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"Flower"

2

 「おっはよー!」
 朝から元気な貴世はクラスの誰彼となく挨拶を交わしながら麻巳子の前の席に来て座った。
 「おっはよ、麻巳ちゃん。昨日、つき合ってくれてありがとね」
 「おはよう貴世ちゃん」
 トーンを落とす。
 「どうだった?ヒロさんと仲良くなれた?」
 「うーん、まあまあかな。とりあえず、また会う約束はしたよ、うん」
 「そうなんだ。じゃあ」
 「こら、西桜おまえ邪魔だ。座れねぇだろうが」
 太い声で二人の会話を遮ると、花島は威嚇するみたいにスポーツバッグを振り回した。貴世が陣取っている席の本来の主だ。身体もでかいが態度もでかい。
 「うっわ、なんか汗臭いと思ったらやっぱりハナジーだ。朝錬で疲れたでしょ、もう帰っていいよバイバイ」
 「ふざけんな」
 ぼすっとスポーツバッグが貴世の頭に命中する。
 「ひっどーい、ハナジーがいぢめるー。麻巳ちゃん助けてぉー」
 「却下。判定八対二で花島氏の主張の正当性が認められました。被告人は速やかに退場しなさい」
 花島は猫の仔を扱うみたいに貴世の襟首を掴んで引き立たせた。思わず吹き出しそうになった麻巳子だが、貴世の恨めしげな視線にぶつかって、なんとか引き締めようと頑張った。だが頬の肉がひくついてしまうのを抑えきれず、かえって笑いが込み上げる。貴世は唇をとがらせた。
 「ぶー、麻巳ちゃんの薄情者ぉー」
 「うらっ、さっさと自分の席へ戻れ」
 「あ、分った、さてはハナジー、麻巳ちゃんのこと好きなんだ。だからこの席にこだわるんだ。ね、そうでしょ、図星でしょ」
 「小学生みたいなこと言ってんじゃねぇ」
 結局、どう頑張ったところで力で花島に勝てる筈もなく。貴世はあえなく席を奪い返された。
 入れ違いにどっかりと腰を落とした花島は、麻巳子の方に身体を向ける。別に汗臭いなんていうことはない。そもそも部活ならもう引退している筈だ。
 貴世のことで文句の一つも言われるかと麻巳子は少し身構えた。昨年から同じクラスだが、話をしたことは数える程だ。押しが強い一方で裏表のない性格で、クラスの中心的存在である花島のことが、麻巳子はやや苦手だった。
 「来宮ってさ、西桜といつもどんな話してんの?」
 「え、どんなって……」
 「おまえらよくつるんでるみたいだけど、共通点が思い浮かばないんだよな。西桜はあんなだけど」
 自分の席に戻った貴世は別の女子とお喋りを始めている。クラスで一番賑やかな場所を探せば、大抵、そこには貴世の姿があるといっていい。
 「おまえはわりと大人しめっていうか。偏見かもしんないけど」
 「やっぱりあたしってつまんないかな。だよね。自分でもそう思う。だから分んないな。どうして貴世ちゃんが色々誘ってくれるのかは」
 「俺は、おまえがつまんない奴だなんて思ってないよ。ただ、西桜とはタイプが違うかなってだけでさ」
 「でも、男の子だって、あんなふうに可愛くて話し易い子の方がいいでしょう?」
 「そりゃまあそうだけど……でもあいつ結構遊んでたりするみたいじゃん。大丈夫なんかな」
 ああ、そういうことか。麻巳子は思った。
 「気になるんだ。貴世ちゃんのことが」
 「違ぇーよ」
 花島は正面に向き直った。白くて広い背中は、まるで油絵のキャンバスみたいで、だけどいくら見つめていてもやっぱりそこは空白のまま、何も描かれはしないのだった。
(続く)
2005/11/ 7
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