りでして、
番台にはおばさんが座っていたのです。

肝心の温泉の湯船は2つあり、
ひとつはきれいなお湯で、もうひとつは
薄汚い茶色で、やけに熱いお湯なのでした。
僕は、頭と体を洗ってから、
きれいな方の湯船に浸かりまして、
う〜ん、と温泉の効能を10分ほど堪能したのです。
やはり、温泉は普通の水道水とは違うようで
腰の痛みもなんだか和らいできたのでした。

お風呂から出ましたら
番頭は、おばさんからおじさんへ代わっていました。
おじさんは、セクハラにならないのだろうか。

服を着て、銭湯から出ようと
下駄箱から靴を取ろうとしたとき、
ギクッっと、腰に痛みが走ったのです。
入浴前とそれほど変わってない痛み……。

も、もしかしてと思い、
番頭のおじさんに聞いてみたのです。

「……天然温泉は、湯船全部そうなんですか?」

「えっ?いいえ、色の付いた方だけです。
色のない方はただの水道水です。はい」

ここで「失敗した!」という顔をしてはいけない。
あちゃーという顔でも見せようものなら
温泉に入りに来て、間違えて水道水の風呂に
浸かっていたことが悟られてしまう。

なるほど、やはり天然温泉は違いますな!ははは!
というような自分の中で精一杯にできる
満足げな表情をおじさんに見せて、
堂々と外へ出た。

あのときに感じた効能は一体なんだったのだろうか。
できることなら、真実を知らないまま
銭湯を出たかった。

今度は、茶色に入る。
 
 

02.7.4
 

自転車に乗って家に帰るとき、
通り道の先のほうに
放し飼いの中型犬がいたのです。

昔、放し飼いの犬に
追いかけられたことがあったため、
つながれていない犬を見ると、
うっ、と止まってしまうのです。
しかし、僕の前を同様に自転車で進んでいた
男子高校生がいたので、
その高校生が放し飼いの犬の横を
無事に通り抜けることができたら、
僕もその後を追ってスーッと通り抜けようと
考えたのです。

前の高校生が自転車で
スーッと犬の横を何ごともなく通り過ぎたので、
「なんだ、おとなしい犬なのか」
と思い、僕もスーッと行こうとした時でした。

ウー!ワン!ワン!ウー!ワン!ワン!

という、けたたましい犬サイレンの
スイッチがオンになってしまったのです。

「なぜなのだ!なぜ、僕のときだけ!」
と思い、うわーっと、力を入れてペダルを踏み込む。
しかし、犬の声は止まらない。
ふと、右を見ると
なんとペダルの真横に並行して
追いかけてきているではないか。

ウー!ワン!ワン!ウー!ワン!ワン!

止まることなく続く犬の大きな鳴き声。
犬に追いかけられながら自転車で逃げる男。
これではまるで僕が悪いことをした人のようではないか。
「麻薬犬か、お前は!」と心の中で思ったのです。
飼い主らしき女の人の声が、
「〇〇ちゃん!ダメよ!こら!」
と随分遠くで聞こえてくる。
それほど犬は僕を数十メートルも
追ってきているのだ。
僕の何が犬の怒りを爆発させたのか。

ウー!ワン!ワン!ウー!ワン!ワン!

真横から今にも飛びかかってくるのではないか
という勢いで吠えながら追いかけてくる。
犬はずっと僕の真横にピッタリ。
それはまるで、犬型のサイドカーを付けたバイクに
乗っているような錯覚を覚えるほどでした(覚えない)。
自転車のギアを「6」にしてこいだためか、
遠くからの飼い主の声のためか、
犬はいつの間にか追いかけてこなくなっていた。

助かったと思って、少し休んでいたら
前を行っていた高校生が
不審な目で僕のほうを振り向いていたのです。
僕は何もしていない。
 

02.7.10
 

もうすぐ大学生の頃に借りた
奨学金を返済し始めないといけないのだ。
なんなのだ、奨学金とは!
返済なんてしたくない。

しかし、金利がかかるので
できるだけ早く返済した方がいいのです。
しかし、育英会が金利を取るとは
なにごとなのだっ!と叫びたい。

「ジャパネットたかた」ならば
金利・手数料は、全てジャパネットが
負担してくれるというのに。
ということは、育英会よりも
たかた社長の方が偉いのだ。
絶対にたかた社長の方が偉いに決まっている。
 

それにしても、なんだ!と言いたい。
よくあるドラマや映画の一場面で、
静まり返った観衆の中の1人がパチンパチンという
小さな拍手を始めると、
次から次へと他の観衆が立ち上がりながら
パチパチ拍手をして、
最終的に大拍手になるあの場面は、
なんなのだ!なんか変ではないかと言いたい。
 

それにしても、ワールドカップの時に、
横浜市営地下鉄が32ある駅のそれぞれに
出場国を割り当てて応援をするということをしていましたが、
結局、優勝したブラジルを応援していた駅は
僕の最寄駅だったのだ。
結局、なにも起こらなかった。

ブラジルを応援していた駅は、
「決勝戦翌日は無料で乗れます」
というようなことなら分かる。
何ごともなかったかのように、
ブラジル国旗が片付けられていた。
その跡形のなさといったら、夢かと思ったほどだ。
だったら応援なんかするな!と言いたい。
 

僕は、思うのです。
保育所に入れずに順番待ちをしている児童のことを
「待機児童」と言いますが、きっと待機児童は、
体育座りで待機しているに違いないと。
これは間違いないから、
いろんな人に教えてあげても構いません。
 

ルージュの伝言で書かれていたら
おもしろい言葉は何だろうかと考えた。
バスルームの鏡に口紅ででかでかと書かれた

「天誅」

の2文字はいかがだろうか。
いかがだろうかと尋ねても、
何が基準でどうなのかも分からないし、伝言でもない。
「バスルームにルージュの伝言」としか
歌われていないのなら、
書かれている対象はバスルームの鏡とは限らない。
天井に書かれているかもしれない。
天井いっぱいにルージュで
般若心境が書かれていたらすごい。
お試しください。
 

お店の中で
「君の涙の色はきっと〜」
という歌が流れているのだが、
その続きの部分がよく聞き取れない

「憎い僕には見えやしない」

なのか

「鈍い僕には見えやしない」

なのか、さっぱりなのだ。
しかし、ちょっと候補から外れるが

「醜い僕には見えやしない」

というのが、僕にはもっとも
しっくりくる。
 

02.7.17
 

もう、昨日は大変でしたのです。
朝から台風でして、
いつもより早めに家を出る必要があったのです。

それなのに、ぼーっとしてしまい
時間がなくなり
あわてて家を出ようとして、
片足を上げたまま靴下をはこうとしましたら、

ぎっくり腰

になってしまったのです。
もう腰がほとんど曲がらず、
その場に、へもたれてしまったのです。
僕のような者が、片足を上げて靴下をはくなどという
アクロバティックなことをしたのが間違いだったのだ。

腰が痛いので、背筋を伸ばして
狂言師のような歩き方で
豪雨の中を少しずつ歩いていきましたら、
下り坂にある鉄板が
雨でツルツルになっており、
僕はそこで滑って尻がぬれかけたのです。

このままでは確実に遅刻してしまうと思い、
いつもは歩くところを、バスに乗ったのです。
そうしましたら、そのバスは間違ったバスでして
このまま、まっすぐ行ってほしい所を
左に曲がろうとするではありませんか。
なのであわてて「次降ります」のボタンを押したのです。
乗ってから降りるのにほとんど進んでいなかった。
きっと乗客の多くは
僕が間違えて乗ってあわてて降りたと
そう思っているに違いない。
ですので、バスを降りてからしばらく
当然このバスに乗りたかったのだという感じを出すために、
バスが見えなくなるまで、間違った道の方向に
数メートル歩いてみたのです。

アシモのような歩き方で、
なんとかお店にたどり着いたときには
ビショビショになっていたのです。

帰りには傘を忘れて帰りかけまして、
お昼のお弁当に入っていたサケには
なんだかいつもにない、とろみがあったのです。
 

不運が続いた1日でしたのです。
腰がまだ痛いのです。
 
 

02.7.18
 

何人かでお酒を飲むような席で、
なぜか最近、手品をしてしまうのです。

これまで手品を3回やりました。
そして、手品をした日の翌日は
必ず頭痛と吐き気がありました。
ですので手品はしたくないのです。

先日、販売実習でお世話になっている
お店の方たちとお酒を飲みました。
どんどんとお酒が注がれるうちに
これはもう、手品をしなくてはならない気分になってきたのです。
誰にも手品をしてくれと
頼まれていないというのに。

手品の結果は
これまでの中でもっとも受けました。
そして、店長に

「会費はいらないから、次の新ネタを考えておいてくれ」

といわれました。
翌日、家に帰ってきたままの服装で目覚めると、
頭痛と吐き気とともに、
お店の正社員でもない僕が
手品という出過ぎたまねをして満足していたことを
激しく後悔したのです。

頭痛薬を飲んでお店へ行くと、
お店の方の態度がこれまでとは違い
急に親しみやすくなっていました。

「昨日はどうもありがとうございました」

「手品、お見事でした」

「これまでの飲み会が変わった」

このように言われるたびに恥ずかしくなり、
制服の赤いエプロンで顔を覆いたくなりました。
僕の手品は小学生の子がやるようなもので
全員にタネがばれていたのです。
特に、オーディオ担当の方の

「しいなくんは飲むと動きが速くなるから、
お客さん相手のとき、お酒飲んでやっていいよ」

というのは、厳しかったのです。
もう手品はこりごりなのです。
 

と言いつつも、万一に備えて
仕込みをしている自分がいる。
もう何がなんだか分からなくなってきました。
 

02.7.28
 

ついに販売実習が終了したのです。
実習はとてもつらいものであると
聞いていたのですが、
お店や営業所の方々に恵まれて
つらくなく、むしろ楽しいくらいに過ごせたのでした。
なんなのだろうか。
僕は幸せ者であると思ったのです。

実習最後の日に、
お店の皆さんとお食事をさせていただきました。
その席で手品をしましたが
今回の手品はほとんど受けませんでした。
ですので、手品のことは
なかったことにしてください、と思いました。
 

お店にくるお客さんは、
実にいろいろなお客さんがいました。
恐い職業的なお客さんと知らずに声をかけましたら、
そのお客さんのお連れの
いかにも恐い感じの方々が
あとから2名いらっしゃって囲まれてしまったのです。
そして、

「どれが一番お得なんだよ!!?」

と、すごい迫力の声でせまられたときは、
思わず、おもらししそうになりました。

また、とても偉そうなお客さんが
僕のことを「おまえ」と言いました時は、
さすがに腹が立ちましたので、

「おまえ様におまえ呼ばわりされる筋合いはございません」

というカッコいいセリフを
堂々と言い放ってやった
はずもなく、実際には

「す、すみません……」

と言い頭を下げ、
お客さんが帰ってから、カーナビの検索機能で、
伝票に書いてあったそのお客さんの住所を検索し、
その住所に爆弾を落としたつもりごっこをして
「えいっ、えいっ」
と、ささやかで静かな反撃妄想を展開しました。
(暗すぎる!)

しかし、そのようなこともありつつ
お店での生活を楽しくできましたのは
お店の方々のおかげなのでした。
もし、お店が別のお店でしたら
途中でリタイヤしていたかもしれませんでした。

ありがとうございました。
そして、繰り返しになりますが、
くれぐれも今回の手品のことは忘れてください。







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