大きく息を吸えば、あんたの匂いが胸いっぱいに広がった。

匂い

月に何度か開かれる近藤と土方だけの晩酌会。

酒を酌み交わしどうでもいいような話しを酒のつまみと言わんばかりに語り合う。
巡回中での出来ごとや隊士達の事、昔の話し等内容は様々だ。
話しだせば切りがなく、気付けば朝方近くまで語り合ってしまう事もしばしばあった。

しかし、今回は違った。

夜十一時。
朝から今夜は飲もうとお互いに約束をしていた晩酌会は近藤の部屋で始まった。
部屋に隠してある一升瓶『鬼嫁』を出し湯のみで酒を飲む。

いつもなら何かどうか酒のつまみがあるのだが、この日だけはつまみはなく二人は酒を口が渇けば一口二口と流し込んでいた。
会話に夢中になればなるほど酒を胃に流す回数は多くなり、空きっ腹に酒ばかり流し込めばどうなるか目に見えていたのに二人は二時間ともたない内に酔い潰れてしまった。

最初に手を伸ばしたのは土方だった。

寂しいような甘えたような顔で近藤の胸の中に身体を預けてきた。
酒のせいか潤んだ瞳は焦点がはっきりせず頬は赤く鬼の副長という事を忘れさせるような色っぽさが出ていた。
着流しは軽くはだけていて、月の光に白い肌が浮き出ていた。

他の隊士にしてみれば、こんな姿と態度をしてくる土方にドキリと胸が高まるかもしれない。
が、近藤にしてみれば土方が酔った勢いで甘えてくるのは今に始まった事ではないので動揺もしなけれ胸が高まる事もなかった。
誘うような視線を送ったり態度をとったりしても疲れが溜まるいるんだなと父親のように心配してしまう始末だ。

土方にしてみれば酒の勢いに任せて普段出来ないような行動を取っているのだが、何ぶん鈍い近藤に気持ちが伝わる訳がなく、胸の中で大きな溜め息をいつもしていた。

しかし、今回だけは神様が土方にご褒美をくれたのかいつもと勝手が違った。

近藤も酒のせいでかなり酔っていたせいなのか。
甘え初めて来た土方を優しく抱き締め、腕を回し、柔らかい髪の毛に顔を埋めて擦り寄る。

初めての行為に土方は驚き瞼を震わせたが心の底では涙が出るのではと言うほど嬉しくもあった。
今まで何度も酒を交わし胸の中に身を委ねても抱き締めてくれる事はなかったからだ。

同じように近藤の背中に腕を回し、二人は暫くの間ぬくもりを感じるかのように抱き締 めあっていた。
窓から見える月は美しく土方は時間が止まってしまったのではとぼんやりとした頭で思っていた。

「…トシはいい匂いがするよな〜。」

突然何を言い出すんだと近藤に目線を向ければ気持ち良さそうな顔がすぐ近くにあって、声が出なかった。

「同じ風呂で同じシャンプー使ってるてのにさ、トシはすっげぇいい匂いがする んだよな〜っていつも思ってたんだょ。俺、好きだな〜。」

近藤が土方を抱く手に力が入るのがわかって土方は眩暈がしたような感覚に襲われた。
そして恥ずかしそうに近藤の肩におデコを押し付けた。
顔は見えないが、隠し切れなかった耳が真っ赤に染まっている。

あぁ、なんて幸せなのだろう。
こんな幸せ今まであっただろうかと土方は心で呟いた。
酒のせいだと言うのはわかっているが、自分はなんて幸せなのだろうと土方は思った。

近藤に想いを募らせ十何年…ずっと心の奥にしまい込んで誰にも言わずにいた。
酒の席の時だけ酔ったせいにして抱き付きなんとか満足していた土方にとって、近藤の最後の一言は深く胸に染み付いた。

「…近藤さん。」

「ん〜?」

同じ様に土方も近藤の背に回した手に力を入れると大きく息を吸う。
胸に広がる近藤の匂いを感じながら、土方は涙を一粒零した。

「俺も大好きだ…。」