2004年度秋学期

2004年10月30日 平成16年度秋学期修士課程修了予定者中間発表プレゼンテーション資料を掲載した。

 本プレゼンテーション資料はintermediate.pptを参照のこと。

2005年1月8日 平成16年度秋学期修士課程修了予定者プレ最終発表プレゼンテーション  資料を掲載した。

2005年1月12日 平成16年度秋学期修士課程修了予定者修士論文概要を掲載した。

 本論文概要はabstract.htmを参照のこと。

 【参考】本研究の試算結果はdata.xlsを参照のこと。

2005年2月1日 平成16年度秋学期修士課程修了予定者最終発表プレゼンテーション資料を掲載した。

 本プレゼンテーション資料はfinal.pptを参照のこと。

2005年2月13日 平成16年度森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費修士課程)     研究成果報告書を掲載した。

 本報告書はmorihokoku.htmを参照のこと。
 森基金報告書一覧はhttp://www.kri.sfc.keio.ac.jp/ja/achievement/report_mori_2004.html
を参照のこと。
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§まとめ(結語)

 自国の資源を有効活用して輸出を拡大したいロシア、自国の持続可能な経済成長に必要な
クリーンエネルギーを確保したい中国、中東原油依存度を低減し供給源の多様化を図りエネ
ルギー安全保障の向上を図りたい日本と韓国、自国を通過させることにより土地の提供に対
する領土通過料(ロイヤリティ)等が期待できるモンゴル、そして自国の経済を立て直すために
領土通過料による外貨獲得のみならず、経済基盤を支えるエネルギー源となる天然ガスの
現物支給が必要な北朝鮮、北東アジア天然ガスパイプライン敷設を巡り国情は様々である。

 なかでも中国の目覚しい経済発展や環境問題の重要性等を鑑み、中国国内の「西気東輸」
より分岐する支線の整備具合に応じて効率的なルート選択を行うことが現実的ではないかと思
われる。また、地域財としての観点からはモンゴルや北朝鮮を通るルートを選択することが望
ましいと考える。そして相互依存関係の強化による信頼醸成及び域内の安定化に貢献するパ
イプラインネットワークの構築を目指すならば、万一パイプライン通過国と利害が対立し交渉し
なければならない場合や輸送妨害等に伴う制裁措置によって天然ガスの供給をストップせざる
を得ない状況に陥った場合、バックアップと言う危機管理面の対応も含め、段階的に複数のル
ートでサハリン大陸棚と島国である日本そしてユーラシア大陸を有機的なループ状に繋ぎ、安
定供給に支障が生じない合理的な空間開発設計に基づきグランドデザイン(全体構想)を策定
することが肝要である。

 具体的には、エネルギー資源への投資を保証し、国境を跨るパイプラインの「通過」に関する
義務規定をはじめ、共同開発分野での制度的共通基盤を構築するため、欧州エネルギー憲
章に倣った多国間協定「北東アジアエネルギー憲章(仮称)」の制定やその執行母体として、
KEDOの支援対象を朝鮮半島から北東アジア全域に拡大し、域内の恒久的な平和機構として
の役割を果たし、地理的特性を考慮しながら地域開放主義を志向する包括的国際機関「北東
アジアエネルギー開発機構(仮称)」に改組すること等が有効であると考える。

 北東アジアの新社会資本となるべき多国間に跨るパイプライン網を整備する際には莫大な
資金を必要とすることから、民間直接投資や二国間政府援助によって北東アジアの旺盛な資
金需要を賄い切ることは不可能である。そこで、国際金融機関を通じて支援することが求めら
れるだろう。国際金融機関により政策的な長期かつ低利の融資が実施され、国際金融機関が
関与することによるプロジェクトのリスク低減効果が期待される。多国間ではプロジェクトの実
施側そして受け入れ側双方に様々なリスクが存在することから、政治的に強い影響力を持つ
国際金融機関はそうしたリスクを一定程度軽減し得る。国際金融機関が介在して適切なアグリ
ーメントを取り交わし、民間金融機関へリスク保証を行うことで、プロジェクトの円滑な実施が
可能になるほか、多国間の協力関係が希薄な北東アジアにおいて協調融資に向けた調整役
は非常に重要であり、民間投資が促進されると言う相乗効果もあるだろう。

 具体的な国際金融機関としては以下の3案が想定され、まず既存の国際金融機関を活用す
る方法である。世界銀行やアジア開発銀行(ADB)は、ともに国際資本市場においてトリプルA
の格付けを得ており、その信用力を背景に債券発行等によって豊富な資金を円滑に長期かつ
低利で調達できる強みを持つ。また、一定の市場・政治リスクの低減効果が期待できるほか、
これまでに蓄積されたノウハウが提供されれば多国間の協力事例に乏しい北東アジアにとっ
て非常に有益と言えるだろう。しかし、既存の国際金融機関はそれぞれに“機構内文化”を有
し、そのオペレーションが定型化されつつあるなかで世界銀行やADBは先進国に多くの決定
権があり、既存機能の範囲内での制限的な活動に留まる。また、ADBの場合、非加盟国であ
るロシアや北朝鮮に直接援助できない故に取扱い上、北東アジアの発展に寄与するインフラ
整備への融資が目的に合致するか、あるいは現行のアジア開発基金、技術援助特別基金及
び日本特別基金等に加え、北東アジアだけに特別枠を設けて金融支援を進めることが政策上
可能か、将来的に中国や韓国が資金供給国となるなかで域内資金をうまく循環させることがで
きるか、そして米国に次ぐ経済大国でありADBの総裁職を歴任している日本が、北東アジア
の多様なクロスカルチャー(固有な民族的文化・価値観)に配慮した政策判断を織り込んで対
話や交渉を主体的に進め、リーダーシップを発揮できるか等が課題である。このほか、国際
協力銀行(旧日本輸出入銀行)等との協調融資も挙げられるが、現時点において既存の国際
金融機関を通じた資金支援のみでは対応が難しいと考えられる。

 次に、世界には数多くの多国間開発金融機関が存在しているが、アジア地域にはADBしか
なくサブ・リージョナル(特定地域専用)開発金融機関となると皆無であり、北東アジアでの対
等・互恵による対外協力関係が希薄であることが空白状態を浮き彫りにしている。それを念頭
に置いて、地域の国々が多くの決定権を持つ21世紀型の新しい開発金融スキームとして「北
東アジア開発銀行(NEADB)」を創設する構想である。この構想は1997年、モンゴルの首都
ウランバートルで開催された第7回北東アジア経済フォーラムで、欧州復興開発銀行の創設に
携わり、フォーラム主催の米国シンクタンク東西センターの上級客員研究員を務めるスタンリ
ー・カッツ博士(元ADB副総裁)や南悳祐元韓国国務総理らによって提唱された。NEADB創
設の根拠は、北東アジアの社会資本整備を進めるために少なくとも年間75〜100億ドルの
資金調達が見積もられ、既存の国際金融機関等による資金支援(年間25億ドル程度)のみで
は不足するため、そのギャップを補うためにはNEADBの創設が必要とされるものである。さら
に近年、中国の世界貿易機関(WTO)加盟による市場経済の加速化に伴い、日中韓の経済
面での相互依存関係の急速な高まりや朝鮮半島における協力枠組み構築の緊急性等が挙
げられる。また、NEADBは北東アジアのみを対象とする地域特定銀行であるから域内諸国
によって事業運営されるべきであるが、加盟資格は意思のある全世界の国家、地域、基金
(市民を中心とする非政府機関(NGO)や非営利組織(NPO)等で構成される基金も含む)及
び各種機関に開放される。

●北東アジア開発銀行(NEADB)の機構案

 東京財団の研究調査報告書によると、最高意思決定機関である「総務会」、業務管理の最
高機関である「理事会」及び総務会で選出され理事会を主催する「総裁」でNEADBを運営す
る。また「副総裁」を部門別に配置して、総裁の下で銀行の業務を執行する。NEADB内部に
「政策調整室」を設け、多国間に跨るパイプライン整備をはじめとする横断的なインフラプロジ
ェクトを対象として、円滑に計画・実行して行くための政策協調機能を有する。このほか、市場
経済化に必要なインフラ運営や人材育成支援を行う「技術協力室」及びインフラ供用後の環境
評価をプロジェクト成果審査の一環として実施する「環境評価室」等、持続可能な開発に適合
する中核的な部署を設置する。NEADB運営当初は業務に必要不可欠な部署を設け、業務
内容の変化・拡大に応じて機構改革を実施する弾力的かつ柔軟性を持った姿勢で取り組み、
簡素で効率的な組織づくりを目指す。

NEADB機構図案の全体像

<出所>東京財団研究調査報告書『北東アジア開発銀行の創設と日本の対外協力政策』

 北東アジア地域開発への融資に特化する新たなファシリティ設立には中国や韓国が積極的
であり、2000年の第9回北東アジア経済フォーラムでは開催地の中国・天津市がNEADBを
誘致し土地や建設等のコストを負担すると表明した。韓国も与党がNEADBと類似した「北東
アジア開発基金」構想を提案し、最大野党のハンナラ党はNEADBを支持している。さらに、
域内の開発権等を担保にルーブル建て預金の部分的交換性を導入・確立し外資優遇措置を
取り入れ、基盤インフラを重点的に整備強化する目的で「極東開発銀行」の創設を求めている
ロシアも、NEADBが極東への資金提供に関するチャンネルになり得るとして期待感が強い。
一方、NEADB創設に向けてその役割が注目されている日本政府の反応は現在に至るまで慎
重な姿勢で鈍いが、北東アジアにおけるモーメンタムが高まり、北朝鮮への国際社会復帰も視
野に入れるものであるならば、北東アジアでの一定の影響力を保持したい米国がNEADBに
関与を望む可能性があり、米国の政治的決断によって日米同盟を掲げる日本も、NEADB創
設に向け積極的な姿勢を打ち出さざるを得なくなるだろう。つまり、日本は、北東アジアに位置
する先進国として「一国主義(ユニラテラリズム)」から脱却し、米国と北東アジア双方の共通利
益の合致点を考慮に入れ、米国と北東アジア諸国からともに評価され、両者の積極的参画に
途を拓く独自の政策が求められるのである。それら政策が国と国の障壁を低くし、各国経済活
性化による地域発展や政治的安定をもたらし、自らの国益増進にも繋がるだろう。そして、NE
ADBが独自の付加価値を提供し、民間企業にとって魅力的な投資環境を整える不可欠なカタ
リスト(触媒)となることが肝要であろう。


<出所>日本経済新聞社

●靖国問題

 東京裁判でA級戦犯とされた戦争指導者である東條英機らを合祀する靖国神社に、国を代
表する首相が私人の立場であっても参拝することで、北東アジア諸国との信頼関係を損ねる
危惧があることこそ靖国問題の核心である。戦争指導者を合祀する靖国神社に参拝すること
が日本の首相として政治的に妥当かどうか、憲法の政教分離の原則に抵触していないかどう
かも問われている。首相が正々堂々と靖国神社に参拝するためには、罪もなく戦場で倒れた
戦没者に哀悼の誠を捧げることが国内外から広く認められる施設とするべくA級戦犯の分祀
等を行い、千鳥ケ淵戦没者墓苑との統合も含めた国立戦没者追悼・平和祈念施設としての
環境整備に尽力することであろう。

 最後に、総合研究開発機構が提案している「北東アジア経済社会開発機構」の創設である。
総括的なプラットフォームとして機構を位置づけ、その下部組織として譲許性の高い融資を取
り扱う基金(Fund)、民間資金及び投資保証等を取り扱う機関(Facility)そして開発金融全般
(計画・調整・実施・モニタリング・成果評価等)を取り扱う(Agency)の三本柱による資金援助
窓口を設ける仕組みである。機構は必ずしも1ヶ所に本部機能を集中させる必要はなく、北東
アジア地域に3ヶ所程度で分散して設ける可能性も示唆している。

 以上、どのような資金支援体制を採用するかについては、国際金融資本市場で起こっている
潮流を見極め、公的融資及び民間金融の協調・補完関係にも留意しながら政治的な外交政
策も絡め、上記3案も含めた議論をさらに深める必要がある。

 あくまでも自国や所属機関の利益追求のためでなく、平和の共有、信頼醸成、相互依存そし
て共通利益の理念によって北東アジア全体の安定と繁栄にとって最良の方策を目指すべきで
ある。しかし、これまでのところ安価だが環境負荷が大きい石炭や中東依存度の高い石油に
頼り、膨大な投資を必要する国際的規模の天然ガスパイプラインは画餅のままになっている。
構造上のエネルギー効率・消費パターン等を抜本的に見直さない限り、域内における環境悪
化は歯止めなく加速されるだろう。今こそ協調的安全保障体制の構築に向けて、政治的意思
決定による具体的な行動が求められているのである。具体的には日中韓3ヶ国がリーダーシッ
プを発揮し、ロシア、モンゴルそして北朝鮮の参画を促し、これに米国の理解と支援を得ること
であろう。

 覇権秩序ではない実践的な利益を共有するエネルギー分野で機能的協力を進め、天然ガス
パイプラインの共同開発等に取り組むことを念頭に、エネルギー政策を総合調整する共同体
の創設を視野に入れる時期に来ている。資源小国である日本にとってもエネルギー政策は国
家の命運を左右する重要な眼目であり、経済的繁栄を維持するためには、米国の持つグロー
バルパワー、欧州の地域統合に注いだ知恵と構想力、そして日本が誇る技術力を三位一体
化して革新的な国家戦略を打ち立てることが不可欠であろう。


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