バイタクについて結構色々と怖いことがあった。
私が声を掛けられたバイタクに乗る前にタバコを吸ってもいいかと聞くとOKだ。
と言う。一応左手には簡易灰皿を持っていた。
バイタクがスタートし、一服したぐらいに何を思ったのか私を乗せたまま
ガソリンスタンドに突入した。当然、私は慌ててタバコの火を灰皿で消した。
引火したらどうすんだ!と文句を言いたかったが私自身バイクに乗りながら、
タバコを吸っていたという引け目もあり、
何も言わずに済ませたが彼らの危険に対する見解が
私達とはかなりのずれがあることを痛烈にお思い知らされた瞬間だった。
しかもこれだけではないのだ。
シェムリアップでは使用したバイタクは比較的安全運転だったが、
プノンペンでは酷かった。
交通ルールなど存在していないようだった。
信号が赤なのに私を乗せたまま止まろうともせず交差点に突入するは、歩道は走るは、
もっとも背筋が凍りついたのは逆行された時だった。
少しならまだしも結構な距離を走っていた。前方からバイクや車、
トラックまで向かってくる。当然ホーンを鳴らされっぱなしだった。
マッドマックスじゃあるまいし、肩をたたき止めろ!と叫ぶ。するとドライバーが「なんだ?」
と振り返る。さらに体が硬直した。振り返るな!前見ろ!前!と指を指す。
その後すぐに止めてくれたので会話帳で「あぶない!」を連呼するも一言、
・・「ノープロブレム!」と堂々と言われた。
これ以上このバイタクに命を預ける気にはなれず、
そのバイタクとはそこでお別れして別のバイタクを捕まえたがまさかこいつも・・・と
警戒していたがまぁまともな方だったのホッとした。
レンタルバイクにしたほうが安全かも・・と考え出していた。
でもパスポートを預けるのは危険だ。
とガイドブックに書いてあるし、デポジットの余裕も無いし万が一だまされたら帰れない。
・・あきらめるしかなかった。
日本を発つ前、
ネットでカンボジアに関する色々な情報を集めたが中でもよく登場するのが
バイタクの善し悪しに関してだった。内容は大半が不評であって評判はかなり悪かった。
ボッたくる、だます、強盗に変身する、怪しげな所に案内する、などガイドブックにも
悪評が載っていた。なので私はかなりバイタクには警戒心を強めていた。
出発前に色々シュミレーションしてこう言えばああ返そう、ああ言えばこう返そうと。
ボッたくる、だますに関しては事前に相場や位置関係の情報を集めていたのでボッてきても金額の交渉はスムーズだった。
そして誘いにのって怪しげなことをしなければ脅されることも無い。
実際にバイタクの印象は人相が悪いのが多い。
偏見ではあるが見てくれがすでに怪しいのが多い。
帽子にサングラス、中にはマスクまでしている。
現地では日差しはキツイし砂埃もすごいので理にかなっているのだろうけど
日本的には思いっきり怪しかった。この時点で日本的には既に強盗のスタイルなのだ。
プノンペンでのボート乗り場のバイタクの集団を見たときは柵の向こうのバイタクが
映画ゾンビのワンシーンであるエレベータの扉が開いたときにいっせいに襲い掛かってくる
ゾンビの姿とダブってしまった。
ただ、みんながみんな外見は悪くとも悪い人ではないことは言っておきたい。
よい人も大勢いた。シュムリでは初日は全然声を掛けられず、拍子抜けしていたが、
それ以外の日はどの地でも宿や店などから出るとすぐに呼び止められどこへ行くんだ?
乗らないか?女はどうだ?草(大麻)はどうだ?銃を撃たないか?と声をかけられる。
特にプノンペンは酷かった。全て却下するもしつこくついて来る。
こんなバイタクは相手にはしなかったが、中には乗ってから女はいらないか?
草はいらないか?と言ってきたり、
交渉したにも関わらず、降りてからお金を多く要求したりする者もいた。
一番怖かったのはバイクを降りて約束のお金を渡そうとしたところ、「足りない、もっとだ。」
と言われたことがある。わたしが「No!約束は2000リエルだ。」
と突っぱねるとそのバイタクは私に何やらまくし立ててくる。
私はマズイなこれは。と思ったがあくまで「No!」で通した。
すると周辺にいた見てくれの怖いバイタクが集まりだした。
ますますマズイ状況になったがここでお金を渡したら今後、
日本人はみんなせびられることになる。
3〜4人のバイタクにまくし立てられるも初心者である事がばれぬようにと思って
つい「ファックユー!」と堂々と顔を見ながら言った。
・・言ってしまった・・テレビや映画でしか聞いたことが無いのに
ましてや自分が言う事になるとは想像もしていなかった。
まだまくし立ててくるのでお金を丸めて大声でタライナッハ(高い!)ノーマネー!と
言ってお金を投げつけた。お金をバイタクが拾いに行く。
そして私はすたすたとその場を立ち去った。背後から撃たれたら・・考えると怖い。
そしてすぐ前にあったコンビニへ入った。
ホッとした瞬間だった。本当は怖くて仕方なかった。いつ銃がでてくるかビクビクしていた。
喉が異常に渇いていたので水を買って一気に飲み干す。
気分も落ち着いてきたので恐る恐る外を覗く。さっきの連中はもう居なかった。
急いで宿に戻りたかったが、復讐されるのが怖かったのでさっきの連中に宿を
知られないようにと回り道をしてから宿に帰った。私は結構小心者だった。
その日は郊外の農村でも見に行こうと計画していたが信用できるドライバーのMr.リョンは
今日は予定があって案内できないことになっていた。私はその近辺の地図を入手し、
バイタクを捕まえ地図を見せ、農村が見たいと交渉する。「OK.任せろ。」
と言うバイタクに案内してもらうことにした。
ガイドブックにも地図が載ってないのでこの地図だけが頼りだった。南へしばらく走ると
田園風景が広がり始めた。私はワクワクしながらバイクの後ろで地図を見ていた。
どんな風景かな?などと遠足気分だったのが良くなかった。
道がでこぼこでバイクもゆれる。
そんな道がしばらく続き、風も強く吹いていた。
そんな時、バイクが大きな穴ぼこを通過した際、私は思わず地図を離してしまった。
すぐに止めろと言うがなかなか意思の疎通が出来ず、すぐには止まってくれなかった。
やっと止まり、後ろを振り返るも地図がどこに飛んでいったのかわからない。
周りの草むらは地雷が怖くて入れない。バイタクはニヤニヤしながら「ノープロブレム!」を
言い続けている。どうしようか・・
戻るか、進むか、地図が無いと距離感も時間の感覚もわからない。
この時、急にあることを思い出した。・・バイタクが強盗に変身することが多々ある。
・・まずいよな。このバイタク、私が困ったことになっているのを認識している。
しかもあたりには人影も無いしカメラの機材まで背負っている。彼らにとっては高級品だ。
このまま拉致されて殺されるかも・・急に不安が広がった。
どうする?私はバイタクに木陰で用を足すゼスチャーをして木の陰に入り、
貴重品を全て妻が作ってくれた上着の隠しポケットに、おとりの20ドルほどをズボンの
ポケットに入れ、サバイバルナイフを上着のポケットに入れてそして腹をくくった。
バイタクのところに戻り、
内心はビビッていたが平気なふりをしながら「UP TO YOU」と言った。
バイタクは「OK!乗れ!」と言ってる。まぁなんとかなるか。
と気休めを思いながらしばらく走る。
何箇所か見て周り、写真も撮ったので市内へ戻ってくれ。と言う。
「OK」とバイタクは言ったがここからが怖かった。
本当に市内へ向かっているんだろうか?
自分が今どのあたりにいるのか見当もつかない。
頼むから変な気を起こすなよ・・と祈る思いでバイクに跨っていた。
結局、何事も起こらずホッとしたがほんとに怖かった。
おそらくこのバイタクにはそんな気はさらさら無かったと思うが私は事前情報を
集めすぎたせいもあって完全に人間不信(バイタク不信)になっていた。
あまり情報過多になってもいけないし、気を抜くのも良くない。何を基準にするかが
初心者の私には難しいラインだった。
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