スイス バートラガーツ
7月8日(金) バートラガーツ Bad Ragaz
クール Chur → バートラガーツ Bad Ragaz (鉄道)
バートラガーツ散策 Bad Ragaz town
バートラガーツ Bad Ragaz →マイエンフェルト Maienfeld (バス)
マイエンフェルト散策 Maienfeld town
マイエンフェルト Maienfeld → クール Chur → チューリヒ Zürich →ミラノ Milano (鉄道)
自由に列車やバスに飛び乗れるのは、あと一日限り
スイス滞在日程にも遂にタイムリミットが訪れてしまった。
本日は、クールの宿に荷物を預け、午前中、バートラガーツと再度マイエンフェルトを巡るつもりである。
そして、14時前にクール発の、氷河急行ことグレッシャー・エクスプレス Glacier Express
(スイス鉄道を代表するパノラマ路線)でブリークへと向い
イタリア・ミラノ行きの特急に乗り換えて、夜遅くスイスを一気に脱出しようという目論みだ・・・
スイス観光を有終の美で飾るべく、最終日まで氷河急行というメインイベントを温存してきたのであったが・・・
天気は晴れであるが、山の上には雲がたちこめている様子。
今回の一人旅、なんだかんだいって
自分が山間にいたときは、ほぼ視界の良い天気に恵まれていた。
お天道様には、心から感謝感謝である。
スイス屈指の温泉町、バートラガーツの駅に降り立つ。
原作ハイジの冒頭は、マイエンフェルトの木立の多い
緑の牧場を抜けた、一筋の小道を舞台にはじまるが
アニメーションでは、
ラガーツの町にある集合住宅の、中庭を見下ろすアングルで
頼りなく独りぼっち、冷たい壁に寄りかかっている
あどけない幼女をクローズアップしながら、この物語の幕は上がっていく。
13世紀頃に付近にあるタミーナ Tamina 渓谷の崖奥に源泉が発見され
湯治場として、長い歴史を刻んできた。
その泉質は、リウマチ、運動機能障害、自律神経失調症などに
優れた効能があるらしいが、アルムを訪れる前にここに立ち寄り
ご静養されていたクララは、それらの御利益にあやかっていたのだろうか?
ラインと渓谷の間の山麓地域
一世紀半以前から保養地として開け今に至っており
ここは、日本の温泉街の歓楽で賑やかな or 鄙びた風情とは大きく異なって
小さい宿屋の並ぶ、綺麗に整った市街地を外れると
豊かな緑の中、療養施設やプール・テニスコート、ゴルフ場などが点々と立地する
長期滞在型の落ち着いたスパリゾートとなっている。
左手に温泉町の象徴である旧公共浴場がある。
この建物の内部は現在改修され
浴場としてのありき日の面影は殆どみられず、
観光局の事務所となっており
案内冊子や市街地図などを無料で配布している。
アニメーションでも登場した、この建築物の裏手に廻ってみたところ
閑散とした駐車場があるだけで、特筆すべきことは何もない。
大きなローマ風呂を有し、屋外は湯煙立ちこめる露天となっているのかと
渓谷から、市街を流れ抜けていく川面を眺めながら、橋を渡り歩いていくと
木立と芝草が心地よく広がる、美しい庭園を囲んで
四つ星、五つ星の老舗ホテルが整然と立地している。
歴史ある大理石造りの大浴場があるらしい。
有料開放されている
リゾートホテルの野外温泉(水着着用)もあるのだが、
どうも入場する気にはならない。
長野県の諏訪湖畔に片倉館という大正ロマン漂う
文化財指定の洋風建築があるのだが
個人的に、19世紀のバートラガーツ温泉というのは、
上諏訪温泉の片倉館にある
千人風呂と呼ばれる公共浴場の雰囲気に近いのではないかと思っている。
片倉館 (http://www.katakurakan.or.jp/index.html)
帰国してから、蓼科高原のビーナスラインを単車でツーリングし
プチスイス気分に浸ってから
帰りに片倉館で一風呂浴びれば、満足できるだろうと
駅前へと戻り、ランドクアルト Landquart 往きのポストバスに乗車した
バスは、市街地の要所を一巡したのち、郊外へと向かう。
市街地の停留所は、上り下りのそれぞれにあるわけでもなく
わざわざ駅から乗る必要はなかったのだが
経由地が異なったり
渓谷の奥の方へ行くバスになどに、間違って乗るおそれもあるので
始発から乗るのが、安全確実なのはいうまでもない。
ライン川に平行して走っている高速道路のインターチェンジに差し掛かる。
鉄道の線路上からはよく見えるのだが
バートラガーツとマイエンフェルトの間には、
そこそこな規模の、ハイジランド Heidiland サービスエリアが存在している。
どんな土産物を置いているのか?ラクレットとかフォンデュとかがあるのか?
うどんそばは勿論無いだろうけど、麺類は食べれるのか?
日本の高速道にあるそれと、比較してどんな雰囲気なのだろう?
さすがに、ドイツでもスイスでも、
サービスエリアに立ち入る機会はなかったので真相は不明だ。
ファルクニスの切り立った山肌を、正面に見上げながら
黄色いバスはひた走る。
牧草地が広がり
頭を垂れて、まぐさを喰う馬を脇見に進むと
左右に振り向きシャッターを押してみた
それほど、川幅は大きくないが、れっきとした国際河川ライン川の本流である。
川上には、鉄道と高速道路
マイエンフェルトを通る主幹線の橋がわたされている
川下は、リヒテンシュタインとの国境線を流れていき
やがて、オーストリア領内のボーデン湖へと
その流れは注いでいく。
ファルクニス圏谷の直下にある
フレーシュ村へと入ってきた。
昔年の姿を保ち続け、居を構えている家々
ポストバスは、その間の狭い路地を縫うように走る。
バスルートは、この地域の
麓のなだらかな丘陵に点在する
村々を、円滑に結んでいるのだ。
左手に、マイエンフェルトの外れにある
進行方向の右手市街地には
古城がそびえている。
民家が並ぶ通りに入り
教会の尖塔を真っ正面にして、
市庁舎前の広場に出る。
交互通行の為、広場で停車している
対向車の脇を通過し、幅の狭ばまった通りを抜け
その先にある郵便局の前で、停車するバスから降りた。
郵便馬車を
その起源・発端として
路線を拡げ発達してきたポストバスは、
町の郵便局の周辺に
主要停留所を設置している場合が、往々にして多い。
市庁舎の斜向かいには、ハイジ村ことオーバーローフェルスにある
ハイジショップの支店、いや本店?が立地している。
観光案内の掲示
冊子ビラなどが、常時備え置いてあるが
販売商品のラインナップは
オーバーローフェルスのハイジショップと殆ど同様である。
本日は、スイス最終日ということで
ワイン(マイエンフェルダー)を購入したく、マイエンフェルトに再訪した。
ワインはハイジショップでも、販売こそしているのだが
ここはやはり、せっかく産地に訪れたのだから
ワイナリーで試飲をし選んで、納得したものを日本に持ち帰りたく考えている。
彼方此方の葡萄農家に、プライベートの生産者ワイナリーはあるのだが
出荷の時期があるのだろうか?開店している店は全く見られない。
しかし、市庁舎広場から山側へと少し歩いた市街地に
マイエンフェルト周辺地域で生産された、各種葡萄酒を総合的に取り扱う
由緒正しきワイン専門店が営業をしている。
ここに滞在した初日、既に一度立ち寄って試飲しているので、勝手はわかっているつもりであったが・・・
店の前にやってきたところ、その門は午前中閉ざされ
表の看板に14〜18:00オープンと記されているではないか!
クール発13時56分の最終ブリーク往き、氷河急行に乗車するつもりだったのに、やられた!!
ハイジショップでワインを買うか?それとも氷河急行を諦めて14時まで時間を潰し試飲して買うか?
冷静に、どうするかを考えてみる。
氷河急行は、山岳鉄道なので平均時速は35km/h
急行というのは名ばかりで、ノロノロと走行し時間を要するのが短所だが
その路線の途中地点アンデルマット Andermatt までであれば、
勝景地であるオベルアルプパス峠 Oberalp-Pass を越えた先であるし
所要時間は2時間半であるし、列車は毎時一本程度はあったはず。
アンデルマットは、アルプスの十字路と呼ばれる交通路の要所で
イタリア方面へと向かう幹線に乗り換えるルートもある。
氷河急行全線を乗車し夜遅く国境を越えるよりも、かえって好都合であると判断し
ここではワイナリーの開店を待って、氷河急行は途中まで乗車することに決めた。
* * *
ハイジ村ことオーバーローフェルスへ向かうことにする。
市街地から葡萄畑へと坂道を登っていくと
上の方から、観光客の小集団がチラホラと坂を降りてきた
その数は、合計で20〜30名くらいになるだろうか?
全員、日本人の中高年の方々で
すれ違ったあとは、各自市街地を散策されていた様子。
常日頃から、あんな感じで
町の中を多くの日本人が
彷徨っているのであれば、確かに、この静かな土地の住民は
日本語で挨拶くらい覚えておかないと、ままならないと考えるだろう。
予想していたよりも空いていて、時間があるので
ハイジショップのポストに郵便物を投函すると
Heididorf のスタンプが、切手に押されるそうなので
ここで、一気に送付することにした。
前回は、柵の中で動き回っていた子山羊が、今日は放し飼いにされている
荷物や食料に関心を示し、何も警戒せず怖れずに近寄ってくる人なつこい奴らだ。
どうやら、テーブルの上に乗っかろうとする習性があるようだ
葉書を書くのに、かなり邪魔である。
というか、冗談でなく手紙を食べられそうになり焦ってしまった。
アトリと同じ品種なのだろうか、
性質は似ているかも、しかし毛並みがちょっと違うか?
ビスケットを与えてみると喰うには喰うが、それほどお好みではない様子。
ハイジショップで販売されている、紙袋入りのランチセットなるものを購入してみた。
パン、りんご、チョコバー、ミネラルウォーター、ビュンドナー・フライシュ(干し肉)
5点セットで、CHF10 決して安くはない。
ミネラルウォーターなんて、この土地では必要ないと思うのだが・・・
りんごを丸かじりしながら、
二匹の子山羊と一緒に、透き通った日差しの中を・・・
しばし穏やかな、ひとときを過ごす。
14時前になったので、市街へ降りようと思いたっていたところ
ドイツ人の親子がテーブルに座り、声をかけてきた
ハンブルクにお住まいの、オリバーさん
20年前に日本全国を、一人旅で巡って以来の日本贔屓で、京都といったオリエンタルな古い街も良かったが
なんといっても、北海道が特に大好きなのだそうだ。
ドイツのローカル地域やスイスに比べて、北海道にスペシャルなことなんてあるのか?と伺ったところ
自然環境が壮大で、スイスと変らないくらい素晴らしいとのこと。
ハンブルクは港町なので、山々の美しさには心惹かれるのだそうだ。
息子さんは週に数回、放課後に日本人学校の児童と交流しているそうで、コンニチハと挨拶を交わしてくれた。
オリバーさんによると、アニメーションのハイジは、スイスよりもドイツの方が圧倒的に浸透し大きく扱われていて
スイスでは年々注目されなくなってきているものの
ドイツでは常にリピート放送され、その人気は絶えないのだそうだ。

オリバーさんが、独語版ハイジ主題歌をアカペラでテンポ良く歌い始めた。
ハイディー! ハイディー! ダイナヴェルトズィーンディエ バーアゲ ♪〜
そして、日本語の歌詞と発音を書いてくれといわれ、メモ用紙を渡される。
日本のバージョンのテーマソングは、メロディラインは僅かに似ているが
リルイックは全く違うと説明し
とりあえず、ひらがなとローマ字で歌詞を書き、英訳をする。
ホァイ、キャナイヒアーアホイッスル、フロムアロングディスタンス
ホァイ、ダズザクラウドインザスカイ、ウェイトフォーミー
プリーズテルミーグルァンパ、プリーズテルミーグルァンパ、プリーズテルミーザトゥリー、オブザアルプストップ
ホホヒャララリオ〜
ヨーデルリピート
樅の木を、その場では訳せなかったことが心残りではある。
そして、メロディをレコーディングしたいので、歌ってくれと頼まれビデオを回されてしまった
オリバーさんが熱唱してくれただけに、こちらとしても元気よく歌わないと失礼な気がする。
しかし、ばつが悪いことに、日本人団体がちらほらと現れ始め
なまじ山羊なんぞが目の前にいるモンで、何名かが付近の席に集まりはじめていた。
そして、日本人観光客の視線に晒されながら、
マイエンフェルトの高台で子山羊を傍らに、おしえてを熱唱する、しょっぱい自分がそこにいた。
のんびりし過ぎてしまった。
市街へと戻り、ワイナリー専門店へと急ぐ、
この店、Vinothek von Salis という店名であるが、
もしかして、スピリの知人であったイエニンス村のサリス家と
何か関係があるのだろうか?
イエニンスやマランス産も置いているので、味見させてもらい
風味の違いが解るわけではないが、
結局はマイエンフェルダーを購入。
名産であるビュンドナー・フライシュなども販売しているのだが
干し肉なのにもかかわらず、店頭で冷蔵されているので
暑い時期なだけに土産にはしないことにした。
Vinothek von Salis (www.vonsalis-wein.ch/maienfeld.html)
マイエンフェルトの駅ホームに立ち、列車を待ちながら感慨に耽ってしまう。
次にこの地に来るのは、いつになるかわからないけれど、それまでお達者でとアルムの山々に別れを告げた。
クールで下車し、宿で荷物を受け取って駅へと戻る。
氷河急行の時刻表を確認したところ、毎時一本ずつ列車はあるものの
アルプスの十字路アンデルマットではなく、ディゼンティス Disentis 往きとなっている
そこはどうやら、オーバーアルプ峠の手前の駅であるようだ。
そこからのタイムテーブルが解らないので、駅窓口で尋ねてみたところ
なんと、アンデルマットまで行く列車は15時台が最終で、乗り継ぎはもうないというではないか!
まさか、そんなに早いとは・・・
山岳列車であるという認識をもってしっかり調査すべきところを、見込みで行動していたのがアカンかった。
氷河急行を諦め、チューリッヒからイタリアへの国際特急でミラノへ向かうという
思いっきり遠回りなルートにて、スイスを立ち退くことになってしまった。
まぁ、それも運命だろう
男一人旅で観光をメインにこだわる必要はない。
いつになるかは想像できないが、もしもまた訪れる機会があれば
その時に氷河急行に乗ってみようではないか
また来るぞ!と自分に言い聞かせて
チューリッヒ往きの特急に乗車する
そして、またまたマイエンフェルトの駅を通過し
小一時間前に別れの挨拶をしたばかりの山々を、車窓から眺めながら
流れるように遠ざかるハイジの舞台を、名残惜しくも目で追い続けてしまった。
* * *
スイス旅行というのは、贅沢な旅であるのだろうか?
欧州諸国と比べても世界的に考えても、高所得の国民が、その高い購買力で消費生活を送る
あらゆるモノの物価が高い、経済的に何から何まで最高水準の国家。
しかし、スイスという国では、例えどんなに商品やサービスが高価で一流であったとしても、
それはゴージャスで華やかで煌びやかといった価値とは、どこかしら調和しない印象があるように思う。
政治的に中立で、赤十字や国連、オリンピック委員会といった国際機構の本拠があり、
欧州の中間に位置する、アルプスの澄んでいて清らかな山河に囲まれた風土。
精緻で正確無比、質実で実直、クリーンで誠実な、労働と産業、社会と生活環境。
そんな理想的なイメージが、この国の洗練された品位ある美しい好印象をかたち創っているのだろう。
自然豊かでありながら(であるがゆえ)
閑静で何処かしら、ソフィスティケートされた高級な魅力
そんな付加価値を求めて、
古今、旅行者は、スイスに訪れているのかもしれない。
バードラガーツという、歴史ある温泉保養地に訪問し、
スイスのこの地に求められてきたもの、天然・養生・癒し・・・
それらに加えて、そこには田舎ではあっても荒削りではない
スイスらしい高付加価値が確固として存在していると感じた。
そのようなスイスという国で生まれた、
ハイジという物語は、仮にシンデレラストーリー的な要素が混じっていたとしても
それは、お伽話でなければ、夢物語でもない。
常識的な話の枠組み、フィールドの範囲で、登場人物それぞれの事情と思惑による価値観がせめぎ合い
人間模様が交錯した、現実的なヒューマンドラマである。
ハイジは、天真爛漫であり
精神的に健康で純真で汚れのない子供であったのだろうか?
両親を失い幼児期に愛情を受けられずに預けられていた
ハイジの恵まれない生育歴は、ネグレクトな抑圧の境遇ではある。
デーテは、孤児のハイジを引き取り
肉親であるハイジの祖母が亡くなるまで、バートラガーツで生計を立てながら面倒を看てきた。
余裕なく、ハイジの子育てに神経が行き届かなくても
その自分にできる範囲内での一通りのことはやってきていたのだろう。
ゆえに、デーテにとって無責任かつ後ろめたい行為は、
自身の都合で、おんじの元にハイジを置き去りにしてきたことであったに他ならない。
もちろん、村人からのお節介な指摘の通り、おんじが上手に子育てするとは思っていないだろうし
おんじに、勝手にどうにでもしろと言い放しつつも
現実的な常識人であるが為、本人にとってこの一件は気に病んでいたはずだ。
しかし、その禍福は、転々とすることで全く予測はつかなかった。
幸いにも、俗世間から隔絶された大自然の中
おんじと共にアルムの山小屋で、人間性溢れる自由な生活をすることにより
ハイジの無意識下の抑圧は、緩和されていったのかもしれない。
デーテは、ハイジのアルムでの、平穏なおんじとの暮らしなどは知るよしもない。
純粋にハイジの将来のことだけを考えていたとは言いきれないが、
社会的な良識及び分別ゆえに
山の上でおんじと、世を捨てた生活を続けているハイジを案じ
彼女なりの信望と能力、実行力を持ってして
ハイジの生活を軌道修正する策があればと、思い続けてはいたのだろう。
自分を犠牲にせずして、結局器を移しているだけかと思うが、
それは身勝手ではなく、彼女が理想としている方向性で、最善を尽くし行動してきた結果として
大富豪のもとにハイジの生活基盤をつくるという機会を、たぐり寄せてきたともいえる。
面倒を背負い込んでいたデーテは
若い身の上で自己にふりかかってきた責任を果たすことに、神経を使ってきているのだ。
デーテは、「ハイジは何万人に一人の幸運に巡り会った」と語り
ハイジをフランクフルトへと連れ去っていったのであるが、
仮に万分の一であったとしても、それはデーテという人間を介した場合には十分にありえた話だと思う。
デーテは、「並とは違う個性の強い子、性格のはっきりした子」とロッテンマイヤー女史に説明し
半ば強引にゼーゼマン邸にハイジを押しつけたのだが
渡世を生き抜く能力があり、頭の回転の早いデーテは、身体の不自由な令嬢と生活を共にするお相手という
難儀な適任者探しの話を小耳に挟むや、
事前にロッテンマイヤー女史に、荒削りでない説得力のある、物怖じせず磨かれた振る舞いで話をつけ
ハイジを連れてくるまでの段取りをとりつけたのだろう。
バードラガーツの高級老舗ホテルでキャリアを積みながら、上流社会のメイドとして抜擢されたデーテは
フランクフルト関係筋の口利き口コミで信頼されうるアウトソーシング斡旋者でありえたのだと思う。
そして、デーテの口上で説明される場合において
ハイジがスイスの子供であったという点は、
メリットある人材として紹介するに、大きなアピールとなっていたのではあるまいか。
デーテのように社会的通念で、体裁をつけることに努めてきた人物には
スポットライトを当てていないという点だ。
デーテは、ハイジをゼーゼマン邸に連れてきて以降
お役ごめんでストーリー上に登場することはない。
E・ポーターの「少女パレアナ」(ポリアンナ物語)では、責任と義務という体裁だけで
身寄りのない姪を引き取った叔母の意識変容を、物語の題材としていたが
スピリは、ストーリー上で、もともとから社会通念を重んじている常識人については
それ以上いじくりまわすことをしてはいないのだ。
それよりも、固定観念から突き抜けた人間性を重視していると言えるだろうか?
ハイジという物語は、そもそも登場人物の意識変容と言う部分にフォーカスを合わせ
感動を読み解いていくことよりも
その人なりの人間性の核心部分を開示していくところにポイントがあるように思う。
おんじの尊厳、村社会を拒み頑なに離脱し続けた
揺るがない不撓不屈の強靱な精神力は、不変なのではあるまいか。
村人と協力することはあっても、それは改心ではなく
ハイジによって心情が揺らいだ、おんじ自身の信念に基づく行動であるともとらえられる。
ペーターもまた、調子よく世を渡っていくタイプではない
その性分は得意分野において類い希な能力を発揮していく一意専心な職人気質かもしれない。
冬期は学校をよくサボっていた様子だし、
口べたで不器用なんで、牧場でのんびり過ごす方が性に合っているのだろう。
村の子供達と雪合戦して遊ぶのを嫌がっていたペーターは、
対人関係については消極的傾向にあるが、そんな、ペーターであるからこそ、おんじとは周波数が一致するのだ。
彼らにとって、雑音の混じる村人達と調子を合わせる行為は、耳障りで自身の心をチューニングし難いのだ。
しかし、ハイジの強い大きな振幅は、
何かのトラブルで不協和音が発生しても、彼らの心を共振させつつ同調させていく
ハイジは、彼らの受信できない狭いレンジを、ノイズのないクリアな音域へと広げていくのだ。
クララもまた、控えめな自己の波形をハイジによって増幅させられていた一人だ
クララは心にも体にも不自由があったが、人一倍優れたやさしさを持っている。
過度に保護されてきたクララの頼りなさは、ハイジに何かを求めたり欲したり羨んだりする部分ではなく
その優しい心を、自分の意志で活かしていく拠り所にある。
子猫を捨てられパンを破棄され凹むハイジに対して、七匹の子山羊を語りきかせるシーン
ハイジを思いやり懸命になっている姿からは、
クララの優しさ溢れる人間性の固有の波が、強く大きく発振されている感覚が伝わってくる。
ハイジは何の躊躇いもなく、ナチュラルな誰にも崩せない波を発しているのだろう。
そして、高畑監督は、改心・信仰・帰依・懺悔・教化といった基督教的な力による意識変容と
それを直接には干渉させずに、
登場人物の内部に埋もれている、人間性を支え続けてきた精神構造の波形を検出して
恣意的に、アニメーションで表現し演出していると感じる。
変容ではない
変らない確固たる本物の人間性の幅を、大きく拡げていくのが、ハイジという物語の趣であると私は思っている。
* * *
カーブの多い山岳地帯でも、高速運行が可能な
振り子式の高度技術を備える最新鋭車両
チューリッヒとミラノを三時間半で結ぶ、国際超特急ICEである。
今までは、スイスパスでなりふり構わずに
セカンドクラスへと飛び乗っていたが、国境を跨ぐとなるとそうはいかない
国際列車窓口で、スイスパスを提示しイタリア区間の運賃を支払う。
すると、国際特急だからなのか、窓口の係員がシートを予約するとかなんとか言っているので
お願いしたところ、車両番号と座席番号が印字されたチケットが発行され、追加料金を取られる。
チューリッヒの駅構内でゆっくりしてから、発車時間間際に車両へ乗車したところ、予想外にも凄い混雑ぶり。
乗車率120%くらいだろうか?通路まで人が溢れ、身動きがとれないではないか。
スクィージと呟きながら満員の乗客の間を掻き分け、(この場合ペルメッソというのが正しいらしい)
予約座席まで辿り着いたところ、やはり人が座っていた。
席がないなら仕方ないと思いつつも、念のためチケットを座っている女性に見せて、確認したところ・・・
それはそれは、大きなため息が、車内に響き渡った。
座席を無言で立ち上がり、そそくさと通路の乗客の中へと去って行かれた。
なんだか、とてもお気の毒に感じるが、こちらとしても全く事情がわからないので仕方がない。
しばらく、茫然とつっ立っていたところ、奥の座席のイタリア人兄ちゃんがチケットを覗き込み
あなたの席だ問題ない、
スイス人は一等ならともかく、二等で席を予約する人はあまりいないと説明してくれた。
毎週週末の国際特急は、こんなにも混雑しているのか?と尋ねたところ、
そうではなく、今日から夏季のバカンスが始まったので、
ティチーノ(スイスのイタリア語圏)へ多くの人が戻るとのこと。
バカンスは大概3〜4週間もあるそうだ、日本社会では考えられない休暇の習慣が羨ましい限りである。
チザルピーノ号は、山間部にさしかかると
車両を大きく傾けてスピードを緩めることなくカーブに突っ込んでいく、身体にGを感じる不思議な乗り物だ
湖や深い谷を見下ろしながら、車窓の景色はどんどん流れていく
鉄道ではなく、飛行機にでも乗っているような爽快な気分である。
兄ちゃんが、窓の外の景色を指さし
「あの教会はこれから右に左に二〜三回は見えるよ」と語りかけてきた。
なるほど、一つの谷の周囲をループ状のトンネルで幾度も周回しながら標高を上げていく、
アルプスを縦断する幹線ならではの光景であった。
そして山脈を南北に貫く、ゴッタルド峠の長い長いトンネルを抜け、
幾つもの山や谷を飛ぶように貫いていくと、大規模な土木工事現場が幹線の横に見えてきた
現在、山脈を縦断するループ状路線区間を含む全長50kmの新トンネルが着工しているらしい
完成は2011年なのだそうだ。
イタリア国境に近いルガーノに着くと、多くの乗客が下車していった
すると、兄ちゃんは席を立ち上がり、しばらくしてから新聞を手に持って戻ってきた。
一等車両で新聞を買ってきたとのこと。
イタリア語の記事を、覗き見ていたところ
どこかの国の機動隊が、駅で被害者を救出している写真を大きく掲げている
どこで、事故があったのか?と尋ねたところ、イギリスの地下鉄で爆弾テロが発生した
状況は解らないが、今のところ500人くらい被害に遭っている、もっと多くなるかもしれないと教えてくれた。
イタリアではなくて良かった。
でも、ミラノは安心だろうか?と問いかけたところ、
急に激しい反応をし、アイドンノウイット!といわれてしまう。
気を取り直し、誰の仕業だろうと聞いてみると、たぶんアルカイーダだと思うよ、との答えだった。
車内放送は、シニョールシニョーラ、すっかり陽気なイタリアン
けれど、同席した兄ちゃんは、真面目で律儀で親切だったと思う
自分の中にあった、イタリア人に対する印象はだいぶ変った。
イタリアは華のミラノ駅に到着
超巨大な駅舎を見上げ、圧倒されながら街中に降り立つ。
駅から地下鉄で、二駅目の安ホテルに行ってみるが
名前が変更されており、安い部屋の料金も改訂されている。
フロントに確認したところ、今年になって改装し
三つ星ホテルにグレードアップしたとのこと。
とりあえず、部屋を見せてもらったところ
TV 冷蔵庫 シャワートイレ 設備が新品、綺麗、清潔、落ち着いている!
かなり気に入ってしまった、連泊することに決定。
国谷アナウンサーみたいな雰囲気だ
少しお堅く生真面目そうな感じもする
つくづくイタリアに対する印象が変わった。
チューリッヒで買った、スイスビールで一杯やる。
宿に到着するや、冷蔵庫に冷やしておいたビール
フェルトシュロスチェンを胃に流し込みながら
スイスを最後にし立ち去った夜を、心に仕舞い込んだ。
ミラノ泊 : Hotel Dorè (http://www.hoteldore.com)