ニャアニャアと聞こえたから気になって、声のする方へ向かえば彼方は街灯の下にしゃがんでみかん箱の中を覗いていた。

子猫 その1

遅くまで仕事をした帰り道。
いつも朝方までかかってしまうから外は決まって暗く、誰も歩いてないのでとても静か。
手にはさっきコンビニで買ったばかりのハーゲンダッツを下げて、大事な弟が待つ家に早く帰ろうと歩くスピードを速くする。

ふと、何かが聞こえた。

「・・・猫?」

とっても小さい声で何かが鳴いているので、足が無意識に止まる。
静か過ぎるこの路地で、夜の静寂の中でしか聞こえない弱々しい鳴き声を聞き逃すまいと集中すると、十メートルくらいの曲がり角から聞こえる事に気が付いて、そろそろと歩いて行く。

見ると二つ目の街灯の下に誰かがしゃがんでいて、あっと声が漏れた。
咄嗟に手で口を押さえ、見知った黒い制服にドキリする。
声は遠く過ぎて聞こえなかったのか、しゃがんでいる人は気付いていないらしい。
聞こえないで良かったとほっと息が漏れた。

何をしているのだろうと気になって、様子を見ているとその人のしゃがんでいる前に小さなダンボールが置いてあるのに気が付いた。
ダンボールには小さくみかんと書かれていて、口が開いている。

中から可愛らしい子猫がちらっと見えた。
ニャアニャアとさっきから聞こえる鳴き声の主はどうやらあの小猫の様だ。

どうするのだろうと見ていると、その人はひょいっと子猫を持ち上げて大事そうに腕に抱いて歩き出した。

「あ・・・待って!」

声をかけるつもりなんてなかったのに、気が付けばその人がいる二つ目の街灯の元へ走り寄っていた。
ゆっくりとその人がこっちを向く。

「あれ、お妙さん。お仕事帰りですか?お疲れ様です。」

いつもの様な大きな声では叫ばず、やはり夜だからと言う事だろうか声は小さめ。
でも、あの笑顔はいつもと同じで。

「あの・・・その子猫は・・・・。」

そろそろっと指を指せば、「あぁ」っと言って子猫を両手で自分の顔に近付けるので、ちょっと可愛いかもと思ってしまった。

「実はさっきまで仕事の付き合いで飲みに行っていまして、その帰り道になんだかニャアニャアと鳴き声が聞こえたもんですから、見に行ったらこいつが震えていたんですよ。」

ニャアとまた子猫が鳴いた。

「で・・・どうするんです?」
「このままほっといたら死んじゃいますからね、真選組の屯所で飼おうと思いまして。」
「・・・屯所で飼ってもいいんですか?」
「大丈夫ですよ。」

だって局長ですからと笑って言うので、そんなんでいいのと呆れてしまう。
でも子猫はすっかり懐いているらしくて、無精ヒゲにスリスリしている。
可愛いでしょうと同じ様にスリスリするので、「子猫は可愛いですね。」と言ってやった。

「大事に育ててあげて下さいね。すっかり懐いているみたいだし。」
「はい、大事にしますよ。」
「・・・名前は、決まったんですか?」
「はい、今さっき決まりました。この子はメスだし一番好きな名前で妙で・・・ぶはっ!!?」

右ストレートが綺麗に頬に入り、真選組局長近藤勲がぶっ飛ぶ。
飛んだ拍子に子猫が手から離れてしまったが、これまた見事にひらりと両足で着地をすると、倒れている近藤の元へトットットと歩いて行く。
逃げるかと思っていたのにと子猫を目で追うと、不意に大きなクルンとした瞳でこっちを向いてニャ〜アと鳴かれてしまった。

ちょっと子猫が怒っている様な気がするのは気のせいでしょうか。

「そんな目で見ないでよ。私はあなたと違って素直じゃないんだから。」

気が付けば、そんな言葉をポツリと呟いていた。