バイアグラ論争集

バイアグラのニュースを最初に読んだのは去年のことだったと思うが、正直ここまで騒ぎが大きくなるとは考えもしなかった。

バイアグラは、その社会的な背景を捨象すれば、単なる薬にすぎない。

逆にこの薬から透けて見える社会的なゆがみや差別のことは、かなり大事な意味を持つことなのだろうと思える。

ここでみなさんと大いにバイアグラ論争を繰り広げてみたいと思う。


◆◆ 目次 ◆◆


バイアグラをおもちゃにしないために 西村有史
バイアグラを嗤う女、参上 つぐみ奴さん
男性不能症と男の性的アイデンティティーについて、ご理解ください 西村有史
「男の論理の介在」は否定できるのか liveさん
男の論理か緊急避難か 西村有史


バイアグラをおもちゃにしないために 

つぐみ奴さん、返事を書くのが遅れて申し訳ありません。

ネット上だけでも片づけなければならないことが多すぎて、と言い訳になります。

まずつぐみ奴さんの誤解を解いておかなければなりませんが、おそらくこの薬が、「病気の人も一般人も買える」状況にはならないだろうと思います。

世間の騒ぎは騒ぎとして、一つ間違えると死んでしまうような薬を、処方箋なしでかえるようにはならないでしょうし、いくら厚生省が馬鹿だといっても、そうはならないと思います。

私の話の切れが悪いのは、厚生省が製造承認をしていながら、その先どうなるのか、全く情報が入ってこないからです。

もう一つの問題は、このバイアグラを薬として飲もうとする人と、大人のおもちゃにしたい人間をどう区別するのか、その方法も明かではないということがあります。

あるいは製薬会社のほうにも、この二つを厳密に区別しないほうが、売り上げが多くなるという打算が働いているのかもしれません。

バイアグラは認可して、ピルは解禁しないのは「産めよ、ふやせよ、 勃ってこそ男」ということですか?

う〜ん。そこまでは考えませんでしたね。

ただそれでも、不妊症の治療そのものは、保険ではカバーされてはいませんよね。

どの病気のどの治療が保険で効くのかというのは、厚生省の恣意に任されている部分があり、不合理は目立ちます。

出産でも正常なお産は保険が効きません。

ま、だからこそ各産院は、一流ホテルより内装を豪華にしていますが。

(2月8日)


バイアグラを嗤う女、参上

おっはようございます。

バイアグラを嗤う女、つぐみ奴にございます。

ドクターの「きょうの一言 バイアグラ賛」いいですねぇ。

うさぎやではあもくさんがバイアグラの擁護に孤軍奮闘、ドクターの援護射撃を 期待しとうございます。

こちらも女将ともども受けて立ちますぜい(笑)

そうそう、バイアグラって、不能治癒の薬で精力剤じゃないんですよね。

以前に、性的不能者の悩みははかりしれない、彼らにとってバイアグラは世紀の 救世主である、というようなことをどこかのニュースで聞いたことがあります。

すっごく基本的なことで申し訳ないのですが、厚生省が認可したということは医 師の処方なしでも買える、ということなのですか?(う、勉強不足ですみませ ん。おこらないでね、ドクター)

世間様の騒ぎ方からして、きっとそうなんだろうなぁと思ってバイアグラを目の 敵にしているわけですが、どうして「病気の人も一般人も買える」ものになって しまうのでしょうか?

医師の処方なしには買えない。病院で不能だと診断された人だけが服用できるの なら、バイアグラは大切な薬だと思う。

でも、どう考えても厚生省というか、お国のおじじたちの「産めよ、ふやせよ、 勃ってこそ男」的な感覚がこの薬の後ろ盾になっているような気がする。

本当に不能で悩んでいる人の認可、という感じが伝わってこないのは、どうして なんでしょ?厚生省もしっかり言えばいいのに。

規制されるのは面白くないけれど、この世に“野獣願望”のヒヒおやじがある限 り、この人たちが自主的に「バイアグラは病気治療薬だ」と認識しない限り、 ガードは必要かなぁ、って思ったりします。

日本人って、いまだに親に指導されなければ無茶する子どもみたいなところがあ りますね。バイアグラに関する騒ぎ方は、ファミコンソフトの発売を心待ちにし ながらお年玉を握りしめている小学生を思い浮かべてしまふ。

ドクターのような、認識力のある大人の男性が増えてくることを望む次第でござ います。

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男性不能症と男の性的アイデンティティーについて、ご理解ください 西村有史

ひょっとして誤解があるかもしれませんから、最初に申し上げますが、もし私が厚生省の担当官だったら、バイアグラなぞはほおっておいて、低容量ピルのほうを先に承認するでしょう。

低容量ピルや事故後避妊薬のほうが、バイアグラよりも遙かに社会的にも有用であり、これらの薬が承認されないことが、深刻な健康被害と関連しているからです。

不公正だという気持ちは分かりますが、それは厚生省にいってください。少なくともバイアグラという薬の罪ではないはずです。

なぜ諸外国で使われている薬が日本では使えないのか、なぜ延々と承認まで時間がかかるのかについては、雑誌取材では答えましたが、掲載されるかどうかはわかりません。

これは日本の薬務行政と深く関係しています。

つまり日本では、社会的にも有用性がかけらもなく、さして有効でもない薬がうじゃうじゃあり、当然そうした薬の承認申請に、無駄な時間が浪費されていることがあげられます。

こうした無駄な薬の典型が、ゾロ新とよばれるカテゴリーの薬です。

たとえば血圧を下げる薬だとか、ある種の坑癌剤などが、市場で大ヒットします。するとその薬をもっていないメーカーが、その薬の構造式をちょっとだけ弄って、効き目はよく似ているが一応別だという薬を開発して売り出すわけです。

これをゾロ新といいます。

本当にユニークな薬をつくるのと比べれば、研究開発費はあまりかからない。しかも先発の薬とシェアー争いは起こりますが、価格競争は起こりません。日本のメーカーのように開発力の弱い業者には、大変便利な薬な訳です。

アメリカなどではこうしたゾロ新もあるにはありますが、数は非常に少ないし、価格の保護もありません。

抗HIV薬などは、アメリカでは新薬が出る度に価格競争が起こり、すでに発売になっている薬を含めて、値段が下がります。

日本のようなメーカー天国はありません。

国内未承認薬が、通販で買えるという深刻な問題は、元々国内の業者保護を第一にする厚生省の姿勢に問題があることは間違いありません。

では低容量ピルも、同じ問題を起こして、承認を促進させるという戦術が浮かばないではありませんが、正直おすすめできかねます。

国内未承認薬は法律の保護が受けられませんし、もちろんアメリカのPL法も適応されません。

逆になぜバイアグラではあれほど、社会問題化する熱狂が起こったのかというふうに、問題をたてると、わかりやすいかもしれません。

もちろんその一つは、個々の患者にとって男性不能症というものが、端で見ている人間には分からないほど、深刻な問題であるということは、いえるだろうと思います。

昔から、インポと痔は同情されない病気の典型でした。どんなに苦しかろうが、逆に苦しければ苦しいほど、笑いの対象になってきました。

はげもそうかもしれません。

子宮癌や乳癌で子宮を失い、乳房を失った患者が、強い不全感を持つのと、勃起できない陰茎を抱えるのは、きわめて近い関係にあると私は思います。

性同一性障害の患者が、自分の体にペニスがあることを嫌悪するのと、近似しているともいいうるでしょう。

つまり、生殖器と自分の性的なアイデンティティーは、きわめて近い関係にはあると思うのです。

もちろんインポテンツの患者が持つ不全感に、男性優位の性関係や、挿入=征服幻想が全く関係しないかと聞かれれば、そうした研究をしたこともなければ、読んだこともないので、分からないとしかいいようがありません。

ただそれは、病気そのものを白眼視する理由にはならないと考えます。

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「男の論理の介在」は否定できるのか liveさん

バイアグラへのご意見、興味深く読みました。

これは立派(?)な病気なのだ。そして病気である以上、乳癌や子宮癌、糖尿病などと同じように、適切な治療を受ける権利を有すると、私は考えるのだ。

確かにインポテンツは死ぬような病気ではない。しかし病人な訳だから、薬を飲むことで差別される理由もない。

病気の定義をきっちりしないと気が済まないという、この辺が医療者だと思います。

バイアグラの承認が決まって、低容量ピルと比較される記事を朝日と毎日で見ました。低容量ピルは、9年間審議中なのに、バイアグラは半年というものですね。

西村Drなら、性質が違うとおっしゃるでしょうか。バイアグラは治療薬、低容量ピルは避妊用で一般大衆薬だと。つまり、避妊は病気じゃないと。

私としては、バイアグラと低容量ピルは、質の違う論議だと思う一方、男性優位の承認という面をやはり感じます。確かにバイアグラで厚生省は面目を無くしたでしょうけど、ネットを通じて個人輸入される未承認薬は、広まっていますよね。

その中で、なぜバイアグラだけなのか、という点が気になるのです。あの辺のDrのお考えは、「SPA!」に載るのでしょうか。

<後絶たぬ未承認薬の流入 広告規制が唯一の対策> 共同通信ニュース速報[1999-01-09-15:0]】 抜粋   米国で九月に承認されたばかりの新型の経口避妊薬も流入し始めた。従来のピ ルが毎日服用して排卵を抑制するのに対し、受精卵の着床を抑えるのが特徴。性 交後七十二時間以内に飲めば避妊効果があるという。肥満治療薬は昨年十一月に 米国で認可された。神経中枢に作用して食欲を抑制する効果を持つ。

一つは馬鹿で興味本位のマスコミの強精剤扱いである。

たまたま買った「ダカーポ」に、「バイアグラ解禁間近で、風俗界の戦々恐々」という記事がありました。きわもの扱いですね。<健康人にバイアグラは危険  英医師が“逆効果”警告>共同通信ニュース速報[1999-01-28-11:33]という報道もありますが、一度根付いた印象は消えにくいでしょう。

もうひとつは、勃起能の回復を求める切実な声を、男性の女性征服願望や挿入幻想に結びつける誤解である。

話は変わりますが、アメリカなどでのサイコ・キラーはもっぱら男性が多くて、 その性的犯罪は、征服願望に結びつけられているようです(同性愛者もいましたので、女性に対するとは限りませんが)。

Drにとっては誤解なんでしょうけど、征服願望を持つ男性も多いでしょうから、一概に「誤解」とは言えないと思います。

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男の論理か緊急避難か 西村有史

私が毎日欠かさず訪れるサイトの一つが、E線上の茶屋うさぎ屋である。

ここは名編集者である女将さんが、常連からのメールを取捨選択し、その中から様々なテーマ(政治からセックスの時の喘ぎ声まで)を取り上げるという手法が、大変うまくいっている。

最近のあつい議論のテーマが例の、あの有名な、バイアグラである。

避妊用のピルは9年たっても認可されないのに、バイアグラは半年でスピード承認された。これは「男の論理」だとか、そもそもバイアグラでセックスしようなんていうやつは、女の気持ちも考えず、挿入することばかり考えているのだとか、挿入される側の女性の拒否反応が強く、はなはだ男の勢いがない。

私もエイズ問題に首を突っ込んでいる関係から、「セックスのことは関係ない」とはいえない。

ここは茶屋に遊びに行かない人のために、我がバイアグラ讃を開陳する(いえ、別にチンを開くのではありませんが・・・)ことにする。

実はホンの1時間前、「週刊SPA!」からバイアグラのことで電話取材を受けたのだ。

なぜバイアグラが申請半年で認可されて、低容量ピルが認可にならないのかということがテーマだった。

話は自然と日本の薬務行政、医療行政の話になった。

この話は雑誌に譲るとして、ここはバイアグラの話だ。

そもそもバイアグラという薬は、日本のスケベなお父さんたちが考えているような、多くの女性が柳眉を逆立てるような、究極の「赤まむしドリンク」=精力剤ではなく、あくまで男性の性的不能症=インポテンツの薬なのだ。

これは立派(?)な病気なのだ。そして病気である以上、乳癌や子宮癌、糖尿病などと同じように、適切な治療を受ける権利を有すると、私は考えるのだ。

確かにインポテンツは死ぬような病気ではない。しかし病人な訳だから、薬を飲むことで差別される理由もない。

バイアグラを服薬するのは、インポテンツを治すのが目的であり、何もそれで女性を征服しようというわけでもないから、ヒヒおやじ扱いされるべきでもないのだ。

男性のインポテンツには様々な原因がある。

心因性のものから、交通事故などでの神経の外傷、加齢や、糖尿病などのホルモンの異常、ある種の薬の副作用などで起こる。

私が経験した患者さんは、高血圧症の薬を飲み始めてすぐに不能症になっているが、私にうち明けてくださったのが、それから2〜3年後だった。このように多くの患者は恥ずかしさのあまり、じっと耐えてきたのが現実だろう。

このように潜在化しやすく、しかも治療も困難だった病気に、非常に効果がある薬が開発された。それがバイアグラだった。

しかしこの薬は意外な反応を産んだ。

不能症の患者以外が服薬すると、勃起時間が持続するという副作用が指摘された。

このため、多くのエロ週刊誌(たとえば週刊ポストなど)が、医学が効果を証明する究極の精力剤という売り方をし始めた。

悪のりした人物のうちには、「バイアグラ小説」なる、典型的な際物をものにする文学者まで登場する始末になった。

その上、通信販売で比較的簡単に薬を手に入れることができることが、週刊誌で宣伝もされ、本来の不能症患者に全国のスケベおやじという人口が加わって、空前のブームが起こった。

何しろ全国の盛り場、九州でいえば中州などでは、ウン千円の強精ドリンク(あれは本当のことをいって効果はない。いろいろ成分が書いてあって効きそうだが、本来の薬効は、成分表の最後に小さく書いてある無水アルコールとカフェインである。コーヒーにブランデーを入れて元気になったような気がするというものでしかない)が、それこそ飛ぶように売れるという。潜在需要は無限なのだ。

このバイアグラフィーバーで面目をなくしたのが厚生省である。

副作用がある薬なのに、認可できないが為に、通信販売や密輸が起こり、何の対策もとれないことが明らかになったからである。

まさにこのために厚生省は認可を急いだのだ。

何もアッチのほうの力がなくなった国会議員のために認可したのではあるまい(すこしはそういう意義もあるかもしれないが・・・)。

バイアグラは、各種の不能症に、その原因を問わず80%以上の例で効果を現すという。実にすばらしい薬なのだ。

私たちは、この画期的な薬を、二種類の誤解から救い出さなければならない。

一つは馬鹿で興味本位のマスコミの強精剤扱いである。

バイアグラには副作用もあるし、飲めない人(禁忌)もある。大人のおもちゃではないのだということ。

もうひとつは、勃起能の回復を求める切実な声を、男性の女性征服願望や挿入幻想に結びつける誤解である。

男が勃起を望むのは、何も女性を征服したいがためや、挿入すれば女性が快感を得て、面目を保つと考えるからではない。

ある程度は勃起しなければ射精できず、性的な快感を得られないからである。

どうかご理解を賜りたいと、まるで国会答弁のようになってしまった。

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