日曜日

 この町にも、探せば安く快適に遊べる場所はある。
 という訳で、汐とふたりで図書館に来た。
 俺が自分から図書館に来るようになるなんて、数年前には思いもしなかった。
 この図書館には幼児専用ルームなんてものが存在する。
 騒いでもいいように、という隔離室なんだろうけど、わりと利用者は多い。

「むー」
 真剣な表情で本を選ぶ汐。
 俺も適当に手に取ってみる。
『MOTHER GOOSE』
 ちょっと開いてみる。
「……」
 (英語の本なんて置いてんじゃねーっ)
 汐がこの手の本に興味を示したら……。
『パパーっ、これよんでっ』
『……、……、!?!』
『パパ?』
『……』
 勢いよく本を閉じて棚に戻す。
 嫌な汗が流れる。
 もっと勉強しとくんだった。
 この先小学校、中学校、高校と……。
 あぁ、俺が悪かった。汐、なんとか自力で頑張ってくれっ。

「これにするーっ」
 愛娘が選んだのは……
『どうぶつじてん』『きょうりゅうじてん』
 父思いの娘よ、大好きだっ。
 ……。
 …。

 クッションフロアに座り込んで、一緒に本を読む。
 読むと言うより、眺める、だな。
「うさぎは、ぴょんぴょんとはねるっ。にんじんがだいすきっ」
「うさぎは目が赤いんだぞ」
「あーっ、ほんとだっ」
「どうしてだかわかるか?」
「んーーーっ。わかんないっ」
「ニンジン食べるから」
「おーっ。汐もにんじんたべるとあかくなる?」
「いっぱい食べたなら、なるかもな」
「いっぱいたべるっ」
「朝昼晩全部ニンジンでもいいか?」
「うーっ」
 脳内にニンジンだらけの食卓が浮かんでるんだろう。
「いやっ」
「ははははっ。そうだ、汐、動物園に連れてってもらったことあるか?」
「んーと、ないっ」
「今度行こうな」
「うんっ」
 ……。
 …。

「すてごさうるす」
 まだカタカナは読みづらいのかな。
「とげとげだー」
「とげとげだな」
「きょうりゅうさんもどうぶつえんにいる?」
「恐竜はいないぞ」
「うー、ざんねん」
 ……。
 …。

 絵本を数冊借りることにした。
 恐竜の絵本が2冊あるのは、一応、…じゃない、立派な女の子が借りる本としてはどんなもんだろう。
 ……。
 …。

 帰りがけ、いつものように古河パンにより、いつものようにお茶を頂く。
「恐竜と言えば、やっぱティラノサウルスだよなっ、汐っ」
「とげとげのがいい」
「そうだっ、今度恐竜見に行くか?」
「いいですねっ。みんなで行きましょう」
「どうぶつえんには、きょうりゅうさん、いないんだよ」
「かーーーっ、夢のないこと言うなっ」
「俺の教育の賜物だな」
「小僧、てめーかっ! てめーにはロマンっつーもんがねーのかっ」
「そんなのはロマンじゃねーっ」
「ま、動物園じゃなくてな、今度隣町に恐竜博が来るんじゃなかったか?」
 そういえば、そんな宣伝を見た覚えがある。
「なっ、汐、こんなロマンのねーヤツは放っといて、一緒に恐竜見に行こうな」
「んー、……、……、パパといっしょがいい」
 ちょっと時間がかかったが、恐竜の魅力より俺が勝ったようだ。
 できれば即答してくれ、わが娘よ。
「秋生さん、ダメですよ。みんなで行きましょう」
「しょーがねーな。てめーは荷物持ちで連れてってやる」
「恐竜博を見に行くのに、なんの荷物があるんだよ」
「なければ、そこらへんのテレビでも持って行けっ」
「あほかーっ」
 ……。
 …。

「ど、ど、どーぶつえん♪」
 汐作、動物園の歌が、頭の上から聞こえる。
「きょ、きょ、きょーりゅーさんは、まったあっしたっ♪」
 予定がいっぱいできたな。
 動物園にしても、恐竜博にしても、この年で進んで行きたいところではない。
 でも、行く事を考えただけで、ウキウキしてくる。
「う、う、うさぎさん、め、め、めがあっかい♪」
 当然、汐と一緒だからだ。
 (いい思い出にしなくちゃな)
 汐のおかげで、来週も頑張れそうだ。
 少しゆっくり歩きたい帰り道だった。

[END]


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初出:「岡崎朋也と汐〜父子家庭の日々〜」スレ 673〜676