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さて、今回は「高いギターと安いギター、何がそんなに差があるの?」といった疑問に私なりの結論を導くべく、このようなタイトルとなっております。楽器業界で働くが故、夢を壊したくない気持ちも往々にしてあるのですが、ある意味での真実を探求したいと思います。
まず、楽器の値段ですが、これが決められる大きな要因を挙げてみましょう。
1. 人件費
2. 材料費
これだけです。強いて挙げるなら、中間業者のマージンなんて物(特に輸入物)や、市場で言えば「高額品を所有する満足感」なんて物もありますが、とりわけ生産においては「人件費」が製造価格を決める最大のポイントとなっているのです。
なぜ人件費がそれ程までにかかってしまうのでしょうか。それは現在の楽器(ここではギターに限定しますが)の生産体制が大きく影響しています。自動車等オートメーション化できる工業製品(私の記憶では、トヨタ自動車の溶接ラインのオートメーション率は93%だったと思います)とは違い、楽器は大部分が手作業で生産されています。これは日本だろうがアメリカだろうが中国だろうが同じです。最近はインドネシアにも大きな工場がボッコンボッコン建てられ、それこそ毎月5万とか6万本のギターを作っていますが、もう工場内は人だらけです。オートメーション率なんてどれだけ整備された工場でも10%にも届かないくらいなのではないでしょうか。それだけの人間を使うわけですから、当然彼らに対して給料を払わなければならない。その給料が安い国ほど、我々から見れば安いギターを提供できるという事なのです。
ではなぜギター工場はオートメーション化を行わないのでしょうか。その理由は、個人的には「ギターの構造上の問題」だと捉えています。自動車であれば材料は鉄、それこそ鉄板をプレスでガシャポンすればそれで部品はできてしまいますし、プラスチックであれば型に材料を流し込んでしまえば完了です。しかしながら、ギターの場合は材料が木材であり、角材から削り出さなければなりません。また、木材の性質上、必ず膨張、収縮が起こりますので、絶えずそれを修正しながら作る必要があります。その後全体を研磨して面を均し、さらに磨き工程を経て塗装、塗装面の磨き工程と続きます。最初の削り出し工程をオートメーション化している工場はたくさんありますが、そこで起き得る様々な問題(例えば加工による刃物の跡や材料の小さな欠け、傷等)は、手作業で均すしかないのが現状であり、「何ミリ削ればオッケーよ」というものではありません。また、ギターはそれ程大きな物ではなく、その中に曲面と平面が混ざり合った形をしていますから、これを機械で均そうと思うと膨大な費用がかかる(特に機械の開発費)というのもひとつの理由だと言えるかも知れません。そう言うわけで、現在でもギター工場は昔ながらの「工場制手工業」スタイルを貫いているわけです。
というわけで、高いのは人件費のせいです、作業の内容はみな同じですから、品質に関してもそれ程大差ありません、なんて事を言ってしまうとそれこそ身も蓋もなくなってしまいますし、実際同じ工程を経て生産されるギターでも品質は様々です。これはなぜ起きるのでしょうか。一言でいいましょう、それは作業者のスキルです。先にも述べたように、ギターの生産の大部分は人の手によって行われます。よって、作業する人間によって品質は大きく左右されるのです。作業員の経験や技術ばかりでなく、性格やその日の気分によっても多少のばらつきは出ます。現在売られている「高いギター」というのは、基本的に人件費の高い国で作られています。「人件費の高い国」というのは、それなりに経済成長の歴史があり、「物を作って輸出する」という行為を古くから行ってきた国です。要するに、彼らには今まで培ってきた経験と技術があり、新採用者に対してもそのノウハウを伝授する術を持っているからこそ高品質の物を作る事ができるわけです。また中国に代表される人件費の安い国は、結局工場もまだポッと出の感は否めず、生産体制やノウハウを確立できていないのが現状です。それに加え、中国人の国民性という部分もありますから、どうしても細かい部分までは目が行き届きません。このような理由から、品質の差というものが生まれるわけです。ただし、これは今でこそ価格と品質のバランスが取れていますが、今後本当にこのまま行くのかどうかはわかりません。既に「日本での物作りは終わった」と言われるようになっていますし、経済成長よりも工業製品の精度向上が早いような国があったとしたら、日本製やアメリカ製のギターは「高いだけじゃん」なんて言われて誰も買わないような時代が来るのかも知れません。
さて、続いて挙げられるのが「材料費」ですが、これは人件費と比較するとそれ程の大差はありません。材料は主に「木材」と「ギターのパーツ」に分けられますが、こと木材に関して言えば、同じ材料であれば世界中どこで買っても値段は殆ど変わりません。ただ、この「同じ材料」というのがミソで、実は現在安いギターで使われている材料は木目こそ似ているものの、名前とは違う材料で作られている事が多いのです。例としてマホガニーというレスポールのネックやバック材として使用されている材木を挙げますが、これは私の知っているだけでも現在4種類の代用材が存在しています。また、同じ材料でも生産国が変わると性質が変わり、名前も値段も変わる、という事もあります。こちらは指板材に使われているローズウッドが良い例ですが、良質なローズウッドはインドやブラジルなど亜熱帯地域で生産されています。しかし、最近は伐採し尽くした感も否めず、近年ではインドネシアなど熱帯地域で栽培されるようになりました。当然気温の差がありますから、インドネシア産のローズウッドは生長が早く、亜熱帯産の物よりも早い伐採が可能です。ただし、その分木目の詰まりが悪く、亜熱帯産と比較して軟質な材木になります。これはソノケリンと呼ばれており、価格はローズウッドの半額です。現在のギターの多くにはこの材料が使用されています。
と、このように数多くの代用材が存在するわけですが、その理由は価格以外にも、「良質の材料がない」という事が挙げられます。昔は普通に使われていた正規のマホガニーやローズウッドは近年入手が非常に難しく、価格も高騰しています。とはいえ、中国と日本で全く同じ材料を使い、全く同じパーツを載せたとして、それを店頭に並べたとしましょう。そうした場合、パッと見ただけでは価格差程の品質の差は見えないだろうと思います。ですから、そこに更なる付加価値を与えるために、高いギターは良い材料を使うわけです。とりわけ良く用いられるのが、ギターのトップ材として用いられるフレイムやキルトといった杢の入ったメイプルで、これはプレーンのものと比較すると10倍近くの差がありますが、見た目に華やかさを与え、高級感を醸し出させるためには手っ取り早い材料だと言えるでしょう。また、パーツに関してもいわゆる「ブランド物」を使用する事で、そのギターのイメージを高める事が可能です。
また生産サイドにも「高いギターを作るメリット」というのが存在します。それは、高いギターほど利益を多く取れるということです。これはどの業界でも同じ事ですが、基本的に利益は「利益率」という形で生産原価に上乗せされます。「率」、即ちパーセントです。「利益額」ではありません。よって、生産原価が高いほど、利益の金額も大きくなります。これにはもちろんパーツ代も含まれますから、極端な話をすれば、「ピックアップを無名の物からブランド物に変更します。ピックアップの原価が1万円違いますから、それプラス利益率○%分の値上がりです」という話にも相成ります。工程も手間も変わらず、ブランドを替えるだけで利益が増えるわけですから、工場としてはこれをやらない手はありません。でも高くなりすぎると売れませんので、そこのバランスが難しいのです。
というわけで、今回は「なぜ高いギターと安いギターが存在するのか」という疑問の真相に迫ってみました。何も考えずにドコドコとキーを打ってますので、誤字、脱字以外にも決定的な文法ミスや「意味がわからん!」なんて部分が往々にして存在するかと思いますが、遠慮なく批判してください。随時修正します。
また、疑問、質問、今後取り上げて欲しい事などありましたらお願いします。「速弾きできないんだけど!」とかそういうのは「練習しろ」で片付けますが、メンテナンスやギターに関する質問には可能な限りお答えします。
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