深セン便り・単身赴任S氏@中国


その15 【2004年8月】 〜中国の労働事情〜

今、日本では少し景気が回復し始めたようですが、まだまだ雇用不安や賃金の抑制など、決して先行きが明るい状況ではないと思います。中国の好景気も日本の景気回復の一因と言われていますが、その中国の(特に深センの)景気は、日本では信じられない速度で伸びています。

まず、中国全体でみても、過去10年間にGDP(国内総生産)の成長率が7%以下になったことはなく、毎年どんどん成長し続けていますが、深センの今年上半期の経済成長率は17.4%と驚異的な値です。

でも、経済成長の恩恵を受けられるのは、沿岸部のごく限られた都市だけで、農村部との格差は広がる一方です。具体的には、中国全体でみると、所得のうち、税金・社会保険料などを除いて、個人が自由に消費や貯蓄に使えるお金、つまり可処分所得は、都市部では1ヶ月当たり約4800元(約6万7千円)ですが、農村部では1350元(1万9千円)くらいです。つまり、自由に使えるお金が3倍以上も違っています。

そんな中でも深センはダントツで、昨年上期の可処分収入の統計では、深センは1万2373元でした。2位の広州市でも7781元、3位は上海市で7416元となっており、首都の北京は更に少なく7040元でした。

従って、深センの可処分所得は農村部の約10倍という状況です。そこで、この恩恵に与ろうと、中国国内各地からの出稼ぎ労働者が深セン市内に流入してきます。

仕事に就けるのは若くて元気な人ばかりですから、深センは若者ばかりの街になっています。これは異様な光景で、日中に市街を歩いても、とにかく若者(10〜20歳代)しかいないという印象です。色々な店やレストランなど、従業員で40歳以上かなと思えるような人は見たことがありません。
市内を東西に走る深南路No.46
《No46》
市内を東西に走る深南路
オフィス街の中の噴水No.47
《No47》
オフィス街の中の噴水
深センの活力を支えているのは、正にこの若者達のエネルギーと言えます。彼らは毎月1000元(約1万4千円)程度の給料で朝から晩まで一生懸命働きます。以前は日本が世界をリードしていた産業も、今は空洞化が進んでいますが、企業経営者から見ると、若くて、元気で、視力も3以上で、お金のためという強い目的意識を持って努力する彼等(彼女達)の労働力は、非常に魅力的なはずです。

同じ作業をしても、日本ではパートのおばちゃんがやっている仕事を、遥かに速い速度で、遥かに安い賃金で、遥かに長い時間続けられる中国の若者に、もう日本は勝てないと思います。

なお、日系の大手企業では、法を遵守し適正な条件で雇用しているようですが、地元企業や中小企業では、最低賃金を支払っていない会社もあり、時々ニュースで叩かれています。今年の深セン市の1ヶ月の最低賃金は、経済特区内が610元(約8千5百円)、特区外が480元(約6千7百円)ですが、それも支払わない企業もあるようです。しかし、就職難の深センでは、仕方なく働いている人も多いようです。

日本では、若者の学力低下や犯罪増加などがニュースになりますが、中国の若者はクタクタになるまで働いた上に、更に高給を求めて勉強したり、資格にチャレンジしているので、もう10年も経てば今の日本の大半の若者は、何をしても勝てないと思います。

実際に、以前は日本で設計し、日本で作った機械や道具を使って中国で生産するというやり方が主流でしたが、最近は開発・設計から全て中国で行なうという企業も増えており、日本で無ければ出来ないということが、どんどん減少しています。
7月オープンの書店No.48
《No48》
7月オープンの書店
(4階フロア―まで全部本屋さん)
ショッピング街のお城風マックNo.49
《No49》
ショッピング街のお城風マック
とはいえ、13億人の人口を抱える国ですから、深センでそこそこの企業に就職するのも結構至難の業で、厳しい競争社会というのが現実です。田舎から出てきた若者達も必死で就職先を求めるため、学歴や経歴を偽ることは日常茶飯事で、10人の面接を行なうと数人は偽物の卒業証書や資格証明書を持ってきます。経歴についても半分どころか9割は嘘と思ったほうが良く、実技試験を行なうと言っただけで半数は帰ってしまい、中には実技試験の最中にトイレに行くと言って戻ってこなかった青年もいます。

このように、深センでは田舎からカバン一つで出てきた人が社員になるため、会社の敷地内に寮があり、食堂、売店、医務室などの他に、サッカー場やバスケットコートなどのレク施設もあるのが一般的です。つまり、会社の敷地内だけで生活できるため、余分なお金を使う必要がなく、少しでも多く貯金して田舎の親に仕送りをするのです。日本では遥か昔に無くなってしまった形態です。
仕事場には、支給された作業服を着て、寮の部屋から歩いて数分という距離ですから、本当に何もお金を使う機会がありません。でも不思議なのは、ほぼ全員が給料の数ヶ月分はする携帯電話を持っています。中国でも、携帯は若者の必需品です。

深センで働く若者は、残業に対する対応も日本とは逆です。彼等(彼女達)は、残業が減ってくると集団で他の企業に転職してしまいます。とにかく、短期間に精一杯貯金するのが目的ですから、働かずにブラブラしている時間など、彼らには必要無いのです。日本では残業を嫌う若者も多いですが、夜10時までとか、休日出勤が多い仕事を彼等は求めています。

彼等(彼女達)は、深センで数年間働いて貯金ができたら、故郷に帰って行きます。貯めたお金で商売を始めたり、結婚したりして、田舎での落ち着いた生活に戻るのです。従って、管理職になる等の一部の人を除いて、3〜4年間で従業員が殆んど入れ替わります。つまり、従業員の平均年齢が何年経っても変わらないのです。これは、企業にとって、(僅かなベースアップを除き)総賃金も上昇しないという事を意味します。

深センは、企業にとっても、田舎から出てきた若者にとっても、とても魅力的な都市であり、日本にとっては脅威の都市なのです。

←【深セン便り】トップへ戻る


Copyright (C) 2004 sinsen_tayori, All rights reserved.