手にいっぱいの菓子を抱えて、あの人の部屋に行くのは一ヶ月に一度のお楽しみなんでさぁ。

給料日

夕方四時頃。

いい具合に日が傾き始めたから頃合いを見計らって近藤の部屋へ向かえば、襖はしっかり閉められていてなんとなく入り難い。
と、思うのはその他の隊士達であって、沖田にしてみればどうって事ない。
小さい頃から親子同然の様に暮らしてしたのだから、ズカズカと入って行っても咎められる事はあまりないし、近藤に限ってはいつも快く迎えてくれる。
唯一人、例外はいるが。

「近藤さ〜ん。居ますかぃ?」

のん気に声をかければ、部屋の中から近藤の声。
ちょっと疲れた様な響きで「入ってい〜ぞ。」と言うので、行儀が悪いのはわかっていたが手が菓子でいっぱいなので足で襖を開けた。

「おぅ、総悟。そろそろ来る頃だと思ってたぞ。」

中に入れば見知った近藤の笑顔が迎えてくれた。
書類の処理でもしていたのだろう机の上にはびっしりと文字の書かれた紙が何枚も重なって置かれていた。
報告書から調査書、極秘と書かれた書類も見受けられる。
溜まりに溜まっているらしく、机に置ききれなかった分は畳の上にも広がっていた。

「・・・近藤さん。今日は非番じゃなかったんですかぃ?」
「あっはっは、本当は非番なんだけどね。書類が溜まっちまってたから片付けていたところなんだわ。最近いろいろ忙しかったからな〜。」

ボリボリと頭を掻く近藤の目の下にはうっすらとクマが出来ている。
ふ〜んと曖昧に答え、近藤の前に座ると沖田は一週間ほど前のお通ちゃん誘拐騒動の事を思い出した。
一日局長を務めてくれた人気アイドルのお通ちゃんが、テロリストに誘拐され挙句の果てには江戸を巻き込む大騒ぎになったのだ。
一応お通ちゃんは無傷で救出したし、テロリストも一人残らず捕らえる事は出来たが、その為に建物一個を爆破し真選組だけで解決したのではなく一般市民の手を借りたと言う事で、上から近藤は何度も呼び出されていた。
戻って来る度にグッタリを力なく笑う近藤を見るのはとても痛々しかった。

「さぁ、近藤さん!今日は毎月恒例の菓子パーティーですぜ!楽しみましょうゃ!」

手に持っていた菓子を畳の上に広げると、近藤は歓声をあげた。
どこまで買って来たのか、江戸ではなかなか手に入らない貴重な団子や、今人気の飴やチョコレート菓子、コンビニにしかないスナック菓子もある。
脇に抱えていたペットボトルのジュースを置くと、沖田は「さぁ、一杯やしやしょうょ。」と紙コップを近藤に渡した。

「凄い量だな〜。こりゃあ今月の給料はほとんど使っちまったんじゃないのか?」
「大丈夫でさぁ!土方さんの給料からちょっくら拝借した分もありますから、そんなに使ってはないですぜぃ!」
「総悟君・・・それは軽く犯罪ですよ。」

渡された紙コップにジュースを入れてもないながら、近藤は軽く苦笑した。

実のところ今日は真選組の給料日である。
給料日になると沖田は決まって手にいっぱいの菓子を持って近藤の部屋にやって来た。
何故かはわからないが、この沖田の行動は真選組が出来てから毎月行われていた。

「見て下せぇ近藤さん。この饅頭をかじって中のアンがピンク色だっから恋が叶うってジンクスがあるんですさぁ。」
「マジですか!?」
「俺の知り合いで、ピンク色のアンに当たった奴は大事にしていた彼女が浮気してたらしくてその日の内に破局したって言ってやした。」
「それ恋が叶うんじゃなくて駄目になるってジンクスじゃん!!てか、俺の饅頭ピンクなんですけどぉ!!?」

この時の沖田はいつになく子供っぽく楽しそうでよく喋り笑っている。
他愛ない話しをして美味い菓子を食べて、腹を抱えて笑って楽しくてしょうがなくて、沖田は大好きな近藤とこんな事が出来る月に一度のこの日を楽しみにしていた。

本当なら毎日こんな風に近藤と接していたいのだが、どこぞのマヨ馬鹿中毒のせいでそうも行かず、沖田と違って仕事の多い近藤に迷惑をかける訳にも行かず、仕方なしに月に一度にしているのだ。 その日を誰にも邪魔されない様に沖田は土方に一ヶ月溜めに溜めた提出書類を出し、念には念をと言う事で山崎をなんの用もないのにちょっと遠い駄菓子屋へお使いに出した。

近藤としても、給料日になれば沖田がやって来るのはわかっているのでいつものストーカーもせずに部屋で待っていてくる。

こんな幸せな時間はない。

「ほれ総悟、お小遣いだ。あんまり使い過ぎるなよ。」
「・・・近藤さん、俺は小遣い欲しさにこんな事しているんでないんですぜ。唯、近藤さんと楽しめりゃそれでいいんでさぁ。」

針が六時を回り、そろそろお開きの頃になると近藤は懐から可愛い花の絵が描かれた封筒を差し出した。
その封筒を受け取ろうとせず、沖田はジッと近藤を見る。

「前も言ってるだろ、いつも菓子は総悟が自腹切って買って来てんだ。お前に金出させて俺だけ出さないんじゃ大人として失格なの!だからこれは菓子代だ。」

受け取ってくれと言われて渋々と沖田は封筒を手にした。
いつもの事なのだが、やっぱり嬉しくない。
そんな気を使わなくてもいいのにと沖田は心の中で呟く。
菓子代なんかそんなにかかっていない。
下手したら近藤から貰う方が多かったりる。

「有難う御座いやす・・・。」

納得していないという沖田の反応を見ながら、近藤は豪快に笑う。

「おぅ!来月も美味い菓子楽しみにしてるからな!!」

頭をクシャクシャと撫でられながら、沖田はまぁいっかと釣られて笑っていた。