超個人的・旅コラム

01.3.14

【パート1:のどか・・春日の高山本線】

  まだ日も昇らない闇夜の中、近鉄の始発列車で京都へ出る。車内で徐々に東の空が明けていくのを、30分にわたって見ていた。特に旅行初日に見る日の出は、これからの旅での出来事への期待感とあいまって、すごく清らかに見える。ウォークマンのZARDの歌声がよく溶け合わさる。

  まずは京都から東海道本線を東へ進む。長浜行き普通列車は223系の8両編成だが、最初のうちは通勤客で、彦根に近づくにつれて学生も多くなり、終始混雑したままだった(もちろん立ったまま)。意外にもこの時間帯の琵琶湖線の上り列車は本数が少ない。これ以上に下り(京都・大阪)方面への移動が多いため、あまり車両を回せない、という事情があるのかもしれないが、それなりのラッシュはこちらにも存在する。いや、言い方を変えれば、この程度の輸送力で足りるほどのラッシュ、とも言えるか。とにかく、荷物を手に持ったまま、立ちながらウトウトしていた。

  ところが、米原で接続する岐阜行き普通列車は、さっきとは対照的にガラガラ。悠々イスを確保できた。しかも車両は私が愛する117系!名古屋圏からも徐々に淘汰されつつあるかつての京阪神新快速のエースランナーだが、木目の壁など、格調高い雰囲気は今だ健在であり、まだまだ走りつづけてほしい車両である。空席も残したまま米原を発車する。岐阜行きなので乗り過ごす心配もなく、この辺りは何度か通った路線でもあるので、さっきの睡眠の続きと決め込む。

  気がつけば、終着・岐阜の手前である。いつのまにか立ち客も出ている。もう既に日はかなり高い。岐阜でもすぐの乗り換えで、高山本線に乗り継ぐ。新しい高架駅にはちょっと似つかわしくない、二両編成のディーゼルカーは、けたたましい大きな音を立てて、その割には対したスピードも出さずに、ホームを離れる。なんだか悪く表現しているようだが、本当はディーゼルカーのそういうところが私好みである。普段は乗る機会も、見る機会すらないので、特別ディーゼルカーに乗ると、今旅をしているんだ、という気にさせられるのかもしれない。もっともボックスシートにゆったり座れて、というのが大きな前提ではあるけれど。

  途中、犬山城が望め、またたまに航空機の騒音が大きい(各務原に自衛隊の基地がある)鵜沼に途中下車した後、知らない間に綺麗な橋上駅舎に変わっていた美濃太田で乗り換えて、さらに高山本線を普通列車で進む。辺りは山あいに開けた畑が広がり、併走する道には人もクルマも少ない。ふと思い出したように平屋の大きな日本家屋が集まって現れる。家の軒先には布団や洗濯物を干している。暖かい日差し。ここちよい列車の揺れ……「のどか」としか言いようのない情景が、延々と続く。車内も、地元の人や観光客などで程よく埋まり、和気あいあいとした雰囲気である。そんな雰囲気を一人見ているだけでも、何だか心が安らぐ。

  しばらくすると右手に飛騨川が寄り沿ってくる。この先長い間、この飛騨川を何度も絡みあいながら走って行くが、総じて景色は進行方向右側(東側)がいい。何故か川の水が、不自然なくらい深みのある緑色に見えるこの川の渓谷美が楽しめるが、時折見かける川の護岸施設が、コンクリートの塊としか言えないくらい無骨なのが気にかかる。もちろんこういう施設が治水上、あるいは安全上必要なのは十分承知している。またここのような急峻な山に囲まれた厳しい渓谷が、我々よそ者が楽しむための場所ではなく、実際ここを生活の場として住んだり通ったりしている場所であることも理解している。しかし、それを踏まえた上で、つまりこれらの機能性を十分確保した上で、さらに景観を保全することを考慮できないものだろうか。もちろん「景観保全」=「手付かずの自然」といった無責任な自然保護団体の主張ではない。機能性を確保した上で、例えばのっぺりとしたコンクリート壁を偽岩で覆う、あるいは施設全体で何かをかたちどる様に設計する、など、少しでも周囲の環境との調和ができるような設計は出来ないものだろうか。もちろん機能外のものを造ることで予算が余計に必要になるが、まともなものを造る限りこれらは必要な出費として納得がいくものだと思う。

  そうこうしているうちに温泉で名高い下呂に到着する。残念ながら周りを見て回る時間はなく、ここからすぐに特急<(ワイドビュー)ひだ>に乗りかえる。この特急に使われる車両(キハ85系)は、ディーゼルカーでありながら銀と黒を基調としたシックな車体にオレンジのストライドがアクセントになって、非常に品のある外見に仕上がっている。グリーン車の先頭車両は丸みを帯びた流線型のパノラマ車両になっている。また車内の座席が通常より一段高いところに設置されており、実際は10数センチの差だろうが、なんとなく気持ちがいい。車内も落ち着いた雰囲気にまとめており、もちろん私のお気に入りの車両の一つである。とはいうものの、6年前にこれと同型の特急<(ワイドビュー)南紀>に乗ったきり、長い間ご無沙汰していた。好きな車両に乗るときはやはり心踊るもので、だんだん駅に近づいてくる姿をホームから首を伸ばして見ずにはいられなかった。旅の魅力に加え、乗る車両自体にも楽しみができる分だけ、鉄道好きはトクしているのかもしれない。自由席だったが幸いにも席が確保でき、特急らしい広い座席で、暖かくゆったりした時間を過ごせた。

<パート2へつづく>

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