5-1、地震、最初の1分間

5-1-1、青信号から赤信号へ

地盤を観測する体積歪計のひとつに異常な数値が出ると青信号が点灯し、二つ目の体積歪計が異常なデータを示すと、黄信号になり、地震が始まりつつあるとして緊張は一挙に高まります。判定会が招集され、同時に防災関係は非常体制の準備に入ります。そして、三つ以上の体積歪計のデータが異常を示すと赤信号となり、警戒宣言が発令されます。(第四章警戒宣言)

警戒宣言が出たあと、あまり時間をおかないで地震が起きる可能性が高いと思われます。ニ、三時間後かもしれませんし、一日くらい後かもしれません。今まで経験が無いので良くわからないのです。

名古屋の近郊で感じる地震は、最初は下から突き上げるような縦揺れが、これまでにない長い時間ガタガタと十数秒ゆれ、次に大きな横揺れがゆさゆさと激しく揺さぶります。この揺さぶりは1分か2分,地盤や建物によってはそれ以上続くかもしれません。自動車はハンドルをとられ、一部の道路にはひび割れや陥没が出来るかもしれません。固定していないテレビや、すわりの悪いたんすは倒れ、ほとんどの人が非常な恐怖を感じることになるでしょう。このような地震だったら東海地震が起きたことが判ります。

5-1-2、最初の1分間が分かれ目

 阪神大震災のときの地震は、わずか十数秒の地震でした。

巨大地震をおこす海溝型地震は、阪神淡路大震災の時の直下型地震より揺れの時間が長くなりますが、それでも1分から2分程度です。特に強い地震は1分程度続くと予測されています。高層ビルや地盤のやわらかいところではもう少し長いかもしれません。

東海地震は地震の規模が大きく、地震の震源域という破壊される地殻の部分も大きいので、破壊が広がるのに時間がかかり、1分間またはそれ以上の時間、強い地震が続くと考えられています。

 地形や、建物の構造などの関係により、さらに1分間程度長くなることも予測されるので、強い地震が1分から2分の間続くと予測されているのです。

 この最初の1、2分間を生き延びることができれば、かなり安心です。

 地震がおきたらどうするか、いろんな場面でどうしたらよいか、あらかじめ考えておくことは地震による災害を出来るだけ少なくするために有効なので、いろんな場合について自治体や研究機関がアドバイスをしていることを参考にまとめてみます。

5-1-3、まず自分の身を守る

 とにかくまず堅固な倒れてこない家具の下、机などの下に隠れ、まずは我が身を守ることが大切です。

夜,寝ているときに地震が起きたら

阪神淡路大震災の時、ほとんどの人はいきなり持ち上げられるような衝撃で、ほとんど何もなすすべが無かったようです。
 寝ているときに襲われた場合は、じっとしているしかありません。まず火を消すとか、出口を確保するとかは、地震の程度によって余裕のある人はできますが、激しい振動のときに動き回ろうとすることはかえって危険です。

机やローチェストのような背のひくい家具は壁や柱が倒れてきたときに防護してくれます。背の高い家具が倒れてきても背の低い頑丈な家具が守ってくれます。あらかじめ家具の配置や固定することが大切です。
 そんなところにとっさに隠れられれば非常に運がいい方で、ほとんどの人はその場で身を固くするしかありません。

県立芦屋高校の生徒の手による震災の記録によると、人生で最も肉体的に活動的な高校生ですら、いきなり突き上げるような衝撃にほとんど何もできなかったようです。

「県立芦屋高校震災の記録「復興をめざして」阪神淡路大震災 生徒記録集1995年夏より」

「………すっかり寝ている中、下からどんと突き上げるような衝撃を感じ、次の瞬間、一気に横に揺れ、私はベッドの上で座った状態にあった。そして私は揺れている家具や机をじっとみつめて、揺れが収まるのをまっていた。………2年T」

「………突然、激しい揺れが起こり、私はその揺れに起こされた。地震の激しい揺れをベッドで感じながら、「何でこの神戸に地震が起きているの」と心の中で叫んでいた。この地方は、地震が滅多にないし、その心配はないという間違った考えを持っていたからである。幸いにも私の寝ているベッドの周りには何も倒れてくるものがなかったので安全だったが、本当にすごく怖くて、父の「じっとしておけ」という声を聞きながら頭まで布団をかぶってうずくまっていた。………2年S」

「………その夜は寒くて1階のこたつで宿題をして、そのまま寝てしまった。そうして、こたつで寝ていると、凄じい爆発音のようなもので目が覚めた。何か爆弾でも落ちたのだと思った。揺れている間、核戦争のことが頭をよぎった。世界が終わって、もう死ぬのかと本当にその時は思った。すぐに、布団をかぶると、その上に次々と本が落ちてきた。食器棚の皿が落ちてきて割れる音も聞いた。揺れが収まり、本の重みで動けなかった。………2年H」

「………激しい揺れと次々に落ちてくる本で目が覚めた。すぐに地震だと分ったが、今までに体験したことのないような激しい揺れに私はどうすることもできず、ただ布団を頭からかぶって耐えていた。そして、その時、私はマンションの揺れる音を聞いた。ぎゅるっ…ぎゅるっ…ごきごきっ…。それはまた、悲鳴のようでもあり、私の恐怖心を一層かきたてる。埋立て地に建てられた29階建ての高層住宅。折れるんじゃないだろうか。私は恐ろしくて、ありったけの声で母を呼んだ。しかし、いくら呼んでも返事は、こず、真っ暗で何も分らない。泣きそうになりながら何回も何回も呼んだ。やがて揺れがやんだ。………2年K」

 

 揺れがおさまったらあたりの様子をゆっくり確かめましょう。

 室内の真っ暗な中でむやみに動くと、割れたガラスや、食器などでケガをします。普段から、枕もと、ベッドのした、すぐ手の届くところに非常用の懐中電灯と厚手のスリッパか運動靴を用意しておきましょう。

 寝る前に警戒宣言が出たときは、できれば靴をはいたまま、外に出られる服装のまま寝ましょう。

5-1-4、昼間、学校で、勤務先で、外出中に街中で

 建物の中にいるときは、なるべく丈夫そうなものの影に隠れる。窓の下やぶら下がっているものの下には行かないようにしましょう。壁の近く、柱の多いところが安全です。吹き抜けの構造や、ショールームのように、ガラス張りの多いところは危険です。

 1981年以前の建築物は耐震性に問題があると思われますが、あわてて外に飛び出すことも、落下物が危険なので注意しましょう。

 建物の二階以上にいたときは、避難は階段を使いましょう。地震がおきたらエレベーターに乗ってはいけません。エレベーターは地震を感じると最寄りの階で停止し動かなくなります。それどころか、建物がゆがんだり、何らかの故障で階の途中で止まってしまうとどこにも出られなくなります。

 高層ビルは新しい建物が多く、比較的耐震面では安心ですが、地震の周期によっては、非常に長い時間にわたって大きなゆれになることが警告されています。建物は壊れなくとも、中の家具や設備が暴走し、人間が窓から突き落とされる危険があります。そのような建物の中では、なるべく窓には近づかないほうがいいでしょう。
 高層ビルで下の階で火災が起きた場合は、歩いて地上に降りるか屋上に逃げるほか無く、かなり危険な状態になると思われます。

 屋外にいるとき地震におそわれたら、ブロック塀が倒れたり窓ガラスや看板などが落ちてきたりします。安全な建物か近くの広い場所に避難しましょう。

 自動車を運転している場合は、強い地震を感じたら左側に寄せて、カーラジオで情報を得てから、しばらくは様子を見ましょう。自動車の交通が難しい状況と判断したら、窓を閉めキーをつけたまま停車させ、徒歩で避難しましょう。

キーをつけたままの場合は盗難はどうなるのか

 キーをつけたまま車を離れることは、盗難の恐れもあり抵抗があるかもしれませんが、ロックしたまま車を止められると緊急車両の通行を妨げるので、協力しましょう。損害保険協会に確認したところ、このようなときに盗難にあった場合、車両保険(盗難保険)に加入していれば、補償されるそうです。最近日本でも車両盗難が多く、十分な注意義務を果たさない場合は盗難保険がおりない可能性が多くなってきましたが、地震避難の場合は大丈夫だとのことです。ただし、車が地震による損壊を受けたものについては適用されないそうです。

 
 避難は徒歩で,荷物は最小限に

 避難するときには、体が弱っている人,けが人以外は徒歩で避難しましょう。自動車を使うことは極力避けましょう。自動車は道路状況がいつもと同じなら歩くより早く避難できますが、どこで道路が破損しているかわかりません。橋の先が対岸につながっているとは限りません。そのまま運転を続けることはたいへん危険です。みんなが 自動車を使いわれ先に動き出すと、緊急車両の妨げになります。渋滞を引き起こし、消火活動や救援活動の妨げになります。緊急車両を優先しましょう。勝手な行動は混乱をおこし、震災を大きくしてしまいます。避難は徒歩で、荷物は最小限のものだけにしましょう。

 地下鉄、電車、地下街

 地下鉄や電車は運行が可能な状態なら、近くの駅まで運行させて停車させるか、途中で降りて歩くことになります。電車は重量もあり、頑丈に作られていますから、地震そのものには比較的安全です。線路の状況を確認するのに時間がかかると思われますが、通信手段を持っているので慌てずに乗務員の指示に従いましょう。ただし、切通しなど急傾斜地の下を通行している場合などは崖崩れにより列車が巻き込まれる怖れのある場合は急いで避難する必要があります。

 地下鉄路線によっては高圧電流がレール脇に流れていますから、勝手に車外に出ると高圧電流に感電する危険があります。乗務員の指示に従いましょう。
 地下鉄の路線や駅は地下を走り、地盤と同時に動くため地震による損害は少ないと思われます。しかし、避難する場所が少なく、火事や煙に弱く、非常電源があるので真っ暗にはなりませんが、煙が出るとあたりが見えなくなります。パニックに巻き込まれないよう、人の流れから少しはなれて、慌てずに行動しましょう。

 地下街は、密閉に近い空間になります。地下鉄とともに地震には比較的耐久性があるといわれますが、火事や水に弱く、ガスや煙で大きな被害が出る可能性があります。古い地下街では排煙設備が不完全なところが多く、新しい地下駅はとんでもない深さと複雑な通路の場合が多くあります。

 出来るだけ速やかに外に出ましょう。非常電源があるのでいったん停電になっても真っ暗にはならず、復旧するはずですが、落ち着いて行動し、パニックに巻き込まれないよう、ハンカチをできれば水にぬらしてマスクがわりにして、前が見えないときは壁伝いに動きましょう。人の流れから少しはなれて、慌てずに行動しましょう。

新幹線

 高速で走行している新幹線が突然地震にあったらどうなるか、よくわかりません。レールや車体が震動に耐えて脱線しなければ大きな災害にはならないと思われます。地震が起こったときに新幹線を止めるために、ユレダスというシステムがあります。早く伝わる地震波が比較的弱く、後からやってくる強い地震波との時間差を利用して、被害のおきそうな地震かどうかを瞬時に判断し、強い地震が遅れてやってくる前に列車を止めてしまうしくみです。

 優れたシステムなのですが、完全な対策ではありません。予想されている東海地震では、地震の起きる場所が最も近いところだと時間差が3秒ほどしかなく、ブレーキをかけはじめても完全にとまるまでの時間がないのです。

 新幹線で大きな地震を感じたら、乗客としては姿勢を低くし、前の座席に足を突っ張って衝撃を和らげるしかありません。