あんたは知らない。
これはあんただけが知らない事だ。

知っちまったらあんたはどう思うかな。

祈願

部屋で仕事をしていると、勢いよく襖が開いた。
ちょっとビックリして視線を向けると立っていたのは近藤さんだった。

「トシ!今日こそお妙さんに俺の気持ちを受け取ってもらってくる!!だからちょっと出掛けてくるね♪」

馬鹿でかい声出して気持ち良さそうな笑顔振り撒いて手ぇ振ってる近藤さんが意気揚々と門へ向かう。
わざわざ言いに来るのはいつもの事だが、俺は片手でヒラヒラと手を振って素っ気ない素振り。

「上手くいくよう祈っててくれな〜!」

もちろん祈ってやる気なんてないから無視。
目線で軽く睨んでさっさと行けと冷たく言ってやった。
けれど冷たく言ったところであんたにはなんの効果もないけどな。

近藤さんが出て行って五分後、ピーと笛の鳴る音が屯所内に響いた。

笛の音を聞いた俺は吸っていた煙草を灰皿に押し付けて腰を上げる。
向かうは屯所内のとある一室。
そこには先客がいて、こっちを真剣な目で見てやがる。
一人や二人じゃない。
真選組の隊士全員が集まっていた。

「土方さん。遅いですぜぃ。もう準備は出来てまさぁ。」
「すまねぇ。」

沖田が呆れたようなため息を付いたが、無視して一つだけ開いている座布団の上に腰掛けた。
隊士達を背にするように座ると、少し上に神棚がある。
それに視線を向けると、隊士達も同じように目線を向けるのが分かった。
部屋の中がピリピリと緊張し出す。

俺は大きく息を吸う。

「いいか!腹から声出して叫べ!?心の底から祈れ!?分かってるな!!?」
「「はぃ!!??」」

息ぴったりで手を大きく上げ叩く。
思いっ切り息を吸って肺に貯める。

「近藤局長がフられて帰って来ますよ〜に!!?」
「「近藤局長がフられて帰って来ますよ〜に!!!??」」

「近藤局長がモテませんよ〜に!!?」
「「近藤局長がモテませんよ〜に!!!??」」

隊士達の目は真剣そのもの。
俺だって同じだ。

近藤さんが女に告白しに行く度に開かれる、これらは今では恒例行事。
笛の音が合図で聞いた者は皆この部屋に集まってくる。

誰が始めたか今では覚えていない。
道場時代から続いていて、年々人数が増え今では真選組隊士全員となってしまった。

知らないのは近藤さんだけだ。

すまねぇ近藤さん。
俺達的にはあんたに幸せになって欲しいと思ってる。
だけどどうしても嫌なんだよ。
あんたが俺達以外の誰かを大事にするってのが。
本当は女の所なんかに行って欲しくないんだが、そこまで言う勇気は俺達にはない。
だってなんでも俺達を最優先にするあんただ、言っちまったら分かったって言って無理して行かないようにするんだろう。
本当は会いに行きたいけど我慢するんだろう。
そんな辛そうな思いはさせたくないんだよ。
俺達だけで十分だからな。
あんたは他んところで十分辛い思いしてんだからな。

だから、俺達は祈る事しか出来ないっつ〜事だ。
こっちの祈りなら毎日だってやってやるよ。

「近藤局長は俺達真選組のものだ〜!!?」
「「おおぉぉぉおぉぉぉ!!!??」」

知らないのはあんただけだよ。
知っちまったらあんたはどんな顔するかな。