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10日程韓国を留守にし、日本に行ってきました。
基本的に私は二ヶ月に一度くらいの割合で日本に帰ります。一応ミーティングがあったりするんですが、社長に言わせれば「まあミーティングなんて建前だ。君もまだ若いんだし、日本で会いたい人もいるだろう。いないって言うんなら韓国で女作って永住してもらってもいいけどな、がっはっは」って事らしいです。余計なお世話だ。何で永住やねん。で、この「建前ミーティング」も、もうホントに建前なんだなって思っちゃうような内容で、文字通り「アンナが先か、辰夫が先か」を議論しちゃうような内容なんですね。私はそういうのが我慢ならないタイプですから、時折こう凄い勢いでベラベラ意見を並べ立てる事があるんですけど、そうすると偉いさん方から「shiy君は辛口だなぁ」とか言われて終了。どうなってんだ。
まあそんなこんなで、材木を煮る実験に使う墨汁とか、朝食に欠かせないインスタントの味噌汁とか、コレクションのトミカとか、夏の必需品であるスプレーの制汗剤とかを買って、飛行機に乗る前に「スプレーはダメです!」って取り上げられたりしながらまた韓国に戻ってきたわけなんですけど、そんな買い物をしている最中に、そのデパートのホールで「シム・シメール絵画展」という催し物をやっているのを見つけました。私はインテリジェンスかつハイソサイエティーな人種を自負していますから、こういった催しには必ず足を運ぶ事にしています。今回も例外ではなく、そんなモダンな雰囲気の展示会にインスタント味噌汁と墨汁の入った半透明の袋を抱えて乗り込んでみました。
まず、このような展示会がどのような類の物なのかを紹介しておきましょう。これには大きく分けると二種類があり、最初に考えられるのが「そのデパートなりが主催して行う展示会」です。これはいわゆる「美術館をそのまま持ってきてみました」的に行われる催しで、普段はなかなか見ることのできない美術品を間近で堪能できる良い機会です。ただし、この類の催しの多くは入場料が必要で、チケットを事前に購入しておく必要があるものもあります。この入場料は、主に美術品のレンタル費や会場の維持に充てられます。
続いて考えられるのが、「業者がそのスペースを借りて行う展示会」というものです。この場合、業者が善意でこんな催事を執り行うはずはありませんから、何らかの利益が出なければ話になりません。にも関わらず、業者の催しで入場料を必要とする展示会は皆無に近い状況です。何故だかお分かりですね、そうです、そこに展示している物を売るからです。
このような業者は、一般的にはあまり知られていませんが、大抵が悪徳業者だと思ってかかって良いと思います。また、彼らの手口は非常に巧妙で、訪問販売に関する法律や特定商取引法等を全部掻い潜る事ができるようなシステムで運営をしていますから、クーリングオフ等が効かない場合が殆どです。「法律を満たしているのなら悪徳じゃないんじゃないの?」と言われる方がいるかも知れませんが、ところがどっこい、その値段が法外なんですね。この展示会は絵画に限らず、着物、宝石、その他諸々、展示する物の種類は多岐に及んでいます。
私が今回潜入したのは後者、いわゆる悪徳系の展示会でした。私はこの手の展示会には慣れており、いつも何事もなかったかのようにその場を後にするのですが、今回は恥ずかしながら危うく引っかかりそうになりました。買わずに帰ってこれたのは「運が良かったから」としか言いようがありません。今回は、これをケーススタディとして、彼らの販売方法の実態に迫ってみましょう。絵画に限らず、その他の商品でも同じ事が起きないとは限りません。欲しいものなら買えばいいんですけど、後悔だけはしないようにしてくださいね。
因みに、今回は論破したりだとか、あわよくばネタにしようといった気持ちはこれっぽっちもなく、潜入の動機は「絵を見たい」という純粋なものでした。気持ち良く芸術を堪能して帰路に付く気満々だったのがこの事態ですから、もう見事な洗脳、敵ながら天晴れ!と言わざるを得ません。いや、まあ私が勝手に引っ掛かっただけなんですけど。敵さん何もしてないんですけど。とは言え、多少の知識を持っていた事が、洗脳を解く大きな鍵になったのも事実です。私はこの書き物を、自分への戒めと共に「後悔しない買い物のお手伝いとして読んで頂ければ」という思いを込めて書きました。よって、「補正下着屋とのディスカッション」のような鮮やかな論破もしていなければ、軽やかな反論もしていませんので、あまり期待はしないでください。何てったって引っ掛かかりかけたんですからね。なんとまあ恥ずかしい、恥辱に塗れた赤裸々奮闘記ですよ。決して私のように嵌らないよう、注意して頂きたいと思います。
では、まずこういった絵画商法(展示会商法とも言われます)の流れを勉強しつつ、気持ちよく芸術を堪能して上手に帰る方法を学びましょう。
ホールに入ると、早速販売員が寄ってきます。男性客には女性販売員がつくのがセオリーのようで、私の印象では鴨っぽい客ほど美人が付く可能性が高いように感じます。今回寄ってきた販売員は目も覚めるような美人さんでしたから、私が余程の鴨に見えたのでしょう。こんな味噌汁とか持った男のどこが鴨なんだか。早速会話が始まります。
「いらっしゃいませ、今日はシム・シメール先生の絵をご覧になりにいらしたんですか?」
実に饒舌。滑らかな喋り出し。でもそんな、そもそも「シム・シメール絵画展」ってのに来てるのに、誰が「ムンクが見たい!」とか言い出すんだよ。当たり前にも程がある質問です。
「ええ、そうです、入り口にそう書いてあったんで」
さらっと嫌味を混ぜつつ、軽やかに対応しましょう。
「そうですか、ありがとうございます。では展示会もたまたま見つけられたんですね~。お若いのに絵に興味があるなんて素晴らしいですよね。他にお好きな画家とかいらっしゃいます?」
早速誉めにかかります。この手の販売は、まず客に「この物の価値を見抜いたあなたは凄い!」というような事を言い、売られているものに価値があるのだという事を刷り込む事から始まります。ちょっと気を良くした振りをして、知ってる画家の名前でも挙げてみましょう。
「ええ、ラッセンとかヒロ・ヤマガタとか、あと天野喜孝なんかも好きですよ」
「え~、若いのに良くご存知ですね~、どうしてそんなに知ってらっしゃるんです?」
マズイ、そうきたか。まさかパズルなんて言えない。天野喜孝なんてゲームのキャラクターデザインやってたからなんて言えない。ここは適当にお茶を濁します。
「ところでお若く見えますけど、今お幾つなんですか?」
年齢も普通に答えます。これは多分何歳だと答えても、それに合わせた誉め言葉が出てきます。大切なのは、どう転んでもその誉め言葉は社交辞令でしかないという事。決して間に受けてはいけません。
こんな感じで、一通り自己紹介っぽいものが終わると、販売員さんは必ず気に入った絵があったかどうかを聞いてきます。一番大切なのは、もうこの時点で「買う気はない」という事をしっかりアピール、もうアンタどっか行ってよ!くらいの対応をしてやる事です。販売員が常に横にいるということは、それは常に「販売員の巧みな勧誘の危険に晒されている」という事です。とはいえ、彼らはある程度絵に関する知識も持っていますから、その辺を聞き出したければせっかくですから使いましょう。あまりお勧めはしませんけどね。
下手に絵を指名してしまうとセールストークに持っていかれてしまい、芸術堪能どころの話ではなくなってしまいますから、とりあえず「まだ来たばかりなので殆ど見てない」と言っておけば、販売員が絵をひとつひとつ解説してくれます。ただし、上にも書いた通り、説明の中にも上手く相手を乗せるための話術が巧みに織り交ぜられていますから、その辺りは注意が必要です。ベースになるのは、「これを持つ事がステータス」だとか、「アダルト気取るならこれくらいは必要でしょ」と言った、所有欲とか自己顕示欲に関係する部分を刺激する事です。また、「いい大人がこういう芸術性のあるものをひとつも持っていないなんて恥ずかしい」という事を逆説的に述べる事による心理的効果も狙っています。加えて今回の場合、売り物は絵画ですから、「芸術」というエッセンスを加えることで、より心に響きやすいフレーズを作ることが可能になります。時にはセクハラまがいのフレーズも入る事がありますが、恐らくこれは男性客限定でしょう。その売り文句だけを抜き出せば、それはもう箸にも棒にも引っかからないようなフレーズなんですけど、これを言葉巧みに操るのが販売員のテクニック。だってもう考えてみてくださいよ、そんな美人に「格好良い」なんて言われたら、誰しも悪い気はしないでしょう。そういった男のスケベ心を、オブラートに包んで包んで上品に仕立て上げた言葉を使って刺激するわけなんですよね。
ですから、とりあえず「自分に向けられた誉め言葉」には細心の注意を払ってください。全部マニュアルですから。本気にしてはいけません。まあ私も大概慣れてますから、そんな言葉には引っかかりません。「またそんな事言っちゃって、どの口が言ってるんですか?」ですとか、「目、見えてます?僕の眼鏡貸しましょうか?」などとピリッとスパイスの効いた毒舌全快で言葉の応酬をかけるんですけど、販売員も負けてないんですよ。こちらがどんな質問をしても、実に的確な返答をしてきます。こういう言葉の応酬は楽しくて仕方がないので良いんですが、如何せん私が言葉を投げて会話が終わるって事が皆無なんですよね。必ず会話の最後は販売員。まさにああ言えばこう言う、ああ言えば上祐。私の言葉で会話が終わったのは僅かに二回のみ。
会話例①
「シルクスクリーンだとかアータグラフだとか言ったって、結局は版画でしょ?何でこんなに高いんですか?」
「そんな事言いますけど、保存にはこっちの方が向いてるんですよ。手入れも要らないし、何より絵画の価値は落ちませんから。それに本当に心の惹かれる作品って物は、絶対お金に換えられない価値がありますよ」
「でもそうは言っても日焼けとかは心配だし、地震がきて落ちたとか、額のガラスが割れたりとか、そういうの心配じゃないですか。東海大地震だっていつ来てもおかしくないって言うし」
「あ、この額はガラスじゃなくてアクリルなんですよ。ですから軽いですし、倒れて割れたりって心配もないですよ。それに紫外線を70%カットできるようなアクリルですし、何より絵の方も紫外線の影響受けにくい塗料を使ってますから」
「でもアクリルって面の衝撃には強いけど、点の衝撃には脆いじゃないですか。しかも弾けるように割れますよね?それじゃ安心とは言えないし、絵に傷も付きますよ」
「…」
会話例②
「お、この絵可愛らしいじゃないですか」
「あ、この絵は動物をお客さんの好きな動物に作り変えられるんですよ!」
「え、じゃあうちの犬とかでも大丈夫ですか!?チワワとパピヨンのハイブリッドなんですけどね、もうチワヨンですよ、チワヨン。まあ連れはパワワとか言ったりもしますけど。あ、あとシェパードもいるんでね、でっかいのとちっちゃいののコラボレーション、そんなん可能なら最高ですね」
「…それはできません」
「じゃあこれはいらないなぁ」
以上。手強いです。
まあここまではある意味普段通りの会話で、どんな販売員に当たっても同じ事。で、この辺で気を良くしだしたお兄ちゃんとかはこれから販売員に口説かれちゃうんですけど、私はいつもならここで難癖つけて帰ります。だっていらないですから。で、普段は「絶対にこの作家がこんな絵描いてるわけがない」っていうテーマを掲げて、「こんなんあったら欲しいけど、そんなんないでしょ?じゃあ帰るわ」って感じなんですよね。今日も一応全部を見終わりましたから、お決まりの台詞で脱出を試みます。
「う~ん、我が愛犬とのコラボができれば良かったんだけどなぁ、ちょっと他には心惹かれるものがないですね。今日のところは帰りますよ」
「じゃあラッセン先生なんかどうですか?今日はそちらも展示してますので」
「いやあ、ラッセンはいいですよ、見飽きるほど見てますし、昔パズルもいっぱい作りましたからね。特に欲しいものはないです」
「そんな事言わずに、ちょっと見るだけ見てってくださいよ~」
このおねえちゃんしつこいな。というわけで、バサッと切りましょう。
「いや、ラッセンの色使いとかタッチは好きなんですけどね、何かいつも描く物がハワイアンじゃないですか。それが気に入らないんですよね。日本海の冬の荒波!とか描いてくれてたら間違いなく買うでしょうけど、もう常夏の国とかうんざりなんで」
さて、バサッと切りました。ラッセンが和風の絵なんて描くはずがありません。
「う~ん、日本海ではないですけど、ラッセン先生の新作で和風なものならありますよ」
な、なに!?
しまった、盲点だった。アノヤロウ描きやがったのか。そう言われては後には引けません。とりあえず見るだけ見ないと。
「これです」
もう見た瞬間、言葉を失いました。素敵なんです。こう、雪化粧の富士山と、その麓に広がる湖を背景にして、その上に舞う鶴と満開の桜が大胆且つ繊細に描かれた構図なんですけど、凄い良い。多分目の色変わったと思う。これ見た瞬間にね。で、悪いことにそれを販売員にも悟られちゃいまして、もう椅子を勧められ、コーヒーまで出されちゃう始末。これ良い。欲しい。さあ、完全に嵌められてます。いや、勝手に嵌ってます。ここからは自分との戦いです。
一度暗示にかかってしまうと、自分でそれを脱する事は容易ではありません。何とか外的要因の中から、「買えない理由」を探さなければいけません。私の中で買えない理由になり得るのは、
1.居住地が韓国である
2.何か法的な穴はないか
3.これ買うなら車買うぜ
この3点のみです。なんせ気に入っちゃったんですからね。もう思考回路もふにゃふにゃで、どうやってこれで論破するんだよ!っていう、もう説得というより言い訳にしかならないような材料しか出てこないんですけど、何とかここから突破口を見つけましょう。
まず、居住地の問題をぶつけます。何やら用紙を渡され、住所なんかを記入するように言われるので、ここはさらっと全てをハングルで書きます。電話番号も韓国の物にしておきます。
「あの、これは…?」
「あ、私韓国に住んでるんですよ。さすがに発送とかできないですよね?」
さあ、できないと言ってもらいましょう。
「ちょっと待ってくださいね…あ、できますよ、しかも無料です」
さくっと第一防壁突破されました。
続いて第二防壁です。
「この絵だと、月々のお支払いは…」
「いや、ちょっと待ってくださいよ。さっきからそうやって月割りの計算してますけど、具体的には何回払いの金利どれだけで計算してるんですか?」
「えっと、5年払いの金利は29%です」
なんとまあ29%!いささか法外な気がしないでもありませんが、一応法律で定められる最高金利は29.2%だったような気がします。これもギリギリクリア。さすが抜け目がないぜ。どちらにせよかなりお高い金利であることも事実ですが、金利が嫌なら一括で払ってしまえば良いわけで、これは法的云々の説得材料にはなり得ません。第二防壁もクリア。
もう最後の防壁です。何とあっけない。
「でもそれにしても95万でしょ?これ買うなら車買いたいなぁ」
我ながら非常に情けない理論展開。隙だらけです。販売員もこれでもかってくらいその隙に付け入ってきます。
「でも車は車検もあるし、乗れば価値も落ちるし、乗換えとかもあるじゃないですか。絵画は一生ものですし、その価値は落ちません。それに、芸術は値段じゃないですよ。shiyさんもそれはわかっていらっしゃるでしょう?お金では買えない価値を見出せる、わかる人だからこそ価値がある、それが芸術なんですよ」
ごもっとも。因みに少しアングラな世界になりますが、このような絵画を適正価格で取引する業者もあります。値段は悪徳業者の2割~3割程度が相場です。3割引きって事じゃないですよ、売価が3割なんです。オークションでも大体似たような値段で取引されていますから、確かに価値は落ちません。でもそれは、飽く迄適正価格で購入した場合の事。ふっかけられた「悪徳料」は決して価値には上乗せされません。とは言え、こういった悪徳業者のみが販売している絵があるのもまた事実で、今回のラッセンも一般市場では見たことがありませんから、少なくとも現時点ではここでしか手に入らないわけです。また、「芸術はプライスレス」、これはその通りだと思いますので、「だって絵には乗れないじゃん」なんて反論しても虚しくなるだけです。
さあ、全ての防壁が突破されました。今の私は丸腰、丸裸。入浴中に奇襲をかけられたかのような気まずさです。成す術はありません。もう契約するのみです。ここまで鮮やかにやられては、もう後には引けません。ただし、今回は相手に救われた。典型的な悪役だったんですね、彼女。映画とかでもよくいるじゃないですか、こうせっかく相手を追い詰めたのに、最後にベラベラ喋り過ぎて、結局逆転かまされちゃうような間抜けな悪役が。この販売員もその典型で、一番やってはいけない事、即ち私に退路を与えてしまったわけですよ。頭を抱えてうなっている私を尻目に、彼女は電卓を叩き出しました。
「shiyさん、今なら特別にこれでご提供させていただきますから…」
電卓のディスプレイには72万の文字。まあ奥さん聞きました?値引きができるらしいんですよ。しかも23万も。これは初めて知りました。皆さん!値引きできますよ!どうしても欲しいなら、交渉してみましょう。彼女もこれで判子押すと思ったんでしょうね、もう目が勝ち誇ってますから。全く喋り過ぎなんだよ、この間抜けな悪役め。これでようやく私も目が覚めましてね、こいつ可愛い顔して悪徳なんだって思い出しましてね、全てをご破算にする計画を思いついちゃいました。もう逆転ホームランです。これでどうやって逆転するのかって?こうするんですよ。
「値引きするだとぉ!?」
とりあえず切れます。もうこれでもかってくらい切れます。一瞬世界が止まります。周りの空気が凍ります。会場内の全ての視線が私に集まります。大概恥ずかしいですが、先を続けましょう。
「アンタ、さっき『芸術は金じゃない』って言ったよな?その人にとっての大切な物だから、それはお金に換算するものじゃないって言ったよな?それをアンタが値引いて叩き売って、客の価値観貶めるような事してどうする気だ?アンタは『これがこの芸術に対する相応な価格だ』つって売値決めてんだろ。その値段が絵の下に貼ってあるんだろ。それを値引けるってのはどういう事だ?そんな芸術を軽んじるような相手から、おれはこんな買い物したくもないね。見損なったよ。おれはアンタが芸術の価値を理解した上で、おれに購入を勧めてると思ってたんだけどな」
交渉決裂。万事解決。
それにしても見事な切れっぷり。しかもまあ何とも芸術愛好家チックな発言。これでもう彼女にはどうする事もできません。値引きを提示してしまった以上、「じゃあ正規の値段で」とも言い直せませんし、もうどう足掻いても私が怒ったフリをしたポイント、要するに「芸術はプライスレス」という部分に傷をつけてしまったわけですから、関係修復は不可能です。もう沈黙ね。会場内超沈黙。一瞬が千年にも感じられるような気まずい空気。おねえちゃん若干涙目。ちょっと大きな声出し過ぎちゃったかしらん。まあどちらにせよ突破口は開きましたから、ハングルとはいえ個人情報を記入してしまった用紙をナチュラルに回収し、私は颯爽と出口へ向かいます。長居するのも気まずいですからね。もう全員の視線が私を追ってて痛いくらいなんですけど、それでも負けずに進みます。
と、出口まで辿りついた時に大事な事に気付きました。
「味噌汁忘れた…」
そう、買った味噌汁と墨汁、席に置きっぱなしなんですよね。会場内は未だ固まったままですし、皆の視線はこっちに集まってるし、もうどうしようか大概悩んだんですけど、仕方がないのでUターン、足早に席まで戻り、味噌汁の袋を引っつかみ、腹いせに残ったコーヒー飲み干して、逃げるようにその場を後にしました。
さて、なんとまあ恥ずかしい内容でしたが、いかがでしたでしょうか。お気づきの方もいると思いますけど、もう好きな絵を見つけてしまってからの私はそれこそどうしようもなく、もう頭が回っていなかったのがわかると思います。本来はこういう状態を販売員が作り出すんですけど、今回は自らそんな状態に陥ってしまいました。
「君子危うきに近寄らず」という諺が示す通り、やはりこういう場所には出向かない、というのが最大の防衛策です。とは言え、何も知らずに入ってしまうような場合も往々にしてありますので、危険な状態にならないためにも、重要なポイントを上げておきます。
長居はしない
こういった商法は、あの手この手で長居をさせるようにします。そうする事で客は雰囲気に飲まれ、値段にも見慣れて感覚が麻痺してきますし、またちょっと強引に引き止める事で「早く帰りたい」という心理状態にさせ、契約に持っていくという手法がよく取られます。
金利、分割回数の確認を
高額商品であればあるほど、彼らは「月々いくらのお支払いです!」と、さも買いやすいかのような言い方をしてきます。ただ、私の事例でもわかるように、その金利は膨大な額です。例えば今回の例ですが、95万円を金利29%で5年間支払うとすると、月々の支払いは3万円強で済みますが、総支払額は実に180万円を超えます。こんなバカみたいな話はないですね。私が金利について聞いたときも、販売員はちょっと言うのを渋っていました。これは突っ込みどころでしょう。金利が法外であるならば、それはまず悪徳だと考えてもらって差し支えありません。
常に冷静な判断を
こういった展示会では、上手く客をその気にさせるようなセールストークがものの見事に展開されます。その中から、うまくお世辞を見抜けるようにしておきましょう。決していい気にならないように。「自分は大丈夫」だと思っていても、何がきっかけでフラッといってしまうかわかりません。また、同じもの、あるいは似たようなものを適正価格で販売している業者は必ずあります。その事を心に留めるようにしておきましょう。今回の絵画に関してはまだ市場には出回っていませんが、今後出回る可能性がないわけではありません。これは他の商品にも言えることです。
適正価格の勉強を
どんなものにも「適正価格」というのが存在します。今回のような特殊な物の場合、適正価格がわかりにくいですから、騙された事に気付いていないような人もいるようです。他にも、宝飾品等は特にその価値がわかりにくく、立派な鑑定書なんかが付いてたりすると、さも大層な価値があるかのように見えますが、実際はそうでない事も多々あります。大きな買い物は、なるべく信頼できる店でされる事をお勧めします。業者の展示会なんかでは、まず疑う事から始めてください。入場するだけでノベルティーとか粗品の進呈なんかがあるような場合は、尚一層疑って構わないと思います。
以上、勉強になりました。反省します。やはり無防備で行くと碌な事ないですね。法的にもきちんと逃げ道を用意してる辺りが非常に周到です。ただ、そこのデパートではこの類の催しが定期的に開催されてたりしますので、一度資料をひっくり返し、リベンジかけてみたいような気もしないでもありません。ただし、「ミイラ取りがミイラになる」なんて諺もありますから、やはり無茶はしない方がいいんでしょうね。皆さんも気をつけましょう。
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