減りもしない書類と格闘し始めて、もう四時間くらい経ったか。
朝の九時くらいからやってるってのに仕事は思ったほど進まない。

あ〜、肩いてぇ。
てか眠い。
昨日も遅くまで仕事しちまったからなぁ。
ダルイったらダルイ。
このまま寝ちまおうかな・・・。

確か今日はやたらと天気が良くて、暖かい様な涼しい様な。
春日和ってところか。
そりゃあ仕事の疲れとこんな陽気にやられちまったら誰だって居眠りくらいするわな。

うつらうつらする意識の中で、このまま自然の流れに身を委ねてしまおうかと思い、仕事がまだ山ほど残っているってのに何やってんだかと土方は薄く笑った。

夢現

意識ははっきりとしてはいないが、土方は眠ってはいなかった。
半分起きて半分寝ている、そんな曖昧な境に土方の意識はあった。
夢を見ているのか現実を見ているのかわからなかったが、やたらと気持ちが良くてどうでもいいやとか感じていた。

窓が開いているので、涼しい風が丁度良い強さで部屋に流れてくる。
机の上に腕を組んで顔を半分埋めて、書類なんかシワになっているのはお構いなしに今この瞬間を味わっていた。

だから・・・。
だからいけなかったのだ。
こんな中途半端な意識の中に浸っていたから、後であんなに後悔しちまうんだよ。

カラカラっと音がした気がした。
なんとなく、窓からじゃない風が髪の毛に触れた気がした。

鼻を掠める大好きなあの人の香り。
ギシリと畳を歩く音がする。
背後で襖を閉める音がして、あの人の気配が近づいてくるのがわかった。
無意識に鼓動が速くなる。

でも、土方の意識ははっきりしていない。
起きる気にもなれないくらい土方は本当に疲れきっていた。

身体がダルイ。
とっても眠い。

頭がはっきりしない分、実は今感じているあの人の気配は気のせいなのではとか侍としてあるまじき事を考えていた。
それだけ、土方にとってこの真選組の屯所は数少ない落ち着く場所なのだ。

掠れた視界にぼんやりあの人が見える。
静かに横に座ると、なんだか頭をボリボリと掻いていた。

どうやら下敷きにされている書類を見て少し困った様な顔をしているらしい。
困っているあの人の顔が想像出来て、なんだか嬉しくて笑えて来た。

「すまねぇな。トシにばっかり背負わしちまって・・・有難うな。」

独り言の事の様な・・・呟きの様なそんな聞取り難い声がして、ゴツゴツした大きな手が頭を撫でた様な気がした。
暖かくて落ち着く、大好きなあの人の手。
優しく、優しく頭を撫でている。

気持ちが良い。

曖昧な意識が段々深い眠りへと落ちて行くのがわかった。
意識が飛ぶ瞬間、大好きな近藤さんが今まで見た事ない様な優しい笑顔をしていた様な・・・。

「!?」

はっと意識が戻った時は、太陽はもう傾き空はオレンジ色に変わっていた。
がばっと顔を時計に向けると針は五時を回っている。

慌てて身体を起こすと、ズルリと何かが肩から落ちた。
見ると薄い毛布がかかっていた。

段々意識がはっきりしてくる。

「そう言えば・・・。」

そう言えば近藤さんがいた様な。
頭を撫でてくれて、凄く優しく笑ってくれた・・・様な。

「!!?」

そうだ。
この毛布は近藤さんがかけてくれたんだ。
意識は曖昧なのだが、きっとそうに違いない。

あの人は優しいから、起こさずそのまま毛布かけて出てってしまって。

「あ゛〜!駄目だ!思い出せねぇ!?」

あの顔が思い出せない。
意識が飛ぶ時に見たあの笑顔。
優しくて今まで見た事ないような笑顔だった気がする。

「・・・最悪だ。」

土方はまた机に崩れ落ちた。

馬鹿だ・・・あそこで寝ないでもう少し意識がはっきりしていたらきっとちゃんと覚えていたに違いないのに・・・。
なんだか凄く勿体ない気がした。

あんな笑顔、そうそう見れるものじゃないのに。

さっきとは打って変わって思いっ切り意識がはっきりして・・・。
心の底から後悔しまくってる土方であった。