◯ 世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略VOL179
江田島孔明
今回は、私が数年前より主張してきた、「ドル暴落」の可能性と影響について、検討したい。
<参考>
http://markets.nikkei.co.jp/ranking/news/index.cfm?id=dm7iaa0510&date=20071110&genre=m2
NY円、急伸――1ドル=110円60―70銭 1年半ぶり高値
11月9日のニューヨーク外国為替市場で円相場は大幅上昇。前日比1円95銭円高・ドル安の1ドル=110円60―70銭で取引を終えた。信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題や米景気減速感が引き続き手掛かりとなり、円買い・ドル売りが膨らんだ。
英バークレイズが多額の評価損を計上するとの憶測やワコビアの引当金計上など、この日もサブプライム関連の損失拡大懸念が強まった。投資家のリスク許容度低下の思惑から、円買い・ドル売りが優勢。米株式相場が下げ幅を大きく拡大するにつれ、円は110円50銭と、昨年5月19日以来の高値を付けた。
前日の議会証言でバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が、米景気が急減速するとの見通しを示したことも引き続きドルの上値を抑えたという。午前10時ごろに伝わった米消費者態度指数(速報値、ミシガン大学調べ)が市場予想を下回ったことも、ドル売りを誘った。
市場では「110円00―50銭近辺には円の上値抵抗線がある。それを超えると、一段の円高が進む可能性が高い」との声が聞かれた。
午後に米株価が下げ幅を縮める場面では、ドルに若干の買い戻しが入った。
円は対ユーロで急反発。前日比2円75銭円高・ユーロ安の1ユーロ=162円45―55銭で終えた。円は対英ポンドでも急伸し、前日終値の1ポンド=237円前半から231円前半まで水準を切り上げた。
ユーロは対ドルで横ばい。前日終値と同じ1ユーロ=1.46ドル台後半で終えた。ロンドン市場で一時1.4753ドルと、過去最高値を更新した。ただ、ユーロは急ピッチで上昇してきているほか、トリシェ欧州中央銀行(ECB)総裁など当局のユーロ高警戒発言が目立っており、利益確定売りも出やすかった。
ニューヨーク市場でのユーロの高値は1.4699ドル、安値は1.4631ドルだった。
〔NQNニューヨーク=千田浩之〕 (11/10 9:30)
ドルの価値を考える上で、重要なターニングポイントとして、アメリカは1971年、ドルと金のリンク中止(いわゆる「ニクソンショック」)を発表した。発表前、1オンス35ドルだった金価格は、現在628ドル(ニューヨーク商品取引所07年1月平均相場)まで暴落している。
ドル暴落の主要因の第一は、戦争のための戦費調達だ。とりわけ第二次世界大戦を含む数次の大規模戦争の戦費支出が大きく作用し、巨額の財政赤字を作り出している。
第二は、世界の基軸通貨国の権威を維持する力の政策だ。そのために、他国を威圧する軍の超近代化装備、軍拡路線を選択したためだ。
第三は、景気拡大政策だ。豊かなアメリカを象徴する消費経済(バブル景気)を煽り、そのための輸入拡大で巨額の貿易赤字を招いたことだ。このドルばら撒き政策を容易にしたのが、ドルと金の交換停止だ。
ドルはアメリカ通貨であり世界の基軸通貨でもある。アメリカから見れば、世界は国内同様、アメリカ経済圏ということだ。大量のドルばら撒きは、アメリカの軍事産業を太らせ、国内消費も拡大させた。好況は高金利を生み、高金利は預金、投資として世界中のドルをふたたび国内に呼び戻した。呼び戻すことでさらに景気に弾みをつけている。
日本は、湾岸戦争やイラク・アフガニスタン戦争で、資金拠出・派兵など、対米軍事協力を強化した。経済面では、自動車、電機などを主力に、対米輸出を積極的に展開し、その貿易黒字は過去最高となり、世界第二位の外貨保有国となった。
問題はこの外貨の扱いだ。貯め込まれた外貨は、ニューヨーク連邦準備銀行の日本政府の預金口座に移され、かつアメリカの国債や株式の購入などその多くを証券投資に運用されている。
運用はアメリカ経済に潤沢な資金を提供し、企業活動や個人の消費経済を拡大し、アメリカ経済の成長に貢献する役割を果たしている。この仕組にこそ、アメリカいいなりの「屈辱的自公政治」の本質が示されている。私が日本を、「アメリカ幕府の天領」と呼ぶ最も大きな理由だ。
△ 対米輸出の仕組み、特徴は以下のとおりだ。
1.対米輸出代金はドルで受け取り、ドルは日本の金融機関で、円に交換される。→円は輸出企業の設備投資や配当、人件費など企業経営の必要な資金となる。
2.交換された金融機関のドルは日銀に入る。→ドルは国民の資産となり日銀が国民に代わって保有。
3.日銀はただちにニューヨーク連邦準備銀行に預金。→理由は、高利回り運用のためだ。
4.預金されたドルは、アメリカ国債や株式などの購入に宛てる。→ドルは、ふたたびアメリカ国内に還流。
5.アメリカ市場に還流されたドルは、アメリカの経済活動に投入される。→経営資金や個人消費などに提供され、アメリカ経済の拡大、好調がつづく。
つまり、アメリカへの売却代金ドルは、日銀を経由してふたたびアメリカに里帰りする。
アメリカの実態はどうか。財政赤字は3186億ドル(05年度、115円換算△36兆6390億円)、対外負債純資産残高が△2兆3017億ドル(同△264兆6950億円)の世界一の赤字国となっている。しかもイラク戦争などの戦費がいまも増えつづけ、ドルの垂れ流しはとどまらない。
もし仮に1ドル120円が60円に暴落すれば、日本や中国の対外資産、外貨準備高は半減し、巨額の国民資産を失い、その結果、両国の経済はもちろん世界恐慌に発展する恐れも多分にある。
ところがアメリカは、ドル暴落を逆手に強いアメリカを演出する“マジック”を手にしている。
例えば、1ドル120円が60円に半減した場合、120円は2ドルとなり、アメリカ資産の名目評価額は倍増し巨額の資産に一変する。一方対外負債は、アメリカ国債や株式などへの証券投資が多く、その表面投資額は変わらないばかりか実質投資価値は半減することになる。
結果、ドル暴落による資産膨張によって、アメリカは国際収支黒字国≠ノ変貌することになる。しかし、実体経済は当然悪化しており、各国の警戒感はいっそう強まることは間違いない。
また、軍事力を背景に、力で他国を支配するアメリカの姿勢は完全に世界の「信用」を失うことになる。信用を失ったドル(アメリカの政治経済)は、基軸の終焉、孤立へと向かっていくだろう。とくに中国、EUが元・ユーロ建てを求めた場合、この流れは一段と加速するものと見られる。
ドル破綻を避けたい日本政府は、日銀や保険会社などを指揮し、「円売りドル買い」の為替介入を行い、ドル高を必死で維持してきた。
為替介入は、手持ちのドルに加えてさらにドルを買い増し、代わりに円を放出する、つまり国民の税金で実勢より価値の低いドルと円を交換する政策だ。 ドル暴落による損害は、本来貿易当事者が被るべきものだが、その損害を国民に肩代わりさせ、アメリカの責任も免罪にするという屈辱的奉仕政策をとり続ける、それが日本政府の姿勢だ。
EUはすでに独自のユーロ経済圏を構成・拡大し、アメリカと対等・平等の関係を結んでいる。アメリカの裏庭といわれた中南米でも、大半の国(ニカラグア、エクアドル、ベネズエラ、ガイアナ、ブラジル、ボリビア、パラグアイ、ウルグアイ、アルゼンチン)が、アメリカ主導の「米州自由貿易地域」(FTAA)構想を断ち切り、「連帯、協力、補完」の自主的・民主的地域共同体づくりをすすめている。
軍事力を背景とする力の政策は、民主、共和いずれの党であっても大差なく、早晩アメリカ経済の行き詰まりは避けられない。
なぜなら、アメリカには、売るものがもう無いからだ。日本のとるべき道はただ一つ、一刻も早くアメリカ追随の政治・経済にピリオドを打つことだ。
世界の流れは、どの国の支配も許さない自主的・民主的国づくりと、対等・平等・互恵の共同体結成へとすすんでいる。
間違いなく、世界は、戦後のパックスアメリカーナ、すなわち、国連やGATT(WTO)やIMFに代表されるアメリカの後ろ盾による世界支配、すなわち「アメリカ幕府体制の終焉期」に入っている。湾岸諸国のドル離れはこの兆候だろう。
現在の日本は、歴史的にたとえれば、唐の台頭から周辺国のパワーバランスが崩れ、大化の改新から白村江へと突き進んだ天智天皇の時代。英国の東洋進出から明治維新へと繋がる明治天皇の時代、そして、アメリカのアジア太平洋への進出から太平洋戦争へと繋がる昭和天皇の時代に匹敵するほどの動乱の時代に差し掛かっている。
このような状況で、政治は相変わらず足の引っ張り合いに終始するのもお約束の展開だ。今こそ、私が過去に記してきた戦略の実行が必要になる。
<参考>
http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20071001/136326/?P=2&ST=sp_fp
△ ドル基軸が揺らぐ予兆?
サウジとオマーンの政策金利に表れた異変* 2007年10月3日 水曜日
<http://business.nikkeibp.co.jp/bns/author.jsp?ID=136326&OFFSET=0>
本多 秀俊
<http://business.nikkeibp.co.jp/bns/bnsearch.jsp?BID=1006&OFFSET=0&SEARCH_TEXT=%C0%AF%BC%A3%A1%A6%B7%D0%BA%D1> 政治・経済
<http://business.nikkeibp.co.jp/bns/bnsearch.jsp?BID=1006&OFFSET=0&SEARCH_TEXT=%A5%B0%A5%ED%A1%BC%A5%D0%A5%EB> グローバル
<http://business.nikkeibp.co.jp/bns/bnsearch.jsp?BID=1006&OFFSET=0&SEARCH_TEXT=%B0%D9%C2%D8> 為替 FRB
<http://business.nikkeibp.co.jp/bns/bnsearch.jsp?BID=1006&OFFSET=0&SEARCH_TEXT=FRB>
<http://business.nikkeibp.co.jp/bns/bnsearch.jsp?BID=1006&OFFSET=0&SEARCH_TEXT=%A5%B5%A5%A6%A5%B8%A5%A2%A5%E9%A5%D3%A5%A2> サウジアラビア
最近、外国為替市場にちょっとした異変が起きた。過去21年間、1ドル=3.75リヤルの固定相場制を維持し続けてきたサウジアラビアの通貨リヤルが、9月21日に対ドルで0.3%あまり上昇したのだ。
2日前の9月18日に発表されたFRB(米連邦準備理事会)による政策金利引下げに、サウジが追随しないと発表したのがきっかけだった。
それから9月末までの間、わずか0.5%にも満たないリヤル上昇が、通貨市場ではドル凋落の兆しとして大きな関心を集めている。
市場からの圧力に屈しサウジ通貨当局が、対ドルでのリヤル切り上げや、ドル固定相場の廃止、あるいはユーロとドルのような複数の通貨に水準を連動させるバスケット通貨制への移行に踏み切る、との観測が広がったからだ。
仮に実現すれば、それは、国際貿易の決済通貨として、原油取引の建値通貨として絶対的な地位を占めてきたドルの支配力低下と読まれる。
9月24日には、同じくドル固定相場制を維持し、中東産油国6カ国(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーン、カタール、バーレーン、クウェート)で構成する湾岸協力会議(GCC)の一員であるオマーンも、FRBの利下げに追随しないことを表明した。サウジアラビア・リヤルもオマーン・リヤルもドル固定相場制の下にある。
両通貨が固定相場制を維持するのを前提にするなら、両通貨の金利は原則として同じ体系を持たなければならない。信用力や期間によって金利に多少のばらつきが生じることはあり得ても、すべての金利の基準となるべき政策金利が食い違うことなど、常識的に考えてあり得ないはずだ。
△ ドル固定相場制の抱えた歪み
そのような常識に逆らって、なぜサウジやオマーンは追随利下げを見送ったのか?その理由は両国を取り巻くインフレ懸念にある。
両国のみならず湾岸協力会議加盟各国は、下の図の通り、近年、一様に物価上昇懸念に悩まされ続けてきた。おりからの原油価格急騰が、原油収入の爆発的な増加=通貨供給量の急増をもたらしてきたのが、その主因と思われる。
インフレの要因はそれだけではない。インフレ抑制のために政策金利を引き上げたくても、ドル固定相場を採用する各国には、金融政策を発動する余地が極めて限られている。さらに、ここ数年進んだドル安は、取りも直さず自国の通貨安に直結し、輸入物価を押し上げる要因ともなってきた。
そもそも、近年の原油高もドル安とは表裏一体の現象と言える。つまり、「寄らば大樹の陰」とばかり、強くて安定したドルに頼ってきたつもりが、その強さと安定とが、根元から揺らいできてしまったというわけだ。
△ 常識だけでは測れない金融市場
「こうなってはもはやドル固定相場制の維持は不可能」「輸入産品の3割が欧州から輸入されるのだから、ドル7割+ユーロ3割のバスケット通貨制に移行すべき」
といった意見は、極めて常識的と言えよう。実際に、今年5月、クウェートは「インフレ懸念」を理由に、他の湾岸協力会議加盟国に合わせていったんは採用したドル固定相場制を廃止、単独の「主要通貨」に対するバスケット相場制に移行している。
2010年をめどとした湾岸協力会議共通通貨の導入も、最近では現実味を危ぶむどころか、金融市場の話題に上ることすら稀になってきてしまった。「ドル固定相場制の廃止」「原油価格のドル建て支配終焉」と市場が色めき立つのも無理はなかろう。
「常識的」には不合理と見なされる固定為替相場制下の政策金利差だが、現実には、過去、米国とサウジの政策金利には、図の通り、極めて頻繁に金利差が開くことがあった。
実は近年、サウジアラビアが米国の「利上げ」追随を見送り、むしろ対ドルでのリヤル「切り下げ」圧力をしのぐ状況が長く続いていた。それがサウジの足元のインフレ圧力を強める要因になったとも考えられる。「抜け目のない投機筋が、金利差を利用し、さぞやあぶく銭を稼いだことだろう」と思うところだが、現実はそんなにも甘くはなかったようだ。
例えば、2006年後半のように、政策金利に0.55〜0.75%の開きがあったとしても(当時は米政策金利の方が高かった)、現実にそれだけの金利差を丸々、享受することなどあり得ない。市場金利には預金金利と借入金利の開きがあるからだ。しかも、ほんの数ベーシスポイント(1ベーシスポイントは0.01%ポイント)の金利差から各種取引費用を引いてそれなりの収益を残すには、取引規模を大きくし、取引期間も長期化する必要が出てくる。
サウジのような限られた規模で、しかも、金融当局が絶大な支配力を誇る市場で、そのような投機を大々的に行うのはたやすいことではない。だからこそ、サウジは、過去21年もの長きにわたって、同一水準でのドル固定相場制を維持してくることができたのだろう。
△ なんでも起こり得る金融市場
だからと言って、サウジのドル固定相場制が、今後も維持可能とは断言できない。現在の金融市場では、何が起きても不思議ではないほど、先の読めない展開が続いているからだ。
例えば、ほんの数カ月前に、FRBが9月に利下げに踏み切ると予想していた金融関係者など1人もいなかっただろう。仮にいたとしても、「突拍子もないこと」と笑いものにされるのが落ちだったはずだ。しかし、現実に米連銀は0.5%の利下げに踏み切ってしまった。
ECB(欧州中央銀行)についても、8月上旬までは「9月0.25%利上げは確実」というのが金融市場の一致した見方で、それに異を唱える者などほとんどいなかった。
しかし現在では、年内の金融政策動向に関して、「据え置き」「利下げ」「利上げ」それぞれの見方が交錯しており、誰がどんな予想を立てたとしても、「そんなことはあり得ない」と言下に否定などできない状況になっている。
相場の世界に「サブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)危機」のような思いもかけない異変はつきものだし、「ブラック・ウェンズディ(英ポンドのERM=欧州為替相場メカニズム離脱)」や「LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)危機」も、常識ではあり得ないことが、現実になった出来事と言える。
そうした中にあっても、中央銀行の金融政策や、その政策金利の影響を色濃く受ける短期金利市場は、最も常識の通用する世界だったはずだ。
しかし、英国における短期金利の高止まりと中堅銀行ノーザン・ロックの資金調達難、それを受けた一般預金者の取り付け騒ぎは、英中銀に屈辱的な方針転換を強いるまでの混乱に発展してしまった。
FRBの利下げそのものが、クレジット物と呼ばれる金融新商品が蔓延させたマネーゲームの「行き着いた先」として、米経済凋落の証しであることは疑いようもない。
この先、原油取引のドル支配が崩れ、その予兆として湾岸協力会議の共通通貨が、ドル固定相場制以外の制度を採用するとしたら、それはドル基軸崩壊の序章と言って差し支えないだろう。現在の金融市場で、「そんなことなど起こり得ない」と言い切れることは一つもない。
大企業が軒並み業績を回復させるなか、輸出増による日本の外貨準備高が異常な伸びを示している。財務省07年1月の速報では8953億8300万ドル(115円換算102兆9690億円)で、98年比で4倍強となっている。しかし好調に見える日本経済に、実は深刻な危機が日増しに強く大きくなっている。
以上
(江田島孔明、Vol.179完)
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