翌日、お世話になった宿の人たちにお礼と別れを告げて朝発のプノンペン行きの
バスに乗り込んだ。ここでの出来事が私の旅をさらに有意義なものにしてくれた。
プノンペンに行ったらMr.リョンにお礼を言わなきゃな…
しばらく走りだんだん交通量が増えてくる。
もうすぐプノンペンだ。バスは事故を起こすことなく到着した。
群がってくるバイタクの1人を捕まえ、宿に向かう。問題なく泊まることが出来た。
宿を出てMr.リョンに会いにいくことにし、彼の常駐先へ向かった。
ホテルの警備員も私のことを覚えていてくれた。
Mr.リョンを呼んでくるので暫く待ってるよう言われる。
暫くするとMr.リョンではなく彼の友人2人がやってきて「リョンは仕事で暫く戻れない。」
と教えてくれた。また後ほどにと思って帰ろうとすると「暫くだから待ってろ。」
と言われバイクに3人乗りしてコーヒーを飲みに茶店に連れて行かれた。
この2人も私のことを覚えてくれていた。
甘いコーヒーではなく、苦味の利いたコーヒーだった。
暫く会話帳を頼りに色々な話をし、色々な事を教えたり、教えてもらったりしながら
時間は過ぎていく。そのうち友人の携帯電話が鳴った。
どうやらMr.リョンが戻ってくるようだ。
茶店を出るとき彼らは私の飲んだ分まで払ってくれた。
彼らもまた私の大切なカンボジアの友人であった。
Mr.リョンに会い、シアヌークでの出来事を話、あなたのおかげでくつろぐことが出来た。
ありがとう。とお礼を言った。
そして明日の予定を聞いてみると彼は仕事が入っていた。
仕方がないので明日は自分で回ることにしてあさってからのドライバーをお願いする事にした。その日は市内を散策し観光に終始して、夕方は遊園地へ行ってみた。
遊園地といっても日本のようなものではなくアミューズメントパークのようなものだった。
ここでは比較的に裕福層の子供達が多い。その傍らには物売りの子供達。
かたや楽しげに乗り物にのってはしゃぐ子供達、一方で物売りに一生懸命で
物憂げな目をした子供達。この格差の違いを見せられると、やはり気分は沈んでしまう。
あたりも暗くなってきたしそこにいても楽しくなくなってきたので宿へと帰った。
翌日、宿を出てしつこいバイタクを振り払い暫く歩く。
行き先はもう決めてあったがしばらく歩いてからバイタクに乗ることにした。
バイタクを拾い行き先をトゥールコックストリートと告げる。
バイタクは「レディか?」と聞いてくる。
違うといっても信用してくれないだろうからそうだ。と答えた。
でもしばらくの間、「70stはだめだ。もっと他にいいところがある。
俺に任せろ!」と営業トークがしつこかった。
適当に聞き流していると諦めたのか何も言わなくなった。
市内を眺め、銃撲滅モニュメントが見えてきた。たしかこのすぐ近所だったはず。
そう記憶していた。バイタクに止めるよう指示する。
ここからは歩いてストリートを見ることにしていた。
長い直線道路が目の前に続いていて、その道筋がトゥールコックストリート通称70stだ。
ネット上でも有名な売春街であり、スラム街でもある。
かなり警戒モードになっていくのが自分でもわかる。
たった一人でこんなところを歩いているのだ。周りには日本人はおろかファランもいない。
悪党がいたら絶好のカモネギ状態だった。
ただ、以前に比べると治安もましになっているとの事だった。
道なりに歩いていると民家の前にいる女性に声を掛けられる。
日本語で「社長さん!5ダラー!」を連呼している。暫くそんな声を何度か聞き、
ストリートを半分くらい歩いたぐらいでおばちゃんに声を掛けられる。
ここも他と同じで売春宿ではあるが気のよさそうな人だったので少し話を
してみることにするが、売春の斡旋に一生懸命でなかなか普通の話が出来ない。
そのおばちゃんが自慢げに私に売り込んでくる。
そこでは自分の娘を売っていた。
要するに家族でやっている売春宿だ。自分の娘を売る。こんなことがここでは日常だった。
他にも多くの家族経営の売春宿があった。やるせない気分になって、また歩き出す。
ここの女性は白い化粧をしている者が多い。
理由は病気を隠す為だ。と事前の情報にあった。
この売春街の女性の半数以上はエイズや何らかの病気を持っているという。
カンボジアという国は世界でも有数のエイズ蔓延国だとある。
地元の人達も避けるという別名エイズストリート。それがこのストリートの姿だ。
病気になってしまってもまともに治療を受ける事はこの国では出来ない。
死を待つのみになる。
それでも売春を止めないのは病気というものに知識がないためか生活の為にかは解らない。お金を稼ぐにはこの方法が手っ取り早いからだろうと思う。
さらに歩いていくと線路に出てくる。線路沿いに歩いてみた。
ここにも民家が沢山あるがほとんどはほったて小屋のような家ばかりだった。
線路脇や線路上で子供達が沢山遊んでいる。何人かの住人に声を掛け写真を撮らせてもらった。たとえスラム街であっても子供はみんな無邪気だった。
ファインダーを覗きながらこの少年はいつかギャングになってしまうのかな?
この少女はいつか娼婦になるんだろうか?そして病気になって死んでいくのか?
そんなことばかりが頭をよぎる。
暫くその線路上で写真を撮ったり休憩したりして時間が過ぎていく。
カメラのフィルムが無くなり最後のフィルムを装填する。
日本から50本程持ってきたがもう最後のフィルムになっていた。
フィルムが無くなるということは旅も終わることを意味していた。
もう旅も終わりか・・
何百枚のフィルムに収められているであろう写真の半数はこんな地獄のような光景が
写っている。そう考えるとむしょうに日本へ帰りたくなった。
今まで日本で綺麗な風景ばかりを写真に撮ってきた私には耐えがたいことだった。
私はその線路から逃げるようにストリートに戻り、後ろを振り返ってみた。
来たときと同じ、なにもない風景、何事もなかったように遊ぶ子供達。
線路は遥か向こうに伸びている。ここの人達にはいつもの日常だった。
どこまでが現実でどこまでが幻かわからなくなる。しかし、全ては現実だった。
あともう少し・・
気を取り直して私はバイタクに乗るのをやめ歩いて宿に帰ることにした。
この国に何しにきたんだろう?答えを見つけることはまだ出来なかった。
出来るかぎり見れるものは見るんだ。そう自分に言い聞かせてストリートを歩く。
相変わらず女性達が客引きをしている。白い化粧をしている女性も多かった。
何人かの人達と何箇所かで少し話をしながら銃撲滅モニュメントに戻ってきた。
ここでは後ろを振り向くことはなかった。
ここ以外の他のスラム街にもMr.リョンに案内してもらったがどこも同じだった。
これで私が旅に出る前に計画していた最低限見ようと思っていた所は全て見終わった。
この国の光と闇、良いところ、悪いところ。ほんの少しだけれど見ることが出来た。
宿までの道にはこの国のいつもの光景が続いていた。
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