「コルネリの幸福」
ハコ書き(場面&ト書き)

《登場人物》

コルネリ… 主人公
ジノ君 … コルネリのボーイフレンド
フリードリッヒ… コルネリの父
コルネリア… コルネリの母
マルタおばあさん… コルネリの産婆
エルンスト… 見習い宣教師
ドルナー伯母さま… コルネリの伯母
グリデーレン執事… 屋敷の執事
ミネ … 屋敷の女中
ニカ… 女学校の学友
アグネス…  ジノ君の姉
ムクちゃん… ジノ君の弟
ハルム奥さま… ジノ君の母
ハルム氏… ジノ君の父
管財人… ハルム家を後見する老紳士
銀行家の青年 … 引継銀行責任者
歌唱練習の婦人… アグネスの生徒
コーベル… コルネリの飼い猫
女学校の先生
上級生
婦人会の奥様方
医者
公安

 

目 次

第一話 「アルプス娘 コルネリ」

第二話 「夏との出逢い」

第三話 「風の曲がり角」

第四話 「約束の合奏」

第五話 「新しい生活」

第六話 「再会の歌声」

第七話 「ハルム邸にて」

第八話 「学園天国」

第九話 「音楽祭に向けて」

第十話 「思いがけない再会」

第十一話 「寄宿舎での一騒動」

第十二話 「コーベルの失踪」

第十三話 「門前での発覚」

 

第十四話 「沈黙の屋根裏部屋」

第十五話 「エルンストの判断」

第十六話 「フリードリッヒ決断」

第十七話 「音楽祭」

第十八話 「受賞の報告」

第十九話 「喜びの見舞い」

第二十話 「燃ゆるハルム邸」

第二十一話 「病院での目覚め」

第二十二話 「病院での対談」

第二十三話 「故ハルム氏の鍵」

第二十四話 「自画像の作者」

第二十五話 「コルネリの凱旋」

第二十六話 「大団円」

 

 


 

 

  まえがき

 

  スイスの女流作家ヨハンナ・スピリといえば、

  大自然への賛美・望郷の念といった主題を見事に描いた、「アルプスの少女ハイジ」が

  全世界的にあまりに有名であり、同作者の執筆した他の作品群は

  その代表作の陰に隠れ、国内外共にあまり知られていないのが実情である。

 

  「コルネリの幸福」は、ハイジ出版(1880年)の10年後、1890年に執筆された作品であり

  その頃、既に最愛の息子と夫を亡くしていたスピリが、このような作品を地道に執筆し続けていたのは

  孤独や悲しみと無理に対峙したり、運命に翻弄されるのでなく、

  確固とした自分の生きざまや思想といったものを、人の目に晒すことで

  信仰を持ち、様々なことを考え見抜く姿勢を貫き続けていたからなのだろう。

 

  コルネリは、ハイジに相応し派生した味付けというよりも、

  スピリ自身が少女時代に感化された、友情・人間愛といった

  純粋なテーマに触発されながら、その自己形成と社会的な生活環境との関わりに

  重点をおいて描いているように思う。

 

  主人公コルネリはどのような大人になったのか?という読者ファンレターの問いに対し

  返信の手紙に、作者自身の姿を示したという逸話も残されており、

  スピリの生きてきたエネルギー・養分が、脈々と注がれた作品であると捉えられる。

 

  「コルネリの幸福」は、

  「人生と将来が拓かれていく少女時代」といった

  世界名作劇場シリーズの作品に見られる、ピュアなテーマを織り交ぜるよう意識し

  伝道教育・医療福祉などの社会事業への貢献に触れ、

  スピリの精神が活かされた物語に翻案できるであろうと目論んでみた。

 

 


 

  

 

第一話 「アルプス娘 コルネリ」
   
アルペンホルンが響くスイスアルプスの懐に抱かれた町に住む少女コルネリは、河畔や牧場を元気一杯に駆け回り、人一倍活発に溌剌と暮らす自然児お嬢様である。
   




お転婆イタズラ駆けっこスキップ大好きで、いつもアザ傷だらけ。
階段の上り下りは常に二段とばし。
母親と似ていない縮れ髪にコンプレックスを抱いていて、いつもバンダナを被っている。
牧歌的な音色が好きなのでオカリナを携帯し、小さな吊り鐘を下げている。

   
コルネリの父親フリードリッヒ候は、時計やオルゴールをはじめとした機器工業の事業を営む経営者である。
   

根は人情家だが、仕事一辺倒なため家庭的ではない。

   

立派な屋敷に住むコルネリであるが、毎日療養院へ病気の母親コルネリアを見舞い、そこで賄いをしているコルネリの産婆マルタおばあさんとヨーデルを歌ったり、近くにある牧場の山羊や牛たちと遊んでいる。
そのため、屋敷の女中ミネはあまりコルネリを気にかける必要はなくいたって無関心。

   
マルタはコルネリアとは同郷旧知の仲で家族以上の絆、ミネは冷めた無党派メイド。

母親コルネリアは、河の上流にある避暑地で有名な村の盟主家系である。
その豊かな大自然の中で、健やかな少女時代が育まれてきた。
母親は、教会から紹介された若い見習い宣教師エルンストを使用人とし、伸び伸びと成長するコルネリの様子を見守りながら教育係を任している。
   
男性の使用人は原作に登場しない、コルネリ派メイドであるエステルの代替とする。
エルンストは師範学校を卒業した後、牧師を目指していたが…教会より病気の母親に付き添う少女の家庭教師をするよう辞令をうけた。
教会のオルガン演奏者でもあった音楽好きで「よく学び、よく遊べ」を教育信念としている。
   
エルンストは、読み書き算盤について熱心に辛抱強くコルネリに指導していたが、決して規律や規則・服装やマナーでコルネリを縛り付けることなく、午後は療養院で母親も望んでいるように、自由にコルネリの思う存分伸び伸びと過ごさせていた。
コルネリは、オカリナを野山で吹き鳴らし、牛や山羊たちと牧場を駆けまわり、その姿は誰が見ても屋敷のお嬢さんだとは信じられない牧童のような立ち居振る舞いである。
   
 
第二話 「夏との出逢い」
   
ある日牧場でコルネリが遊んでいると、療養院からギターの調べが聞こえてきた。
コルネリは伴奏に合わせ歌い始める。
都会から静養にやって来た音楽好きのジノ君は、美しく澄み渡ったコルネリの歌声に心打たれる。
 

 

ジノ君は礼儀正しくおとなしい心優しき少年。幼い頃から胸を患っていて、夏期休暇のあいだ療養に訪れている。
   
コルネリとジノ君はデュオアンサンブルを結成し、二人は仲良く演奏し共に学び遊ぶようになった。
   
コルネリは勉強嫌いの性分から、優秀で読書好きなジノ君に対し劣等意識あり。
自然児であるコルネリは、木の実やスモモを抱え、山羊や牛と戯れ、木登りや乳搾りでジノ君に優越感を感じている。
   
向学心旺盛なジノ君は、コルネリの教育係であるエルンストにラテン語の勉強から数学に至るまで、熱心に教えを請う。
ジノ君の秀才振りが面白くないコルネリは、牧童になりたいと本気で考えるが、ジノ君の『鍋釜革命論』に諭され思いとどまる。
   
『鍋釜革命論』
銅鍋は洗濯釜のように常に洗い濯がれて涼しく過ごしたいと革命を起こし、金ダライだと名乗り挙げる。洗濯釜は銅鍋のように綺麗な卓や戸棚に上がりたいと革命を起こし、茶釜の地位を勝ち取る。
しかし、金ダライは冷蔵に丁度良いということで氷漬けになり、茶釜は石鹸の臭いがするので料理には使われず倉庫棚で弾薬入れにされてしまう。
自分の思うがままに変革したところで、考えているほど都合の良い結果が導けるとは限らない、という保守為政的な教訓。
   
マルタおばあさんは、元気一杯のコルネリを愛しているが、コルネリの母親の麗しき少女期とコルネリの性分を比較し将来を憂う。
ジノ君の影響を受けて品位を磨いて欲しいと密かに願っている。
   
大の音楽好きのエルンストはコルネリとジノ君の才能を讃え、聖歌隊のオルガン演奏をしていた伝手で、夏祭りの歌謡競演に二人を飛び入り参加させ紹介する。
コルネリの愛らしい澄みわたった歌声の響きが、街中の人々や職工達の心を掴み大好評となる。
   
 
第三話 「風の曲がり角」
   
賑やかで微笑ましいコルネリの生活は長くは続かない。
容態が悪化した母親は、コルネリの必死で付きっきりの看病にもかかわらず天に召されてしまう。
これから先、嬉しいこと辛いこと、どんなことが身に降りかかろうとも、浮かれたり不安になったり、決して人の所為にして恨んだりせず、自分にできる事を全うし「天命」に委託ねるように… 最期のことばをコルネリに語る。
   
前の年に父を亡くしているジノ君は、悲しみに暮れるコルネリの気持ちが痛いほど伝わってくる。
   
その頃、父フリードリッヒは、取引銀行の債権管理上のトラブルから拡張した事業の経営権に弱みを握られる。
   
機器類の販売代理店を営む親戚筋の貿易商(ドルナー商会)絡みで経営の梃子入れをされ、ドイツへと赴くことが頻繁になった。
   
ドイツの営業取引先の風景:計器類が装着される兵器、軍需工場、行進する兵隊、等
   
事業経営とコルネリの将来について思慮したフリードリッヒは、やむなくドイツからドルナー伯母さまをお屋敷に招き入れる。
   
エルンストが、コルネリを擁護し療養院や街の教会へ連れ出してジノ君に引き逢わせてくれるものの、規律を重んじる伯母さまが屋敷の一切を取り仕切るようになったため、コルネリは好きな時に好きな格好で外出することが困難となっていく。
   
新たに貴婦人であるグリデーレン執事を屋敷に迎え、ハードな時間割にお稽古ごと、行儀作法に厳しい躾、自由のないコルネリからは笑顔が消え非常に窮屈な上流社会仕込みの生活に縛られていく。
   
日々厳しくキツイ小言を浴びせかけられるコルネリであったが、母親が語っていた言葉をいつも心がけ、恨まず憎まず人事を尽くし天命に従っているのであった。
   
度々、コルネリはこっそり人目を盗んで牧場へと抜けだしオカリナを奏でていたが、ある日の明け方、牛舎で眠っているところを発見されてしまい、牧童のようなコルネリの姿を見た伯母さまは激怒。
普段から被っているバンダナを奪い取り、髪が美しかった母親とは似ても似つかない「呪いの牛頭娘」とコルネリに言い放つ。
   
以前からエルンストが、美しい母親に顔容姿そっくりだと褒めてくれているのを信じて、縮れ髪を気にしないようにしていたコルネリは、決定的に大きな衝撃を受けショールを頭から深く被り鬱ぎ込んでしまう。
   
叔母さまは、きちんとした作法で生活をしていないコルネリを叱り、そして、屋敷内で唯一コルネリの弁護をし味方していたエルンストを解雇する。
   
季節は秋となり、夏季療養中に優しく励まし続けてくれたジノ君は都会へと帰ることになった。
コルネリは、再来を誓うジノ君を屋敷の窓辺から遠目に見送る。
   
孤立無援のコルネリは、その後、女中ミネの過ちによる『羽根帽子事件』に遭い、執事の羽帽子紛失の濡れ衣を被せられたため全く言い付けを守らなくなる。
   
『羽根帽子事件』
居間を掃除していたミネが、執事の羽根帽子を手に取り試しにかぶっていたところ、バルコニーから突風が吹き込み、慌てて長椅子を踏み込んで窓に手をかけたが、帽子を道端へと飛ばしてしまう。
羽根は帽子から外れて長椅子の上に残される。
丁度、教会の馬車で通りかかりながらコルネリの事を気にかけ屋敷を眺めていたエルンストが一部始終を目撃し、帽子を拾いミネへ手渡す。
屋敷内に戻ったミネは帽子を目立たない場所に放置して、長椅子の上にあった羽根を見つけた叔母さまに対し、コルネリが頭隠れる大きな帽子に関心を示していたのでは?と惚け濡れ衣を着せる。
   
コルネリは、殆ど食事を取らず寡黙になり心を閉ざした。
屋敷の中では口を利かず亡くなった母親の部屋で、形見のオルゴールに耳を傾けながら母の少女時代の自画像と思われる絵画に眺め入ることが多くなった。
   
絵画に描かれた少女時代の母親の温かな微笑みとオルゴールのメロディーだけが、コルネリの心の支えとなる。
   
 
第四話 「約束の合奏」
   
全く声も聴かず姿を見掛けなくなったコルネリを心配に思ったマルタおばあさんは、エルンストからの指摘もあって屋敷を見舞い、憂鬱で虚ろな眼差しのコルネリの病的な変貌ぶりを見て驚愕する。
そして主治医を呼び強引に療養院へと入院させる。
   
やむなくドルナー伯母さまはフリードリッヒに連絡を取り、聞きわけのない我が儘な素性のためコルネリの躾が上手くいかない事を訴えるが、ドイツから駆けつけたフリードリッヒは、おばあさんの意見を信用し、コルネリをお屋敷へは戻さないことにする。
   
とはいえ、何時までもずっとコルネリを療養院へ預けておく訳にはいかず、自由奔放にけじめ無く育っているという指摘も間違いではない。
フリードリッヒは、 伯母さまの立場も尊重し、コルネリを屋敷から離れさせて学校へ通わせる方法を検討してみることにする。
   
コルネリは、おばあさんと離れて暮らすのを嫌がり駄々をこねる。
   
しかし、 おばあさんもまた、同じ年の友だちと一緒に学び過ごすことで、コルネリ自身が良い方向に変化してくれる事を僅かに願いはじめる。
   
マルタおばあさんは、林間学校で河の上流のブナの森に訪れ写生をしたり、静かに読書をしている、穏やかで和やかな女生徒ニカと出会う。
そして、素直で落ち着いたコルネリがしおらしく優雅に成長する姿を想像する。
   
おばあさんが、引率の先生にコルネリの事を話したところ、快く先生は女生徒達を連れて療養院に遊びに来てくれることになった。
   
ニカは原作ではハルム家の次女であるが、コルネリの学友として改役する。
   
コルネリは、ニカ達と一緒に野山や牧場に出掛け、山葡萄を摘んだり、山羊の乳を搾ったりしているうちに、だんだんと表情が元のように明るく変わっていく。
   
アコーディオン伴奏するエルンストの指導の下、コルネリはオカリナ、ニカが小鐘を用いて牧場で長閑に美しい演奏を愉しむ。
   
コルネリは、ニカ達がチューリヒに住んでいること、そこで音楽の先生を探せばオルガンやピアノを演奏したり、合唱や歌曲を専門に学べること等、興味深い話を知る。
   
コルネリは、ニカとの別れ際にオカリナを手渡し、いつかきっとまた一緒に演奏しようと約束する。
   
ジノ君もチューリヒに住んでいたことを思い出したコルネリは、ジノ君へ相談の手紙を書くが、返事はこない。
   
ジノ君の身辺事が気になるコルネリは、ジノ君の住むチューリヒへ行って音楽を勉強したいとマルタおばあさんに申し出る。
   
フリードリッヒ経由でコルネリの希望についての話を聞いたドルナー伯母さまは、チューリッヒの女学校への入学を承諾する。
   
ドルナー伯母さまは、由緒正しいドイツの名門校に入学させ高貴なマナーを仕込ませたいと考えていた。
だが、チューリヒには取引銀行や商売の拠点があり、コルネリが一旦学校に落ち着いて生活態度が改まってから時機をみて、チューリヒでフリードリッヒが後妻を得てから一緒に暮らす邸宅を持たせたいという考えをも抱く。
   
 
第五話 「新しい生活」
   
チューリヒの女学校で生活するようになったコルネリは、バンダナを深く被り顔を伏せているので、初日から学校に溶け込むことが出来ない。
   
奇抜な格好なので上級生がからかい、先生も学校に相応しくないバンダナをとるよう命じたところ、コルネリは逆らって一目散に校舎を飛び出してしまう
   
一人でジノ君の邸宅(ハルム邸)を探し訪ねると、ピアノの旋律と歌唱練習が聞こえてくる。
邸宅の居間を覗き見していたところ、悪智恵の働きそうな老紳士(管財人)にロマの放浪娘(ジプシーの意)と怒鳴りつけられ追い返されてしまう。
   
ジノ君に会えず行くあてもないまま、気落ちし路地を歩くコルネリは、篭の中で鳴いている捨て猫(白黒のブチ)を見つける。
コルネリは自分の腰に下げていた小さな鐘を子猫の首輪にしてコーベルと名付ける。
   
目立つ格好のため、すぐに先生に見つかってしまい、学校へ連れ戻されるコルネリであるが、子猫をそっとリュックに忍ばせる。
   
学校に戻ると、以前療養院を見舞ってくれた女生徒ニカが、コルネリに声をかけ再会を喜んだ。
ニカはコルネリから貰ったオカリナを鳴らし、二人で演奏を楽しむ。
   
親切なニカは子猫コーベルのため食事をわけてくれ、コルネリも元気を取り戻す。
   
コルネリは、寄宿舎で母親の自画像と形見のオルゴールを枕元に、子猫コーベルを抱きかかえ笑顔で寝床に付く。
   
 
第六話 「再会の歌声」
   
意地悪な上級生に猫飼いの事を学校に知口られてしまったため、街で猫を譲ってくれた人に戻すと誤魔化し、コルネリはコーベルを抱え公園を彷徨っていると、故郷の曲の小さなかわいらしい男の子の歌声が聞こえてきた。
   
コルネリは美しい声で一緒に歌い始めると、後方からギターの伴奏が流れてくる。
コルネリはジノ君と劇的に再会した。
   
ハルム邸から雑居アパートに引っ越ししていたジノ君は、弟のムクちゃんの面倒を見ながら一緒に外で遊んでいるのであった。
   
コルネリは、老紳士に追い返されたこと、ピアノの旋律が聴こえたことを語ると、ジノ君はコルネリを招待するといって、立入禁止のハルム邸へと連れて行く。
   
 
第七話 「ハルム邸にて」
   
ムクちゃんに静かに待っているよう言い聞かせ、ジノ君とコルネリは裏口に隠している梯子を登り、屋敷へ忍び込んだ。
   
二人はピアノの音がする居間のドアを開け、ジノ君の姉アグネスが奏でている曲に合わせ歌い始める。
   
コルネリの声が美しく響きわたり、アグネスはその歌声の素晴らしさに、感動しコルネリの手を握りしめ讃えた。
   
暫くして管財人が、子猫を抱いたムクちゃんの手を引き居間に入ってきた。驚いたコルネリはカーテンの袖に隠れる。
   
管財人はアグネスに、事故や破損があるといけないので、小さい子を一人で勝手に庭で遊ばせないよう注意を促す。
そして、音楽家を目指すのは私財が抵当となったハルム家には難しいだろうから、すぐに家族を裕福に養い生活支援をするためにも、早期にハルム奥さまを説得して全ての財産整理を任すようにと語る。
   
アグネスはハルム邸で、ピアノや声楽の音楽指導を行っている。音楽祭にエントリーできるパートナーを探し養成しようと孤軍奮闘中である。
   
音楽祭で賞をとれば、指導を希望する生徒も増え音楽教師としての生業を行う道も開くのである。
   
しかし、関係者や親類に迷惑をかけることはできないので、音楽祭後に全私財の整理を管財人が行うことをハルム奥さまに働きかけるとして、邸宅への出入りを許して貰っていた。
   
歌唱練習に訪れた婦人がハルム邸の門を入ってくると、鐘を鳴らしながら子猫コーベルが、婦人の周りをムクちゃんと追いかけっこする。
硬い表情であったアグネスに、笑顔が戻る。
   
ハルム奥さまは、主人であった故ハルム氏を信じて任意の財産整理に同意をしない。
管財人達の手中から離れて自力で家計を支えるべく、得意としている洋裁の内職にほそぼそと取り組みはじめたものの、めったに口をきくことなく、人と会うことを避けている。
夫を亡くした悲しみと悔しさのあまり、雑居アパートの部屋ですっかり気落ちし力無く暮らしているのだった。
   
生前銀行家であった故ハルム氏は、不正融資背任の疑いをかけられてしまい、奥さまは業務引継ぎ銀行との力関係で容疑否認を公表することができないまま、水面下で不動産を任意に差し押さえられてしまった。
   
 
第八話 「学園天国」
   
女学校沿道でジノ君がギターをつま弾くと、コルネリは窓辺で歌声を響かせる。
ニカも合わせて小鐘を鳴らし、猫のコーベルが踊り出す。
   
当初は特異の目で見られていたコルネリであったが、次第に元気一杯明るく楽しくコミカルに歌い踊り学校の人気者となった。
   
自然児&お転婆ぶりも健在で、木に登り塀を飛び越え、上級生に意地悪されても萎縮する事なく立ち向かい、自由な振る舞いと持ち前のしたたかで確固とした信頼とポジションを築き上げていく。
   
アグネスはコルネリの放課後の音楽指導担当を買って出る。アグネスは女学校の卒業生なので万事首尾良く事が進む。
   
コルネリが音楽練習のためハルム邸を訪れると、管財人は放浪娘再来に驚き追い返そうとするが、一緒に訪れたアグネスの恩師である学校の先生に丁重なお願いをされてしまい、不本意ながら承諾してしまう。
   
管財人はハルム家と嘗て関わりのあった第三者に、邸宅の使用を制限している実情を話題にされるのを面倒と感じたのであった。
   
子猫のコーベルはコルネリにすっかりなつき、鐘を鳴らしながらハルム邸や女学校を一緒に往き来し神出鬼没する。
学校の管理人や上級生に追い立てられることもあるが、飼い主に似てすばしっこいので捕まることはない。
コルネリの寝床に潜り込んでいることが多いので、ニカや女生徒達にも可愛がられている。
   
ニカは、ジノ君が学業に専心できなくなっている状況に気が付き、コルネリにその悩みをそれとなく伝えてみる。
   
ニカは読書を好む、物静かで繊細な気品ある少女である。
いつも騒ぎをしているコルネリを温かく見守っているが、一見一緒に楽しそうにしているジノ君の表情に陰があることを密かに感じ取っていた。
   
コルネリは、マルタおばあさんにジノ君との再会、女学校での生活等、有意義に楽しく暮らしていることを手紙に記し郵送した。
   
勉強嫌いであったコルネリは、宣教師のエルンストが根気よく読み書きを指導してくれたお陰で、今では女学校でいろんな授業を受けても理解できるし、図書室には沢山の本があるのでとても恵まれている。
けれども、優秀で学習好きだったジノ君は、教会学校が教師不足であり教科書も使い回しなので、新しい知識を教えて貰える機会に乏しく、ジノ君に勉強を教えてくれる教師がいないのは不公平だと訴えた。
   
 
第九話 「音楽祭に向けて」
   
ハルム邸での音楽レッスンで、アグネスは大きな驚きと喜びを得た。
コルネリに歌曲を教え、その天賦の才を確信したのだ。
ジノ君から療養中に、コルネリと夏祭りに参加し町の人々に大変な好評を得たことは聞いていたが、どんな曲を歌わせても想像を遙かに超える才能だった。
   
アグネスは、チューリヒで行われる音楽祭に、コルネリを参加させることを思い描き、混成デュエットを編成するためにジノ君も邸宅によんで練習を始める。
   
管財人は音楽祭迄はジノ君についても邸宅への出入りを仕方なく許すことにしたが、邸宅内の備品物品は許可無く触れると罪になる事を強調し強く脅す。
しかし、そんなことは理解できないムクちゃんは以前と同じ自分の家だと思っており、子猫カウベルと邸宅内のあちこちを走り回るので、管財人はイライラしナーバスになる
   
ジノ君は、管財人がいない時を見計らって、コルネリを邸宅の屋根裏へと案内する。
   
屋根裏のドアには鍵がかけてあるので、コルネリとジノ君は裏口の陰に隠している梯子を使い窓から出入りした。
   
コルネリは屋根裏で、アルプスの山々の峰と湖、故郷の透き通る空気と優しい風を感じる風景画に目を奪われ深く感動する。
   
屋根裏部屋には、ジノ君が大切にしている本や調度品が置いてあったが、そこはハルム奥さまがアトリエとして使用していたため画材や絵画が多数保管されていた。
   
何故かコルネリは、ハルム奥さまが少女時代に描いたその風景画が、心の奥底の深い部分にとても馴染みのある画風で、母親の懐かしい雰囲気を感じるのがとても不思議であり、それが偶然や自分の思いこみだとはどうしても考えられなかった。
   
ジノ君曰くハルム奥さまは、みすぼらしく暮らしていて元気がないとのことだが、コルネリはハルム奥さまに会いたいと願い雑居アパートを訪ねてみる。
   

黙々と衣装デザイン画を描きながら裁縫箱を傍らに洋裁の仕事をしている口数の少ない様子から、ハルム奥さまがとても気落ちし苦難であることに、コルネリは気付いた。
しかし、対面し本来はとても優しく温かい頼りになる人柄であることもまた実感する。

   
ハルム奥さまは、ジノ君がギターをつま弾きコルネリが美しく歌うのを聞いて感動する。
コルネリがチロル地方の牧童のように、伸び伸びとした元気な女の子であると聞いていたのを思い出す。
   
ハルム奥さまは、コルネリの傷んだ服を繕い簡単にリフォームしてチロリアンリボンを縫いつけてあげた。
コルネリは服を大変に気に入り喜んで着用する。
   
コルネリは女学校に入学してから堅苦しい洋服をいやいや着ていたが、普段活発に動き回るあまりボタンが外れ所々がかなり痛んでいた。
   
その後も、コルネリは度々ジノ君のアパートの階下に立ち寄ることがあるのだが、毎回窓辺で微笑みかけてくれるハルム奥さまから、たとえようのない愛情を感じるようになる
   
 
第十話 「思いがけない再会」
   
いつものようにハルム邸に音楽練習に来たコルネリは、浮かれて興奮するジノ君の熱烈な出迎えを受ける。
一緒にムクちゃんもはしゃぎだし、つられてコーベルが跳ね回る。
   
練習が終わると、突然ジノ君に腕を引っ張られコルネリは教会へと連れていかれる。
   
いつも温厚でおとなしいジノ君が一体どうしたのか?不可解に思うコルネリ。
   
子猫コーベルが教会の猫にじゃれついている。
   
教会のドアをジノ君がそっと開けると、教会の猫が飛び込んでいってコーベルも追いつき祭壇へ飛び移る。
猫の乱入に婦人会の奥様方は、まばたきし唖然。
   
子猫の首につけた小鐘が鳴り響いたので、宣教師はすぐにコルネリの仕業であることを理解した。
   
宣教師が振り返ると、コルネリは目を輝かせて歩み寄り感極まって抱きつく。
コルネリは、チューリヒで思いがけずエルンストと再会することができた。
   
教会の鐘が響き渡る。
コルネリは祭壇の側でエルンストに身を寄せながら、目を閉じ喜びの涙をにじませる。
   
寄宿舎には、マルタおばあさんの手紙が届いていた。
   

『おばあさんの手紙』
教師不足であるチューリヒの教会の話を町の牧師に相談し、ジノ君のために一番良い方法を考えた。
チューリヒの牧師館に、コルネリがよく知っている最高に素晴らしい新任先生がいらっしゃいます。
この手紙を読むときには、そうです、きっともうコルネリが大好きで仕方ないエルンスト宣教師に再会しているかもしれませんね、と記載。

   
しかし、思いがけずチューリヒに訪れるのは、エルンストだけではなかった。
   
 
第十一話 「寄宿舎での一騒動」
   
エルンストがチューリヒへやって来てから数週間後、豪華な馬車が汽車駅前に停車していた。
グリデーレン執事から羽根帽子を貰い、被ってポーズし喜びの笑みを浮かべるミネ。
御者に手荷物の移動を指示し、ドルナー伯母さまの手をとる。
   
女学校の校長室でドルナー伯母さまとグリデーレン執事は、学校の責任者と先生に対面しコルネリの学校生活について懇談する。
   
抜き打ちで学校での様子を伺いたい意向の伯母さまは、コルネリを呼び出そうとする先生を制止していた。
   
第一印象は陰があって心配したが、今では学校生活に馴染み勉強も頑張っていること、非常に元気でいつも明るく歌の上手な学校の人気者であること、学友達ととても仲良く過ごしているとの報告を受ける。
   
コルネリは、エルンストと再会できたことの御礼を連絡しようと、マルタおばあさんに手紙を書く。
コーベルは羽根ペンに戯れついたため、コルネリに叱られ飛び上がってインク壺をひっくり返してしまう。
   
洗い場でインクまみれの服を洗濯するが、コーベルが今度は石鹸に戯れつくので怒るコルネリ。
そして、コルネリが服を干しているとコーベルがぶら下がり、物干しから洗濯物が落下する。
   
下着姿のままで、コーベルを追いかけ回すコルネリ。
丁度、宿舎へ入ってきた伯母さまが、コーベルの行く手に出遭わせ、引っ掻かれ悲鳴をあげる。
コルネリは、勢い余って執事にぶつかり転倒、一騒動となる。
   
ドルナー伯母さまは、以前のようにコルネリが元気溌剌になったのは認めるが、こちらの女学校にいても行儀作法は身に付かないようだと先生に嫌味を吐く。
グリデーレン執事は腕をすりむき痛がっているコルネリに、皆さんの前で恥ずかしい真似はやめなさいと咎める。
   
女学校の先生はすぐに伯母さんと執事にお怪我はないかと案じ、コルネリの腕も心配し看る。
   
宿舎に戻ったコルネリはコーベルを思い切り叱りつける、元気なくコーベルはしょんぼりと月夜に照らされ戸外へと消えていく。
   
 
第十二話 「コーベルの失踪」
   
コルネリは、フリードリッヒからの手紙を受け取る。
   
ドルナー伯母さまから女学校での騒動の話を聞いたこと、コルネリが出演する音楽祭迄にはチューリヒを訪れてみたいことが書かれていた。
   
門の外にジノ君とムクちゃんが迎えに来ている。
コルネリは、気合いを入れてハルム邸へと出掛けようとするが、校内を見渡してもコーベルが見つからない。
   
コーベルはインク壺をひっくり返し怒られて以来、コルネリと距離をおいて行動しがちになってきた。コルネリよりもニカやムクちゃんに甘えているのだ。
   
もう少しコーベルを可愛がってあげようと思いつつ、生意気なコーベルに対しついつい素っ気ない態度をとってしまうコルネリだった。
   
邸宅ではアグネスが歌唱レッスンの婦人の対応をしているので、手持ち無沙汰なムクちゃんと遊び時間を過ごすコルネリであったが、ムクちゃんは不機嫌である。
   
ムクちゃんはコーベルは何処だと問うてくるので、積木で遊び適当にやり過ごしていたコルネリであったが、ついにムクちゃんは怒り出しコーベルと叫び居間の装飾品からとったコーベルお気に入りの孔雀の羽を持って邸宅内を徘徊しはじめる。
   
管財人が、コラッ!とムクちゃんを注意する。
そして、アグネスの方へやって来て、今日はコルネリの伯母さま一行が邸宅見学にいらっしゃる予定であるそうなんで、静かにおとなしくしていてくれと命令。
   
コルネリはムクちゃんをなだめ、今日はおっかない人達が大勢くるからおとなしくしてなきゃ駄目よとたしなめる。
しかし、ムクちゃんは相変わらず一緒にコーベルを捜そうと言って聞かないので、コルネリは、よい子で一人で遊んでなさいとキツク叱ってしまう。
納得いかないムクちゃん。
   
コルネリとジノ君の練習が始まり、アグネスの伴奏に合唱する二人。
   
屋外へ出てコーベルを捜し廻るムクちゃんは、管財人にコーベルを見たか尋ねる。
管財人は、うるさい猫は放り出した、お前もここからつまみ出すぞと脅す。
ムクちゃんは息を切らして門へ逃げていく。
   
ハルム邸の門前に馬車が停まり、ドルナー伯母さま一行が降り立つ。
   
ムクちゃんを見た銀行家の青年が、手に持ってる孔雀羽はどうしたと尋ね、「持ち主の解らない拾いモノは警察に届けるんだぞ!」と軽く説教する。
ムクちゃんは青年を仰ぎ見て孔雀羽を突っ返し、門外へと駆けていく。
   
邸宅にコーベルはいないと悟ったムクちゃんは、女学校の沿道でコーベルと叫び捜し続ける。
   
一人でいるムクちゃんを見つけたニカは、一緒に公園へとコーベルを捜しに行く。
   
なかなかコーベルの姿を見つけれずイラついてるムクちゃんに、ニカはあめ玉をあげて猫が居そうな場所を考えてみようと優しく話しかける。
   
ムクちゃんの手を取り教会に辿り着いたニカを見て、エルンストが声を掛ける。
   
エルンストは礼拝堂の裏口に二人を案内し、教会に住み着いている猫とじゃれ合っているコーベルを見つける。
   
 
第十三話 「門前での発覚」
   
銀行家の青年がドアをノックした。
青年はドルナー伯母さまとグリデーレン執事を連れて、丁重にアグネスに挨拶する。
   
コルネリに邸宅はお気に召しているか?
コルネリがお住まいになるのなら、アグネスやハルム家の人は安心すると述べるが、コルネリは何のことか理解できず呆然とする。
   
アグネスは青年から目を背け、お邪魔になるかと思うので失礼するといい、ジノ君を連れ部屋を出る。
そして、帰宅しようとしたところムクちゃんが居ないことに気付き、邸宅の周辺を捜し始める。
   
銀行家の青年は伯母さま一行に屋内の案内をするが、ムクちゃんを捜す声を聞いてコルネリも邸宅内でムクちゃんを捜し始める。
管財人が制止するが無視するコルネリ。
   
伯母さまがコルネリの聞きわけの無さを咎めるが、執事は邸宅内を歩き回るコルネリの側に寄り添い優しく話しかける。
   
母親を亡くしてから一人ぼっちで寂しい思いをしていたのに気付かず随分と厳しい扱いをして悪かった、これからはここの邸宅で一緒に不自由なく暮らしましょう、とグリデーレン執事はコルネリに話しかける。
   
コルネリは学校で生活しているし、ここはジノ君達のハルム邸で自分たちが住むところではないと断言する。
   
邸宅見学後コルネリと共に馬車の横で待つ執事、青年と伯母さまが門に集まってくる。
ムクちゃんを捜し出せなかったアグネスとジノ君も戻ってくる。
   
するとそのとき、なんとエルンストがムクちゃんとコーベルを連れハルム邸の門前に出現した。
   
ビックリ仰天の伯母さま一行。
エルンストは皆さんお揃いで、と挨拶をしどうされたのか問いかけをする。
   
伯母さまは淡々とコルネリがこちらの邸宅を気に入っており、執事と共に暮らすことになると答える。
しかし、ここはジノ君の家だ、私は住むつもりはない!とコルネリは大声で反論。
   
執事はコルネリをなだめ、チューリヒで高貴な生活をしましょうと説得する。
   
ミネが被っている羽根帽子を指さし、コルネリが私に黙って隠してしまった帽子、コルネリが正直に欲しいと言ってくれないので、一緒にやって来たミネに似合いそうだと思い譲ってしまった。
しかし、この邸宅でお嬢さんとして暮らすのならば、コルネリによく似合う、あの帽子や高級な服装をすぐに探して準備すると語り同意を得ようとした。
   
大憤慨するコルネリ。
一度でもあの羽根帽子に触れたことはないし、ましてやかぶりたくもないと叫び執事を睨み付ける。
   
エルンストが、羽根帽子に纏わるミネの行動の一部始終を暴露する。
   
屋敷を通りかかったときにミネが窓際で風に煽られ帽子を吹き飛ばしてしまい、道端で拾って返した帽子ではないのか、随分気に入って試しに被っていた様子だったけど?と疑問に思い呟いた。
   
青ざめていくミネ。コルネリが気に入ってくれるかと思い、先ず私が手にしてあげようと思った…と言い訳を始める。
   
執事は、弁解など聞きたくないと叫び、ミネに謝罪をさせる。
   
 
第十四話 「沈黙の屋根裏部屋」
   
ジノ君が校門でニカと仲良く話し込んでいる。
ジノ君が来たことを知ったコルネリは、校舎を駆け下りていく。
   
ジノ君はコルネリに、今日は音楽祭の練習が中止になったと告げる。
   
銀行家の青年が、アグネスに身の振り方を口説くために、話し合いの時間を持ちかけていた。
   
ニカはジノ君に本を手渡し、小説談義にあけくれている。
   
最近ジノ君とニカが親交を深めているため、コルネリは面白くなく思っている。
しかし、コルネリはそれが自分自身の嫉妬という感情であることをよく解っていない。
   
ムクちゃんはコーベルを撫で回し暇そうなので、コルネリは声を掛けるが、後でニカと一緒に遊ぶといわれてしまう。
   
コルネリは、池に浮かぶボールを見つけ、引き寄せようと手元の水を掻くが、逆に何も寄ってこず離れていってしまう。
そして 、妙に腑に落ちない、落ち着かない寂しさを感じはじめた。
   
コルネリはセンチな気分で部屋に戻り、形見のオルゴールを手に取った。
そして、ふとハルム奥さまのアトリエで牧場の風景画を眺めてみたくなる。
   
とりあえず、何故練習が中止になったのかジノ君に確認したかったのだが、話に割って入るのも申し訳ない。
聞こえるか解らないが、ニカに一言、ハルム邸の様子見に行くと告げ、コーベルの鼻先に羽根ペンをちらつかせて、ムクちゃんへ手渡し外出する。
じっと、コルネリを見つめ鳴き声を上げるコーベル。
   
ハルム邸の居間では、銀行家の青年とアグネスが神妙な表情で話し合いをしている。
気が付かれないように庭を通り抜け、裏口に隠してある梯子を登りこっそりと屋根裏の窓に忍び込むコルネリ。
   
絵画の美しい牧場の情景に魅とれながら、オルゴールの発条を巻きメロディーを奏でる。
   
母親の自画像をリュックから取り出して眺めていると、何も心配せず天命に委ねるようにと、故郷いや別世界から心地よい旋律がコルネリの心に語りかけてきた。
   
オルゴールの響きに陶酔しているコルネリであったが、人の気配を感じゼンマイを止めた。
すると、 ジノ君が窓から入ってきた。
   
ジノ君は、コルネリが沈んだ表情でハルム邸に出掛けたことをニカから聞いたのだった。
   
ジノ君は屋根裏に入ってくるや不自然な半開きのトランクケースに気付き、そしてゴミ箱に色々な書類が捨ててあるのを発見する。
トランクを開け中身を見ると、ジノ君にもよく解らない公文書が多数入っており、ゴミ箱にはコルネリがジノ君に宛てて書いた手紙が混じっていた。
   
コルネリは、誰かが邸宅に届いていた郵便物等を、勝手に処分しようとしていた事を知る。
   
その時、階段を上がってくる大人の足音が聞こえた。
まさか、屋根裏に来るわけはないと高をくくっていたが、銀行家の青年と管財人が屋根裏のドア鍵を回し始めた。
   
古箪笥を開け大急ぎで隠れろと呟くジノ君、咄嗟にコルネリの手を引き間一髪二人は身を潜めた。
   
銀行家の青年はトランクケースの中身を机に広げた。
そして、何やら管財人と話し合っている。
青年はコルネリのオルゴールのふたを開けて眺め、この箱の中は丁度いいぞ、と呟きながら持ち去ろうとする。
動揺して身動きしてしまうコルネリ。
   
物音を聞いて不可解に思った管財人が古箪笥へ近づいてくる。
焦るコルネリとジノ君、その時、古箪笥の裏にある窓辺にコーベルが現れ小鐘を鳴らす、屋根裏をネズミがかけていく。
   
管財人達は、オルゴールは屋根裏にそのまま残して、トランクとゴミを回収し邸宅を去った。
   
突然、咳き込むジノ君。
心配になったコルネリは背中をさするが、ジノ君は前々から胸を病んでいて偶に発作があったので。
管財人から隠れているときに持病を催さなくて良かったと息切れしながら溜息をつく。
   
コルネリは、邸宅内のアグネスを呼んできてジノ君を介抱する。
そして、咳がおさまり落ち着きを取り戻したジノ君は、屋根裏で見聞きしたことをアグネスに説明しはじめる。
ハルム奥さまや家族だけでは力不足で、管財人のいいようにされてきたのでエルンストに明日相談して打開策を考えたらどうかとアグネスに言う。
   
 
第十五話 「エルンストの判断」
   
音楽祭が近づきレッスンに力を入れなければならないが、練習の後コルネリとジノ君は教会へとアグネスを連れて行く。
   
教会でアグネスはハルム家の財産相続、銀行家であったハルム氏の不正容疑、等の全ての問題をエルンストに語った。
   
ムクちゃんを連れ帰ってくれて、コルネリを擁護している姿を見て以来、アグネスはエルンストに一方ならぬ信頼感を抱いていた。
   
業務拡張してから銀行の融資問題に絡み、フリードリッヒがドルナー家との利害関係に気遣いしたため屋敷を半ば乗っ取らせている事態をエルンストは思い起こし連想した。
そして、偶然にもジノ君の父親が亡くなった後に仕組まれた不正を口実に、管財人がドルナー商会を利用していたことによって全経緯の点と点、線と線を結んだ絡繰りを解明できると推定し、アグネスに説明をする。
   
ハルム家の財産を管財人達が横領するであろう事態を理解していないフリードリッヒに、このことをいち早く伝えるべきとエルンストは考える。
   
 
第十六話 「フリードリッヒの決断」
   
いよいよ、音楽祭間近となった。
コルネリとジノ君の練習も最終段階である。
   
フリードリッヒは、チューリヒに到着し先ず教会の牧師館に訪れた。
   
フリードリッヒはマルタおばあさんから、エルンストがコルネリの友だちの教会学校で教鞭をとっているという話を聞いていたのだった。
   
エルンストは、コルネリがお世話になっているハルム家の事態をフリードリッヒへ出来る限り客観的に説明する。
   
フリードリッヒはコルネリの友人であるジノ君の父親が、偶然にも工場の融資と資金運用を担当し親交のあった銀行家の故ハルム氏であったことを知り驚く。
ドルナー家の利害優先のために働いている引き継ぎ銀行に全てを一任していたが、その実態を把握しきれていなかったことを悔いる。
ハルム家へ迷惑を掛けてしまった償いは、どのような損害を負ってでも果たすことを決意する。
   
ともかくフリードリッヒは、早急に管財人達に会って対処すべきと察し銀行へと足を運ぶ。
ハルム氏が立ち会った融資金は、フリードリッヒが事業を整理し直ぐに完済するつもりなので、ハルム家の私財の任意差し押さえを即刻止めるよう銀行家の青年に宣告する。
   
フリードリッヒは、ハルム邸に訪れる。
久しぶりに父親と対面し喜ぶコルネリ。
   
フリードリッヒはハルム邸の差し押さえを止めさせて、近日中にジノ君達が元通りの生活に復帰できるように計らうので安心するように告げる。
そして、何といっても此処はジノ君達の家なのだから自由にくつろぐように言う。
大喜びで邸宅内をはしゃぎ駆けまわる子供達。
   
ジノ君はムクちゃんとコルネリをハルム氏の書斎へと案内する。
書斎に入っても本当に良いのか心配しているムクちゃんに、ジノ君はこれからはムクちゃんが好きなときに入って好きなだけ居てもいいと答える。
   
書斎には綺麗な調度品が並び、ジノ君は故ハルム氏が愛用していた文具や家具を感慨深げに眺める。
ムクちゃんは、はしゃぎまわって大きな地球儀にコーベルを乗せて回転させ遊び始める。
   
ムクちゃんは机の上にある故ハルム氏愛用のライターに興味を示し、腰掛け椅子に居心地良さそうに身体を横たえながらいじり始める、使い方が解らないので点火はできない。
   
その時、管財人がドアをノックして書斎に入ってきた。
ジノ君とコルネリは怒られるかと緊張して構えたが、正式に償還手続きが完了するまでは、念のため子供達を邸宅内で遊ばせないようにして頂きたいと、管財人はフリードリッヒへ丁重に懇願する。
   
フリードリッヒは、今日の所はコルネリ達に書斎から出るように告げるが、ムクちゃんはライターを手にし遊んでいる。
いきなり点火させてしまい驚くムクちゃん。
   
ジノ君が危険だから悪戯したら駄目だとライターを取り上げ、ムクちゃんの手の届かない机の上にライターを戻す。
   
ムクちゃんはライターを惜しそうに机を見ていたが、諦めて部屋を出る。
その様子をじっと見ている管財人。
   
フリードリッヒ達が立ち去ってから、管財人は銀行家の青年を責め立てる。
   
穏便にハルム氏の財産を譲り受けるという計画を信じて青年に協力してきたが、アグネスを口説く話が上手く進んでいない上に、フリードリッヒまでもがハルム家に肩入れするとはあまりにやり方が手緩すぎる。
管財人なりの考えですぐに邸宅を処分し整理すると強く主張。
   
 
第十七話 「音楽祭」
   
いよいよ音楽祭当日となった。
練習の成果あってリハーサルは十二分の出来だった。
アグネスは、コルネリとジノ君の合唱に太鼓判を押す。
   
音楽祭の準備が整う中、フリードリッヒが楽屋のコルネリ達に挨拶に訪れた。
   
フリードリッヒはアグネスを労い、コルネリの音楽の才能にとても期待している、賞を取った折りには是非とも御礼がしたい等と述べる。
   
コルネリは、もし賞がとれたらアグネスに楽器を寄付し、ジノ君達が生活する邸宅での音楽教室を支援して欲しいと、話に割って入る。
   
コルネリはさほど緊張していないのだが、ジノ君は大観衆を前に心配になっている様子なので、コルネリは全てを天命に任しなさいといい励ます。
しかし、ジノ君は気分の悪そうな表情である。
   
エルンストとニカがムクちゃんを連れ、コルネリ達を励ましに楽屋にやってきた。
エルンストは緊張を和らげてあげようとアコーディオンを弾き始める。
ニカは小鐘を鳴らしながらオカリナをコルネリに渡す。
コルネリは不安そうなジノ君を励ますべくオカリナを吹く。
素晴らしい演奏に聴き入るアグネス。
ムクちゃんはコーベルを抱きステップを踏む。
   
安堵な表情で微笑みを浮かべるジノ君であったが、突如、気管支の発作を起こし始めた。
いつもは数分すれば治まる咳が全く止まらない。
アグネスが介抱していると、ジノ君の口から鮮血の混じった泡が吹き出す。
   
本番を前にしながらも全く緊張感の無いコルネリであったが、さすがに今度ばかりはかなり動揺し聴牌した。
   
大丈夫だと呟くジノ君ではあったが、周りの人間はさすがに音楽祭の事などは頭から吹っ飛ぶ。
   
ジノ君は、辞退はしないでくれ、替わりにエルンストやニカが助けてくれる。
みんなとコルネリが出演するのこそ天命なんだ、ぼくの事は何も心配しないで、コルネリ達はこのまま音楽祭の会場にいて笑顔で元気よく出演してくれと語る。
   
アグネスも、先程聴かせてもらった曲を音楽祭本番で演奏し、ジノ君を励ましてくださいと必死にエルンストにお願いする。
   
音楽祭のプログラムが次々と進行していく、エルンストがコルネリとニカにここは舞台じゃないくて牧場だ、観客なんてみんな牛と山羊だ、緊張しないで精一杯ジノ君を励ます演奏をしよう、と告げる。
   
そして本番、コルネリ達の出番となり曲が始まると音楽祭の会場は、一転してアルプスの峰から差し込むやわらかい日差しと森の澄んだそよ風の雰囲気に包まれた。
コルネリはオカリナを吹き、それからエルンストのアコーディオン伴奏でヨーデルを歌い、ニカが小鐘で牧場の音色でリズムを刻む。
   
癒される観衆達、フリードリッヒは目を閉じ感慨に耽る。
   
演奏が終わり、一瞬の静寂な時間の流れの後、大喝采となる。
   
 
第十八話 「受賞の報告」
   
音楽祭で受賞をしたコルネリ達は喜びも束の間でジノ君の事を心配に思っていると、アグネスがムクちゃんを連れ会場に現れた。
   
コルネリの受賞を喜ぶアグネス。ジノ君は発作が落ち着き容態は安定しているが、安静にした方がよいのでハルム奥さまが付き添い、邸宅の近くにある病院に入院し寝ているとのこと。
   
ジノ君はもともと胸を病んでいて年に一二回は発作を起こすのだが、今回のように多量の喀血をしたのは初めてなので心配し動揺した。
しかし、ツベルクリンの陽性反応はなく病状は大事ではない。雑居アパートの辺りは黒煙がたちこめ空気が悪いので、ジノ君への環境をあまり配慮せず、街中で生活していたのが最近の発作の要因であると考えられた。
   
コルネリ達は、病院にジノ君を見舞い受賞の報告をするのを翌日にする。
   
 
第十九話 「喜びの見舞い」
   
コルネリ達は、病院へジノ君を見舞う。
   
コルネリはコーベルを抱きかかえ病院へ入ったところ、医者に呼び止められアレルギーのある患者もいるのでペットは院内に持ち込まないよう注意を受ける。
仕方ないので病院の外にコーベルを放す。
ムクちゃんがコーベルを捕まえたので、コルネリは病院の庭で一緒に遊んでいるように言う。
   
ハルム奥さまはコルネリ達の活躍を聞いて、今までのどこか蔭っていた表情が嘘であるかのような晴れ晴れとした満身の笑みを称え大喜びした。
   
ジノ君はマスクをしているものの、顔色も良好でいたって元気であり、ギターをつま弾き伴奏するので、コルネリ達は歌い始める。
   
しばらくして、フリードリッヒもジノ君を見舞いに訪れた。
アグネスと互いに礼を言い、ハルム奥さまに邸宅の返還についてを説明し約束する。
何もかもが好転し、心から安心する奥さま。
   
病院の庭で遊んでいたムクちゃんは、コーベルを追いかけ敷地の外に出る。
   
管財人が邸宅の沿道を歩いているムクちゃんを見つけ声を掛ける。
管財人を嫌い避けようとするムクちゃん。
   
管財人が、故ハルム氏愛用のライターをムクちゃんにあげると語りかけ、邸宅の書斎から持ってくると、ライターの点火の仕方をムクちゃんに教える。
   
ムクちゃんは管財人と別れ、路上で炎に顔を近づけたり手を翳し遊んでいると指を軽くやけどしてしまう。
たまたま、通りかかりその様子を目撃した歌唱練習の婦人は慌てて、危ないから後でアグネスさんに渡すといいムクちゃんからライターを取り上げる。
   
コーベルは炎を嫌がり、ムクちゃんから離れて邸宅の庭に入っていったので、ムクちゃんも邸宅へと入り込み追いかけていく。
そして、ムクちゃんはコーベルに続いて、管財人に気づかれないように開いた窓から邸宅の内に忍び足で入っていく。
   
歌唱練習の婦人は、ムクちゃんが邸宅内へと入っていくのを見届ける、しかし、その後に管財人が何やらソワソワと逃げるように邸宅から出てくるのを目にする。
   
ムクちゃんは、書斎へと入りコーベルを地球儀の上で遊ばせ、腰掛け椅子に身体を横たえお父さんに包容されていた感覚を回想しながら夢心地になる。
   
 
第二十話 「燃ゆるハルム邸」
   
コルネリは病室の窓から外を眺め、ムクちゃんを病院の庭に探したが見当たらない、すると何やらハルム邸の方角から煙が立ち昇っているのを発見する。
   
コルネリに指摘されジノ君は外を眺めると、ハルム邸から煙が立ち昇っていることに気付く。ジノ君は、すぐさま駆け出し病室を飛び出す。
   
アグネスは驚いてジノ君を制止するが、コルネリの指摘で窓からハルム邸をみて愕然とする。
   
コルネリ達は大急ぎで邸宅に到着する。
煙に包まれるハルム邸。
   
野次馬が集っている中から、歌唱練習の婦人がアグネスの前に出てきて、ムクちゃんが路上で火遊びをしていて注意したら邸宅へと入っていったことを伝え、ムクちゃんから取り上げたライターをアグネスに手渡す。
   
邸宅の中にムクちゃんがいるかも知れないという事を知ったアグネスは絶叫し、ムクちゃんの名を連呼するが邸宅からは何も反応がない。
しかし、猫の鳴き声が聞こえ書斎の窓辺にいるコーベルが発見される。
   
直ぐさまジノ君は裏口に隠してあった梯子をとり、書斎の窓辺に立てかける。
   
昇ろうとしているジノ君に梯子を押さえているよう告げ、エルンストが書斎の窓から邸宅へと入っていく。
そして、ドアから少しずつ煙が入り込んできた書斎の長椅子で横になっているムクちゃんを見つけ救出し、コーベルを頭に乗せ梯子を降りてくる。
   
心配し動揺している奥さまがムクちゃんを揺すると、パパーパパー何処にいるの?と目をこすりながら寝惚け声を出す。
息がある事を確認し、一安心する一同。
   
ムクちゃんが無事であることを認識したコルネリは、みんなが見ていない隙に梯子を裏口へ移動し立て掛け替えて屋根裏へと昇っていく。
   
咄嗟にジノ君も気が付いてコルネリの後を追う。
   
コルネリは屋根裏で、懸命にオルゴールを探すがどうしても見つからない。
母の自画像を確保しリュックに入れたが、焦りながらあちらこちらをひっくり返す。
   
コルネリは煙に巻かれ咳き込み始めた。ジノ君が咄嗟にコルネリのかぶっているバンダナを外し、鼻と口が隠れるように覆ってあげる。
   
ジノ君はマスクをしているので、幾分耐えていたがやはり咳が出始め、発作を催した。
オルゴールを諦め、慌ててジノ君を介抱しながら屋根に出るコルネリ。
   
梯子に戻ろうとしたが、既に炎が回り込んでいて近づけない。
   
コルネリは屋根から、庭木の枝に飛び移った。そして得意の木登りで上部の枝先に移動して先端をしならせ枝を屋根に下ろす。
ジノ君は枝に移り、庭木へ無事移動する。
   
そして、枝先にしがみついて屋根にいたコルネリも伝って庭木へと移ろうとしたところ、枝がバキンと折れる。
落下するコルネリ、しかし、フリードリッヒが下で待ちかまえコルネリをしっかり受けとめ抱きしめる。
   
野次馬達が一斉に拍手をし、その救出劇を讃えた。消防と公安も駆けつけ消火作業をしながらその様子を見ている。
   
 
第二十一話 「病院での目覚め」
疲労していたコルネリは、病院で長時間睡眠し目覚めた。
ムクちゃんジノ君と一緒にコルネリも連れられて来たのであった。
   
心配されていたムクちゃんは、全く無傷で元気でありコーベルは何処?と呟きベットから起きあがろうとするが、アグネスはおとなしくしてなさいと寝かしつける。
そして、アグネスはムクちゃんが手にし遊んでいたというライターを見つめながら、首をかしげ溜息を吐く。
   
ジノ君は無理が祟っているところに煙を吸ってしまった様子だが、ベッドに横たわり笑顔でコルネリにおはようと挨拶する。
   
コルネリは起きあがり、ジノ君とハルム奥さまを心配して声を掛ける。
   
ハルム奥さまはコルネリを包容しキスをして、コルネリが助けてくれたお陰でジノ君は大丈夫、邸宅は全焼してしまったが、そんなことよりも三人とも無事だったのが何よりだと答える。
   
フリードリッヒが病室に入ってきた。
寝起きのコルネリを見て無事で良かったことを喜ぶが、しかし、何故?火事となった邸宅の屋根に登っていったのかを問いかける。
   
コルネリは屋根裏でハルム奥さまの絵画を鑑賞し想いに浸るのが心の支えであった事を話し、火事場でオルゴールを見つけられなかった事を不思議に思い考え込んでしまう。
悔やみ非常にしょんぼりするコルネリに対して、それ以上質問するのを一旦控えるフリードリッヒ。
   
ガッカリしながらボサボサの頭のコルネリは寝間着を着替えようとしていると、フリードリッヒは煤まみれだった服をハルム奥さまが洗濯してくれた事を告げ、先ずは顔と髪を洗うようにコルネリに言う。
   
シャワーでこざっぱりしたコルネリは、フリードリッヒと一緒に庭の物干し台へと向かうと、丁度エルンストとニカが見舞いに病院にやってきた。
   
ニカがコーベルを抱いていたところ、病院の職員にペットを持ち込まないよう注意される。
コルネリはコーベルを預かり、ニカにジノ君の病室ナンバーを教える。
   
エルンストとフリードリッヒが玄関で立ち話しているので、コルネリは一人で物干場に服を取り込みに行くが、洋服は半乾きで湿っている。
   
子猫コーベルの鐘の音が外から聞こえたのに気が付き、ムクちゃんは病室から階下を眺め、やがて庭に降りてきた。
コーベルと遊ぶムクちゃん。
   
コルネリは既に乾いているバンダナを頭にかぶり一旦院内に戻ろうとするが、コーベルとムクちゃんを置き去りにした事が発端で今回の事件が発生したことに気付く。
仕方ないのでムクちゃんと暫く庭で遊ぶコルネリ。
   
 
第二十二話 「病院での対談」
   
管財人と銀行家の青年が揃って病院にやってきた。
病院の玄関ホールでフリードリッヒに出会う。
   

管財人達はハルム奥さまにお話ししたい事があると語る。
フリードリッヒは、突然の訪問は皆が動揺すると思われるため、先に話を伺い奥さまに伝達するので病室への見舞いはお引き取り願いたい旨申し出る。
しかし、管財人達は本人でないと解らない点もあるので、火災の検証にて立ち会う事前に早急にお会いし相談したいという。

   
エルンストが病室へと向かい、暫くしてハルム奥さまとアグネスが玄関にやってきた。
   
管財人は、先ずは火災事故でご傷心であることを見舞い申し上げる。
そして、昨日は留守にしていてすっと邸宅内には居なかったので火の気は無かったはずだが、開いた窓からムクちゃんが侵入し火遊びをしたようで、管理が手薄であったことが悔やまれると語る。
   
管財人達は音楽祭後に財産整理を進めることを、アグネスに申し入れしていた。
今回の火災で不動産を消失してしまい故ハルム氏絡みの抵当を処分することが困難である。
フリードリッヒに融資金の償還を約束頂いたものの、しかし、抵当権が発生し付保した火災保険の名義は管財人にしてある、と権利を主張し説明する。
管財人達は任意にて財産整理の融通を計るつもりだと語る。
   
ハルム奥さまは、相続を都合して貰うつもりはないし、故ハルム氏の不正に関する疑いを業務引継銀行の権限でもみ消す事に甘んじるつもりもないと述べる。
   
すると、管財人が故ハルム氏の所有していた名前入りトランクケースをハルム奥さまの前に差しだす。
そして、改竄された預託金証書をケースを開け取り出し、二重の帳簿や会計資料、手紙文書類を示し、故ハルム氏が犯罪者になってもよいのか?と奥さまに問いかける。
   
ハルム奥さまは全財産を失うリスクを負ってでも身の潔白にケジメをつけ、故ハルム氏の容疑否認を法廷に訴え法的に財産整理を進めるつもりであると語る。
   
フリードリッヒが割って入り、故ハルム氏は銀行家として愚直に誠実に仕事をされており、実に信頼があり顧客に一切の損害を与えていない。
これらの公文書類を改竄する意図が解らないし、誰かの陰謀によって作成されたのではないか?どうして故ハルム氏の仕業だと言えるのかと反論。
   
引継ぎの全業務を任せられた銀行家の青年は、邸宅にあるこれらの証拠書類の処分を行い、アグネスと一緒になり後継者として相続の融通をすることを、実は故ハルム氏が望まれていたと語る。
銀行業務の不正に関する損害についてをそのまま見逃すことはできず、そこを埋め合わせる一番良い方法にて財産を整理する方針で行動してきたと虚る。
結果的に生涯の伴侶として一緒になりたいと心に想っていたアグネスを口説けず、奥さまからもご理解頂けないので、他に誤魔化しようがなく証拠物件を提示しているまでだと嘆く。
   
アグネスは、故ハルム氏に付き添い仕事をしていた銀行家の青年とは以前から面識があり、好意を抱いて頂いていた事を有難く思っていた。
しかし、どうも不透明ではっきりしないお付き合いの経緯と今回の管財人との関係にて腑に落ちない点が多く信用できなくなっている。
そして、公文書偽造を故ハルム氏が手がけ邸宅に隠していた根拠は、一切ないと告げる。
   
公安数名が、ハルム邸の火災について事情徴収するために病院の門を入ってきた。
バンダナを被っている少女コルネリとムクちゃんが病院の門庭にいるのを見かけた公安は、二人に歩み寄っていく。
   
ハルム邸が火事に至るまでに何処で何をしていたのか?
ゆっくりとした口調で、根掘り葉掘りコルネリとムクちゃんに問いかける公安。
   
 
第二十三話 「故ハルム氏の鍵」
   
銀行家の青年は、ハルム氏のトランクケースと鍵は邸宅の屋根裏にあったのをお預かりしたと言って、おもむろにオルゴールを取り出し開けた。
ご存じですねと問いかけながら、アグネスと奥さまの面前に置く。
   
鍵の入ったオルゴールを手に取った奥さまは、不可解な表情をしながら発条を巻き曲を奏で始める。
   
ハルム奥さまは、何て素晴らしいオルゴールだと賞賛し、非常に良い仕事で最高の作りであるが、このオルゴールを目にしたのは今日初めてであると応える。
   
その時、事情徴収の終わったコルネリと公安が玄関ホールに入ってきた。聞き慣れ親しんでいる大好きな母親の形見のオルゴールの旋律がホールに響き渡る。
   
驚いたコルネリはオルゴールに駆け寄り、メロディーに聴き入りながら手足を小刻みに震わす。
   
コルネリは、オルゴールを抱きしめフリードリッヒの元へと走り寄る。その途中で鍵が床に落ちる。
   
コルネリは、何故煙に包まれているハルム邸の屋根裏へ登っていったのか、その全てを語った。
そして、何よりも大切なオルゴールが今手元にあることを喜ぶ。
   
冷汗状態の管財人達。
   
今度は反対にアグネスが、管財人は邸宅を不在にし管理不行であった訳では無かったのでは?と問いかけた。
見覚えは御座いますねと言いライターを管財人達の目の前に置く。
そして、ムクちゃんが邸宅の沿道で火遊びしていたところを知人が取り上げたものだが、その後に管財人が邸宅から出てきたのを見かけたという証言を告知する。
   
愕然とし震える管財人達。
   
静まりかえる一同。沈黙の中、鍵を拾ってコルネリに渡そうとするムクちゃん。
   
コルネリは、その鍵は自分の物ではないとムクちゃんに言う。
   
ムクちゃんが困っていると、管財人が何かの勘違いだ、誰がトランクの鍵をそんな所に隠したのかよく解らないので預かるといい、ムクちゃんから鍵を取り上げる。
   
ムクちゃんは、銀行家の青年を見上げ管財人を指さし、「持ち主の解らない拾いモノは警察に届けるんだぞ!」と以前説教された言葉をそのまま返す。
   
押し黙ってしまう青年、そして、一呼吸置き警察に届け出るつもりだが、鍵は持ち主に返すことにするよと答える。
   
青年はアグネスを見つめ、自分は全くの役不足で根本的な過ちを犯し続けていた。
私と一緒になることが理想と思っていたが、本当の幸せを掴みとることができるのは、故ハルム氏が残したこの鍵だった。
アグネスを見つめ改竄書類は全て自分達の仕業なので警察に届け出ますと発し、この鍵とトランクに残した証書を大切に相続して下さいと語りかける。
   
膝を落とし平伏する管財人、公安に出頭する青年。
   
 
第二十四話 「自画像の作者」
   
病室に戻ったコルネリは、ジノ君とニカにオルゴールを取り戻したことを報告する。
そして、リュックから母親の自画像を取り出し、眺めながらオルゴールを奏で始める。
   
美しい音色に合わせ合唱する子供達。微笑し見守るフリードリッヒ一同。
   
フリードリッヒは、コルネリアに捧げた自社製の手の込んだオルゴールに接して、この上ないもの作りの素晴らしさを改めて悟る。
そして、 兵器に使われる量産部品を手がけている、最近の利益最優先の経営方針に疑問を感じるのであった。
   
コルネリが掲げた母親の自画像を目にした、ハルム奥さまが目の色を変えた。
コルネリに近寄り抱きしめながら、コルネリがコルネリア(コルネリの母の名)の娘であった事に気付き嬉しい悲鳴をあげる。
   
ハルム奥さまは少女の頃、コルネリの故郷の町の上流にある避暑地で夏を過ごしたことがあった。
そのときに知り合い心の奥底から信頼し合って仲良く遊んだ友人が、コルネリの母親コルネリアであった。
ハルム奥さまは、楽しく純粋な想い出を沢山共有したコルネリアの姿を絵に描き、その当時プレゼントしていたのだ。
なお、奥さまはジノ君の夏期療養についても、良き想い出のある場所にこだわった結果、コルネリの故郷の町を選定していたのだった。
   
ハルム奥さまは、コルネリのかぶるバンダナを優しく外し首にそっと結ぶ。
   
不思議と何故か抵抗しないコルネリ。
   
奥さまはコルネリの髪をゆっくりと梳かして結い、そして、今まではバンダナが目について気に留めていなかったが、容姿も雰囲気も清らかで美しく母親のコルネリアにそっくりであると心から賛美した。
   
髪を結って貰ったコルネリの姿を鏡に映してあげるニカ。
コルネリは自身の姿では無いような気がしたが、しかし母親から受け継いだ自分という今までに経験したことのない自然体である感覚がこみ上げてくる。
ジノ君も綺麗過ぎて別人みたいだが、これが本当のコルネリだと評した。
   
コルネリは、ハルム奥さまと接していくうちに体裁でかぶっていた感情の殻が溶け、何もかもが天命であるような、全てを素直に受け入れられる、大らかで淑やかな心に変化していくのであった。
   
 
第二十五話 「コルネリの凱旋」
   
フリードリッヒとコルネリが、故郷の町に帰ってきた。
   
コルネリの髪は美しく結ってあり、淑やかなその姿には町の誰もが目を疑った。
   
療養院のマルタおばあさんは、驚きのあまり言葉を失う。
そしてコルネリが発散している素晴らしき気を感じとり、殻を破った精神的に成長しているコルネリアの娘であるに違いない、夢にまで見た美しさを確信したのだった。
   
フリードリッヒは利益追求の事業拡張を止め、社会福祉への貢献に尽力する財団法人を設立する。
教会の敷地に町の人々や職工達の子供が通う保育施設・学校を創立し、そして、療養所を統合した病院施設を設立して各種医療設備と人材を揃え地域医療を充実させていく。
   
ハルム一家は、コルネリの屋敷の離れに越してきた。
ジノ君は空気の綺麗な清々しい環境の中で健康を取り戻し、ムクちゃんも野山で走り回り元気よく遊んでいる。
アグネスは学校で音楽に力を入れ教師として活躍し、奥さまはフリードリッヒの片腕となり社会奉仕活動に奮闘している。
   
コルネリは以前のようにお転婆ではなくなりおとなしい感じであるが、そのパワーを音楽の勉強に注ぎ更に活き活きと生活している。
   
エルンストは、町の人々の信頼を得て教会と教育の責任者として奮闘している。
   
そして、コーベルは鐘の音を響かせコルネリのいるところに神出鬼没するが、見かけないときは大抵エルンストが連れてきた教会の猫と相変わらずじゃれ合っている。
   
 
第二十六話 「大団円」
   
ニカが夏期休暇中、林間学校でコルネリの故郷にやって来ることになった。
   
子供達は、ニカを連れ野山に出掛け大自然の中、伸び伸びと自由に楽しく過ごす。
   
フリードリッヒとハルム奥さまは、元気一杯の子供達を見て何よりの幸せと生き甲斐を感じる。
   
エルンストとアグネスはお互い協力し合い、力を合わせ奔走しながら理想の教育現場を実践している。
   
そして毎年恒例、夏祭りの時期が到来した。しかし、今年は例年とは違う一大イベントが催される。町の公会堂の除幕式の後、チューリヒでの音楽祭で活躍した著名な音楽家達を招待しているのであった。
   
夏祭りの日、ドルナー伯母さまとグリデーレン執事、そしてミネが汽車駅に降り立つ。
   
フリードリッヒとの経営方針の軋轢で、ドルナー伯母さま達はコルネリ達が屋敷に戻る前にドイツへと帰ってしまった。
但し、本腰ではないものの民生用の機器類を扱う町一番の工場の営業権をもち事業を継続しているのであった。
ミネはドイツ行きを希望しドルナー家のメイドとして勤めている。
   
公会堂はその多くをドルナー家の寄付によって建立された。
伯母さまは、除幕式に招待されているのであった。
   
教会の鐘の音がこだまし、祝砲が鳴り響く。
伯母さまが盟主達と並びテープカットをする。
コルネリは、屈託のない笑顔で伯母さま達を温かく出迎え、心から感謝の意を申し上げる。
   
ドルナー伯母さまは、美しく淑やかになったコルネリの姿に一瞬唖然とするが、コルネリを包容し御礼に受け答える。
   
音楽祭が開演され、オーケストラから聖歌隊、数々の曲が披露される。
そして、アグネス伴奏のコルネリ&ジノ君の混声二部合唱が始まる。
町の人々はその美声に心打たれ、大変な感動を呼び拍手が鳴りやまない。
   
ドルナー伯母さま、グリデーレン執事、そしてミネまでもが満身の笑顔でコルネリ達に拍手を送る。
   
そして、アンコールに答え、コルネリ&ジノ君に加えニカとムクちゃん、エルンスト、コーベルが舞台にあがる。
   
コルネリのオカリナの澄み切った音色が響き渡ったのち、牧歌的な演奏&合唱が公会堂から町全体へ、そして河畔・森・山々へ響きバラ色の夕焼け空に届いていく。
一番星がキラリと瞬く。
   
  おわり

 


 

 

  あとがき

  

  世界名作劇場オマージュみたいな姿勢で、楽しめるのではないかと感じつつ

   「コルネリの幸せ」シナリオ(ハコ書き)を、全ストーリー解説っぽくレイアウトしてみました。

 

  自作シナリオをテコ入れし、最終的には台詞を入れたかったんですが

  能力&気力なく、発想・創作意欲が沸いてきません。

 

  そして、この翻案ストーリーは、色々な名劇作品のエッセンスをかなり混ぜ込んでいますが

  各話の濃度にバラツキがあり、物語全体を通じての流れや展開が均一ではありません。

 

  外装となる物語の脚色について、前半には、

  迷った山羊を追いかけながら、森の奥にある泉を発見したり

  野いちごを摘んできて、ジャムだか御菓子だかをおばあさんと作ったり

  怪我した小動物(小鳥でも、ウサギでも・・・)を拾ってきて治療したり

  ハンターから野生動物を救ったり

  それっぽいストーリーなら、いくらでも追加できそうな気がします。

 

  学園モノなんで、上級生からの苛めから救ってくれる学友との友情とか

  巡業遊園地がやってきて、親友の弟が旅芸人に連れていかれそうになったりとか

  煙突掃除夫をして家計を支えることになる、親友の苦労とか

  飼い主を巣立っていく、ペットとの別れシーンを作るとか

  主人公だけを追いかけるでなく、登場人物から派生した事件などを、

  アチコチに加えれば、30〜50話程度まで引き延ばせるかもしれません。

 

  叩き台の企画となってしまい、心苦しくもあるのですが

  名作アニメファンの皆様、それぞれの思い入れによって

  バリエーション豊かに、ご想像していただけるものと考え

  目を通して、名劇復興に一石を投ずるべく何かを感じ取って頂ければと願っております。

 


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