日本語を織りつむぐ幻燈の祠
「メルト」


「メルト」



 クリスマスパーティの翌朝、目覚めるとすぐ横に、はしゃぎ疲れて眠っている従妹の寝顔があった。つけっぱなしの暖房とこたつで上気した赤いほほ。こんな寝姿でもサラサラときれいな髪。いつもきちんとしている彼女が、そのときは唇がだらしなく半開きだった。
 彼女は高校二年生。僕は社会人五年目だった。指を折って数えると十一年の差がある。
 両親は温泉旅行に出かけていたが、僕は仕事があったせいで留守番だった。だから、お盆休み以来、従妹に遊びに来るよう誘って、二人でクリスマスパーティをしたのだ。
 従妹の話し方や表情や仕草を見ると、少しずつ大人っぽくなってきた気がする。けれど、寝顔はやっぱり子供みたいにあどけない。何となくいたずら心で人差し指を彼女の唇に近づけてみると、反射的に閉じてあむっとくわえた。
 僕の指の先っぽに彼女の生温かい歯と舌先が当たる。彼女はまだ起きていない。寝息は聞こえないが、意識はない。驚いて指を抜くと指先に微量の光沢がついた。ラメ入りのリップクリームでも塗っているのだろうか。
 続いて、試しに耳たぶをつまんでみる。んんっと声を上げて、もぞもぞと体をくねらせた。だが、それ以上の反応がない。小さな声で彼女の名前を呼ぶ。もっと小さな声でもう一度。囁くように、もう一度だけ。
 けれども彼女は起きない。だから今度は唇を重ねてみた。肌に彼女の鼻息が当たる。それでも起きない。僕はそれをいいことに、半開きの歯をゆっくりこじ開けて舌を少し押し入れてみた。すると、彼女の舌もじれったい感じで動き出し、もぞかしげに舌を押し返した。ぬるぬるした舌先を少し強引に吸ってみる。んっ、ちゅはっ……と声が漏れる。
 従妹とのキスはこれが初めてではない。会えるのが年に二度くらいなので、そんなに何度もないけれど、これが何度目かは覚えていない。
 僕は唇を重ねたまま、彼女の頭を浮かせて腕を回し、抱きしめるような体勢になった。寝起きの頭も完全に冴えてきた。
 こたつの寝汗でおでこにぺっとり貼りついた彼女の前髪をちょっと整えてきれいにする。指先でまゆげを撫で、まぶたを触り、ほっぺたを伝ってまた耳たぶへ。その間、僕たちは舌をずっとからませていた。熱くなった耳たぶをつまんで揉むと、んっ、んっ、と鼻から息が抜けてくる。僕は興奮してもっと荒々しく舌を暴れさせる。彼女の細い首筋もビクビクッと反応しているのがわかった。
 やがて、彼女も背中に手を回し、しがみつくように僕に抱きついてきた。けれど、僕の背に伸ばした両手がうまく服をつかめず、うろうろとさまよっている。とにかく耳が弱くて、手に力が入らないのだ。それがどうしようもなくいじらしくて、僕は耳をつまんだり耳の裏をいじったりし続ける。すん、すんっ……と鳴き声みたいなものが漏れ出す。
 余計に僕は止まらなくなる。本当に感じやすい子だと思う。お互いの唇は唾液まみれになり、少し休んで上唇をぺろりとすると、んんっ、んんんっ、とうなって彼女から舌を伸ばし求めてきた。僕はそれに吸いついて、舌を深くねじこみ、舌の表から裏までじっくり愛撫してあげた。彼女の両腕はしっかり僕の背中の服をつかみ、もう離れない感じになっている。
 気持ちよすぎて、頭がおかしくなりそうだった。ちょっと変な考えが起こり、唇を離した。とろんとした目を開け、僕を見つめる彼女に笑って話しかける。
「なあ、アイス要る?」
「……ほぇ?」
 僕は、彼女の手をほどいて立ち上がり、冷凍庫のバニラアイスとスプーンを持ってきた。こたつに戻るとき、彼女は寝転がったままの格好で、ぼうっとした顔で僕を見ていた。彼女のそばにまた寝転び、スプーンでバニラアイスをすくう。
「ほら、口開けて」
「うん」
 無邪気に開いた口にそっと置くようにアイスを入れる。
「はうううっ……!」
 冷たくて目を閉じた。肩をぶるっと震わせる。
「ほら、続き。口開けて」
 アイスの二口目が来ると思ったのか、素直にまた口を開けるので、僕はそこに舌を入れた。んぶっ、と一瞬驚いた声を上げたが、僕は構わずに彼女の口の中のバニラを味わった。そして、また腕を首に回し、髪の毛を撫でる。
 すると、彼女は目を閉じて背中に腕を回してきた。二人の舌でバニラが溶けていく。暖房で火照った頭にひんやりしたアイスの気持ちよさ、バニラの香り、ミルクのなめらかさ――馬鹿らしいほど甘い時間が過ぎる。
 彼女の口の中にアイスがなくなると、僕はまた唇を離した。
「おかわりする?」
 こくんと頷き、黙って口を開ける。この素直さが可愛くて仕方ない。アイスをすくい、そっと入れてあげる。
「はうっ……」
 冷たさに慣れたようで、反応は少し弱くなった。口を半開きにして、アイスをころころとなめている。僕を待っているのだろう。面白くて、僕は何もせずじっと見つめてみた。
 すると、真っ赤な顔をした彼女が目を開け、すがるように言ってきた。
「えっ――あんでみへるの?」
「ごめんごめん」
 僕はまた二人でアイスを溶かすのをした。彼女も気に入ったみたいだ。
 服の上から小さな胸に手を伸ばすと、抵抗はなかった。その勢いで上着のニットの下に手を入れ、乳首に触れると、彼女は一度目を開けた。少し困った顔をする。
 そんな表情をすると僕はもっと止まらなくなるのに。
「……するの?」
「する」
「ゴムは?」
「あるよ」
 本当はなかった。

 顔や手を洗おうと洗面所に行くと、洗濯機が低い音を立てて回っていた。おかしいな。僕は回した覚えがない。従妹はまたこたつで寝ているし、勝手に使うはずもない。
 洗濯機の時間を見ると、さっきスイッチが入ったばかりだった。タイマー予約機能などはない。
 ギクリとして振り返ったが、誰の姿も見当たらなかった。
 胸を締めつけられるような罪悪感に囚われ、居間に戻ると、従妹は裸のまま目を閉じて横になっていた。誰もいなかったか聞こうと一瞬思ったが、いるはずもない。仕方なくその場で言葉を飲みこむ。
 僕の足音を聞いて、彼女が目を覚ました。もそもそと起き上がる。服を着る様子はない。十一歳も離れた、やわらかくてなめらかな白い肌。髪は肩に少し乗るくらいの長さで、ちょうどよく似合っている。この透明な素肌の姿をずっと見ていたくなる。
「にい、どうしたの?」
「いや……なんか寂しくなった」
「ほぇ? じゃあ、あたしも」
 笑って両手を広げる。
 僕はたぶんさっき何かに呼び止められたと思うのだが、こんな天使の笑顔を見てしまうと、もう、また唇を重ね、抱き締める以外に何も考えられなかった。


(おわり)




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