日本語を織りつむぐ幻燈の祠
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「赤白」
(作) sleepdog
遠く離れて暮らす僕に、ガールフレンドが誕生日のお祝いにプレゼントを贈ってあげると言ってくれた。
「ねぇ、赤でいいわよね?」
少し声が反響し、ちゃぷっという水の音が続いた。電話ごしに軽やかな鼻歌が聞こえる。お風呂に入っているらしい。
「でも案外、白とかも悪くないかなぁ、って思うんだけど――」
ぺら。紙をめくる音がした。本でも読みながら電話しているようだ。
彼女とは去年の同窓会で思いがけず再会した。もちろん同い年だ。前に人づてで、彼女は海外に移住したとか聞いていたのだが、それはただの間違いだった。少し遅れてテーブルに着いた彼女は、はなやかに明るく髪を染め、雑誌のモデルみたいにロールして、小さい頃では想像できなかったくらい素敵な女性になっていた。
僕たちはお互い気ままな一人暮らしで、ネットが趣味というので話がはずんだ。ただ、僕は神奈川、彼女は岐阜。めったに会える距離ではない。つい長電話になってしまうから、最近では携帯電話の会社を合わせた。恋人同士で通話できる定額プランに入るためだ。
「――ねぇ、どう思う?」
ちゃぷっ。
汗ばんだ手で電話を握りしめ、人生のすばらしさをしみじみと実感する。本当に、今までの灰色人生が嘘みたいに、彼女とは馬が合った。結婚は……その手の雑誌を読んであれこれ考えてみるけれど、お互いそれを言い出さない時期が一番ハッピーなのかもしれない。
「どうかなぁ。そんなの似合わないよ」
僕は照れながら言う。もう彼女からの贈り物だったら何だって大歓迎だ。
「でも、ほら、せっかくだから。お祝いしてあげるよ」
ちょっとお姉さん的な言い方がまた気持ちいい。ちゃぷっ。その音が耳を撫でるうち、恥ずかしいことに僕は勃起していた。誰も見てやしないのに、顔が真っ赤になる。
「わたしね、がんばって手編みに挑戦したいの」
「えっ、手編み? ほんとに?」
「うん。そのために本も買ったのよ。うまく出来るか分からないけど。失敗したらごめんね」
「君なら大丈夫だよ」
「明日、毛糸を買いに行くの」
「色はやっぱり赤でいいんじゃない?」
「そうね、そうする。じゃ、期待して待っててね」
ちゃぷっ。
それから二週間後、届いた宅配便を開いてみると、僕は嬉しさのあまり電話に飛びついた。彼女の達筆なメッセージカードとともに、手編みの真っ赤なちゃんちゃんこが入っていた。――『きっと貴方のきれいな白髪に似合うわよ。写メール送ってね』
(おわり)
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