ピピピッ、ピピピッ
目覚ましの音で飛び起きた。
隣を見る。
ぐっすり眠ってる汐。
「おはよ、汐」
小さな声でつぶやく。
いつもより30分早い起床。
今日は幼稚園のお弁当の日だ。
「よし、やるか」
はじめて作るお弁当。
今日だけは、汐の好物で埋め尽くしてやろう。
炊飯器のスイッチを入れ、昨日仕込んでおいたハンバーグを焼く。
卵焼きは早苗さん流に甘さ控えめ。
シュウマイは冷凍で勘弁な。
小トマトとゆで卵にちょっとマヨネーズ。
自分の分もつめる。
おにぎりは星とハァトの型取り。
海苔と振りかけで飾り付け。
全く同じ弁当がふたつ。
出来るだけ可愛く作ったつもりだが、どうだろうか。
今日は汐とお揃いだ。
気がつけば、汐を起こさないといけない時間をとうに過ぎていた。
「やべっ! 汐、起きろっ」
カーテンを開け、ぽんぽんっと汐の胸のあたりを叩く。
「ん〜〜っ」
汐は上半身を起こして、目をこする。
「おはよ、汐」
「パパ、おはよー」
にっこりと笑う汐。天使のように見えた。
いつもの時間の5分送れくらいで幼稚園についた。
この時間なら余裕で会社に間に合う。
「おはようございます」
主婦の一団にあいさつする。
「おはようございます」
パラパラとあいさつがかえってくる。
俺は笑顔で黙礼し、門をくぐった。
いつものように杏がよってきた。
「おはよっ」
「はよっ、今日も頼むな」
「うんっ、まっかせっなさいっ」
杏はちょっと心配気に聞いて来た。
「お弁当大丈夫?」
「おう、ちゃんと持ってきたぞ」
「きょうはパパとおそろいっ」
汐が嬉しそうに言う。
「ふーん。頑張ったんだ」
「まぁな。んじゃよろしくっ」
「うんっ。頑張ってきなさいっ」
俺は主婦集団に、
「それでは失礼します」
と頭を下げて会社に向かった。
……。
…。
3時、俺は会社を抜けて幼稚園に向かう。
挨拶をして門をくぐる。
子供の集団の方を見て汐を探す。
あれ? 汐、ちょっと暗い顔してるな。体調でも悪いのか?
それとも、やっぱ弁当、かな?
「お…」
汐に声をかけようとしたところで腕を引っ張られた。
「あんた、ちょっとこっちに来なさい」
杏だった。
「ん? どうした? 杏」
「いいからっ」
うわっ、久しぶりにド迫力の杏を見た。
俺は素直に従った。
「汐ちゃん、落ち込んでるわよ」
「やっぱお弁当か?」
「なんだ、わかってたんだ」
「男料理だしな。やっぱ可愛くなくてからかわれたのか?」
「はぁ、やっぱわかってないっ」
「すまんっ。わからんっ。教えてくれっ」
「……」
一瞬で杏の怒りが静まる。
「素直に謝られたら怒れないわ。あのね、お弁当の内容に特に問題はないと思う。
汐ちゃんもお弁当を開けたとき、とても嬉しそうだった。でもね……」
ごくり。
「張り切ったのはわかるけど、量が多すぎなのよっ」
「うっ」
気がつかなかった。その通りだ。力仕事の俺と全く同じ弁当。
「でも食べきれないなら、残せ、ば……」
「わかった?」
「すまん、汐は残さない、な」
「お弁当の時間が過ぎても『ぜんぶたべるっ』って譲らなかったんだから」
「そっか」
「『残してもパパはわかってくれる。残りは帰ってからパパと一緒に食べなさい』って言ってあるからね。あとはよろしく」
「すまん」
「私より汐ちゃんに、ね」
「そうだな。助かったよ。さんきゅ」
「……。ホント、あんた父親になったのね」
「そう思うか?」
「うん。ほら、わかったなら、汐ちゃんっ」
「あぁ」
「汐っ」
門に戻って笑顔で汐を呼ぶ。
「パパっ」
汐が足にしがみつく。
「パパ、あのね、あのね……」
俺は腰を落として汐と向かい合った。
「杏せんせから聞いた。多すぎたな。ゴメンな、汐」
「ぜんぶたべれなかった。ごめんなさい」
「いや、パパが悪かった。美味しかったか?」
「うんっ。はんばーぐおいしかったっ」
「ならよかった、残りは一緒に食べような」
「うんっ」
「ねっ。パパ怒らなかったでしょ?」
いつの間にか杏が後ろに立っていた。
「うんっ」
そして俺に抱きつき、
「パパだーいすき」
頬にキスをしてくれた。
一瞬、殺気を感じたのは気のせいか。
ふと気になって時計を見る。
「やべっ」
仕事を抜けている事を忘れてた。
「汐っ、パパは仕事中だから帰るぞっ」
「うんっ」
「杏、今日はありがとな」
「…。ほら、いいからっ、気をつけて」
「サンキュ」
「せんせい、さようなら」
「さようなら、気をつけて帰ってね」
「汐、今日はおんぶだっ」
「うんっ」
しっかりと汐をおんぶする。
「しっかりつかまってろよ」
「うんっ」
「ゴーッ」
「おー」
次はもっと上手に作ろう。
坂道を駆け下りながら、俺はそう誓った。
[END]
初出:「岡崎朋也と汐〜父子家庭の日々〜」スレ 155〜159