スイス マイエンフェルト 2
6月25日(土) マイエンフェルト Maienfeld
マイエンフェルト・ハイキング青コース Blue hiking trail in Maienfeld
マイエンフェルト Maienfeld → ヴィンタートゥーア Winterthur → チューリッヒ Zürich (鉄道)
少し気になっていたものの
今朝も天気に恵まれ晴れ!
雄大な山々の裾野を背景にして、
ライン谷の葡萄畑に、朝の光が降り注いでいる。
ハイジの道4h青標識コースの分岐点、
ハイジハウスのあるオーバーローフェルスまで、家々と葡萄畑の間を縫って歩いていく。
民家の中庭にセントバーナード犬を見つける。
ヨーゼフのごとく悠々たる素振りで何事も意に介さず、
覗き込んでるヨソ者を一瞥し奥へと去っていった。
生け垣で、そのヨーゼフの大好物
カタツムリを発見。
セントバーナード犬は、果たして本当にこいつを好んで食べるのだろうか?
葡萄畑の道を進んでいたところ、
すれ違う婆さんと挨拶を交わしながら
石垣に寄りかかるインラインスケートを履いた少女がいた
写真を撮らせてくれ、とジェスチャーを交え声をかけてみる。
なんとなく、
ためらっているようであったが
シャッターを押してダンケ(ありがとう)と頭を下げたところ
彼女は、ヤービッテセン(ハイどうも)と応えてくれた。
そして、もう一人
彼女と何か話しつつ、凄い勢いで目の前を駆け下りていった。
街中の水飲み場で、その少年を再度見かけたが
純朴そうで飾らない表情が
写真を撮らせてくれた彼女にソックリである
おそらく兄妹なのだろう。
インラインスケートやキックボードは、ドイツの街でもよく見かけた
それらは単なる流行の遊びでとしてではなく
子供、大人を問わず、日常生活の移動手段であり
駅構内やスーパーマーケットといった、公の場においても使用を咎められることなく
それは、市民権を得ているようだ。
マイエンフェルトでもインラインスケートは、
この少年少女にとって、生活の足として溶け込んでいる感触である。
冬になると、ハイジとペーターはソリに乗って麓の村へと滑降していたが
この様子では、今のご時世スノボーなんかが、それに取って替わりそうな気もする。
葡萄畑の敷居塀、日向で直射日光を浴びるトカゲをちょこちょこ見かける。
ハイジはピッチー(小鳥)の餌にしようと、懸命にトカゲを追っていたが
マイエンフェルトのトカゲは、石垣と同化した白灰色の色彩で、
小さくすばしっこく動き回るので、なかなかシャッターにおさめられない
そおーっと近づいて、撮影を試みた。
いくらなんでも、ピッチーがトカゲを食べるとは思えないが
この地域で身近に数多く見かける、小動物であることは確かである。
ハイジが血迷って捕らえようとしたのも、無理ではない話かもしれない。
高台にある、ハイジホフまでやってきた。
この民宿は、ここの地に長期滞在していたヨハンナ・スピリ御用達の宿。
老舗であるものの、改装を重ねているのだろう
外観はスキーリゾートでよく見かけるような、小綺麗なヒュッテ風である。
ハイジハウス(博物館)へと歩いていくと、
ハイジショップ(みやげ物店)の前にある泉の周囲で
衣装を着た役者達が、熱心にリハーサルをしているのに出くわす。
おんじにペーター
ハイジにクララ
セバスチャンやデーテと思われる
脇キャラなども出演し、オールキャスト勢揃いである。
ハイジシアターという演劇の稽古中との事であった。
プロフェッショナルの役者ではなく、
地元のアマチュアによる、ドイツ語スピーカーのみのキャスティングで
定期的に此処オーバーローフェルス集落にて、野外公演しているとのこと。
Heidi-Freilichtspiele(http://www.heidifreilichtspiele.ch)
素人の野外劇とはいえ、有料予約制とのことなので
ハイジショップで店員に空席情報を問い合わせたところ、近日のチケットはソールドアウトといわれてしまった。
とりあえず置いてあったパンフレットをみると、公演予定は7月28日からとある。
帰国便の変更ができない、格安の航空券なので
7月16日迄には帰国しなければならず、どのみちパンフ掲載スケジュールでの観劇はできない。
もしかするとプレ公演があるのかもしれないが、リハーサルに立ち会えただけでも十分と納得することにした。
どれもこれもかなりデッサンが狂っている。
実写版ドラマのハイジDVDが揃っていたが、
アニメハイジは、ドイツ語バージョンのビデオだけであり
シリーズにしては本数が少ないので
たぶんそれらは、大幅に編集カットされているのだろう。
書籍、冊子類を一通り手にとって眺めてみる。
のんびり葉書をかいていると、店の中がざわめきはじめた。
日本人の団体、総勢40〜50名はいらっしゃるだろうか?
たちまちレジに長蛇の列ができ、店員もてんやわんやで忙しくなっている。
机を独占するわけにはいかないので、スペースを譲って外に出ると
日本人観光客が、あちこちでリハーサルに割り込み
出演キャストと一緒に、パチパチと記念撮影をしていた。
この集落には毎日団体が押し寄せ、時間によってはかなりごった返しているようである
兎にも角にも、ハイジショップは繁盛しているみたいだ。
* * *
いよいよ、アルムおんじの山小屋のある、
ハイジアルプことオクセンベルク Ochsenburg を目指して
しばらくは勾配のキツイ林のなかを、せっせこ登っていく。
山羊の群れが、横切っていったり
ハイジとペーターが、ソリで滑り降りてきたりした
山道にしては幅が、ちと狭い。
やがて、山道は自動車も通行できる道幅の未舗装路へとぶつかった。
牧場や林業の関係者以外の車両進入は、できないのであろう
通行する車は全くみかけない。
往く手の途中途中に趣向をこらした、ハイジを題材とする木彫りや、
標高650mから1111mまで上がる、上り坂が長々と続くので
そこそこの覚悟は必要ではあるが、ハイキング客向けにも整備された
緩やかな林道なので楽勝ペースで歩行することができる。
ハイジハウス横から寄り道せずに歩けば、
一時間程度でハイジアルプの牧草地に到達するのではなかろうか。
ちなみに参考として原作には、デーテが硬貨をぺータに渡し
それから、アルムの山小屋まで40〜50分かかったと記されている。
案内板には、ペーターが車椅子を崖から突き落とした地点であったり
麓の村へと下りるおんじとハイジが休憩したベンチなどと、
少々眉唾な説明の数々がされており
設置されている彫刻で遊んだり、耳を澄まして木々の囁きを聞いてみることなどを促すコメントも並記されている。
これら案内板の中に、ハイジがクララの主治医を導いたというビューポイントがあった。
ハイジ原作とTVアニメ(高畑監督版)との、特に大きな違いとして取り上げられる場面といえば
ペーターによる車椅子破壊と、その一連の戒め話をカットしているところが第一に挙げられるが、
ハイジの信仰心とアルムの大自然によって癒され
救われていく過程についてもまた、
原作の失意傷心であった、医師の背景部分を完全に削除し
その教化色を一切払拭している点に、大きな相違があり注目に値する。
「なるほどねぇ、ほんとうにきれいなところだねぇ。」
「だがね、どう思う?悲しい気分の人がここへきて、こういうきれいなものをたのしむには、どうすりゃいいんだろう?」
矢川澄子訳より抜粋
この青標識コース、ハイジの要点トピックを案内板に取り上げているだけで
その設置場所については、適当で安易なのだが、
アニメでカットされている、これらの台詞に着目していることから
スピリの作者としてのメッセージ色に改めて気づかさせられた。
説明表示の下方に、この案内板に協賛しているらしき、企業名が記されている。
そのなかに ZINDEL という社名があるのだが、
マイエンフェルト周辺のあちこちで、この会社の看板はよく見かけられる。
どうやら建設業を母体とし多角的な事業を展開している地元企業グループのようで、
昨晩泊まった宿にもこのZINDEL社の観光部門のオフィスがあった。
登校途中のペーターが実業家?ツィンデルさんの忘れた鞄を、
マイエンフェルトの駅まで届けたことがあったのだが、あのツィンデル氏は、この会社の先代なのかも?
林道を進んでいくと、目の前の藪がゴソゴソと騒がしい音をたてはじめ、
大きな野生動物が道路に飛び出してきた。
それは、アイベックスといった山岳動物ではなく
奈良公園にも沢山いる、ごくノーマルな鹿ではあったが
突然の登場だったので驚嘆してしまった。
残念ながら、素早く森の中へと駆け抜けていってしまい、シャッターチャンスを逃してしまう。
右記掲載の写真は、山小屋の壁に貼ってあったもの。(参考イメージ)
牛が脱走するのを防止する柵が行く手を遮断している。
薄汚れた板にフェンスをクローズするよう指示があるので
柵を通り抜けてから針金を支柱に引っかけ
しっかりと固定し門を閉める。
* * *
麓の村々が小さく見える、もうだいぶ登ってきたようである。
ハイジは、初めてアルムに来たときも
フランクフルトから、カムバックしたときも
身につけている暑苦しい上着を脱ぎ捨て、何一つ持ち物をもたず、心も体も身軽になって・・・
この緑色に敷きつめられた草花の絨毯を、元気いっぱい裸足で駆け上がっていったのだろう。
さぁ、あともう一息で、ハイジのホームグラウンド、物語の本丸に突入である。
私は、今までの生活に区切りをつけて日本から遠く旅立ち
心にある余分な物は、何もかも投げ出して
ここからは、ハイジのように純粋に軽快に歩んでいこう
グーテンターク、グリュエッイー(こんにちは)
マウンテンバイクに乗って、斜面を登ってくるオッサンと挨拶を交わす。
ハイジアルプの標識案内に従い
中腹の牧草地をしばし進んでいくと
アルムの山小屋が、建っていた。
いま確かに、現実に、そこに、目の前に、紛れもなく、それは建っていた。
麓から持ってきた新聞を
山小屋の爺さんに手渡しているのが見えてきた。
きっと、二人は
知り合いなのだろう
屋外のテーブルに着き
世間話をしながら、盛りあがっている。
ともだちがやって来て、気をよくしているからなのか?
山小屋の爺さんは、風貌はアルムおんじであるものの、とても陽気で社交的である。
写真を撮らせてくれと頼んだところ
着用していたサングラスを外し素顔で応じつつ
部屋や物置小屋を見学し撮影することを、惜しむことなく許してくれた。
この山小屋は築何年なのだろう?
少なくともスピリの時代から一世紀以上
ここアルムの山にて
厳しい大自然の風雨に、晒されてきているのだろうか
一年中、このオクセンベルクの小屋で過ごしている
変わり者の偏屈爺さんの噂をスピリは麓の村で実際に耳にし、自身もここに訪れたことがあるらしい。
壁は分厚く窓は小さく、丈夫な柱に太い梁、大きな丸太に組まれ囲まれ、
年季の入った小屋は、とてもしっかりとした頑丈な造りである。
おんじのモデルとなった実在の爺さんにとって
山を下りる必要性がなかっただけあって、
確かに、冬季たて篭もって過ごせるだけの居住性がありそうだ。
この山小屋を訪れる、観光客は多いのだろう。
チーズや干し肉といった
簡単な食事ができるようで
日本語のメニューまでもが貼ってあるが・・・
無数の牛が群れをなして草を食している。
長い年月を重ねて、なお実用的なその姿からは
観光客相手の休憩所という役割よりは、
放牧のために建てられた山小屋としての
本来の風格が感じられる。
そこは、生活感漂う屋根裏部屋となっており
窓際に寝台が並んでいた。
干し草のベッドと丸窓で
山小屋の裏手にある樅の木の、風に靡く音が聞こえれば
ハイジの山での暮らし
窓から外の景色を眺めると
ライン谷稜線の濃淡と、一面に広がる草原の大パノラマ
やはりここは、ハイジの舞台、ハイジの世界である。
山小屋の後方には
樅の木の苗木が、3本植樹されている。
この木が大きく育ち
その梢がざわざわと、風の声を囁くまでには
どれくらいの歳月を要するのだろうか。
アニメハイジにて、小屋の両サイドは
それぞれ、おんじの木工作業場と
山羊小屋の設定となっていたが
現在はその両者とも物置となっている。
工具や作業道具、掃除用具が整理され収まっており、
観光客が飲んだであろう、空き瓶も並んでいた。
牛の逃走を防止する、弱電流電線の空リールも沢山みられる
そして、作業場物置の裏手には、洋式トイレがきちんと完備されていた。
ハイジに叱咤激励され、立ち上がろうとするクララ
ふらつくは、よろよろするは、つまづくは、こけるは、落ち込むは
弱気になって、自棄のやんぱちであるクララにたいして
その直後、立ち上がるクララがハイジの瞳に映る。
クララに立ちはだかる試練は、それだけでは終わらない。
歩行の練習をはじめるものの
一人で立ち上がることすらできずに、七転八倒するクララ
小屋に向かって、左手の作業場に封印していた車椅子を引きずり出したが・・・
緑の斜面を転がり落ちて、崩壊する車椅子。
・・・そして苦辛の末、ショックから立ち直るクララは、ペーターとハイジの肩をかりながら
目の前に咲く花を摘もうと、前に前に自立した未来へとついに一歩を踏み出すのであった。
アルムに初めて訪れ、顔色のよいクララをみてお礼をいう、おばあ様に対して
おんじは的確でふさわしい言葉を返していたことがある。
「クララのことは、この山の自然と子供達にまかせております」
クララがどうしようもなく凹み意気消沈した時にだけ、陰ながら手をさしのべ心のケアをしていたものの
おんじは、アルムの大自然の環境と、そこで自由に伸び伸びと育まれた子供達の力を強く信じて
全面的にクララのことを任せていたのだ。
小屋の周囲の様子や牧場の草花を眺めながら、その大いなるアルムのパワーにしばし心を打たれる。
* * *
山小屋の後方の斜面を登り、樅の木の根元に潜り込んでみた。
自身の救いとなる特別な存在で、大切な心の支えである。
♪おしーえてーおじいーさん ♪おしーえてーおじいーさん
♪おしえてー アルムのもーみーのーきーよー
「おしえて」は、口笛の音や雲の流れといった何気ない素朴な、
幼い子供特有の問いかけを謡っている曲である。
物語の中で、ハイジがたずねる疑問にたいして、
おんじは自分の信念とポリシーを交え、解り易くその答えを語り聞かせてくれた。
鷹が鳴き声を響かせるのは、下界でチーチーパッパと暮らすしょぼい連中どもを笑いとばしているのであり、
夕陽に山が紅く染まるのは、お天道様が一番素敵な光を投げかけながらオヤスミの挨拶をしているからなのだ。
ハイジの心に響いたような、こうした夢ある子供とのやりとりをベースにして、この主題歌は生まれたのだろう。
そして、おんじのご名答でも解決できないであろう難関に対峙するときに
ハイジはアルムの象徴である樅の木を信じて、心の拠り所としてきた。
脱走してきた子山羊のユキちゃんを、牧場に連れ戻すため
不覚にもチーズ作りの鍋を放置してしまい、焦付かせてしまったハイジ
おんじは叱ることなく、ハイジを慰めるのだが
自分の失敗が許せないハイジは、樅の木を見上げながら涙し心を落ちつけた。
フランクフルトでの自由のきかない窮屈なストレス生活の中でも、
きっと、ハイジは樅の木の鳴る音やその木立を何度も思い浮かべながら、精神を安定させていたのだろう。
アルプスの少女ハイジという物語は、シンデレラストーリー&立身出世話なのだろうか?
実は、原作を読み解く限り、突然の幸運に恵まれる成功話という意味合いで
微妙に当てはまる一面があるといえなくもない。
ハイジ自身に意図はないものの、フランクフルトで転んでも、決してタダで起きてはいないのだ。
原作との大きな相違で指摘した、クララの主治医であるクラッセン医師は、その点で重要なキーマンである。
妻子を亡くし意気阻喪で絶望的に孤独な境遇にあるこの医師は、
ハイジによって生きていく精神力が救済され、最終的に麓にある冬の家に住みハイジの養父となるのだ。
あっちにやられたり、こっちにやられたり、頼れる身寄りのなかった不憫なハイジであったが、
周りの人々を幸福にする善良な少女として成長し
結果として経済的に社会的に裕福な安定した生活をも掌握するのである。
ハイジが幸せを手にするプロセスには、大きく二つのファクターが見え隠れしている。
一つはアルムの大自然の環境であり、もう一つは基督教の敬虔な信仰心だ。
その2つの影響力によって、感化され教化され突き動かされ
幸福な姿へと変容していく。
スピリはハイジを2部構成で執筆しており
第一部の「ハイジの修業時代と遍歴時代」は、
ハイジがフランクフルトから帰り、おじいさんが村人と和解するまでのストーリーで1880年に出版された。
第二部は翌年の1881年に出版された「ハイジは習ったことを使うことができる」
クララがアルムにやってきてからの出来事が綴られている。
当初スピリは続編を想定しなかったが、
第一部が好評で非常に大きな反響を得たために、読者の要望に応えて第二部を執筆したそうである。
第一部では、ハイジの心の故郷であるアルムの山
信仰への目覚め、そこから育まれた揺るぎない自己確立に重きが置かれている。
そして、第二部では、神聖なその考えを周囲の人々へとアピールし実践し、
宗教的教化に向かうウェイトがさらに増しているのだ。
アニメーション高畑監督版のハイジは
作者スピリのメッセージ色を尊重しつつも、基督教的な部分の表現を避けて
そこにまつわるハイジの心因のほとんどをアルムの大自然へと移項させ
その幸福へのファクターをストレートに一元化している。
アルムの樅の木は、
神の存在にも代替するシンボルとして、ハイジの心に根をはっているといえるのではなかろうか。
山小屋から、さらに上へと牧草地を上っていく、
陽の光が辺りの草木いちめん、山々にも谷にも照り渡っている。
牧場のあちこちから、カウベルのカラーンという音が絶えることなく鳴り響き
彼方の空にまで、綺麗な空気と、長閑で平和な時間の流れが満たされている。
ハイジにとって、アルムというのは
絶対的に恵まれた本当の居場所なんだろうと、心から納得する。
いきばのない境遇で、運命に翻弄され、ハイジはおんじのもとにやってきた。
物心つく頃にはすっかりアルムの山の娘となったのだ。
「新鮮で自由な呼吸ができること」
「伸び伸びと思う存分手足を伸ばせること」
「思いやりの心で正直に筋を通し、ずっといつまでも天然でいられること」
それは、大自然から贈られた、ハイジにとって揺るぎない譲れない絶対不動の価値観である。
ついに、ハイジの本丸に到達!ハイジが幸福を手にするファクターを五感で味わい、
ハイジで観てきたその舞台を、その心を、その世界を追体験することができた。
* * *
ハイジの道4h青標識コースは、
マイエンフェルトの町を見下ろしながら、牧場の上へ上へと続いていく。
針葉樹が深くなり、その木立の中に巡る囲い柵をすり抜けていくと
遙かに続く崖の斜面に広がる、牧場へと迷い込んでしまう。
次第に標識は見当らなくなり、どこに進めばよいのかわからなくなるが
コースの目的地である、イエニンス村の眺望が見てとれるので
下界へと降りる方向をとることができる。
夏季放牧地の山小屋が点在し
沢山の牛が群れている。
カラーン、カラーンと間近で、大きなカウベルが
揺れ続け、鳴りやまない。
牛たちの大きいつぶらな瞳で
一斉に見つめられるのが、なんとも面はゆい。
進む道を遮られたり
歩いていると後ろについてくる輩もいる。
鋭い角が生えているのも近寄ってくるので
迫力があり結構緊張する。
近づいてきた牛に驚いたクララが、
本能的に一時立ち上がってしまったのも確かに頷ける。
牧草地を通る道を進む。
くたばった牛を回収している
牧場の人たちに挨拶をして、森の中へと下っていった。
徐々に下界へと降りていくと、
木々のあいまに静かに建つ小屋をみつける。
山羊飼いペーターは、谷間にひっそりとたたずむ
こんな一軒家で暮らしているのがイメージとしてしっくりくる。
先ほど挨拶した、牧場で働く人たちのトラクターが
柵を閉めて施錠するために若い女性が降りてきたので、
イエニンス村へと下る道を尋ねてみる。
いろいろなルートがあるが、どこを進んでも辿り着くといわれたので、
お勧めの道はと聞いたところ、彼女たちが下っていく沢沿いの道を指図される。
しばらく、木々が茂る谷間の沢に沿った急な傾斜の砂利道を進んでいった
おそらくこのコースがイエニンスへの一番の近道なのだろう。
やがて沢を隔てた方向に、開けた牧草地が広がっているので、
川を渡って、草地を下っていくと、村の教会の尖塔が見えてきた。
毎朝、村の人たちが連れてくる山羊を教会の前で集め
ペーターの一日は始まり
太陽の高い頃は、アルムの山の上の牧場の日だまりで寝そべって
小鳥のさえずりを聞きながら、ハイジとのんびり過ごし
そして、日が暮れる頃に山羊を引き連れ、またここに戻ってくる。
パン屋、牧師、バルベルおばさん、シュトラールさん、学校の友達、先生、etc.
雨が降ってきた。やはり山岳地帯の天気は変りやすい。
教会対面の停留所で雨宿りしながら待機していたところ、
馬車が音を立てて通りを走り過ぎていく。
このマイエンフェルト一帯には、馬車という交通手段もあるようだ。
しかし、スイスパス(乗り放題切符)は、
利用できないと思われるのでやり過ごし
スイス全土各地をカバーする、郵便局管轄の黄色いポストバスを待つ。
ポストバスは葡萄畑が、両側に広がる道を走り抜け
大きな車体を道幅一杯にして、
マイエンフェルト市街の路地を通り抜けていく。
* * *
預かって頂いた荷物を受け取って、足早に駅へと向かった
スイスパスがあれば、切符を購入する必要はない。
明日はスピリの故郷、チューリッヒ郊外のヒルツェルを訪ねるつもりだ
首尾良く来た列車に飛び乗り、一気にボーデン湖方面へと向かうことにする。
列車は、ライン川に沿って湖畔へと向かい
ロールシャッハを経由して
チューリッヒ往きの列車に乗り換えとなる。
自転車でそのまま客車に乗り入れている
乗客をよく見かけたが、スイスの近郊列車には
自転車を綺麗に立て掛けられるスペースがある。
しかもスマートなデザインだ。
二等客車とは思えない
綺麗なラウンジ風の空いた座席でくつろぎながら
チューリッヒ郊外のヴィンタートゥーア Winterthurまで乗車する。
ヴィンタートゥーア駅に降り立ってみると、
ホームが実にカラフルでグッドデザインである。
駅前は非常に賑やか、
市街に移動遊園地がやってきていて、半端でなくたいへんな人出だ。
この町に、雰囲気の良いユースホステルがあるらしいのだが、
人通りでごった返している雑踏の路地を、
リュックを背負って歩き回るのはかなり困難そうだ。
バス発着場で立ち止まって悩んでいたところ、
子供連れの男性に、日本語で「どうかしました?」と声をかけられる。
エンジニアの仕事で日本語を使うため勉強をしているのだそうだ。
事情を説明すると、付近の人々に尋ね訊いて、
ユースホステルが付近の大学の裏手にあるのではないかとの情報を
流暢な日本語で親切に教えてくださった。
しかし、おしえて頂いたエリアを探し回ってみるも、全く場所がわからない
祭りで浮かれている何人かの学生に訊いてみたが、
誰もユースホステルの存在を知らないようだ。
町全体がお祭騒ぎなので、
静かな駅裏のビジネス街にて宿を探してみたが、高価なホテルしか営業していない。
チューリッヒまで移動し、安宿を探すことを決意する。
チューリッヒは、スイスを代表する国際都市というだけあって
中央駅構内は活気ある多くのテナント商店が並び、乗客の往来に溢れている。
市電に乗り、市内を流れるリマト川を渡って
駅の対岸をチューリヒ湖方向に進むと
夜遅くまで賑やかな繁華街となっていた。
安宿を幾つか訪ねてみるが、どこも満室でなかなか空き部屋が見つからない
1階がバーになっている、盛り場の安ホテルに空きがあったので宿泊することにした。
川沿いの綺麗な町並みとは相反し、
通り一つ内側の宿は、とにかくボロい。
共同便所&シャワーで、室内は狭く、
寝具は薄汚れ、床は斜めに傾き、物騒な雰囲気
しかし、疲れ果てていたので横になるやいなや、電池が切れ泥のように寝入ってしまった。
チューリッヒ泊 : Hotel Schäfli (Badergasse 6 8001 Zurich (ZH) Phone:+41 (0)1 251 41 44 Fax:+41 (0)1 251 34 76)