父の日

 買い物を手早くすませ、急いで帰ったつもりだったけど、6時半を過ぎてしまった。
 今日は金曜日。週末はずっと汐と一緒にいられる。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
 汐が駆け寄ってくるかと思ったが、テレビに夢中のようで、声だけだった。
 ちょっと寂しく感じると同時に、そのくらい俺の帰宅が自然になったことが嬉しくもあった。
 着替えて晩飯を作る。
 献立は焼き魚にみそ汁、漬け物と昨日の残り物でいいだろう。
 漬け物を切っていると……
「パーパッ」
 足に抱きつかれた。
「えへへ〜」
 アニメが終わったんだろう。
「あぶないぞ、汐」
「おてつだいするっ」
「そっか、えらいぞ」
 今切った漬け物を小皿に乗せる。
「汐、これをテーブルに持ってってくれ」
「はーいっ」
 ……。
 …。

「ごちそうさまーっ」
「ごちそうさま」
 このところ、汐が食べるのが早くなってきた。
 俺につられて早くなっているんだろう。
 一生懸命食べるのはいいんだけど、早飯は体に良くないらしい。
 俺ももう少しゆっくり食べないとな。

「パパ、はい、これあげる」
「ん?」
 汐が、リボンで結ばれた丸めた画用紙を差し出した。
 幼稚園から帰る時、汐が大事そうに抱えてたヤツだ。
「なにかなー?」
 リボンをほどいて、目に飛び込んできたのは……。
 クレヨン全色を使ったんだろう、色とりどりの丸。
 違う、これは、……だんご。
「パパ、いつもありがとうございますっ。いつまでもげんきでね」
 幼稚園でそう言うように教えてもらったんだろう。
 画用紙は2枚張り合わせてあって、1枚の中央には3人の絵。
 たくさんのだんごでその周りが埋め尽くされていた。
 3人の体の上や、かろうじて読める「パパありがとう」の文字の上にもだんご。
 もう1枚の画用紙にはだんごだけ描かれていた。
「パパと汐と、…ママ、だな」
「うんっ」
「丸いのはだんご…」
「うんっ、これがねーさなえさんだんご、こっちがあっきーだんご、……」
「こっちはだんごばっかりだな」
「うんっ」
 涙で絵がよく見えない。
「どうして2枚描いたんだ?」
「こっちにぜんぶかけなかったの」
「全部って?」
「だって、んーっと、だんごは100にんかぞくだから、みんなかいてあげないとかわいそう」
「……」
 俺は汐を抱きしめていた。
「……ありがと。……ありがとな、汐」
 俺ってこんなに涙もろかったんだな。
 ……。
 …。

 次の日、汐と駅前までショッピング。一通り回って、最後に以前一度訪れたおもちゃ屋に入る。
 一瞬身構えたけど、
「いらっしゃいませー」
 普通の店だった。
 早速プラモデルの棚に移動する。……機動戦士のプラモデルってこんなに種類があるのか。
「汐はどれがいいと思う?」
 一応子供の意見を聞いてみる。
「んーと、これかっこいい」
 どれどれ? パーフェクトジ○ング。1万円……。今時のプラモデルは1万円するのかっ!
 つーか、これカッコいいか? 俺は我が子の美的センスを疑わずにはいられなかった。
 あきらめてレジのおじさんに相談する事にした。
「すみません」
「はい。なんでしょうか?」
「えっと、前に来た事あるんですが、古河パンのオッサンと…」
「…、あー、はいはい。…もしかして、古河さんのお孫さん?」
「え、こいつっすか? そう、そうです。汐といいます」
「そうですか、そうですか。じゃぁ」
 おじさんはレジの奥をごそごそ探っている。
「汐ちゃん、はい、これサービスしますね」
 ゴム風船だった。汐がこっちを見る。俺がうなずくと、
「ありがとーっ」
 にっこり笑って受け取った。
「すんません。で、オッサンにプレゼントなんですが、いいのあります?」
「それでガ○プラ探してたんですね。でもあの人ファーストならデフォ買いですからねー」
 ふぁーすと? でほがい?
「これだったらそれなりに新しいし、もし古河さんが1個持ってても2個あっていいやつだから」
 降参。
「汐、これどう思う?」
「んー、かっこいいっ」
「…それください」
 リックディ○ス3000円也。

 日曜日、朝食をすませると、すぐ古河家を訪れた。
「ちぃす」
「おぅ、汐っ、よく来たな!」
「あっきーっ」
 いつものように汐がオッサンの足に抱きつく。
「今日は早苗の真・レインボーパンが焼けてるぞ、食うか?」
「いらない」
「かーーーっ、たまには素直に、よろこんで食べます秋生さまっ、つーてみろっ」
「いらない」
「むっ、それはーーーーっ、マスター○レード、リックディ○ス量産型じゃねーかっ」
「お義父さんっ」
「なんだバカ息子っ」
「ぐおぉぉぉーーーっ」
「ぐわぁーーーーーっ」
 同ダメージだった。
「はぁ、はぁ、今日は父の日だから…」
「のおぉぉぉーーーっ」
「ぐおぉーーーーーっ」
 ダメージは大きかった。
「あら、朋也さん、汐、こんにちは」
 騒いでいると、早苗さんが奥から出てきた。
「ちっす」
「こんにちわっ」
 きちんと挨拶したあと、汐は早苗さんにぎゅっと抱きついた。
「あら、それは…?」
「これは、父の、日の…」
「ぐおぉぉぉーーーっ」
「ぐおぉぉぉーーーっ」
 ダブルノックアウトだった。
 ……。
 …。

 俺が店番をすると言うと、オッサンは喜び勇んで遊びに出て行った。
 汐を連れて行こうとしたが、汐は、
「きょうはずっと、パパといる」
 と言ってくれた。

「朋也さん、せっかくのお休み、よろしかったんですか?」
「はい、その、去年までバカ息子でしたから……」
「いえいえ、そんなことはないですよ。朋也さんは自慢の息子です」
「それに、渚がいたら同じようなことしてたと思います。ぜひさせてください」
「そうですね、ありがとうございます。では、夕ご飯張り切っちゃいますので、よろしくおねがいしますねっ」

 店番と言っても、時折訪れる客をさばくだけだ。
「汐、早苗さんと遊んでてもいいんだぞ」
「ううん、きょうはパパといるっ」
「ありがとな。んー、そうだ、幼稚園のこと聞かせてくれ」
「うんっ、あのね、きょうせんせーがね、かえるときにね」
「ん?」
「にちようびは、パパにうんとサービスしときなさい。みかえりはおおきいわよ、っていってた」
「……」
 なんつー教え方だっ。
「みかえりってなーに?」
「お返しってことだ」
 明日は覚悟しとけよ、杏。

「こんにちわー」
 客が来た。俺でも見覚えがある常連さんだ。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませーーっ」
「あら、久しぶりねぇ。今日は汐ちゃんもお手伝い? えらいわねー」
「えへへっ」
「それじゃ沢山買わなくちゃ」
 俺より役に立つ店番だった。
 ……。
 …。

 オッサンの晩酌につき合う。
「ちっ、ディ○スはもう持ってるっつーに、あのオヤジっ」
「それ、汐もお気に入りだからな」
「おうっ、カッコイイよな、汐っ」
「うん、かっこいい」
「にしてもよ、パーフェクトジ○ング持ってくるぐらいの甲斐性みせてみろっ」
 汐のセンスはオッサンゆずりだった。
「あのヘンなやつがよかったのか…」
「けっ。まぁ、その、なんだ、……ありがとな」
「お、…おう」
「こっちはロベル○機っつーことで、よしとするかっ」
 とても嬉しそうだった。
 よくわからないが、おもちゃ屋のおじさんの言うとおり、無駄にはならなかったようだ。

 あまり遅くならない方がいいよな。
「早苗さん、ちょっと電話お借りできますか?」
「はいっ、どうぞ。…長距離でもご遠慮なく」
 …すんません、その通りです。
「ありがとうございます。汐も来な」
「うんっ」

 手帳を見ながらダイアルする。
『はい、岡崎です』
「朋也です。ご無沙汰しています」
『まぁ、朋也さん。お元気にされてますか?』
「はい。俺も汐も元気にやってます。汐と代わります」
 汐に受話器を渡して、
「ひぃ婆ちゃんだ。お話しするか?」
「うんっ。…おばーちゃんっ」
『……』
「うんっ、げんきっ。うんっ、うんっ、おばーちゃんもがんばってね。うんっ」

 汐から受話器を受け取る。
「代わりました」
『直幸ですね』
「はい、お願いします」
 しばらく待って、声が聞こえた。
『朋也かい?』
「親父、……、元気にしてるか?」
 ……。
 …。

 眠くなった汐をおんぶして帰宅。
 布団を引いてから起こして着替えさせる。
「おやすみ」
 すぐ汐は寝息を立てた。
「今日はありがとな」
 そっと頭を撫でる。

 渚の写真の横には、汐の描いた絵。
「ふわっ」
 アルコールが効いてるようだ。
 ちょっと早いが俺も寝ようか。
 ……。
 …。

 渚、汐はやっぱりお前の子だな。
 しっかりしてるようで、どこかアホな子になりそうで心配だぞ。
 でも汐のおかげで、なんとか家族らしいこと出来るようになったよ。
 渚の代わりになんてなれないけど、それでもオッサン喜んでくれたよ…。
 なぎさ……。
 ……。
 …。
 zzz…。

[END]


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初出:「岡崎朋也と汐〜父子家庭の日々〜」スレ 397〜403