オゾンの功罪
内容
§1 太陽放射エネルギー
1 放射エネルギーの形態 2 放射スペクトル
§2 紫外線に対する生物組織の反応
1 人間への影響 2 動物への影響 3 植物への影響
4 海洋生態系への影響
§3 厚さ3ミリのオゾン
1 成層圏オゾンの生成過程 2 触媒反応サイクルよるオゾン破壊 3 触媒サイクルの制約
4 フロンによる成層圏オゾンの破壊 5 オゾンの輸送と分布
§4 成層圏オゾンが消える!
1 南極オゾンホールの出現 2 南極オゾンホールのメカニズム
§5 対流圏のオゾン
1 対流圏のオゾン生成過程 2 光化学スモッグ
§1 太陽放射エネルギー
太陽は地球に光と熱とエネルギーを与えてくれます。
人間を含め、動植物にとって太陽は生命を維持してくれるもの、
活動の源である。
気候の形成、大気循環や日々の気象も太陽放射エネルギーが駆動力
になっているわけです。
太陽からのエネルギーが途絶えると、一ヶ月足らずで日々の気象の変化
はなくなってしまうと言われている。
大気の運動が大地摩擦や大気の粘性などによって消滅するからです。
言うなれば、太陽は地球生命体のエネルギー源である。
1 放射エネルギーの形態
地球と太陽の間は物質のない真空です(厳密には宇宙線とか太陽風
とよばれる高エネルギーの粒子が高速で飛んでいる)。
太陽は電磁波と言う形態でエネルギーを宇宙空間に放射しているので、
地球にも電磁波としてエネルギーが伝播してくる。
電磁波の伝わる速さは光速(c)であり、波長(λ)と振動数(ν)
との間に
c = λ×ν
の関係が成立します。
したがって、波長が小さい電磁波(光と呼ぶことにする)は
振動数が大きい光である。
ここでは光をその波長によって、3つに分ける
ことにする。
波長が長い光(おおよそ0.7μm より大きい)を赤外線
波長が短い光(おおよそ0.36μm より小さい)を紫外線
赤外線と紫外線の間にある光を可視光線(目に見える光)
光は光子という粒子が集まったものの流れであり、エネルギーを光速で運んいる。
光子1個のもつエネルギーは、光の振動数νに比例して大きく
光子のエネルギー = hν
と表せる。h のことをプランク定数という。
赤外線の光子はエネルギーが小さく、紫外線の光子はエネルギーが大きい
ということになる。
日焼けは紫外線を多く浴びたからであり、陽だまりが温かく感じるのは
赤外線を多く浴びるためです。
2 放射スペクトル
太陽光のもつエネルギーを波長によって分けたものを放射スペクトルといいます。
図1より太陽光は、可視光線(約 0.5μm の波長)のところで最大の放射強度
をもつことが分かる。
また、紫外線に対応する放射強度は大きくない。
いいかえれば地球にやってくるのはおおかた可視光線と赤外線の光子であり、
紫外線の光子の割合は少しだということになる。
これは太陽の表面温度が絶対温度で約5800度だからです。
太陽みたいな物体を放射理論では黒体といい、黒体の放射特性は
黒体の温度で決まってしまう。
この放射理論をプランクの放射理論という。
興味のある人はその方面の参考書をみていただきたい。
太陽放射エネルギーの紫外線の占める割合は少ないけれど、
紫外線光子1個のエネルギーは極めて大きいことを考えておいて下さい。
§2 紫外線に対する生物組織の反応
図2は、細胞が光子を吸収したとき波長に対するDNAの感受性
を示したグラフである。
生物の細胞は耐性限度を超えるエネルギーの大きな光子を吸収すると、
DNAは損傷を受けたり、破壊されたりする。
これは地球上の生物が紫外線に対して保護された環境の中で進化してきた
ことを考えれば納得できる。
すなわち、生物は可視光線に対して耐性をもち、それをフルに活用
するように進化してきた。
例えば、波長域 0.29 〜 0.32μm の紫外線(これをUV−Bという)
が吸収されると、DNAは破損する可能性がある。
したがって、
成層圏オゾン濃度が減少すると地上に到達するUV−Bが増加し、
より多くのDNAの破損をきたすことになる。
1 人間への影響
皮膚細胞のDNAはUV−B照射によって損傷を受けやすく、皮膚の外層、
中層、内層(メラノサイト細胞)にガンを引き起こす。
とくに白色人種は皮膚ガンにかかる可能性が大きくなる。
一方、黒色人種(熱帯に住む民族)は地上に侵入してくる強い紫外線
を防御する皮膚組織(浅黒い肌)に変えてきた結果、皮膚ガンになる
可能性は少ない。
1%のオゾン層の減少は地上に達するUV−Bを2%増加させる。
これにより皮膚ガンの発生率は4〜6%引き上がると推定されている。
この他UV−B照射によって、白内障と免疫力の低下が引き起こされる。
2 動物への影響
UV−Bの増加は、まず爬虫類に影響が現れる。
ある種の爬虫類は乾燥地のような太陽にさらされたところに
卵を産み付けているので、最近のUV−Bの増加により健康な
個体の発生率が確実に低下している。
3 植物への影響
200種類以上の植物についてUV−Bの増加に対する影響の調査
が行われている。
半数以上の植物に
光合成能力の低下、若枝の短小化、葉面積の縮小、
などの影響が現れる。
また、農産物の収穫量が大幅に減収する。
例えば、成層圏オゾンが25%減少すると大豆は50%減収する
と見込まれている。
さらに、UV−Bにさらされると固定窒素が減少することも
報告されている。
4 海洋生態系への影響
植物プランクトンはUV−Bが届かなくなる深さで、かつ光合成に必要な
可視光線が届くところで生息している。
UV−Bの増加は放射量の増大による直接的な影響を植物プランクトンに
与えるばかりでなく、UV−Bを避けるためにより深いところに避難する
結果、光合成に必要な光を確保できなくなるという重大な影響を与える。
植物連鎖の底辺にある植物プランクトンの減少は、より高次の
生態系全体(動物プランクトンや魚類など)に重大な影響を及ぼす。
§3 厚さ3ミリのオゾン
生物組織に重大な影響を与える紫外線は、
地上に達する前にオゾンや他の大気によってほとんど吸収されてしまう。
もう少し具体的言うと以下のようになる。
約0.1μm より短い波長の紫外線は
酸素分子O2、窒素分子N2、酸素原子O、窒素原子N
によって上空100kmに達するまでにほとんど吸収される。
約0.2μm より短い波長の紫外線は
O2による強い吸収で高度50kmまでしか達しない。
約0.31μm より短い波長の紫外線は
高度30〜25kmでオゾンO3によって吸収される。
0.31μm より長い波長をもつ光子は
大気中の分子、雲、粒子によってわすかだけ吸収、反射、
散乱などを受ける。
オゾンによる吸収はふたつの意味をもつ。
ひとつは、有害なUV−Bが生物組織を破壊するのを防ぐこと、
もうひとつは、オゾンによる吸収で成層圏、中間圏の大気が加熱
されることである。
成層圏で高度とともに温度が増加するのはおもにこれが原因となっている。
したがって、成層圏オゾンの減少は成層圏の温度を低下させる
ことにもつながる。
その結果、地球全体の大気の循環パターンの変化をもたらすと考えられる。
この成層圏にあるオゾンを集めて地上にもってきたとしても、
わずか3ミリの厚さにしかならない。
1 成層圏オゾンの生成過程
オゾンO3は成層圏ばかりでなく地上付近の対流圏でも生成されている。
対流圏オゾンは増加し、成層圏オゾンは減少していることが
最近の傾向だ。
成層圏におけるオゾン生成のメカニズムはチャップマンによって提唱された。
・チャップマン反応
酸素分子O2は 0.24μm より短い波長の光子hνを吸収して酸素原子に解離する。
O2 + hν → O + O
次に、酸素原子Oは酸素分子O2と反応してオゾンO3が生成される。
O + O2 + M → O3 + M
ここでMはなんでもよいが、通常は窒素分子N2または酸素分子O2である。
結局、3個の酸素原子から2個のオゾンが生成されたことになる。
逆にオゾンO3はO2が吸収するよりも少し長く、0.32μm より短い波長の光子hνを
吸収してO2とOに解離する。
O3 + hν → O2 + O
この反応で吸収された紫外線が成層圏界面の高温に大きく寄与することになる。
そして、酸素原子OとオゾンO3が反応して酸素分子O2 に戻る。
O + O3 → O2 + O2
結局、2個のオゾンが消滅して3個の酸素分子が生成される。
このオゾン生成・消滅過程をチャップマン反応という。
ところがオゾン量について、20km以上の成層圏の実測値は上記の反応過程による
予想値よりかなり小さいのである。
2 触媒反応サイクルよるオゾン破壊
過去20年にわたる研究から、いくつかの大気微量成分も成層圏オゾンの破壊に
重要な役割を果たしていることが分かった。
触媒サイクルその1
まず、オゾンO3に光子が吸収されて、励起状態(高いエネルギーを有する状態)の
酸素原子O* が生成される。
O3 + hν → O2 + O*
次に、励起状態の酸素原子O* に水蒸気分子が取り付いて、2個のヒドロキシルラジカルHO.
が生成される。
H2O + O* → 2HO.
HO.を一般にフリーラジカルといい、奇数個の電子をもち非常に高い反応性をもっている。
つづいて次の触媒反応サイクルが起きて、オゾンは破壊される。
HO.+ O3 → HO2.+ O2
O3 + hν → O2 + O
O + HO2.→ HO.+ O2
結局、2個のオゾンが消滅して3個の酸素分子に変換されたことになる。
成層圏では水蒸気が非常に少ない(対流圏の水蒸気量の1万分の1以下)けれど、
成層圏でのオゾン収支に影響を及ぼすのに十分な量なのである。
触媒サイクルその2
一酸化ニ窒素N2Oは海洋中の微生物学的な作用(バクテリア)によって生成され地表付近から
排出されるが、対流圏では安定で、反応することはほとんどない。
しかし、大気運動によって成層圏に運びこまれると、N2OはO* と反応して
酸化窒素NOができ る。
N2O + O* → 2NO
つづいて次の触媒反応サイクルが起きてオゾンは破壊されてしまう。
NO + O3 → NO2
O3 + hν → O2 + O
O + NO2 → NO + O2
この場合も2個のオゾンが破壊して3個の酸素分子が生成したことになる。
酸化窒素NOの源は一酸化ニ窒素N2Oからだけ ではない。
上空を飛行しているジェット機からも酸化窒素NOは排出されている。
しかし、地上付近の自動車や発電所からもNO、NO2 が排出されるが、成層圏に
輸送されることはほとんどない。
NO、NO2 は水溶性の硝酸HNO3 へ効率的に変換されて雨によって大気から
除去されてしまうからである。
触媒サイクルその3
藻類の光合成によって塩化メチルCH3Cl は副産物としてつくられる。
塩化メチルは反応性が強く、下層大気中に放出された塩化メチルの90%以上は
成層圏に運ばれる前に除去される。
しかし、一部分は除去されずに成層圏に輸送されて、ヒドロキシルラジカルHO.
と反応して、最終的に塩素ラジカルCl.が生成される。
CH3Cl + HO.→ Cl.+ (その他の生成物)
そして次のオゾン破壊触媒サイクルが始まる。
Cl.+ O3 → ClO.+ O2
O3 + hν → O2 + O
ClO.+ O → Cl.+ O2
3 触媒サイクルの制約
触媒サイクルは無制限に続かない。
次の反応によってHO.やClO.など触媒ラジカル
をオゾンに対して反応性のない硝酸HNO3と
硝酸塩素ClONO2 に変えられてしまうからである。
HO.+ NO2 → HNO3
ClO.+ NO2 → ClONO2
硝酸HNO3と硝酸塩素ClONO2 のことをオゾン
に対して反応性のない化合物として触媒ラジカルを
一時的に保持するという意味で「リザーバー」
と呼ばれている。
人類が出現するずっと前から、こういったオゾン破壊
の触媒サイクルはある程度自然界に生起していたと
考えられる。
結局、
オゾンの生成と破壊はチャップマン反応、触媒
サイクルと「リザーバー」による制約の微妙な
バランスの結果、 成層圏のオゾン量はある範囲内
に保たれていた。
4 フロンによる成層圏オゾンの破壊
フロンはクロロフルオロカーボン(CFC)といい、
化学的に非常に安定で、人間に無害な化合物である
ことから冷媒や噴霧ガスなどに広く使用されてきた。
ところが、
CFCー11(CFCl3 )やCFCー12(CF2Cl2 )
などのフロンは、対流圏ではヒドロキシルラジカルHO.
や他の酸化剤によっても分解されず、数年で成層圏に
拡散してしまう。
図4にCFCー12の濃度分布(「気候変動」日経
サイエンス社より)を示す。
成層圏では波長 0.26μm 以下の紫外線光子が降り注いでいるの
で、フロンはこの光子を吸収して
塩素原子Cl.と一酸化塩素原子ClO.に分解されてしまう。
そして先に述べたオゾン破壊の触媒サイクルへとつづく。
Cl.+ O3 → ClO.+ O2
O3 + hν → O2 + O
ClO.+ O → Cl.+ O2
天然の塩素の供給源は、火山噴火からの排出物と
バイオマス燃焼(わら、もみがらや他の農業副産物の燃焼とか
森林の農地化、牧用地化、昆虫・害虫の駆除のための焼却)
や藻類からの放出される塩化メチルCH3Cl である。
これらによって成層圏に供給される塩素は せいぜい
0.6ppbv 程度である。
一方、フロンの使用によって成層圏に供給される塩素は現在
約 3ppbvと見積もられ、天然の約5倍の量である。
これは成層圏におけるオゾンの生成と破壊のバランスを大きく
崩してしまうことを示唆する。
フロン使用による成層圏のオゾン層の破壊が警告された。
5 オゾンの輸送と分布
状況はそう単純でなかった。
オゾンは紫外線が最も多くとどく熱帯成層圏の上部で
多く生成されるはずである。
ところが図5を見るとオゾン全量は、
熱帯地域で最低になり、反対に紫外線入射量の
少ない北極や南極の地域で極大になっている。
成層圏には低緯度から中高緯度に向かう大気循環があり、
この流れによってオゾンは中高緯度域の成層圏へ輸送され、
下部成層圏に下降して、そこで蓄積されていく。
図6に中層大気(成層圏と中間圏および下部熱圏)循環の
南北断面図を示す。
オゾンは図のAとBの流れによって熱帯成層圏から中高緯度域
の下部成層圏へ輸送される。
この大気循環によって、オゾン分布は低緯度帯で最小、
高緯度帯で最大を示す分布となる。
§4 成層圏オゾンが消える!
1 南極オゾンホールの出現
1970年半ば以降、毎年9月から10月にかけて南極の
オゾン濃度が極端に減少していることが、1985年イギリス
の南極調査所によって明らかにされた。(図7、8)
南極の春にオゾンが極端に減少する現象をオゾンホール
とよんでいる。
フロンガス放出による成層圏オゾン層の破壊の影響が南極上空
に出現したと考えられた。
どうしてフロン使用量が多い低中緯度地域の上空にオゾンホール
は現れないで、フロン使用地域ではない南極の上空に現れるのか。
これに答えるにはもう一度中層大気循環を考える必要がある。
冬の南極に蓄積されるもの
まず、低中緯度地域の成層圏に達したフロンは、
Cl.やClO.に光分解される。
つぎに、Cl.やClO.は中層大気循環によってが高緯度地域
に運ばれる過程でメタンCH4 や
ノックスNOx (NOとNO2 のこと、ノックスという)
と反応して塩酸HCl と硝酸塩素ClONO2 などが生成される。
例えば、ClONO2 の生成反応式は以下に示される。
ClO.+ NO2 → ClONO2 (1)
これはNO2 がClONO2 に変えられるので、先に説明
したようにオゾン破壊の触媒サイクルが抑制されてることを示す。
一方、ClONO2 はHCl と反応して
ClONO2 + HCl → Cl2 + HNO3 (2)
塩素ガスCl2 が生成される可能性があるが、
反応(2)が気体の状態(気相)では非常に遅く
Cl2 の生成は抑制されてしまう。
これが南極成層圏のオゾンホール出現の重要なポイントに
なってくることがあとで分かる。
ともかく高緯度地域の成層圏にHCl とClONO2 が蓄積
されていくが、
このままではオゾン破壊は促進されない。
ここで登場するのが冬季南極の成層圏に現れる極成層圏雲である。
2 南極オゾンホールのメカニズム
成層圏では通常雲はできない。
気圧が低すぎて常に水の沸点よりそこでの温度のほうが
高いからである。
ちょうど高い山では気圧が低いため100℃以下で水が
沸騰してしまうのと同じである。
冬季南極の下部成層圏では温度が極めて低く、−80℃以下
になる。
ところが硝酸HNO3 が混入した水蒸気の飽和温度は
−80℃より高くなるので、
硝酸と水で構成された氷の微粒子が集まった雲ができる。
実際、南極成層圏のエアロゾルの濃度を測定すると、
冬季に顕著な増加が見られ、硝酸ガスや水蒸気が液体や個体の粒子に
変わったことを示している。
この雲を極成層圏雲(Polar Stratospheric Cloud , 略してPSC)という。
南極オゾンの減少には、このPSCが深く関与しているらしい。
すなわち、
気相では緩慢であった反応(2)は、
ClONO2 とHCl が氷の表面に付着すると、
反応が促進される。
結局、南極オゾンホール出現のシナリオ(図9)は以下のごとくである。
冬季南極の成層圏では太陽光線が届かなくなり、成層圏は硝酸と水の氷粒子
を形成するのに十分低い温度に下がり、反応(2)が促進され、
Cl2 が多量に生成される。
冬季の南極大陸上空の大気の循環パターンは、ほぼ極域を取り囲む大気の流れ
になっている。
この極渦によって塩素ガスCl2 やオゾンを含む空気塊は 何ヶ月もの間、
極域に閉じ込められてしまう。
9月下旬に太陽が現れはじめると(南極の春がきたとき)、Cl2 は
波長 0.45μm 以下の光子hνを吸収し、塩素ラジカルCl.を放出する。
Cl2 + hν → 2Cl. (3)
その結果、一連のオゾン分解の触媒サイクルが始まり、オゾンの破壊が
なだれ的に進行する。
Cl.+ O3 → ClO.+ O2
O3 + hν → O2 + O
ClO.+ O → Cl.+ O2
しかもCl2 は蒸発によって氷の表面から離れるが、HNO3 は
氷の表面に留まる。
ということは、硝酸HNO3 の蒸気圧は下がるので、それに平衡関係
にあるNO2 の濃度も下がる。
NO2 の濃度の低下は反応(1)によるオゾン破壊を抑制する要因
を取り除くことにつながり、
このこともオゾンホールを発達させることになる。
以上が南極オゾンホール出現のおおまかなシナリオだ。
今後の観測によって細かい部分で修正されることはあるが、大筋で
この理論でよいと思われる。
北極にもオゾンホールが現れるだろうか。
北極は陸海分布が南極と違っているので、冬季北極の成層圏は南極ほど
低温にならないけれど、極成層圏雲PSCが形成されて
いるようである。
というのは、最近の観測によって、オゾン破壊が確認され、同じ機構で説明が
できることが分かったからです。
§5 対流圏のオゾン
地上での観測および気球の観測によって大気中のオゾンは大部分が成層圏
に存在することが分かっていた。
だから対流圏のオゾンは大気運動などにより成層圏から降下してきたものと
考えられていた。
オゾンが生成されるには波長 0.24μm 以下の紫外線光子による
酸素分子の光解離が必要であり、
そのような波長の短い紫外線は対流圏では存在しないからである。
1940年代半ばにロサンゼルス地域で頻繁に起こった農作物の大きな被害は
高濃度のオゾンが原因であることが突き止められた。
オゾンは成層圏だけでなく対流圏でも生成されていることが分かった。
1 対流圏のオゾン生成過程
RHC(エチレン、ブタン等の反応性の高い炭化水素)と一酸化窒素NOとが
可視光線の光子 hνの基で反応し、二酸化窒素NO2 が作られる。
RHC + NO + hν
→ NO2 + (その他の生成物) (4)
次に、二酸化窒素NO2 は可視光線の光子 hνによって解離される。
NO2 + hν → NO + O (5)
この酸素原子Oと酸素分子O2 が反応してオゾンO3 が生成される。
O + O2 + M → O3 + M
ここでMはなんでもよいが、通常は窒素分子N2または酸素分子O2である。
要するに対流圏では炭化水素、一酸化窒素と酸素によってオゾンが生成される。
対流圏と成層圏の違いはこうである。
成層圏ではNOx (NOとNO2 のこと、ノックスという)
はオゾン破壊の触媒の役割をもつが、
対流圏ではNOx は反応(4),(5)から分かるように
オゾン生成の触媒の役割をもつ。
この違いは
対流圏でRHCは存在するけれど、成層圏には存在しないことによって起こる。
すなわち、成層圏では反応(4)はありえない。
最近の測定結果は
成層圏のオゾン量は減少、対流圏のオゾン量は増加傾向になっている。
2 光化学スモッグ
オゾン生成に必要なRHCとNOxの発生源を考えてみる。
RHCとのNOx発生源:
植物が光合成するとき炭化水素を生成・放出する
ので、RHCは必ず大気に含まれている。
森林の火災、雷の閃光などによって大気中のO2 とN2 から
NOxが生成される。
車の排気ガスや化石燃料の燃焼過程でNOx 、RHC
や硫黄酸化物も排出される。
日中晴天で乾燥の気象状況では、オゾン、NOx 、RHC、硫黄酸化物などが太陽光によって
複合的に反応が起きて汚染物質(オキシダント)が生じる。
これを光化学スモッグという。
NOx 、RHC、硫黄酸化物等を一次汚染物質といい、オキシダントを二次汚染物質という。
一般に、一次汚染物質は大気の流れによって別の場所へ輸送される。
二次汚染物質による光化学スモッグが発生する地域は一次汚染物質の発生地域と異なり、
地形および気象状態によってある特定の地域に集中する。
つまり光化学スモッグが発生しやすい地域がでてくる。
光化学スモッグの人体への影響
・粘膜への刺激・損傷
・場合によっては、呼吸困難、胸内苦悶、手足のしびれ、けいれん
植物への影響
・花、葉の腐食斑点
また、NO2 は青い光子を吸収するので、大気中にNO2 が多量に排出されると、天気状態によっては
白色または茶褐色の空になったり、視程障害などが起きる。
さいごに、以下のことを言っておきたい。
成層圏のオゾンは善玉であり、対流圏のオゾンは悪玉であるという二極論になりがちだが、
対流圏のオゾンは一方で、大気汚染物質を洗浄していることも忘れてはならない。
参考書
「気候変動」日経サイエンス社
「一般気象学」東京大学出版会
「気象学のみかた」朝日新聞社
オゾンの功罪へ
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