ミツバは、眠っているような穏やかな顔で棺桶の中に寝かされていた。
薄っすらと笑っているような表情で、白い花に埋まって・・・まるで幻のように美しい。

あなたの前でなら泣ける

火葬を終え、骨壺は沖田の部屋に置かれている。
葬儀は明日、ここ真選組で執り行われる予定だ。
もともと結婚をすると言う事で今までの家を出て来たばかりのミツバに葬儀を執り行うような身寄りもなく、まだ10代の沖田にはそんな力もなく、今回だけは特別として喪主は近藤が勤める事となった。

いつもは賑やかな屯所内も、まるで火が消えたかのように静かだ。

そんな中を、土方は足音すら立てず静かに歩いていた。
片手に一升瓶を持って、少し俯き加減で歩く姿はどことなく寂しそうだ。
サラサラの前髪で隠されているせいで表情は見えないが、土方から漂う雰囲気がそう語っていた。

トボトボと廊下を歩いていた土方がとある部屋の前で足を止めた。

「近藤さん、いるか?」

襖越しに声をかけると、奥から返事か帰って来た。
土方は静かに襖を開けると、部屋の中にいる人物へ視線を向ける。

「あぁ、トシ。そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ。」

そう言った近藤さんの表情はとても優しく笑っていたが、やはり土方同様どことなく寂しそうだった。

「・・・・なら、俺がココに来た理由も知っているんだな。」
「あぁ。」

静かに土方は近藤に近付くと、手に持っていた一升瓶を床に置いた。
そして、近藤の前で跪く。

「いいょトシ。ほら、おいで。」

近藤が手を広げると、土方はコクリと頷いて素直に腕の中に身を預けた。
ギュッと広い背中に手を回して抱きしめると、大きな手が同じように土方の背中に回された。

「なぁ近藤さん・・・・俺、あいつの事好きだったんだよ。」
「あぁ、知ってる。」

自分の体重を近藤に預け、土方はポツリポツリと話し出す。

「あいつが俺の事を好きだったのだって知ってた・・・・・けど、駄目だったんだょ。俺なんかと一緒になってもあいつは幸せになれない・・・・・・。」
「・・・・・。」

声はいつもの土方の声と違ってとても弱弱しい。
そこにいるだけで存在感があり周囲から恐れられていた土方はここにはいなかった。

近藤の腕の中で、土方は震えていた。
すがり付くように、近藤に回した腕に力を入れるが思ったよりも力が入らない。

胸が苦しくて、締め付けられたみたいに苦しくて苦しくて、土方は近藤に必死にしがみ付いていた。

「いつ死ぬかわからねぇ俺なんかと一緒になっても・・・・あいつは幸せにはなれねんだょ。」

目元が熱くなり、頬を伝うものに土方は気が付いた。
そろそろと手を頬にあてれば、暖かい何かに触れる。

一瞬訳がわからなかった土方だったが、濡れた指先を見て自分が泣いている事を知る。

いい大人が・・・・となんだか可笑しくなって、笑える。
笑おうと思ったら、奥につっかえていたものが取れたかのように涙が溢れ出してきた。

土方の表情がどんどん崩れていき、とうとう声を出して泣き始める。

「俺・・・間違・・・・ってたのか?あい・・・あいつの幸せを思ってやって・・・やってた事なのに、あいつを、あいつをただ苦しめてただけだったのか?」

わかんねぇよ、わかんねぇ。
そう、何度も何度も繰り返していた。

「うぅ・・・う・・・。」

まるで子供の様に泣く土方を近藤は優しく頭を撫でながら、そっと耳元で呟いた。

「お前がやっていた事だ、間違いなんてねぇよ。それに・・・ミツバさんは幸せだ、お前みたいな男に愛されてたんだからな。」

ギュッと力を込めて土方を抱きしめれば、それに答える様に土方も近藤を抱きしめた。

夜は更けていく。
耳が痛いくらいの静寂が、屯所内を覆っていた。