菊地秀行学園バイオレンスの世界
菊地秀行と言えば超伝奇バイオレンスの番長。吸血鬼ハンター“D”や魔界都市ブルース、妖魔戦線シリーズで知られている好漢。しかし、学園を舞台にした超伝奇バイオレンスやSFアクションもいくつか出していて、これがまた傑作揃いときている。これらの作品群は“D”や魔界都市ブルースなどのドル箱シリーズの影に隠れがちですが、ゲームにもなった東京魔人學園シリーズにも多大な影響を与えていることから見ても、その面白さは侮りがたしといったところです。
菊地番長と言えばD様秋様とそっち方面ばかり騒がれていますが、学園物もいいぞぉということでここに「菊地学園バイオレンス」とその系譜上にある作品群を紹介したいと思います。
インベーダー・サマー(朝日ソノラマ文庫/朝日ソノラマ文庫NEXT 1983年)

菊地番長初期の傑作SFホラー。アダルト・デビューする前、朝日ソノラマ文庫でガムシャラに作品を発表していた時のもの。伝奇バイオレンスではないものの、舞台が学園であることから「菊地学園もの」としてカテゴリーした。
信州の地方都市「夕笛市」にある夕笛高校の校庭に、一人の少女が現れて男子生徒たちを虜にして以降、世界に異変が訪れる。人たちが話す言葉、歴史、絵、文字がこの世のものでなくなっていく中、主人公の片桐学は一人異変に気付き、孤独な戦いを開始した!
宇宙人侵略物で、こちらの世界を侵食していく様は番長が愛してやまない幻想的なホラーの味わいもある。僕は高校生1年生の夏、この本を読んで感動した記憶がある。異世界がこちらの世界を序々に侵食するテーマとしては最近作では「トンキチ冒険記」や、夢をテーマにした番長の名作ホラー作品「夢幻舞踏会」がある。
魔人学園(講談社/講談社文庫/日本出版社エクセルノベルズ 1988年)

(左は講談社文庫版、右が日本出版社版)
菊地学園バイオレンスの最高峰。ちょうど「魔界行」「妖魔戦線」でアダルト・デビューを果たして一気にスターダムへのし上がり、一番ノリに乗っていた時期のもの。世界観は箱根を境に東西に分裂し、妖術や魔物が跋扈する日本が舞台。伝奇バイオレンスの体裁を取っていますが、文庫版の解説で番長の盟友、朝松健氏が指摘されるように、これは「異世界ヒロイック・ファンタジー」でもある。
ストーリーは関東の各校が関西勢の侵略によって次々と軍門に下っていく中、トーキョーの帝高校は関西からの侵略に備えるべく、転校生を召喚。この世界での「転校生」とは各地の高校を転々としながら、用心棒や技術伝承をしていく流浪の存在。しかし、帝高校が雇った転校生、壇哲理は別の世界から召喚された特別な存在であった。
帝高校のクィーンであり、関東勢の象徴として西から命を狙われる朱雀舞衣を巡って、そして世界の命運をかけて西からやってきた妖術師と壇哲理が壮絶な戦いを繰り広げる。
物語の鍵となるのは、別の世界から召喚された壇哲理の報酬「三日間」と、西の首都、オオサカのミナミ高で発達していたある学問の存在。この学問を手中に収めれば、今ある世界を自由に作り変えることが出来る。東西がいがみあうことのない世界、学校同士で殺し合いもなく「護衛団」に守られなくとも平和に暮せる世界へ変えることが出来る。そして哲理の報酬とは、その変えた世界での平穏な三日間である。
魔人学園とは、関西勢による関東の高校侵略の裏で、世界を変えるほどの力を巡って、世界を変えようとする者とそれを阻止する者との戦いでもある。2006年、番長旧作品の再刊を手掛けている日本出版社より再刊。
魔闘学園(有楽出版社/講談社文庫 1991年)

(左は講談社文庫版、右が有楽出版社版)
魔人学園と並ぶ、菊池学園バイオレンスの傑作。帝高校など魔人学園の設定を流用しているものの、魔闘学園の世界観はごく普通の現代・日本。そしてお馴染みの「転校生」が主人公ではなく、主人公のサポート役に回っている。前回が「異世界ヒロイック・ファンタジー」だとすれば、今回は「宇宙人侵略」。喧嘩で地球防衛をするという豪快な主人公、悪気乱作の敵は宇宙人。魔人学園がドラクエだとすれば、魔闘学園は地球防衛軍だ。
ストーリーは喧嘩に明け暮れる帝高校二年生、悪気乱作は転校生の美少女、村雨紫水に「世界を救えるのはあなたです」と言われ、地球を狙う宇宙人との戦いに巻き込まれてしまう。乱作は地球の意思によって防衛隊員として選ばれ、その補佐役として彼女が「転校」してきたのである。そして、地球侵略を企む宇宙人と戦う拳と拳で戦う。
宇宙人侵略ものとはいえ、宇宙艦隊だの自衛隊だのが出てきてドンパチするわけでもなく、多少の超能力は出てくるものの、基本的には素手と素手の一対一の勝負。惑星を侵略する宇宙人たちの間でもルールがあるらしく、その結果が素手での戦いとなっているらしい。
三度のメシより喧嘩好きで、他校の不良どもに喧嘩を吹っかけては叩きのめし、各校の番長グループや不良どもからは「狂犬」呼ばわれされる乱作ですが、母親想いで一本気な好感が持てるキャラクター。乱作の母親は外谷さん系の豪快なでぶキャラなのもすごい。
ラストに乱作が感じた空しさは、番長の学園バイオレンス作品の中でもピカイチのラストだと思う。個人的には魔人学園よりもこっちの方がオススメしたい。エロシーンも思いの他押さえ気味なので、エロやレイプの連続でアクの強い菊地バイオレンスが苦手な方にもオススメ出来る。
2007年現在、絶版になって久しく一般書店では入手しづらいが、末弥純氏が表紙を手掛けた文庫版ならブックオフに行けば大抵は見つけることが出来る。魔人学園を再刊した日本出版社からの再刊を望みたい。
魔校戦記(祥伝社ノン・ノベル 1999年)

一応、魔人学園、魔闘学園とこれが「菊地学園バイオレンス」三部作とされるらしい。今度は学校を牛耳り、校内外で暴虐の限りを尽くす不良グループVS移動生徒会の魔戦。ついに転校生から、移動生徒会という集団戦へと進化した。
ラストは世界を変えることが出来る「掟」を巡って、移動生徒会と各校の番長連合が激戦を繰り広げる。この掟は「魔人学園」で語られた、世界を自分の望む姿に変えることが出来る素粒子と同じで、プロットやアイデアそのものは魔人学園と全く同一である。また、90年代後半から番長作品に広く敷衍している古武道「ジルガ」も登場。
ストーリーは神泉高校に巣食い、暴力と陵辱を思いのままとする「五凶星」を名乗る不良グループを倒すべく、同校へ赴任したばかりの女教師、仁科樹は五凶星を粛清するべく「移動生徒会」を召喚した。移動生徒会が転校すると、前任の生徒会と交代する形で神泉高校生徒会となり、学校の改革と、五凶星の駆逐を開始した。
移動生徒会とは各地の学校の悪を駆逐する伝説の生徒会である。そして、生徒会と不良グループの学校の平穏を賭けた戦いは、五凶星が握る世界の「掟」を巡る戦いへと激化していく……。
久々の菊地超伝奇バイオレンスでもあり、カバー・イラストは村山潤一氏、挿絵は柳澤達郎氏の黄金コンビ復活。本の装丁は往年の魔界行第一期シリーズを彷彿とさせる。末弥純氏や天野喜孝氏もいいが、やはりハイパー伝奇バイオレンス・ノベルの挿絵と言えばこの二名である。
魔童子(魔界行異伝)(祥伝社ノン・ノベル/祥伝社ノン・ポシェット 1988年)

菊地番長の出世作「魔界行」の外伝。魔界行正伝における主人公、南雲秋人のライバルであり、死人使いである暴力団・瓜生組組長の息子、瓜生義龍の高校生時代を描いたもの。もちろん、死人使いの彼の学園生活ともなれば血みどろのバイオレンスである。
あとがきで番長が述べる通り、本来であればヒーローとなるはずであった瓜生義龍が自身が血を引くという闇の一族の覇権争いに巻き込まれ、クラスメイトを殺されてしまったことから絶望して一族を皆殺しに、平穏な学園生活を捨てて瓜生組の参謀となっていく凋落譚でもある。魔界行本編では冷酷な義龍も、実はそうなるべききっかけがあった。もし、別の道を辿っていたとすれば義龍は死人を操るヒーローとして別の活躍があったのかも知れない。
ストーリーは瓜生組の子息、瓜生義龍が名門・敬神高校に転校した。菊地番長定石の「転校生」ネタで始まり、闇世界の一族の覇王候補である彼はその覇権争いに巻き込まれ、無為にクラスメイトを死なせてしまう。絶望した彼は一族を殺戮し、瓜生組を継ぐ決心をした。当然、魔界行正伝よりも前の時間軸となる。
エイリアン京洛異妖篇(朝日ソノラマ文庫 1987年)

菊地番長のドル箱シリーズの一つ「トレジャー・ハンター」シリーズの一編。主人公の八頭大が高校生であり、この一編では学園物における定番パターンである「修学旅行」ものでもあるため、菊地学園ものとして分類する。いつもは学業を疎かにして世界中を飛び回っている大ちゃんの京都就学旅行記だ。
ストーリーは修学旅行で訪れた京都。しかし、八頭大はただ修学旅行を楽しむためだけに京都にやってきたわけではない。銀閣寺に眠るお宝を戴く仕事も兼ねていた。しかし、京都では名刹や神社が一夜にして消え去るという怪異が発生していた!
お寺や神社が一夜にして消えるというストーリーはすっ飛ばして、大とクラスメイトの悪友たちとの悪ふざけ、太宰ゆきの美人局騒動や菊地番長お馴染み外谷順子などがひたすら登場して、ストーリーをいい感じに引っ掻き回してくれる。京都で発生した怪異が無くても、ドタバタ学園物として充分に通用するのではなかろうか。トレジャー・ハンターシリーズでは「京洛異妖篇」が一番だと僕は思っている。
ここで登場した準レギュラーの外谷順子と、ゴリ一こと古賀雄一は次の怪作「外谷さん無礼帳」にも登場してひたすらストーリーを引っ掻き回してくれる。
外谷さん無礼帳(朝日ソノラマ文庫 1989年)

菊地ワールドに度々登場する脅威のでぶ、外谷さんがついに主役を張った!! これだけでも一大事だけど、それが「学園デブコメ」と銘打たれれば、これはもう傑作としか形容できないのではなかろうか。外谷さんはデビュー作「魔界都市<新宿>」において、すでに原型キャラの「九重よしこ」が登場して以来、外谷順子、外谷良子、外谷肥太子といった異名同人も多く登場している。ちなみに「魔闘学園」の悪気乱作の母親もでぶ、もしかすると旧姓は外谷だったのかも知れない。
ストーリーは、四国から横浜に引っ越してきた高校生、清澄薫は親戚の外谷家に居候することになったが、変人の叔父叔母、そして従兄妹にあたる外谷順子が繰り広げる騒動の数々。外谷さんのほかにも古賀雄一、番長作品では人間の屑みたいな悪人キャラの常連である「矢島」も登場、他の登場人物と共にひたすら主人公を引っ掻き回します。やはりここでも主人公の清澄薫は「転校生」の主人公で元ツッパリの一本気な男。十六夜京也、八頭大の系列にあるキャラクター。番長作品では他にもギャク調の作品は多少なりともあるとしても、この外谷さん無礼帳がピカイチ。
マリオネットの譚詩(朝日ソノラマ文庫 1994年)

菊地番長お馴染みの転校生もの。最初は天から伸びる操り糸によって操られている人間たちが住み、主人公が人々を操り糸から解放していくという異世界ファンタジーになる予定だったらしい。が、肝心の内容を読むと人間が獣人や妖術によって恐竜に変身していく世界になっている。そんな世界を変えるべく銀杏摩樹風が都立流高校に「転校」してきて、戦いを開始する。
数ある菊地学園ものではイマイチ。季刊「グリフォン」連載時には鶴田洋久氏が挿絵を担当していたが、文庫にまとめられた時には阪下美和氏に変わっている。ラスボスは番長が吸血鬼と共に愛してやまないアレです。
癒しびとの伝説(朝日ソノラマ文庫NEXT 1998年)

未読。転校生や生徒ではなく新任教師が主人公らしく、設定は後の「トンキチ冒険記」に転用されたらしい。1巻と銘打ってあるものの、ソノラマ文庫ネクストの立ち上げ失敗によって続刊がないまま終わった不運なシリーズ。挿絵を廃したストイック過ぎる装丁は個人的には好感が持てるが、挿絵や口絵も重要なジュブナイル文庫レーベルでは致命的だったと思う。
“影人”狩り-トンキチ冒険記-(実業之日本社JOYノベルズ/光文社文庫 2000年)

菊地番長久々の新シリーズ。主人公は「向こう側」に連れ去られ、無事帰ってこれたという稀有の高校生、和久井頓吉−−通称トンキチ。彼は向こう側からの侵略に備えて、向こう側の知識と高度な文明を駆使して対抗するべく戦うストーリー。
国家機関から派遣された破天荒な教師で、彼の担任の具蓮寺センセーやその姪の澄子と共に、木刀片手に向こう側の尖兵「影人」と戦う。設定やプロット、人物造型そのものは往年の「トレジャー・ハンター」シリーズの焼き直しだが、十二分に面白い。
ブルー・ランナー-トンキチ冒険記2-(実業之日本社JOYノベルズ/光文社文庫 2001年)

トンチキ冒険記パート2。今度は「向こう側」から転校してきた朱雀省吾が敵。菊地番長定石の転校生ネタキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!
しかも朱雀は番長お得意の超絶美形キャラ。朱雀とトンキチは戦う運命にあったものの、朱雀は向こう側に攫われた妹を人質に取られ、仕方なくトンキチと戦わなければならないという境遇にある悲しき人物でもあった。
トンキチ冒険記シリーズはこの「ブルー・ランナー」で今のところ最後。番長渾身の新シリーズと思いきや「虚空王」「妖獣界《紅蓮児》」「白夜サーガ」といった不発シリーズの後を追ってしまったのが残念。出来れば続編の執筆をお願いしたいところだ。
銀座魔界高校(双葉社ノベルズ 2004年)

未読。サブ・タイトルに「魔界都市異伝」と銘打ってあるものの、十六夜京也や秋せつらが出ている「魔界都市<新宿>」とは全く関係無く、出てくる新宿もあの<新宿>ではない。
●学園物ではないがそれっぽいの
魔界都市<新宿>(朝日ソノラマ文庫 1982年)
(左が朝日ソノラマ文庫初期版、中央がOVA化を期にアニメ準拠の絵に差し替えられた朝日ソノラマ文庫後期版、右が現行のソノラマノベルズ版)
番長驚愕のデビュー作。正しくは学園物ではないものの、主人公の十六夜京也がトーキョー市立の南風高校の三年生であり、彼の初登場シーンは下校時のスカート捲りという、ある意味学園青春物の定石を踏んでいるのでここに紹介したい。OVA化と同時に表紙差し替えがなされた文庫版と新書版共に表紙の十六夜京也はガクラン姿だが、実際にはトレーナーにジーンズというラフな格好で<新宿>へと潜入している。しかし恩田尚之氏のイラストの影響もあって、十六夜京也と言えばガクラン剣士というイメージが強いのは僕だけだろうか。完全版ではイラストレーターが末弥純氏にバトンタッチされたものの、やはり十六夜京也はガクランを着て阿修羅を構えている。
後に「青春鬼」シリーズでも秋せつらがガクラン姿を披露している。番長はガクランヒーローが好みなのかも知れない。2005年には完全版がソノラマノベルズより発行。
拳獣団(朝日ソノラマ文庫 2001年)

こちらは高校生でも転校生でもなく、大阪武専大学空手部がその舞台。世界学生空手トーナメントで優勝したものの、その賞金を博打で全額すってしまい、その穴埋めの資金稼ぎのために財宝が眠る遺跡の国、トルコへ向かい空手でオッスオッスと大暴れするという破天荒なストーリー。
豪快過ぎる部長、虎堂竜作と美形の副部長、切り札の一回生がガクラン姿で空手を駆使して遠い異国で大暴れ! 豪快なだけに楽しんで読めるし番長作品で常連となった古武道「ジルガ」も登場。菊地番長版「嗚呼!! 花の応援団」的な痛快アクション。表紙は菊地作品では初登板となる幡池裕行氏が手掛けた。
ちなみに本来は「トレジャー・ハンター」シリーズの一編として執筆される予定だったらしく、トルコの遺跡に眠る謎の財宝という形と、竜作の従兄妹である静香のキャラ造型(太宰ゆき)という形で名残を残している。
●参考リンク
魔界学園ぐれいと(魔人学園の漫画版「魔界学園」について研究しているサイト)
菊地秀行ファンクラブ(菊地番長公式ファンクラブ。新刊情報などが豊富。番長も顔出しする掲示板もあり)
魔界都市新宿きくちファン通信(番長作品のデータベースが豊富)
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