定電圧電源(昇圧型DCDCコンバータ)
今回は5V入力で205−210V程度を出力する昇圧型のレギュレータを作ろうと思い立ちました。
理由は2009年の関西ハムフェスティバルのジャンク市でニキシー管をゲットしたためです。ニキシー管と言えば、中学生か高校生の時分にはお肉屋さんなどの秤がニキシー管のデジタル表示だったりして、懐かしい感じがしていたのでヤフオクなどでも少し気になっていました。
これを点灯させるには約200VのDC電源が必要です。バラツキを考えてむらの少ない発光をさせようとすれば上記のように205−210V程度が望ましいのではないかと考えました。
また入力電圧を5Vとしたのは、ニキシー管を駆動するのはデジタル回路だからです。3.3V入力とかにすると昇圧の倍率が高すぎて大変です。その意味で5Vは現行のポピュラーなデジタルのうちで最も電圧が高いので手を打つならこの辺かな、と思ったからです。

ニキシー管(GR-116)
関ハムではこの他にGR-111Paも10数本入手しました。


[目標仕様]
入力は約5V1A未満、出力は205V〜210V/12mA〜15mAといったところです。
目標としては、5V/1Aのスイッチングレギュレータを入力電源として、ワンチップMCUを用いた周波数カウンタでも構成して、ニキシー管で表示することにしましょう。(あるいはOVAの戦闘妖精雪風に登場する、バンシーを撃ち落とすミサイルの着弾までのタイマのようなものでもOK‥分かる人はオタク)

[設計]
正直なところ、当方はスイッチングレギュレータに関して初心者なので実際には概略設計→詳細設計→製作→調整→完成とは行きませんでした。
実際、概略設計→詳細設計→製作→評価→あれれ?→あっそういうことなんだ!→概略設計やり直し、のループを数度回してしまいました。
設計の説明では失敗の設計をくどくど述べても仕方ないので、後出しじゃんけんのようですが書ける範囲で要領良く説明することにします。
最終的には以下のようなパーツ構成になりました。
・レギュレータ用IC‥リニアテクノロジー社 LT1170 (千石電商で購入)
・インダクタ‥SN-12-500 (100uH/5Aのトロイダルコア--あまり設計しないうちに購入してしまった) ← 本当は巻きやすいEIコアのようなタイプが望ましい(理由は後述)
・ファーストリカバリダイオード‥ER504 (秋月電子で10本まとめ買い)
・高耐圧ケミコン‥10uF/200V (3本)、1uF/250V (1本)
・ツェナーダイオード‥RD39E (1本)
・その他CR類

−設計方針−
まず、出力電圧Vo=+210V、出力電流Io=15mAで、入力電圧Vin=5Vですから、効率が100%としても入力電流Iinは
Iin=Vo×Io/Vin=210×15/5=630mA となります。仮に効率が70%とすると、入力電流は 630/0.7=900mA になります。
2端子のインダクタを用いてn倍昇圧整流もしないとすれば、インダクタに常に電流が流れるような設定(連続モード)にした場合、スイッチトランジスタの On/(On+Off) 比すなわちデューティDutyは
Duty=(Vo-Vin)/Vo=(210-5)/210=97.6% となります。
このとき、1周期のうち2.4%の期間で昇圧されたインダクタ出力から平均630mAの電流を流しきらなくてはなりません。インダクタに流れる電流の変動が大きい場合、最小電流が0であれば、最大電流は平均の2倍流す必要があるでしょう。
DCDCコンバータ用ICは、フィードバックによりデューティを変化させて出力電圧を一定に保つようになっているPWM方式が主流になっています。
スイッチング周波数やデューティにはおよその範囲というものがあり、デューティの可変範囲の上限は、よほどの製品でも知る限り90%強が限界です。
インダクタに間欠的に電流が流れるような設定(断続モード)にすれば、デューティは小さくても済むようになりますが、インダクタのピーク電流は平均電流よりずいぶん大きくなります。コイルもトランジスタも、このピーク電流に耐えねばならず、ピーク電流によるIRドロップの損失も覚悟しなくてはなりません。
ですので、連続モードでデューティがあまり大きくならないような範囲で設計します。
そのためにはインダクタをタップ付きにするか、整流をn倍電圧整流にする必要があります。今回は両方を併用しました。
インダクタの巻き数を約4倍増やし、さらに3倍電圧整流としました。1:NにするとデューティDutyは
Duty=(Vo-Vin)/{Vo+N(Vin)}=(70-5)/(70+3×5)=76.5% となります。実際にはスイッチングトランジスタのVCEやダイオードのVF等の電圧降下があるのでデューティはもっと大きくなります。なお、ここで70は3倍昇圧をする前の出力電圧 210/3=70V です。
秋月電子等で安価に入手できるNJM2360ADですとデューティが最大70%程度ですので、電源〜タップまでとタップからダイオードまでの巻き数比なり、整流時の昇圧比をもっと大きくする必要があります。その点、今回使用したLT1170ではデューティが最大85%以上まで使用できるのでセーフです。(安上がりを狙う人は整流時の昇圧比を稼ぐなどしてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。)
結局まとめると次のことを決めました。
・スイッチングレギュレータ用ICとしてLT1170を用いる
・タップを用い、その巻き数比は約1:4とする
・整流は3倍昇圧とする

−設計その1−
実際にスイッチングレギュレータ用ICの選択するときはICのスペック比較をしたり入手容易性を考慮して決めます。
設計をさらに進める際、LT1170のデータシートであるj117012ff.pdfと、その中で参照することとされているアプリケーションノート日本語版(AN19)jan19.pdfをダウンロードしておきます。今回は最終的に絶対最大定格と電気的特性をデータシートから読み取り、なるべくアプリケーションノートにしたがって設計していくことになりました。
AN19のp.43に電圧ブースト昇圧コンバータの説明があります。
タップの効果は次式のとおりピーク・スイッチ電圧を低下させることだ、とあります。
(Vo-Vin){N/(1+N)}
Nを大きな値にすると、最大スイッチ電圧を超えないで高出力電圧を安定化できると記されています。しかし、上式はNに大きい数値を入れるほど大きな値になり、逆にN=0とすると0Vになってしまいます。 N=0 の時のピーク・スイッチ電圧からの低下量が上式だということでしょうか?良くわかりません。
タップ比率については次の式が記されています。
N(min)=(Vo-Vm+Vsnub)/(Vm-Vin-Vsnub) (最大Vinを使用) ---(110)
以下、次のような式が記載されています。
Duty=(Vo-Vin)/{(Vo+N(Vin)} ---(111)
Io(max)=[{Ip-(ΔI/2)}Vin]/{Vo+N(Vin)} ---(112)
 (上式の右辺の分子はアプリケーションノートでは (Ip)(ΔI/2)Vin となっていましたが当方は記述のポカミスではないかと思っています。責任は持てませんが‥)
Ipri=[(Io){Vo+N(Vin)}]/Vin --(113)
スイッチ・オン期間中の平均値。ピーク負荷の場合、ΔI/2を加算する。
Lpri={(Vin)(Vo-Vin)}/[(ΔI)(f){Vo+N(Vin)}] --(114)
ΔI=Ipri の20〜40%
Vp-p=[(Io)(ESR){Vo+N(Vin)}]/{(N+1)Vin} --(115)

Duty:デューティサイクル
Vsnub:スナバ電圧
Vm:最大許容スイッチ電圧
Ip:最大許容LT1170スイッチ電流
ΔI:ピークツーピーク1次電流リップル
ESR:Cの等価直列抵抗
Vp-p:ピークツーピーク出力電圧リップル

N(min)は結局110式より、111式でDutyが出力可能な範囲に入っているかどうかで決まるようでした。なお、111式ではVinが最小側でDutyが大きくなって厳しくなります。また、Vinとなっていますが、Ipが大きくなるほどスイッチトランジスタのVCEも大きくなるので、Dutyが大きくなると、実際は上式以上に厳しくなると思います。
真のVinからVCEや配線各部のIRドロップを差し引いた電圧を悲観的に見積もって111式のVinと考え、4VとすればN=4のとき、Dutyは
Duty=(70-4)/(70+4・4)=77%
となります。これは85%を確実に下回り、80%程度以下に収めたいとする常識的な範囲にも入って好ましいと思います。
以下、3倍圧整流については少し先送りし、210/3=70V、15×3=45mA出力のレギュレータとして考えていきます。
次にスイッチオン時の平均電流は、出力電流が45mAのとき113式から
Ipri=[0.045{70+4(4)}]/4=0.97A となります。
ΔI=(0.4)IpriとすればΔI=(0.4)0.97=0.39A
電源からタップまでのインダクタンスLpriは
Lpri=5(70-5)/[(0.39)(85000){70+4(5)}]=109uH となります。発振周波数をminの85kHzでなく、typ値である100kHzとすれば93uHとなります。この辺りはマージンの取り方で可否が分かれるところで、ΔIをIpriの20%とすればインダクタンスは2倍必要になります。ただ、最大負荷時に連続動作モードに入っているためにはΔI<(2)Ipri であれば良く、これに対しては余裕があるとも考えられます。ただ、ギリギリの設計を行う場合は、インダクタ値にも誤差があり、電流を流すとインダクタ値が減少することを考慮しておく必要があります。
スイッチオン時のピーク電流は Ipri+(ΔI/2)<1.2A であり、Duty=80%時の規格である4Aより十分低く、問題ありません。
今回、リップル電圧はあまり気にしていませんが、1個のCのESRは10uFのCに85kHzと考えると、1/{2π(85E3)(10E-6)}=0.2Ω となります。これを115式に代入すると
Vp-p=[(0.045)(0.2){70+4(4)}]/{(4+1)(4)}=0.04V となります。
実際に3倍圧整流すると、リップルも単純に3倍すれば良いかどうか知りませんが1V以下のリップルなど、ニキシー管の点灯に限って言えば全く気にする必要がないのでOKです。
結局、設計方針の検証と追認になりました。

−設計その2−
設計の残ったところは負帰還回路、スナバ回路、および位相補償回路になります。
前2者はAN19のp.32からの記述を参照すれば設計できます。
負帰還回路について
FB端子−GND端子間の抵抗値は通常1.24kΩとされています。これはAN19に記載されていますし、LT1170のデータシートの例でもそのようになっています。基準電圧=1.244Vに対して1.24kΩですから、出力に対して約1mAの負荷電流となり、とりあえずOKと考えられます。出力−FB端子間は約200V/1mA=200kΩとなります。1mA×200V=200mWですので1/4W型の抵抗ではやや余裕が少ないと思い、100kΩの抵抗を2本直列にすることにしました。出力電圧は半固定抵抗で調整できるようにしました。
スナバ回路について
スナバ回路は当初CとRの直列回路にしていましたが、位相補償の評価などを行ううちに確実なツェナーダイオードによる回路に変更することにしました。電力的にはあまり問題にならないようでしたので1/2W型の普通の小さいものにしています。
Vzener=Vm-Vin ここでVinは最大値
また、Vmは最大定格である65Vに対して5Vの余裕をみて60Vにするとのことです。Vinの最大値は5.5Vですから、44.5Vとなります。しかし、ツェナー電圧が約39VであるRD39Eの方が入手しやすかったのでRD39Eにしました。また、当初RとCの直列回路を使用していた名残でR=12kΩがツェナーダイオードと並列に入っています。外すのが面倒だったのですが、ツェナーダイオードが導通するときに約200mW分はこの抵抗が負担することになり、ツェナーダイオードの消費電力に余裕が大きくなると思ってこのままにしています。さらに実際のところ、ピークでは40数Vの電圧となるようで、これで良かったようです。
位相補償回路
位相補償についてはAN19のp.48から述べられています。結局のところ、実験して決めるようにとのことです。

−試作−
以上の設計に基づいて試作を行います。
トロイダルのインダクタにポリウレタン線を数100回も巻くのは大変でした。最初から巻いてある1次巻き線より細くて良い(細くないと多分巻ききれない)のですが、巻いているうちにどうしてもキンクができそうになり、大変です。ねじらないようにしても、線を引っ張る力を緩めた時にキンクができそうになります。1次巻き線と追加の巻き線の結合はなるべく密になるようにバイファイラ巻き等にするのが望ましいとのことですが、とてもやっていられません。結局、全体に均一に巻くことさえうまくできませんでした。密に結合させないと、リーク・インダクタンスというもので1次側に不要の高電圧が発生するそうです。この高電圧から素子を守るためにもスナバ回路が必要になります。リーク・インダクタンスは適切に製作すれば1次インダクタンスの1%未満になるとのことですが、今回は数%に達しているようです。当初、スナバ回路を抵抗とキャパシタで作成しましたが、負荷を重くするに従ってピーク電圧が高くなってきます。規定の電流まで流すかなり手前で、ピーク電圧が60Vを超えそうになりました。2回ほど定数を変更しましたが、試行錯誤でスナバ回路の定数を決めるのが邪魔くさくなりました。そのため通販でツェナーダイオードを追加購入しました。
FB端子に接続されている12kΩの抵抗RFBは、当初500ΩトリマとVout端子間にキャパシタを挿入することを考えており、その際FB端子に過大なストレスが印加されるのを防ぐために挿入しました。(AN19 p.50参照)
位相補償回路(2)
負帰還の定数設定について、AN19 p.48-50によるとVc端子−GND間にR-C直列回路を挿入し、考えられるVin電圧、Vout電圧、負荷の条件で、負荷にC結合で50Hz程度の方形波を入力し、出力電圧の変動が小さく、安定している定数を選ぶと良いということです。


方形波発生回路図

上図が、あり合わせのパーツで作った方形波発生回路です。約5Vp-pの出力がNJM386の(5)ピンから出力されるので、電流としては 5V/0.6kΩ=8.3mAp-p の負荷変動を生成することになります。ループの安定性を示すのはレギュレータ出力波形の形状であり、振幅は特に重要でないとのことなので、直列抵抗は1.2kΩでも良いようです。
下のオシロスコープ波形はこの方形波発生回路をDCDCコンバータの出力に接続したときのものです。上が、DCDCコンバータの出力にf=100kHzの2ポールLPF(AN19 p.49 図32.ループ安定性テスト 参照)を通した電圧波形、下が方形波発生回路のNJM386 (5)ピン出力の電圧波形です。


出力電圧波形(2ポールフィルタ挿入後)と方形波出力波形(40Hz弱になっています)Y軸は5V/div


方形波発生回路写真

しかし結局、最適値は負荷抵抗を変化させて出力電圧の変動をみるやり方で決めました。また、Vc端子に接続するR値、C値の選択では良い応答が得られず、Vout−500Ωトリマ間のCをやめ、代わりにR-C直列回路にしたところ、応答がずっと改善されました。それでも無負荷時はVinが高めの時に不安定となったので、200kΩの負荷を追加しています。しかし、実際のところ、本機に使用する予定のVin用電源は5V弱の出力電圧であり、ニキシー管も全消灯にはしないので200kΩの追加負荷抵抗は今回不要のはずです。
ここまでゴチャゴチャ述べましたが、次の回路が調整後のDCDCコンバータの全回路図です。


調整後のDCDCコンバータ回路図

位相補償を行ったのち、ニキシー管を点灯させてみました。


DCDCコンバータを使って2010.01.01と点灯させたニキシー管

本来はダイナミック点灯させるつもりですが、2010年の正月対応として、とにかくそれらしい表示だけを優先しました。
テーブルタップに差し込んであるのは市販の5V/2A仕様のスイッチングレギュレータです。その出力をDCDCコンバータに入力しています。
GR-116の規格に従い、スタティック点灯方式で+180Vを加え(これはDCDCコンバータの500Ωのトリマ調整で合わせることが可能)、各ニキシー管の陽極側にはそれぞれ15kΩの抵抗を直列に入れます。
小数点は電流が多すぎるので小数点の端子とGND間に82kΩの抵抗を入れました。定格では直流点灯時、各桁3mA(typ)の電流となり、8桁では24mAです。小数点の表示があるので、24mAよりやや多めと考えて良いでしょう。これだけ出力を取ると、入力電流も1Aを超えます。今さらですが、目標スペックに誤りがあったかもしれません。あるいはギリギリセーフかもしれません。本当に表示させたい桁数は8桁もありませんし、現在より多少暗くてもOKです。
2009年末に雑誌:エレキジャックを立ち読みして、nMOSパワーFET、150uHのインダクタ、ダイオード、出力コンデンサ各1個の道具立てで、ワンチップマイコンのPWM制御で一気にニキシー管を点灯させている記事を見かけ、シンプルな構成に多少めげました。しかし、デューティ比はかなり厳しい状況で使用しているだろうと思います。また、ニキシー管のダイナミックドライブで陽極側のスイッチにフォトカプラを使うのは賢いやり方だと思いましたが、応答速度には気をつける必要があるでしょう。当方は単純にやや高耐圧のNPNトランジスタとPNPトランジスタを用いるつもりですが、ここも部品点数の点ではフォトカプラに軍配が上がります。
当方の考えている回路と応答時間を測定した結果を示します。測定点は下記回路図の2.2kΩすぐ左側がスイッチ入力、2SA1924のコレクタがスイッチ出力です。


陽極側用スイッチ回路

スイッチ立ち上がり波形 (20us/div)
上:スイッチ出力(50V/div)、下スイッチ入力(2V/div)
スイッチ立ち下り波形 (20us/div)
上:スイッチ出力(50V/div)、下:スイッチ入力(2V/div)
陽極側用スイッチ回路の測定波形


測定時の様子(下の基板がスイッチの試作回路、右の薄青色の抵抗のタップ位置変更で負荷電流を変えられます。)

測定結果から、ON後の立ち上がりは非常に速いのですが、OFF後本当にOFFとなるまで100us近くかかることが分かります。これは負荷抵抗を変えてもあまり変わりませんでした。ダイナミック点灯時にはこのことを考慮しておく必要があります。
(定電圧電源の項、終わり)

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