プライドとかそんなもの関係なく、まるで小さな子供のように。

暖かい胸の中で

沖田の姉、ミツバが亡くなって四日が経った。
葬儀は真選組局長である近藤が盛大に執り行い、骨壺は沖田の部屋に置いてあった。
この四日、沖田は何かに取り付かれたのかの様に部屋に篭りミツバの骨が入っている壺を抱えていた。
部屋の明かりはなく、朝から晩まで部屋から出る事もなく何も口にせず、ただただ骨壺を見つめ、大好きだった姉を思い出していた。

「総悟。」

静まり返った沖田の部屋に、聞きなれた声が響いた。
沖田は小さな声で返事をしたが、声のした方に視線は向けなかった。

「なんでしょう・・・。」
「入ってもいいか?」

今度は視線を向ける。
障子越しに人影が一つ。
声で誰だかはわかっていた。
沖田は、また小さな声で返事をした。

「・・・どうぞ。」

静かに障子が開く。
いつの間にか暗くなっていた様で、久しぶりに見る外は大きな満月が輝いていた。

「近藤さん・・・。」

満月をバックに入って来たのは、近藤だった。
仕事が終わったばかりなのか、それともまだ終わっていないのか、近藤は隊服を着たままだ。
手には、いい匂いのする料理が乗ったお盆を持っていた。

「ほれ、飯だぞ。お前はもともと細いんだ。しっかり食べないとガリガリになっちまう。」

目の前に置かれたお盆の上には、ご飯にお味噌汁に肉と野菜の炒め物が乗っていた。
食欲をそそる香りに、しかし沖田は箸を持つ事なく目線だけを向けていた。

「いりやせん。腹減ってないんです。」

視線を逸らすと、ギュッと骨壺を抱きしめる。
そんな沖田の態度に苦笑をすると、近藤は沖田の後ろへ回った。
そして、

「!」

沖田を後ろから抱きしめ、手をミツバの骨壺に回し、近藤はふ〜と息をつく。
顔は見えないが、この人は今きっと穏やかな表情をしているんだと感じ取る事が出来る。
昔、自分が泣きたかったり辛かったりした時にいつも近藤がこうしてきた事があった。
そう思い出したら、なんだか胸が苦しくなって熱いモノがこみ上げて来た。

「近藤・・・さ・・・。」
「なぁ総悟、覚えてるか?昔は良くこうやってたよな〜。」

背中から伝わってる近藤の体温はとても温かく、冷えた身体と心を温めていく様だ。

「お前がまだちっさくて、無愛想な餓鬼んちょでさ〜。楽しいのか悲しいのか全然表情に出さなんで、それでも何か訴えてるみたいな目を向けて来て。」

沖田は何も言わなかった。
こらえる様にぎゅっと唇を噛む。

「お前は昔から、感情を表に出すのが下手だったな。何か辛い事があると自分に閉じこもっちまう。そん時は、俺が無理やり抱っこしたんだぞ。嫌がってた癖して、最後にはワンワン泣いてたなぁ。」
「そんなの・・・・昔・・・の話じゃねぇです・・・か。」

あぁ、やばい。
胸が苦しくなって来た。
目元が熱くなって来た。

沖田は必死にこみ上げて来るモノを抑えようとした。

「そんで、お前が泣くのはいつもミツバ殿の前か俺の前だけだったな〜。」
「だか・・・ら、そん・・・・なの昔・・・・・の・・・ぅ・・うぇ・・・・。」

こらえ切れず、等々沖田は涙を流し始めた。
それは、姉が亡くなってから流さず貯めていた涙だった。
大粒の涙は、頬を伝わりきらずポタポラと流れ落ちる。

「ほ〜ら、お前は昔と全然変わってね〜な。」

そう言って笑うと近藤は沖田の髪の毛を優しく撫でた。

それから三十分は経っただろうか、近藤は沖田を後ろから抱き締めたまま縁側に座っていた。
腕の中で甘えるようにして沖田は寄り添っていたる。
目は赤く腫れ上がり、頬には流れ落ちた涙の跡が残っていた。

「姉上・・・幸せだったって言ってやした・・・・・・。」

ぽつりと沖田が呟く。
見上げる空には、憎たらしいほどの美しい月が輝いていた。

「でも・・・幸せだって言ったのは俺を不安にさせない為だったんでさぁ。本当は全然幸せじゃなかった・・・・だって俺知ってた・・・姉上が泣いていたの知ってやした・・・・。たまに会う度に大好きな笑顔と一緒に寂しい顔してるのだってしってやした・・・・。それな・・・のに、知って・・・た癖し・・・て、俺。」

見つめていた月がぼやけて見える。
ボロボロと頬を伝って流れ落ちる涙を、沖田は拭わずにいた。
顔がくしゃくしゃになって酷い顔をしているのだろうと感じ、ちょっとだけ俯いた。

歳のわりに細い身体を震わせている沖田はなんだかいつもより小さく見えて、近藤は優しく回していた腕に力を込めた。

「総悟、お前は知らないだろうがミツバ殿は俺に会う度にどんな話をしていたか知っているか?お前の話だ。仕事はちゃんとしているか、ご飯はちゃんと食べているか、辛い思いをしていないか、そして・・・幸せなのかと聞いていた。」

びくりと沖田の身体が震えたのを近藤は感じ取った。

「だから俺はこう言っていた、総悟はいつも幸せだと・・・そう言うと、ミツバ殿は本当に嬉しそうに笑うんだ。そして最後に、あの子が幸せだと自分も幸せなんですと必ず言っていた。」
「でも・・・・でも・・・・そんなのはただの気休めじゃなぃですかぃ!本当は幸せじゃなかったんでさぁ!?嘘なんかつかねぇでくだせぇよ!!?」

沖田は後ろにいる近藤に勢いよく身体を捻じり顔を向けた。
涙で濡れて赤く腫れ上がった瞳が、睨みつける大きな瞳が、至近距離から見える。
興奮してるのか、肩を使って大きく息をしている。

そんな沖田を、近藤は優しい表情で見つめていた。
そして、そっと頬を両の掌で包み込む。

「ば〜か、嘘なんかつくかよ。俺だってお前と同じくらいミツバ殿の事は昔から良く知ってる。あの人は嘘なんかつかねぇ。それはお前だって知っているだろ?ミツバ殿は幸せだった。お前の姉でいられる事が何よりも自慢で幸せだったんだよ。」

近藤の言葉が、身体と心に染み込んでいく様だった。
身体から力が抜けていく。

近藤の顔と姉の顔が重なって見えた気がした。
私は幸せだったと言う最後に聞いた言葉を思い出す。

沖田の顔がみるみる崩れていくのがわかった。
しゃっくりを何度か繰り返しながら、大きな瞳から、沢山の涙が流れていく。

近藤は少し苦笑をしながら、沖田を今度は正面からぎゅっと抱きしめた。

近藤の胸の中、沖田は周りの事など気にする事なく大きな声で泣いた。
力一杯に近藤に抱き付きながら泣いた。
プライドとかそんなもの関係なく、まるで小さな子供のように。


姉上、貴女は本当に幸せだったんですか?

俺なんかが弟でよかったんですか?

近藤さんの言葉を信じてもいいでしょうか?

姉上。

大好きな姉上。

俺も貴女が姉で本当に幸せでした。


淡く優しく輝く満月は、まるで・・・まるで・・・大好きだったあの笑顔の様。