本報告書はmorihokoku.docを参照のこと。
を参照のこと。
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§北東アジアの天然ガス導入促進政策
◆中国のケース
米国に次ぐ世界第2位のエネルギー消費大国である中国は、一次エネルギー供給の約7割
を環境負荷の高い石炭に依存し、国内の原油生産も頭打ちとなっているなかで、環境問題の
解決及びエネルギー供給構造の高度化に直面している。国家のエネルギー政策として、より
クリーンな燃料で供給源の多元化を図り、「以気補油:天然ガスで石油の不足を補う」を推進
すべく、天然ガスの利用促進にシフトする動きが活発になって来ている。
典型的な事例として、黒龍江省大慶の徐家囲子地区で、タリム盆地、チャイダム盆地、陝甘
寧(オルドス)盆地、四川盆地に次ぐ国内で5番目の規模の慶深天然ガス田が2005年に発見
された。徐家囲子地区は、大慶の中心部から約140km離れており、大慶油田の地下深部に
天然ガスが蓄えられていることから「慶深」と命名された。もともと大慶油田は中国最大の産油
を誇り、45年間にわたり高いレベルの探鉱・開発を続け、国民経済に大きな貢献をしている。
しかし同時に埋蔵量と採掘の構造的なアンバランスによって後続資源の不足と言う難しい状況
に陥っていた。 慶深天然ガス田は主に徐家囲子・常家囲子−古竜・鶯山−双城・林甸の各断
層トラップの鉱区で構成され、 これまでに確認された1千億m3の埋蔵状況から鑑み、@面積
が広い、Aガス層が厚い、B規模が大きい、C質が高い、D生産量が安定及びE圧力が安
定している等の特長があり、 松遼盆地の深層天然ガス探査の明るい展望が窺える。今後5年
間に天然ガスの確認埋蔵量は2千億m3に達する見込みで、国産天然ガス分野の飛躍的発展
を目指している。
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1994年に中国政府が実施した『第2次天然ガス資源評価』によると、中国の天然ガス総資
源量38兆m3で、そのうち陸上に30兆m3及び海域に8兆m3分布しており豊富な資源量を有
している一方で、天然ガス残存確認可採埋蔵量は1.37兆m3(『BP統計2002』)であり、天然
ガス生産量は1995年の165億m3から2001年には333億m3と増大してはいるものの、天
然ガスの発見率は低く今後の探鉱潜在力は極めて高いと言える。そのため、政策として自国
の天然ガス化を進め、各目的地に至るまでの周辺地域に輸送するためのインフラストラクチャ
ーであるパイプラインの整備拡充が図られている。
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既に敷設されている主なルートとして陸上パイプラインでは、まず中国最大規模の天然ガス
資源を有する四川盆地(産出する地区が4つに分かれており、南部を「川南」、東部を「川東」、
南西部を「川西南」及び北西部を「川西北」と称している。1950年代に川南地区で、1970年
代に川東地区で天然ガス田の発見が相次ぎ、特に1990年代後半に大規模な探鉱がなされ、
確認原始埋蔵量は5795億m3)を一周するように四川省成都〜青白江〜射洪〜南充〜渠県
〜大竹〜重慶(梁平〜忠県〜長寿〜両路口)〜黒江洞〜佛蔭〜納渓〜付家廟〜隆昌〜越渓
〜成都間で各天然ガス田と結んでループ化されている(総延長1000km)。四川盆地の天然
ガスはその大半が四川省内又は直轄市である重慶における化学肥料工場の原料、輸送用
(圧縮天然ガス(CNG)バス等)及び民生用都市ガスとして使用されているが、重慶忠県の
川東地区を起点として万州〜奉節〜巫山〜湖北省枝江〜潜江を経由し武漢に至る総延長
760kmの「忠武」パイプライン(輸送能力30億m3/年)を敷設して、4本の支線によって枝江
〜襄樊間、潜江〜湖南省長沙〜湘潭〜衡陽〜広東省韶関〜広州間、武漢〜黄石〜江西省
南昌間及び武漢〜河南省信陽〜鄭州間に延伸される「川気東調:四川盆地の天然ガスを
東部に送る」計画があることから、パイプラインの整備次第では今後も天然ガスは増産される
可能性が高く、国営企業の中国石油では2000年の80億m3から2005年に145億m3、20
10年では165億m3の生産目標を掲げている。
また、2003年に中国国家鉱物資源埋蔵量委員会が埋蔵量1500億m3超の天然ガス田群
(羅家寨天然ガス田(埋蔵量581億m3)を筆頭とする5井)を発見し、中国石油によって「川気
東調」計画の主要な追加供給源として指定されている。さらに2005年には、中国国土資源部
鉱物資源埋蔵量審査中心(センター)が、1986年から探査に着手している普光天然ガス田の
埋蔵量を2510億m3と正式に公表した。普光天然ガス田から重慶市〜湖北省宜昌〜安徽省
宣城〜江蘇省南京〜上海市に至る全長1674kmのパイプライン(設計輸送能力100億m3
/年程度)を敷設する計画がある。
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●中国石油
中国国家経済貿易委員会(現:中国商務部)国家石油・化学工業局に属する持株会社であ
る中国石油天然気集団公司(CNPC)傘下の陸上油ガス田探鉱開発及びパイプライン敷設を
担当する実動会社。略称はPetro Chinaで、2000年に株式を香港、ロンドン及びニューヨーク
証券市場に上場。
次に四川盆地に続く第2位の生産地であるオルドス(鄂尓多斯)盆地にある陝甘寧(靖辺)及
び長慶天然ガス田(1988年にオルドス盆地中央北部で発見されてから、1990年代前半に
探鉱が進められ確認原始埋蔵量は2000億m3以上)を起点として陝西省靖辺〜延安〜黄陵
〜銅川〜西安間(靖西ルート:総延長488kmで、輸送能力6億m3/年)、靖辺〜楡林〜神
木〜俯谷〜山西省寧武〜北京間(陝京ルート:総延長853kmで、輸送能力30億m3/年)
及び靖辺〜寧夏回族自治区銀川にある化学肥料工場間(総延長313kmで、輸送能力6億
m3/年)がある。1990年代前半に中国石油と外資系のRD/Shell(シェル探査中国有限公
司)が積極的に探鉱・生産を推進し、パイプラインの敷設もあって輸送体制が整い、大消費地
の北京及び西安において引取量が増えたことから、生産量が1999年の12億m3から2000
年で21億m3、2001年には37億m3と急増している。今後も環境負荷の高い石炭からクリー
ンな天然ガスへの燃料転換が推進されることから、北京及び西安では堅調な増加が見込まれ
ている。
さらに「陝気進京:オルドス盆地の天然ガスを北京に送る」計画を推進するため、中国石油と
外資系のRD/Shellは、1995年に発見したオルドス盆地東部の長北天然ガス田から靖辺〜
楡林〜山西省太原〜河北省石家荘を経由して環渤海地区(中国東部)の各都市(石家荘〜河
北省永清間及び石家荘〜山東省徳州〜済南間)向けの新規パイプライン(陝京第2ルート:総
延長920kmで、輸送能力30億m3/年)の敷設及び既設ライン(永清〜北京間及び徳州〜
河北省滄州〜天津間)と接続し供給する予定である。また2005年、スリグ(蘇里格)天然ガス
田(2000年に内蒙古自治区伊克昭盟で発見された。南北に鉱区が分かれており、南部を外
資に開放する。確認原始埋蔵量7504億m3)〜内蒙古自治区烏審旗〜東勝〜包頭〜フフホ
ト(呼和浩特)間のパイプライン(総延長511kmで、設計輸送能力13億m3/年)が完成し、
2010年の複線化に向けフフホト第2ルート(総延長462kmで、設計輸送能力60億m3/
年)を建設中である。さらにフフホトから集寧を経て河北省張家口〜宣化〜北京への延伸計画
もある。
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あと、青海省チャイダム(柴達木)盆地(確認原始埋蔵量2420億m3)北部のセベイ(澀北)
天然ガス田を起点としてゴルムド(格爾木)間(1998年完成)、さらに西寧を経由して甘粛省
蘭州に至るパイプライン(澀寧蘭ルート:総延長953kmで、輸送能力20億m3/年)が2001
年に完成した。主に西寧及び蘭州の都市ガスや発電用燃料として利用されることから、パイプ
ラインの輸送能力を40億m3/年まで最終的に引き上げる。また、チャイダム盆地における天
然ガス生産量も、1999年の3.6億m3、2000年の3.9億m3から、澀寧蘭ルート敷設以降20
01年には6.4億m3と急増している。
海底パイプラインでは、中国海域において最大規模とされる南シナ海の鶯歌海‐瓊東南盆地
の崖城13−1天然ガス田(確認可採埋蔵量900億m3)〜香港間(崖港ルート:総延長778
kmで、輸送能力30億m3/年)で、ブラックポイント火力発電所用として利用されている。もう
1本は崖城13−1天然ガス田〜海南省三亜間(総延長97kmで、輸送能力5億m3/年)で、
主に化学肥料用として利用されている。また、国営企業で香港法人の中国海洋石油有限公司
(中国海洋石油)が海南島沖の東方1−1天然ガス田を開発中のほか、海南省東方から洋浦
経済開発区の工業用、洋浦発電所用、北部の海口及び西部の8都市に民生用として供給す
るためのパイプライン(総延長247kmで、輸送能力8億m3/年)を2003年に完成した。さら
に延伸して海口から瓊州海峡を横断し雷州半島の広東省湛江〜広西壮族自治区の欽州を経
て南寧で分岐して1本は十万大山へ、もう1本は柳州〜桂林に至るルートが計画されている。
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珠江デルタ地区に位置する広東省の経済発展が目覚しいため、それに見合ったエネルギー
供給が不足しており、1999年に中国国家発展計画委員会(現:中国国家発展・改革委員会)
は打開策として沿海地域と言う地の利を活かした船舶輸送による豪州北西大陸棚(NWS)か
らのLNG輸入(2005年から約43.18億m3/年で25年間供給)を開始することを決定した。
まず第1フェーズとして中国初のLNG基地(広東省深セン・秤頭角)を2005年に完成し、
327kmのパイプラインを敷設して侮框西部地区周辺の深セン東部・深セン前湾・深セン美視
の3発電所用、深セン、東莞、広州及び佛山の民生用都市ガスとして供給される。第2フェー
ズでは、2005〜2010年にかけてパイプラインを延伸(総延長182km)して供給先に恵州発
電所、珠江発電所、肇慶、江門、中山及び珠海を新たに加える計画で、事業主体は中国海洋
石油であるが、BP(権益30%)も外資系企業として唯一参画している。さらに、特別行政区
(香港・澳門)への供給も計画されている。
※セン=土へんに川
日本経済新聞社広州支局によると、2003年に中国海洋石油は広東省珠江(南シナ海東部
の海域)で大規模な天然ガス田群(番禺34−1及び30−4で、合計埋蔵量は推定で約450
億m3)を発見した。5億〜7億ドルを投資して探鉱開発を進め、2006年から広東省の発電用
等としてパイプラインで供給される見通し。
●中国海洋石油
中国国家経済貿易委員会(現:中国商務部)国家石油・化学工業局に属する持株会社であ
る中国海洋石油総公司(CNOOC)傘下の香港法人で、海域の油ガス田探鉱開発及び海底
パイプライン敷設を担当する実動会社。略称はCNOOC Ltd. で、2001年に株式を香港、ロン
ドン及びニューヨーク証券市場に上場。
次に、東海(東シナ海)盆地の平湖天然ガス田〜上海間(総延長375kmで、輸送能力4.4
億m3/年)で、2000年の天然ガス生産量は2.8億m3であるものの上海の新経済開発区で
ある浦東や浦西地区で天然ガス利用が増加していることから、生産能力を7.3億m3/年に引
き上げる予定である。また、平湖天然ガス田に隣接する春暁構造から上海に至る総延長400
kmのパイプライン(輸送能力12億m3/年)敷設計画をはじめ、春暁構造からもう1本の海底
パイプラインで浙江省岱山に天然ガスを送り鎮海から陸上パイプラインで寧波〜紹興〜杭州
〜金華間に輸送するルート(総延長350kmで、輸送能力16億m3/年)及び寧波〜温州さら
に福建省福州に至る支線の敷設計画も推進されている。また、2002年に中国国家発展計画
委員会(現:中国国家発展・改革委員会)はインドネシア(生産井:タングー天然ガス田)とLNG
輸入(2007年から約34.54億m3/年で25年間供給)に関する協議書を締結し、福建省の
厦門・嵩嶼にLNG基地を建設予定である。厦門・晋江・プー田の3発電所用、厦門、チャン州、
泉州、プー田及び福州の民生用都市ガスとして供給される。
※プー=草かんむりに甫、チャン=さんずいへんに章
●春暁構造
春暁・天外天・断橋・残雪の4ガス田で構成されている春暁構造は、沖縄・尖閣諸島付近の
東シナ海における日本の排他的経済水域(EEZ)と中国側との境界線(日中中間線)付近に
あたり、日中中間線から中国側にわずか4kmしか離れていない。中国は国連海洋法条約上
の「大陸棚自然延長論」を援用し、日中中間線よりはるかに南東側まで大陸棚の領有権を主
張している。2004年に採掘作業や中国大陸と繋ぐ海底パイプラインの敷設工事が開始され
ているが、中国側の生産井は海底地層で日本側EEZ内にも広がっていると見られ、中国側で
採掘されても日本の権益資源まで吸上げて侵食する可能性がある。
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そこで、経済産業省が日本側EEZ境界線近くの試掘手続きを開始し、帝国石油鰍ェ優先的
に開発申請できる先願権のある海域(約4万2千km2)のうち3エリア(約400km2)の試掘権
設定を九州経済産業局に申請し許可された。日本名として春暁を白樺、断橋は楠、天外天は
樫、EEZの中国側にあり中国が龍井と呼ぶガス田を翌檜、EEZの日本側にあり中国が冷泉と
呼ぶガス田は桔梗と命名した。同社は、試掘から採算面や安全性の確保等の諸条件が全て
整えば事業化に入りたい意向であり、沖縄や九州向け長崎方面に海底パイプラインを敷設す
ることも検討している。距離的には沖縄が近いが、海底が沈み込む沖縄トラフを経由する必要
があるため、大陸棚沿いに九州まで延ばしたほうが有利と見ている。ただ、日本が自主開発
しても距離や資源量を考えればコスト的に採算が合わない。
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一方、中国海軍は日本の動きを牽制するため、春暁ガス田採掘施設周辺をミサイル駆逐艦
等の軍艦艇が遊弋し示威行動を展開している。そこで、本件が外交上の新たな火ダネとなら
ないためにも、日中共同開発によって上海や浙江省経由で日本向けに輸入する等、平和解決
による協調的な対応が求められるだろう。具体的には、鉱区権益の分配比率を決定し、日中
合意のもとで開発・生産され、日本企業が多数進出している中国沿岸部のエネルギー需要を
賄えば、日中双方の利益となる。両国は冷静に真の利益を見極め、齟齬が生じないよう事態
の悪化を阻止できる方策を模索するべきであろう。
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日本政府は30年以上、対中関係悪化を恐れ、東シナ海の暫定鉱区に開発の出願を受け付
けながら正式な試掘権を許可しなかった。暫定鉱区の総面積は、日本の国土の3分の2に相
当する約25万km2で、1966年以降、石油資源開発梶A帝国石油梶A丸紅褐nの芙蓉石油
開発葛yび双日梶i旧:ニチメン梶E日商岩井梶j系のうるま資源開発鰍フ4社が分割する形
で権利を取得した。ちなみに「うるま」とは、南海の美しい白砂が目に浮かぶような珊瑚の島と
言う意味である。
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石油資源開発鰍ヘこのほど芙蓉石油開発鰍フ全株式を数億円で取得、尖閣石油開発鰍ニ
社名を変え子会社化した。さらに、うるま資源開発鰍フ買収も検討しており、帝国石油鰍熹
収に名乗りを上げる意向である。最終的には開発力のある石油資源開発葛yび帝国石油
の2社に集約される情勢にある。もともと芙蓉石油開発葛yびうるま資源開発鰍ヘ採掘技術
力に乏しく、実際の採掘には複数の暫定鉱区を統合し一連の開発作業を効率化することが
不可欠だった。
あと渤海湾盆地北部の遼東湾では錦州20−2天然ガス田から短距離の海底パイプラインで
陸上に至り遼寧省錦州の化学肥料工場で利用されているほか、中国海洋石油では、渤海南
部油田の随伴天然ガスを渤海沿岸山東半島の山東省龍口まで約90kmの海底パイプライン
で送り、龍口〜煙台〜威海間の各沿岸都市に陸上ルートで供給するパイプライン(総延長19
0kmで、輸送能力4億m3/年)を敷設し青島〜日照に延伸する計画がある。龍口には発電
燃料用、国家級の経済技術開発区を有する煙台や威海、そして青島には民生用都市ガスとし
て供給する。環渤海地域の経済発展は目覚しいことから、パイプラインによる供給以外にLN
G輸入も検討されており、青島と膠州湾を挟んで対岸の黄島地区が受入れ候補地として有力
である。このように、「海気登陸:海域の天然ガスを陸上に送る」計画が推進されている。
さらに中国海洋石油総公司(CNOOC)では、広東省及び福建省の両LNGプロジェクトを梃
子に遼寧省から広東省に至る経済発展目覚しい東北地区、京津塘地区、環渤海地区、長江
及び珠江の両デルタ地区に点在する主要な需要地、海洋天然ガス田(渤海・平湖・春暁・麗
水・崖城・東方等)及びLNG基地を有機的に結ぶ総延長2000kmの沿岸部連結パイプライン
構想を持っている。
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具体的な構想ルートは、遼寧省大連新港LNG基地〜営口LNG基地〜海城〜鞍山〜遼陽
〜瀋陽〜錦州〜河北省秦皇島港LNG基地〜唐山〜曹妃甸LNG基地〜天津新港LNG基地
〜渤海ガス田〜北京〜天津〜河北省滄州〜山東省膠州〜青島〜黄島LNG基地〜日照〜
江蘇省連雲港〜濱海LNG基地〜塩城〜海安〜泰州〜揚州〜南京〜鎮江〜常州〜無錫〜
蘇州〜上海〜小洋山LNG基地〜平湖ガス田〜浙江省杭州〜紹興〜寧波〜大蘓島LNG
基地〜温州LNG基地〜麗水ガス田〜福建省福州〜泉州〜厦門〜嵩嶼LNG基地〜広東省
汕頭LNG基地〜汕尾〜恵州〜秤頭角LNG基地〜東莞〜広州〜佛山〜江門〜陽江〜茂名
〜湛江〜広西壮族自治区北海鉄山港LNG基地〜北海〜欽州〜南寧〜柳州〜桂林間。
このほか分岐ルートとして、青島〜龍口〜渤海ガス田〜煙台〜威海間、海安〜如東〜洋口
港LNG基地〜南通間、常州〜杭州〜金華〜温州LNG基地間、寧波〜岱山〜春暁ガス田
間、金華〜江西省玉山〜南昌間、秤頭角LNG基地〜深セン〜香港〜崖城ガス田間、広州〜
韶関間、江門〜中山〜珠海〜澳門〜横琴島間及び湛江〜海南省海口〜八所港LNG基地〜
東方ガス田〜鶯歌海〜楽東〜三亜〜崖城ガス田〜香港間等である。
※セン=土へんに川
以上のとおり、各パイプラインはいずれも1000km以下の天然ガス田に隣接した生産地周
辺への地域限定的な輸送が主体であり、少数の不連続パイプラインが点在している。中国国
家経済貿易委員会(現:中国商務部)によると、2000年までに敷設されたパイプラインは1万
1800kmあるものの、全国的なパイプライン網は形成されていない。
そこで、2010年の一次エネルギー消費に占める天然ガスの構成比を現在の3%から10%
へと拡大させることを目標としている中国政府は『第10次五カ年計画』において2005年の天
然ガス生産量を500億m3に設定、国策である「西部大開発」の一環として国内本土を東西に
横断するパイプラインの敷設計画「西気東輸」を2001年の全国人民代表会議(全人代:日本
の国会に相当)において実施する旨が採択され、2002年に全線着工し、2004年秋に全線
貫通、2004年12月30日には本格稼働している。そして、「西気東輸」の完成等に伴い、20
04年末までのパイプラインの敷設距離は1万7868kmに達している。
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●西部大開発
1999年に中央経済工作会議で提案され、6省(陝西・甘粛・青海・四川・雲南・貴州)、5自
治区(内蒙古・寧夏回族・新疆ウイグル・西蔵・広西壮族)及び1直轄市(重慶)を対象エリアと
する中央財政の傾斜的配分を実施する優遇政策。西部は面積で中国全土の7割以上に相
当する。
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●「西気東輸」(せいきとうゆ)
『第10次五カ年計画』(2001〜2005年)において決定された「南水北調」、「西電東送」及
び「青蔵鉄道」と並ぶ4大インフラストラクチャー整備プロジェクトのひとつ。西部(内陸部)の天
然ガスを東部(沿海部)に輸送し、西部が有する豊富な天然ガス開発を通じて域内の経済発
展とともに、パイプライン沿線地域の産業・エネルギー需給構造調整を促進して東部との経済
格差を縮小することが目的。この背景には、経済発展に伴い石油の消費量が急増し、国内の
石油開発と生産だけでは既に安定した供給を行うことはできず、また経済発展の阻害要因と
なる石炭による環境汚染が悪化している現状がある。
『第10次五カ年計画』において、中国のエネルギー政策に係る発展目標が明確に示されて
おり、「立足国内、開拓国際、加強勘探、合理開発、励行節約、建立儲備」の24文字で簡潔に
表現されている。「立足国内、開拓国際」とは、国内における天然ガス(石油)の探鉱・生産を
中心としながら、海外における天然ガス(石油)探鉱開発事業を積極的に推進し、輸送に必要
なパイプラインの整備等を通じ需要を満たすことを指す。「加強勘探、合理開発」は合理的な
開発によって探鉱を強化し、天然ガス(石油)資源を有効に利用する。そして開発を加速し、
生産と消費構造のバランスを改善することである。「励行節約、建立儲備」は省エネルギーに
努め不合理な消費を抑制し、石油の国家戦略備蓄体制を構築することを意味している。
なお、「南水北調」については、長江の水資源を華北を中心とする黄河流域に導水する計画
であるが、渇水に悩む黄河流域は大賛成である一方、貴重な水源を奪われる長江流域では
不満が広がっている。
「西電東送」については、長江の三峡ダム(湖北省宜昌:2010年完成予定)を中核として各
水力発電所及び各炭田地帯の山元火力発電所を送電ルート3本で結ぶ計画であるが、自然
破壊と大気汚染が懸念されている。
「青蔵鉄道」については、青海省の省都である西寧から南方のチベット(西蔵)自治区の首都
であるラサ(拉薩)に至る鉄路整備計画であるが、西蔵自治区は過疎地であるため採算性悪
化は避けられず、累積赤字拡大に危惧の声が出ている。また“世界の屋根”と呼ばれる海抜
4000m地域において敷設される高原鉄道であり、凍土地帯や地殻変動が活発な大地震発
生地帯を通り抜ける等、敷設工事にあたり技術的困難性も指摘されている。
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具体的なルートは、新疆ウイグル(維吾爾)自治区タリム(塔里木)盆地の庫車−塔北天然ガ
ス区(確認原始埋蔵量5267億m3)を起点として輪南〜コルラ(庫爾勒)で中継し、ボステン
(博斯騰)湖南〜ハミ(哈密)〜甘粛省紅柳園〜安西〜玉門〜嘉峪関〜酒泉〜張掖〜金昌〜
武威〜白銀〜寧夏回族自治区甘塘〜中衛〜陝西省定辺〜補完的供給源としてオルドス盆地
長慶、長北及びスリグ(蘇里格)天然ガス田〜靖辺〜綏徳〜呉堡〜山西省霊石〜沁源〜屯留
〜高平〜晋城〜河南省鄭州〜許昌〜安徽省阜陽〜淮南〜合肥〜江蘇省南京〜鎮江〜常州
〜無錫〜蘇州〜昆山を経て上海市青浦区白鶴鎮の天然ガスステーションへ輸送する全長41
67kmで、2007年までは輸送能力最大120億m3/年(2010年までに200億m3/年に増
強)で20年間は安定して供給可能である。また主幹線とは別に23の支線を敷設し、主な分岐
ルートは甘塘〜甘粛省蘭州間、霊石〜臨汾〜侯馬〜陝西省韓城間、鄭州〜河南省洛陽〜義
馬間、鄭州〜開封〜濮陽〜山東省平陰〜済南間、鄭州〜河南省信陽〜湖北省武漢〜黄石
〜江西省九江〜南昌〜上饒〜玉山間及び南京〜揚州〜泰州〜海安で分かれ東台〜塩城間
と如皋〜南通間があり、合肥〜定遠間、南京〜安徽省馬鞍山〜蕪湖間及び常州〜浙江省杭
州間については主幹線として扱う。
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庫車‐塔北天然ガス区以外に、南西部の巴楚‐塔西南天然ガス区(主要供給源は柯克亜
(ククヤ)、柯深(クシン)1及び阿克(アク)1)が西気東輸の二次的な供給地として期待されて
いる。東部の満加爾西部油ガス区では探鉱によって顕著な成果は得られていないが、区内の
塔中と庫車‐塔北天然ガス区内の輪南はパイプラインで結ばれているほか、塔中から新疆
ウイグル自治区の南西部にある主要都市和田向けのローカル・パイプラインを建設中である。
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主要供給源は克拉(クラ)2、牙哈(ヤハ)、英賣力(インマイリ)、雅克拉(ヤクラ)、羊塔克
(ヤンタク)、玉東(イトン)2及び吉拉克(チラク)の7ヶ所。
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「西気東輸」計画における規定天然ガス価格が、他のエネルギー源と比較して極めて高く競
争力は低いと言える(例えば、北京市では民生用の天然ガス価格が1.9元/m3に対して石炭
ガス価格が0.2元/m3であり、発電部門においても石炭火力の発電コストは天然ガス火力の
半分以下)。よって、中国政府は天然ガス市場の活性化を目指して天然ガス優遇政策の強
化、具体的には石炭火力発電所の新設を禁止し天然ガス火力発電所の増設で代替、環境課
徴金の付加、石炭非燃焼区の拡大、排煙脱硫・脱硝設備等のクリーン・コール・テクノロジー
(CCT)を義務づけ石炭に係る社会費用として石炭価格に上乗せする等の施策を講じて天然
ガス価格の国内競争力を高め、石炭価格に対抗する必要がある。
●「西気東輸」規定天然ガス価格
タリム盆地での井戸元価格は0.5元/m3であるが、終点の上海におけるCity Gate(末端)
価格について、中国国家発展計画委員会(現:中国国家発展・改革委員会)は1.35元/m3
で、全線平均1.29元/m3と試算した。だが、この価格水準では競合燃料(特に石炭)に対す
る価格競争力がないとする需要家の意向を反映して、1.27元/m3に引き下げられた。
●中国における石炭に係る社会費用(環境負荷)
世界銀行の『Clear Water,Blue Skies』によると、石炭1トンあたりの環境負荷コストは少なくと
も24ドルと試算。
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石油公団(現:石油天然ガス・金属鉱物資源機構)によると、本計画に係る投資総額が160
0億元(1元=15円で、約2兆4千億円。うちパイプラインへの投資額は495億元)であること
から、中国国家開発銀行の財政支援、中国国家税務総局による「西部開発債」の発行及び2
001年の世界貿易機関(WTO)加盟による対外開放政策として西部の各省・自治区・直轄市
に投資する外資系企業への優遇措置(@上流に当たる天然ガス開発・生産は生産物分与契
約、A中流にあたるパイプライン敷設は合作方式、B下流にあたる販売は合資会社設立、C
投資総額内で輸入される自家用設備は関税と輸入段階での付加価値税の免除、Dパイプラ
イン事業によって利益が上がった年より2年間の企業取得税は全額免除、その後の3年間は
半減措置「免二減三」及びE土地使用権の審査・認可は特別扱いとし地下通過権を適用)等
を実施している。
事業主体は中国石油(権益50%)であるが、外資系企業のロイヤル・ダッチ・シェル(英蘭系
メジャー)、エクソンモービル(米国メジャー)及びガスプロム(ロシア国営)が権益各15%で
参画している(2004年、外資側が投資収益率15%の保証を求めたが中国側が拒否し3社は
撤退)。
中国では「西気東輸」を補完するための国際パイプライン計画を幾つか打ち出している。ま
ず、中央アジア(カスピ海地域)が有する豊富な天然ガスを中国に供給する目的で、トルクメニ
スタン南部アム・ダリヤ盆地の天然ガス田群(エクソンモービルの調査による確認埋蔵量は約
2兆m3)を供給地とし、ウズベキスタン〜キルギス〜カザフスタンを通過して中国の新疆ウイグ
ル自治区石河子〜ウルムチ(烏魯木斉)〜トゥルファン(吐魯番)を経て「西気東輸」に接続す
るパイプライン構想「ユーラシアエネルギーランドブリッジ(シルクロード天然ガスパイプライン)」
である。
●カスピ海地域
カスピ海を挟んで東は中央アジア5ヶ国(カザフスタン・キルギス・タジキスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタ
ン)、西はコーカサス3ヶ国(アゼルバイジャン・アルメニア・グルジア)、トルコ、北はロシア、南はイランに
囲まれたユーラシア大陸中央部の乾燥地帯。
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永世中立国であるトルクメニスタンは国家の命運を握る天然ガス輸出の安定化を図るため、
輸送ルートの多角化に積極的である。1997年にイラン向けの地域幹線(コルペジェ天然ガス
田からカスピ海東岸を南下してイランのクルトクイまで)を稼働させる等、ロシア経由欧州向け
(ドゥレタバッド天然ガス田からウズベキスタンのヌクス〜カザフスタンのベイネウ〜ロシアの
アレクサンドロウ・ガイを経由して欧州方面)パイプラインのみに頼るロシア依存型の輸送体系
からの脱却を目指し積極的中立政策を展開している。
主な新規ルートとして「トランス・カスピ・パイプライン」と呼ばれ、シャトルク天然ガス田からト
ルクメニスタンの首都アシハバード〜トルクメンバシ〜カスピ海海底を経由してアゼルバイジャ
ンの首都バクー〜グルジアの首都トビリシ〜トルコのエルズルム間で、総延長1900km、輸
送能力160億〜310億m3/年やドゥレタバッド天然ガス田からアフガニスタンのヘラート〜
カンダハール〜パキスタンのクエッタ〜ムルタン間、総延長1470km、輸送能力200億m3/
年で「トランス・アフガニスタン・ルート」と呼ばれ、アフガニスタン復興支援と言う観点から世界
銀行やアジア開発銀行が参画している。さらに、インド北部ジャム・カシミール州の帰属問題
(分離独立を求めるパキスタンと現状で決着済みとするインドとの対立)や核保有等を包括的
に解決するため、和平協議の枠組みが固まり緊張緩和機運が高まれば採算性を重視して、
需要があるインドの首都デリーへ延伸もあり得る。
北東アジア市場がこれら競合ルートより距離的に長くなる等、不利な条件下においてどこま
で参入できるかは不確実性が高い。
中国国家発展計画委員会(現:中国国家発展・改革委員会)能源研究所によると輸送能力
は当初で180億m3/年、将来的には300億m3/年を想定しているが、中央アジア4ヶ国の
区間(約2000km)における敷設コスト面での折り合いがボトルネックとなっている。1998年
に米国メジャーのエクソン(現:エクソンモービル)及び三菱商事鰍ニ共同で事業化調査を実施
した中国石油天然気集団公司によると、アム・ダリヤ盆地からウズベキスタンのブハラ〜タシ
ケント〜カザフスタンのアクトガイ〜ドルジバと繋がり、CLB(チャイナ・ランド・ブリッジ)輸送回
廊に沿って新疆ウイグル自治区阿拉山口〜ウルムチ(烏魯木斉)〜ハミ(哈密)〜嘉峪関〜
張掖〜武威〜甘粛省蘭州〜陜西省西安〜河南省鄭州〜江蘇省徐州〜連雲港に至る総延長
6130km、輸送能力300億m3/年(2009〜2030年)の構想であった。
現在は「西気東輸」の完成によって繋ぎ込みラインとして強力な供給補充となることから、中
国は自らのイニシアティブによりロシアや中央アジア諸国(カザフスタン・キルギス・タジキスタ
ン・ウズベキスタンで、トルクメニスタンは永世中立国を理由に不参加)との間で2001年に創
設した事務局を北京市に置く常設的地域協力組織である上海協力機構を通じ、エネルギー分
野での連携を強化している。なお、上海協力機構にはオブザーバーとして、モンゴル、インド、
パキスタン及びイランも参加している。
しかし、中央アジアは“帝政ロシアの伝統的な裏庭”として旧ソ連時代まで隷属したロシアへ
の嫌悪感による反ロ色が濃いほか、供給地となるトルクメニスタンやカザフスタンでは、権威主
義的なニヤゾフ大統領やナザルバエフ大統領による独裁政権が存在する等、政情的に不安
定であり地政学的リスク(カントリーリスク)を伴う。
次に「俄気南送:ロシアの豊富な天然ガスを南下させ中国に輸送する計画」を推進すべく20
01年に「中ロ善隣友好協力条約」の締結及び「共同声明」に調印してエネルギー分野で共同
開発して行くことで確認され、2004年に中ロ首脳が戦略的パートナーシップを再確認したうえ
で2008年までの「行動計画」を採択した。現状、中ロは蜜月関係にあると言えるだろう。
計画ルート@として、イルクーツク州のコビクタ及びサハ共和国のチャヤンダ(東シベリア)の
天然ガスをイルクーツク〜バイカル湖岸のウラン・ウデ〜チタを経由しシベリア鉄道沿いのザ
バイカリスクから中ロ国境にある内蒙古自治区満洲里を経て〜ハイラル(海拉爾)〜黒龍江省
チチハル(斉斉哈爾)〜大慶〜ハルビン(哈爾浜)〜吉林省長春〜遼寧省瀋陽で分岐して1本
は撫順で終点、もう1本は遼陽〜鞍山〜海城を経て大連から黄海を海底パイプラインで横断し
韓国西岸のLNG基地を有する平澤で終点(東シベリアから中国を経由して韓国まで総延長約
4200km)、もう1本は錦州〜河北省〜天津の薊県を経由して北京に至るパイプライン計画
で、最大輸送能力は340億m3/年、当初の年間輸入量は300億m3(中国向け200億m3
及び韓国向け100億m3)で、総延長はロシア領内約1900km、中国領内約1400kmで、事
業総額は約2兆円となっている。天然ガス販売価格等について合意に達しておらず、中国向け
販売価格としてロシア側の提示額は「西気東輸」におけるCity Gate(末端)価格1.29元/m3
と同程度に対し中国側は半額を主張している。
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ロシア極東でサハリン大陸棚と並び最大級の天然ガス田群を持つサハ共和国のヴィリュイ
盆地は、ヤクーツクから北西のレナ川沿いに位置する永久凍土の僻地にあり、パイプライン敷
設に向けた開発条件は劣悪である。石油公団(現:石油天然ガス・金属鉱物資源機構)による
と、1974年からサハリン大陸棚とともに日本が開発を検討したものの事業化に至らなかった
経緯もある。現状はヤクーツクを主たる需要地にローカルな生産とパイプラインによる供給が
行われているのみであるが、長期的に俯瞰すれば、豊富な天然ガスを利用する目的でヴィリュ
イ盆地周辺の探鉱・開発が推進され、多国間パイプラインを通じて北東アジア市場に供給され
る可能性は大いにあり得る。その際、ヴィリュイスクからヤクーツクまでは既設ラインを利用し
(ただし、輸送能力の増強及び老朽化による改修が必要)、ヤクーツク以南が中国向けに新設
となる。さらにヴィリュイ盆地の天然ガス田群に余力があれば、ミールヌイ〜レンスク間の既設
ラインを経て南下し、チャヤンダ及びコビクタの両天然ガス田等と結合してイルクーツクに至る
可能性もある。
計画ルートAとして、ヤマル半島・タゾフスキー半島〜西シベリア低地に位置する天然ガス田
群(ウレンゴイ・ヤンバルグ・メドベジェ・ザパリャルノエ等)から既設パイプラインによりスルグト
からオビ川に沿ってニジネワルトフスクを経てトムスク〜ケメロボ〜ノボクズネツクまで送り、新
設パイプラインでゴルノ・アルタイスクを経由しモンゴルの西側で中ロ国境を接するアルタイ(阿
爾泰)山脈を越えて新疆ウイグル自治区アルタイ(阿勒泰)に至り「西気東輸」に接続するパイ
プラインで、輸送能力は当初で80億m3/年、将来は200〜300億m3/年を想定している。
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最大の難所は中ロ国境に位置する友誼峰をはじめとする標高4000m級を誇るアルタイ山
脈の氷河地帯を越える山岳部であるが、欧州では1971〜74年にオランダ〜ドイツ〜スイス
〜イタリアに至る全長830km、アルタイ山脈と同様、標高4000m級のアルプス山脈の山岳
部(標高2400mを超える164km区間、うち30kmがトンネル)を通過したTENP-Transitgas
パイプライン(輸送能力70億m3/年)が敷設されており、新日本製鐵鰍ノよれば、当時より
パイプライン敷設工法は格段に向上している故に技術的な問題は全くないとの見方である。
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アルタイ山脈を迂回した場合、想定されるルート(シベリア鉄道区間に沿ってトムスク〜クラス
ノヤルスク〜アンガルスク〜イルクーツク)沿線のクラスノヤルスクやカンスク周辺にはユルブ
チェン-トホモ油ガス田があり、西シベリアの天然ガス田群とともに、東シベリアのコビクタ・チャ
ヤンダ天然ガス田に続く強力な追加補充源となり得るため、山脈越えか迂回の選択よりむしろ
北東アジア市場にとって供給先の多元化に大きく寄与し、長期的に北東アジアの旺盛な天然
ガス需要に対応すべく両ルートとも同時並行的に敷設されることが望ましいと考える。
ただ、西シベリアの天然ガス田群からはすでにブラツボ、ノーザン・ライツ、ソユーズ、ウレン
ゴイ及びプログレスと言う5本の欧州向け基幹パイプラインが敷設されており、2002年の輸
送能力は1318億m3である。さらに、新設する3本(ヤマルTU・北欧ライン)を含め2007年
以降に1750億〜2050億m3まで増強する見通しであることから、欧州市場とパイ(天然ガ
ス)を奪い合う熾烈な競合関係となることに留意が必要である。
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ヤマル半島の天然ガス田群(ボワネンコフ:1971年発見で埋蔵量5兆m3・ザパリャルノエ:
1965年発見で埋蔵量3兆m3。その他を含め2001年の総埋蔵量は10兆m3程度)から既
設のハンガリー及びオーストリア経由のパイプラインに加えて、ウクライナ〜ベラルーシ〜ポー
ランドを経由してドイツに至るヤマルTUの代替ともなり得る、ロシアのグリャゾベツからサンク
トペテルブルグの既存ラインに並行して敷設、さらにビボルグまで延伸しフィンランドを経由、
バルト海を横断しドイツのグライフスバルトで陸揚げしオランダ〜北海〜英国に至る北欧ライン
が完成すれば、ロシア・バルト海諸国及び欧州パイプライン網との接続が実現する。
計画ルートBとして、サハリン大陸棚の天然ガスを供給するパイプライン(サハリン州のオハ
/ヴァル〜ラザレフ〜デカストリ〜コムソモリスク・ナ・アムーレ〜ハバロフスクを経て中ロ国境
を越え黒龍江省撫遠〜同江〜チャムス(佳木斯)〜依蘭間、輸送能力は100億m3/年)で、
ハルビン(哈爾浜)で計画ルート@と接続する。「サハリンT」のオペレーターであるエクソンネ
フテガスの親会社であるエクソンモービルは、ハバロフスク州を経由してアムール川を渡り、湿
地帯である三江盆地を通過し中国向けに供給するため、中国石油天然気集団公司(CNPC)
と具体的な交渉に入っている。
新日本製鐵鰍ノよると、パイプライン敷設に係る技術的課題として、ロシアからの輸送の場
合には永久凍土区間を通過するため、融解沈下に対処すべく事前に十分な融解沈下の予測
を行うと同時に、凍上現象に対するパイプの挙動変形を解析したうえで、天然ガスを0℃以下
に保ち送る等、パイプラインの最適設計を行う必要がある。
●融解沈下
パイプライン中の天然ガスの温度により周辺の凍土が暖められパイプライン敷設個所の
土壌が沈下すること。
●凍上現象
一旦融解した土壌が低温環境によって再度凍って盛り上がってくる現象。
また、通過ルートには広い沼地(湿地帯)・大規模な河川を横断したり山越え(山岳部)等が
あるため、ルート選定を吟味したうえで敷設環境に適う最新技術工法(例えば、パイプライン敷
設における現地溶接工程を大幅に高能率化するとともに、施工の脱技量化を推進し作業の軽
減化に資する「電子ビーム溶接工法」の導入等)を駆使し、工期の短縮・効率化及び安全性に
留意する必要がある。
●パイプ内自走式電子ビーム溶接装置
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受け川崎重工業潟Vステム技術
開発センターにて2002年度から本格的な導入に向けた実用機の技術開発が開始されてい
る。電子ビーム溶接法の高速性を推進工法、シールド工法及び共同溝内等での工事へ導入
することによって、パイプライン敷設における現地溶接工程を大幅に高能率化するとともに施
工の脱技量化を推進し、敷設コストの低減や熟練作業者不足が解消される。
さらにコスト面では、パイプの素材に高張力鋼(X80)を使用すると、鋼材単価は特殊仕様で
あるため高額となるものの、パイプの重量トンが減少し輸送費の節約が可能となり、総額では
コストダウンに繋がるため、その適用の可能性を追及する必要がある。そのほか、環境影響
アセスメントやSCADAシステムを導入してパイプラインの制御監視や維持管理を行うことで、
操業上の高い安全性を確保し人員及びメンテナンスコストの削減を図る必要がある。地勢・
地形・永久凍土等の分布について詳細な前提に基づくパイプライン敷設コストの積算及び各国
のローカル・コンテンツを勘案した施工計画の立案が求められるほか、多国間に跨るパイプ
ラインの運営形態をどのようにするかについては、各国の様々な事情を背景にして複雑な利
害関係が絡む事項であることから、政治主導による外交レベルでの首脳会談、政府高官や
実務者等における綿密な交渉が重要である。
国際パイプラインの場合、国境決定の困難性(特に陸地以上に海洋)があるほか、河川が国
境となっていることも多い。ハバロフスク以西のロ中国境線はアムール川(中国名:黒龍江)、
ハバロフスク以南の部分はその支流であるウスリー川(中国名:烏蘇里江)を走っている。中
国と北朝鮮は図們江(朝鮮名:豆満江)及び松花江(朝鮮名:鴨緑江)で分けられ、両江とも長
白山(朝鮮名:白頭山)を源とし、図們江は日本海、松花江は黄海へ注ぐ。国境以外でもロシ
ア領内では、河川ごとに許認可が必要であり、東京ガス鰍ノよると、ロシア中央政府で通用す
る法律がサハリン州等の地方政府では通用しない一貫性に欠けるケースや国境区間におけ
るパイプラインの管轄権の処遇等が挙げられる。これら課題に端を発して重大な国際問題に
陥らないためにも、関係各国による事前の根回しが必要となるだろう。
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市場経済化を背景に中国は“眠れる獅子”ではなく、自らの力量に気づき始めており、その
強み(巨大な天然ガス市場)を最大限発揮してロシアとの交渉にあたっている。パイプライン敷
設に係る交渉の長期化は、中国が得意とするタフネゴシエーターとしての安易な妥協を許さず
自国に有利な成果を引き出そうとする戦略なのである。
一方、供給側となるロシアも然り、天然ガス販売価格に商業ベースの価格に加え、中国側の
エネルギーセキュリティ上の価値を上乗せすることを要求しているほか、投資・税関連に係る
法律の整備とその確実な施行、中央政府と地方政府との連携強化及び天然ガスの安定供給
の保証等が課題となっている。
2004年、プーチン大統領は年次教書において「ロシアは個々の地域が政治・経済の中心
地から遠く離れていると言う地理的に特殊な条件下にあり、インフラの整備・発展こそがひとつ
の統一国家に住むことの利点を保証する」との指摘がある。そして、「輸送システムを高度に
発達させることにより、この地理的な特殊性を逆に国際競争力のある長所に転換できる」と謳
っている。これはユーラシア大陸の中心に位置し、西に欧州、東に日本や中国をはじめとする
経済的な発展センターを擁しているロシアの地理的な優位性を強調したものと言える。エネル
ギー分野においては特に、基幹パイプラインの敷設に重点が置かれており、プーチン大統領
の国土パイプライン網整備強化に対する姿勢をよく物語っている。まず、基幹パイプラインの
老朽化・未整備がロシアの経済発展の阻害要因になることを指摘し、国が長期にわたり国土
インフラの発展を管理すること、そのインフラの支線は民間投資の対象であることと明確に区
分した。すなわち、基幹パイプラインは国の所管であることを強く宣言したものである。その背
景には、プーチン大統領の基幹パイプラインの整備を通じて真の国力を現出させたいと言う
遠大で長期を見通した政策があることを見逃してはならない。
これを受けて、戦略的国家企業に指定されているガスプロムでは内外の天然ガス需要に対
応するため、西シベリア(ヤマル半島・カラ海・バレンツ海等)や東シベリア、サハリン大陸棚等
で新鉱区を開発し、欧州から北東アジアに及ぶ全ロシアをカバーするパイプライン網の整備を
図る計画として2030年までの「東方ガス開発プログラム」の策定を表明している。東シベリア
に関しては、インフラに乏しい辺境の地域であることから、国策による開発体制が構築される
ものと思われる。
以上、供給先行型パイプラインである「西気東輸」が、中国のエネルギー政策の眼目である
国土全体の石炭からクリーンな天然ガス化による燃料転換を狙って沿線の需要を満たすのみ
でなく、2020年までに整備を終える「西気東輸」から分岐する支線を通じ隆盛な需要を確保で
きれば、パイプラインが抱える長距離化に伴う経済性の課題を克服しキィストーン(要石)的な
役割を果たし得ることであろう。
具体的には、北東アジア天然ガスパイプライン全体の根幹を成す「西気東輸」を基軸として、
支線の拡がりとネットワーク化に応じて、各供給地からの繋ぎ込みラインとして輸送能力を増
強させ、さらに供給地が増えれば輸送規模に見合った複線化(第2「西気東輸」の敷設等)も
想定される。
●第2「西気東輸」
「西気東輸」のルート上、交通の要衝である河南省鄭州で分岐して、南部の広東省広州まで
パイプラインを延伸する構想である。湖北省武漢から湖南省長沙までは既設パイプラインが
あることから、鄭州〜武漢間、長沙〜広州間が新設となると思われる。「西気東輸」の事業
主体である中国石油は第2「西気東輸」について、2020年の稼働開始を目指し、設計輸送
能力は250〜300億m3/年で検討している模様である。
◆モンゴルのケース
モンゴルは、エネルギー消費が日本の1%未満と僅かではあるものの、一次エネルギー総供
給の約8割を国産の石炭で賄っており、石炭消費量の7割以上が火力発電用燃料として利用
され、発電所の老朽化が環境面で悪影響を及ぼしている。それ故に、石炭からクリーンな天然
ガスへの燃料転換、老朽化施設の改修、エネルギー資源の豊富なロシアと経済成長の目覚し
い中国の中間に位置する地の利を活かしたエネルギー分野での有機的な連携、つまりパイプ
ラインの中継国としての調整役が期待され得る。翻って、軍事力を増強し大陸国家として影響
力を強める中国を牽制する目的で、米国は中ロの中間に位置するモンゴルに着目しており、
モンゴル軍の強化支援を表明している。
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一方、中国がモンゴルとは政治的に微妙な関係(モンゴルを通過した場合、同じ民族であり
ながら隣接する中国領の内蒙古自治区と比べてモンゴルがパイプラインの通行料で潤うこと
による自治区の反発を警戒)もあってロシアからの直接供給を希望している。本来はモンゴル
と内蒙古自治区との民族的な政治問題を解決したうえで、第三国であるモンゴルを縦断する
パイプラインを敷設することによって、最短距離となり経済的かつ効率的な輸送が可能になる
ほか、モンゴルは国内最大のウランバートル第4火力発電所等で使用する石炭から天然ガス
への燃料転換や環境改善が実現するだろう。
●ウランバートル第4火力発電所
設備容量54.0万kWで、総人口の約3割以上が一極集中している首都ウランバートル向け
電力の約70%と温熱水の約60%を供給しているが、1985年に開設された旧ソ連の設計・
製造による旧式システムであることから、燃焼効率が悪く多量の石炭を消費し、これに起因す
る大気汚染物質排出量が多いほか、送配電ロスが30%に上っており事故が多発する等の支
障を抱えている。この結果、停電や熱供給用温熱水の温度低下が頻繁に起こり、特に需要が
ピークになる冬季(最低気温約マイナス40℃)には、国民生活や工業生産に深刻な影響を及
ぼしている。
ウランバートル第3火力発電所(設備容量14.8万kW、1973年開設)やダルハン火力発電
所(設備容量4.8万kW、モンゴル第2の都市ダルハンに1965年開設)をはじめとする主要な
火力発電所も抜本的な改修が必要である。
モンゴル政府は、バイカル湖近郊に位置するロシア国境のアルタンブラグ及び中国国境の
ザミンウードの2ヶ所に自由地帯を設け、中ロを主な市場とする外国企業の誘致を進める表明
をしている。なお、自由地帯を形成するとの考え方自体は1995年の国会で議決され、自由地
帯の形式としては、@自由貿易地帯、A自由産業地帯、B自由農業地帯、C自由観光地帯
及び@〜Cを複合・融合的に組み合わせたD自由経済地帯がある。
●アルタンブラグ自由貿易地帯
2002年に「アルタンブラグ自由貿易地帯に関する法律」を制定し、国境貿易の拡大に着手
した。自由貿易地帯の面積は500haであり、ロシアとの出入国の国境税関を1ヶ所決定して、
自由貿易地帯の発展に伴い、税関の数を増加させる。投資家等の生活環境を支えるインフラ
として、暖房施設や上下水道を整備し、投資家の代表で構成される評議会を設立することがで
きる。また、周囲の柵、管理機構の長官執務室や各組織の事務室を設け、投資企業が利用
する区画を定めて、工場、空港、病院、ホテル、学校及び住宅団地等を順次建設する。総投
資額は約570億ドルで、投資の大半は外国からの直接投資によるものとしている。自由貿易
地帯での輸入関税、取得税、地代及び不動産税を減免することも決められている。
●ザミンウード自由経済地帯
2003年に「ザミンウード自由経済地帯に関する法律」を制定し、商業・観光サービスの拡大
やカジノ建設に着手した。アルタンブラグと同様の優遇税制等の特恵措置を講じる。
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そこで、中国国境に位置し中モン間唯一の鉄道口岸であるザミンウードと中国・内蒙古自治
区のエレンホト(二連浩特)に両地域の風俗習慣が似ている特性を活かし、経済貿易分野に
おける地域開放主義を志向する目的で越境する国際協力区を設けることを提案したい。この
試みが成功すれば、中モン間のバッファーゾーン(緩衝地帯)となって溝を埋め、さらには互恵
による信頼醸成に繋がり、モンゴルを縦断する主要なルート(イルクーツク〜ウラン・ウデ〜ア
ルタンブラグ〜ウランバートル〜ザミンウード〜エレンホト)ともなり得ることから、モンゴル迂回
を打開する糸口になるものと考える。
さらに、ロシア〜モンゴル〜中国〜朝鮮半島〜日本へと拡張し、多国間による協調的安全
保障体制も構築でき、欧州TENs(Trans European Networks)のように天然ガスの需給関係
(パイプライン)を通じてお互いが恩恵を享受し合う恒久的な安定と持続可能な発展に繋がる
ものと期待される。
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